複雑・ファジー小説
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- 聖なる化け物の祝杯
- 日時: 2015/01/08 20:22
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
「あなたが思っているほど、あなたは正しくない」
「知ってるよ。だからこそ、正しくあろうと足掻くんだ」
◇クリックしていただきありがとうございます。
◆お知らせ
・11/24
参照100突破しました。
なんかもう、ドッキリじゃないかって疑ってます。
・11/27
参照200突破しました。
・12/13
参照300突破です。発狂したら家のインコに怒られました。
・12/14
第一話と第二話を修正・加筆しました。
・12/13
翡翠胡蝶さんに宣伝していただきました。嬉しい・・・。
・12/27
第九話と第十話を丸々変えました。申し訳ありません。
・1/6
参照400ありがとうございます。
◇来てくださったお客様
・泥水から生まれた酸性雨さん
・翡翠胡蝶さん
・ユキさん
◆目次
【第一章:スクルファーズという男】
・第一話 >>1
・第二話 >>2
・第三話 >>4
【第二章:ケンカの大セール】
・第四話 >>6
・第五話 >>8
・第六話 >>10
・第七話 >>11
【第三章:ありきたりなきれい事を】
・第八話 >>12
*番外編 >>13
【第四章:戦闘ゲーム】
・第九話 >>16
・第十話 >>17
・第十一話 >>23
・第十二話 >>24
・第十三話 >>25
- Re: 聖なる化け物の祝杯(第三話に追加しました&参照100突破感) ( No.8 )
- 日時: 2014/11/27 21:26
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◇第五話
【一年 スクルファーズ=ローカン
上記の者は教師に相談をせず危険な行動をとったとして、罰を与える。初級ダンジョン『メヤルナの森』を突破すること。
突破出来なかった場合、退学処分を課す】
そんな文字が連ねられた紙を見つけたのは、ホームルームが終わり帰ろうとした時だった。
掲示板の前には生徒の人だかりができていた。皆、退学処分という言葉に驚きをかくせないようだ。
「うわぁ・・・まじかよ」
罰を課せられた張本人、スクルファーズは僕のとなりで息を飲んだ。それもそのはず、まだ魔法をならってすらいないのに、ダンジョンへ行けと命令されているのだ。
———ダンジョン。
世界のあちこちに存在する謎の多い場所で、攻撃性の高い魔法生物が多く生息する。それは洞窟であったり、深海であったり、島であったり、今回の問題になっている森だったり、とにかく地形は問われない。
突然消えたり出現したりするので、ダンジョンの調査専門の冒険者までいる。そういったダンジョン調査団、もしくは個人が、ダンジョンを調べ、挑戦者に難易度をしめしている。紙に書かれているのは初級ダンジョン。つまり、初心者用のダンジョンだ。
「森ですし、フェニックスの炎でなぎはらっていけばすぐゴールにつきそうですけど」
「・・・クロって結構アクティブだな。フェニックスは治癒に優れてるから、攻撃力はあんまりないんだよ」
ダンジョンが罰として与えられるのは普通だそうで、掲示板の前に集まって不安そうな顔をしているのは、全員一年生だった。
まあ、初っぱなから罰をうけるというのも珍しいのだろうけど。
後方にいきなり引っ張られて驚いた。見るとやっぱりスクルファーズで、そのまま人混みの中から僕を引っ張り出された。
「どうしたんです?用事はないんですから、ゆっくりしていっても・・・」
「校長室にいく。ついてこい」
「・・・は?」
しばらく思考停止。
その間にもスクルファーズは僕の腕をつかみ直し、無理矢理ひきずっていく。言葉がうまく出ずに、待って、どうして、などつぶやいてみるが、止まってくれるはずもなく。
「待ってください!」
校長室に続く螺旋階段の側についたとき、ようやく体に力がはいるようになった。
つかまれた腕をふりはらう。
「校長室に行って何するつもりですか?罰を取り消してもらおうとでも?ダンジョンが怖いんですか?」
「はあ?お前なに言ってるの?」
・・・あれ?
「お前、防具持ってないだろ。攻撃は魔法しかないし・・・校長に適当にみつうろってもらおうとおもって」
「・・・。・・・ちょーっと待ってください?あたかも僕が一緒にダンジョンへ行くような口ぶりですね?」
「え、行かないの?」
教室のほうへ走り出す。——逃げるとも言う。
しかしくんっとつんのめったので、えりをつかまれたのだろう。
「行きませんよ!?第一、それじゃあんたの罰にならんだろ!」
「だから今から校長へ許可を得にいくんじゃん。いーじゃないか、お前、他に友達いないんだから用事ないだろ?」
「まだ一日めですし!これからつくりますし!!」
そりゃね?母国でもあんまし友達いなかったけどね!?アルマーシュでは友達つくるって決めてるんですよこっちは!
あんたじゃなくてできれば常人がいいんですけどね!
否定しない僕に気がついたのか、急にスクルファーズの勢いがなくなった。からかうような笑みから哀れむようなそれに変わる。
やめろ哀れむな。泣くぞ。
「・・・え?ホントにいないの・・・?いや、出身国遠いんだろ。試験前からここに滞在してるんじゃねーの・・・・・・?」
「ほっとけ!」
「・・・・・・大丈夫?」
「大丈夫ですよバーカ!!」
———ガチャン。
天井の高いここでは、扉のひらくその音でも大きく響く。
再び逃げだそうとしたが、一歩踏み出したところで金縛りにあったように体が動かせなくなる。——拘束魔法だ。
スクルファーズが魔法を使えるはずがないし、
ここは校長室前。
決定的なのは扉の音。
逃げ出そうとする力をとくと、拘束魔法はあっさりとけた。どうやらそういう魔方式で構成された魔法のようだ。
僕は螺旋階段の上を見上げる。
————校長だ。
「あ、校長!すいません、ダンジョン挑戦者、もうひとり増やしてもらっていいですか?」
「はい、話は聞いてました。黒雲君もいくんですね?」
「え、ちょっと待ってくださ——」
「おもしろそうです。いいでしょう。ね?黒雲君」
いやいきませんよ!?
おもしろいってなんですか!あなた校長ですよね!?
そう言おうとした僕の口は、校長の言葉でふさがれた。
「校長命令です」
————職権乱用。
そんな言葉が僕の頭に浮かび上がった。
- Re: 聖なる化け物の祝杯(第三話に追加しました&参照100突破感) ( No.9 )
- 日時: 2014/11/28 17:43
- 名前: ・ス・ス・スm・ス・ス (ID: H6fMjRQF)
>>7 泥水から生まれた酸性雨さん
はじめまして、星ノ砂です。
コメントにお気に入りに追加。まさかこの二つの言葉を自分の駄作で見るとは思わなかったので、だいぶ混乱してます。ありがたや・・・。
嬉しくて枕をたたきまくり、ほこりを盛大にまき散らしたのは内緒です。・・・あ、害があるってこういうことですね、そうなんですね。
返信が遅くなってすみません。
コメントありがとうございました。
- Re: 聖なる化け物の祝杯 ( No.10 )
- 日時: 2014/11/28 22:15
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◇第六話
「あっつ!あっつぅ!!なんで森に炎を吐く魔物がいるんですか!木、燃えないんですか!?」
「俺にきくなー!」
メヤルナの森に響く声。
それがダンジョンの魔法生物を刺激しているのはわかっているが、この状況で叫ばぬ人間などいるだろうか?
攻撃しようと近づくと爪の餌食になり、攻撃を避けようと一歩ひけば炎の玉が飛んでくる。まさに危機的状況。
学校長に命令され、しかたなくダンジョンに来、道らしい道を探して歩いていたときだった。
突然魔法生物がおそってきたのだ。それはもう、おまえらどっからわいてきた、とつっこんでしまいたくなるほど、自然に突進してきた。
二匹のドラゴン。目が大きく愛らしく、背も僕たちの半分ほどで子供らしいが、こんな攻撃されたあとで「かわいい」といえるほど僕は広い器を持っていない。
「いったん引くぞ、クロ。一匹ならまだしも、二匹じゃどうにもならん!」
「あ、はい、わかりました」
ダンジョンに入ってみてわかったことの一つに、スクルファーズは意外と頼れる奴だというものがある。悩まないぶん判断がはやく、常に非常がつきまとうダンジョン内では有利な性格なのかもしれない。
「え、でも引くって・・・」
「逃げるんだよ!足つかえー!!」
やっぱそうなるんだ!?
一斉にかけだした僕たちを、あたりまえのように追ってくるドラゴン達。
「17歳男子をなめんなよ!」
「五八番殿、それ面と向かっていうセリフです!てか喋る元気があるなら走れ!」
一瞬意味がわからなかった。
目の前が光ったかと思うと、ドラゴン達は驚いたように逃げ出した。ドラゴン達と同じようにスクルファーズも驚いたようで、なにもないところでつまずく。馬鹿だ、と思っていたら、そのスクルファーズの足につまづいて僕も転んだ。・・・コンニャロウ。
「な・・・なんだ?」
スクルファーズの声に合わせたように現れたのは、やはり魔法生物。
土でできた巨体、点ような黒い目、腕に光る魔方陣。
それはまぎれもない——
「ゴーレム!?」
ドラゴンを追い払った・・・?僕らを守ったのか?
ず、ず、ず、とゴーレムが動く。黒い目が僕を見つめた。
「・・・クロ、走れ!」
ゴーレムの動きがはやくなったのは、スクルファーズが僕の腕を引っ張って走り出したときだった。
追うようにゴーレムの足の動きがはやくなる。
あああああ!!と言葉にならない言葉を叫ぶ。助けてくれたと思った僕の期待を返せ!
「なあ、クロ、お前魔法ちょっとできるんだろ!?」
ずどーん、ずどーん。
ゴーレムの重いが早い足音に混じって、スクルファーズの声が聞こえる。
「初級魔法の単体技なら・・・でも、威力も速度もないですよ?」
ずどーん、ずどーん。
「それでいいんだよ。あの、ゴーレムの魔方陣を狙って・・・狙わなくてもいいからとにかく打てぇぇええ!!!」
ずどーん、ずどーん。
スクルファーズはゴーレムの魔方陣を指さした。今の僕の魔法にゴーレムを倒すだけの力はない。それをわかっていってるんだろうか・・・。
振り返ると、ゴーレムはすぐそこまで迫っていた。
・・・ん!?足はやいな!
慌てて詠唱をはじめる。
「あ、え、っと——・・・水に集いし精霊よ、我が敵を貫け、我が命を実行せよ!」
唱えたのは初級の単体魔法。ただ水の玉を相手にあたるだけで、水というのもゴーレムとの相性を考えとっさに思いついたものだ。
——だが、いくつか作った水の玉が魔方陣にあたると、ゴーレムはあっけなくくずれおちた。
「・・・は・・・?」
「ゴーレムは生物じゃない。ただの土人形さ。魔方陣を壊せばどんな巨大でもくずれさる」
スクルファーズが木の上から出てきて、言った。あれ、あんた僕が魔法つかってるときどこいってた?・・・逃げてたんだな。
それよりも、スクルファーズの言ったことについて確認しなければいけないことが。
「・・・土人形って——誰がつくったんですか?」
「学園長だろうな・・・・・ってクロ、いらつくのはわかるが、ひどい顔だぞ」
そんなにひどい顔か?
頬をムニムニやる。
「ケンカだよ、これはケンカだ。あいつは、おもしろがってんだよ」
スクルファーズの言葉にきょとんとする。
一拍おいて学園長のことをいっているのだと理解する。・・・ケンカ?
「ケンカの大セールだ」
は?
わかわない。こいつの考えていること、やっぱわかんない。
さっき頼れるって思ったのに、ことごとく裏切ってくるな、この人。
「・・・ケンカを売ってる店の店長ですか、学園長って?」
「俺達はお客様ってことだな!お客様は神様です。つまり俺達は神様ってことで、ダンジョン突破なんて簡単だってことだ!」
言葉のあやに、うまいこと言った!っていう笑顔で返すのはやめろ。
- Re: 聖なる化け物の祝杯(参照200突破) ( No.11 )
- 日時: 2014/11/29 21:24
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◇第七話
×印のつけられた木の幹を見る。スクルファーズの持っているナイフを当てると、予想はしていたが傷がぴったり当てはまった。一本道が続いていたが、道に迷わないように木に印をつけていたのだ。つまり、ここは一回通ったということになる。
道は一本道。僕らが円になっている道をぐるぐるまわっているにしては、曲がってはいないし、微妙に曲がっていたとしてもこんなに早く円を一周するのは早すぎる。
「迷いましたね」
「・・・やめて、はっきりいわないで!」
現実逃避したって、迷っているのには変わりない。
はっきり言おう、僕らは迷っている。常識や原理が通用しないダンジョン内で迷うのは危険だ。
・・・いや——危険か?
僕は木の枝に止まっている鳥を見た。きょろきょろとまわりを見回し、鳥らしい動きをとっているが、おそらくあれも学園長の作った人形だ。
じっとみつめていると、バサバサと騒がしく飛び去っていった。ああいう人形に監視させ、命に関わる危険になったら助けるのだろう。
次に、僕は道の横の暗闇に目を向けた。メヤルナの森は木が密生していて、光が届かないのだ。
いちかばちか。
僕は草の生い茂る森の地面に足を下ろした。
「えっ、クロ!? そっち道じゃないけど!」
「道沿いに歩いてだめなんですから、道じゃないところを行くべきでしょう」
「・・・クロってそんな行動派だった?」
「うっさいです! こっちは早くおわらせたいんですぅ!」
「・・・・・・はい、つきあわせてすみません」
下にはシダ植物がおいしげっていて、とても歩きにくい。
なにより・・・暗い。
葉のすきまから光がおりてきている場所があるから、やっとのこと歩けるというぐあいだった。
しばらくあるくと、枝のかさなりがひどくなり、その光さえも閉ざされた場所についた。
したがぬかるんできたので、水辺らしい。川のせせらぎは聞こえないので、近くに泉があるようだ。
これ以上進むのは危険だ。光のない場所で水に濡れるのは、体温をうばいそうでこわい。
「五八番殿、前方に水があります」
「魔法であかりつけたら?」
「無駄な魔力、つかいたくありません。あなたはろうそくとか持ってきてそうですけど、ないんですか?」
「ろうそく?あるけど」
「本当にあったんですか! はやくだせよ!」
本当にうっすらとしか見えないスクルファーズが、ポケットをさぐりろうそくを差し出す。もう一方の手にはろうそくを立てて持つろうそく置きがにぎられていた。用意いいな! ホント、もっと早くだしてほしかった。
「炎に集いし精霊よ、その手に持ちし火をはなて」
ぼっ、とろうそくに火が灯る。スクルファーズの顔がオレンジ色に照らされた。
下を見ると想像したとおり湖があった。僕たちが暗い水にうつる。
しん・・・と静まりかえる森でのその光景は、美しい。
———いや、静かすぎる。
「どうしたんです、五八番殿」
返事がかえってこない。不思議に思って横を見ると、スクルファーズは目を手でふさいでいた。
「五八番殿?」
スクルファーズは目を伏せ、右手で湖のむこうをさした。ろうそくを持ち直し、上に上げる。
すると、今まで見えなかった湖の中心が照らし出された。
当然、そこにあったものも見えるようになる。
————裸の少女だった。
・*・*・*・
「っわーーーー!!」
「きゃああ!」
・・・10歳程度だろうか。白い髪が水の中まで垂れていて、切ったこともないと言われても信じるほど長いことがわかる。肌は褐色だから、南のほうから来たのかもしれない。
僕と少女の叫び声が重なる。しかし、少女の叫びは単なる恥ずかしさではないようだった。
「あっ、えと、ダンジョン挑戦者の人だよね! ごめんね、ここ初級ダンジョンで、ダンジョンに挑戦できるつよい人は全員上級ダンジョンにいっちゃったの。それでね、最近ずっと人が来てなかったから、メヤルナ驚いちゃって————・・・あれ、挑戦者さん? どうしてお顔を伏せてるの?」
どうしてもなにも。
「・・・どうぞ、話を続けてください」
「いいの? ・・・ええと、それで、メヤルナはこのダンジョンのぼすなんだよね」
「「ボスぅ!?」」
この小さな子がボスだって?
驚いて顔を上げる。そして急いで手を目に当てる。
結果的に言うと、男二人が湖の中にたたずむ少女の前で、手を目に当てていることになる。
「あの、すっごいシュールな光景になってるけどいいの?」
「いいんです」
名前はメヤルナというらしい。ダンジョン名と同じ名前なのも、ボスというのなら納得できる。
「続けるね。あの・・・そういうわけなんだけど、メヤルナは挑戦者さんと戦うのはいやなの。だから、帰ってくれない? ダンジョン攻略者の証はあげるから」
僕とスクルファーズはあっけにとられた。でも目の手は忘れない。
挑戦者と戦わずにダンジョン攻略者の証を与えるだって? そんな馬鹿な話があるか?
そもそもダンジョンのボスは最後の砦と言われる存在じゃないか。
「帰って・・・ね?」
これは——・・・どうすればいいのだろう?
- Re: 聖なる化け物の祝杯(参照200突破) ( No.12 )
- 日時: 2014/11/30 16:53
- 名前: 星ノ砂 (ID: H6fMjRQF)
◆第八話
「単体魔法というのは魔方式一つから成る魔法で———」
メヤルナの森突破から三日がたった。スクルファーズの退学も(残念ながら)なくなり、今は学園生らしい平和な生活を送っていた。
学園長はダンジョンの主と戦わなかったことを人形をとおしてしっかり見ていたらしく、あの後すこし面倒だった。
戦ってないんだからダンジョン突破を認めるのは難しいだの、おもしろくないだの、てかフェニックスの炎つかって灯りつければよかっただの、認めさせるのに苦労した。
本当にあの人学園長なんていう偉い人なんだろうか。
羊皮紙に黒板の文字を写す。ちゃんと授業を受けているか確認するために、授業が終わるごとにこの紙を提出しなければいけないのだが、なかなか面倒だ。
その時そのときで覚えておけばいいだろうに。
ごーん、という低い鐘の音が三回鳴る。ということは、今は午後三時だ。
「ではこれで終わりにします。次は複合魔法とその特徴についてやります」
「きりーつ、礼、ありがとうございました」
日直のあいさつが終わり、休み時間に突入したそのとき、僕の机を勢いよくたたくやつがいた。
しまおうとしていた教本が床におちる。バサッというかわいた音が聞こえた。
「メヤルナの森、いくぞ」
見るとスクルファーズの笑顔があった。無視して教本を拾う。
「前から思ってたんだけどさ、クロの俺に対する態度ひどくね・・・」
「では同情してあげましょう。五八番殿、手、いたくないんですか?」
「いたいよ! ちょっと自分の行動に後悔してるけど、今はなしたいのそれじゃねえんだ?」
今からメヤルナの森にいくだって?
いやなにいってんだ。
「・・・なにしに行くんです?」
「メヤルナに会いに行く」
「あっ、なるほど、ロリコンというやつですね・・・」
「違うよ!? 友達になるんだよ、あいつと」
友達って・・・仮にもあいてはダンジョンの主だぞ? それも、戦わずにダンジョン突破を認めるような、主と呼んでいいかもわからないやつじゃないか。
僕はため息をついた。またこいつはわけのわからないことを。
個性があるというのか、たんなる馬鹿ととらえればいいのか。
「んじゃ、この休み時間内に行って帰ってこられる方法を考えてくれ」
「ええ!? なんで僕が!」
「お前アタマいいんだから得意だろー」
僕はもう一度ため息をついた。
「じゃあ———」
・*・*・*・
挑戦者さんの二人が帰って、静かになった森を見渡した。
お話のなかみたいに、街に帰るワープ系の魔法陣なんてないから、二人は徒歩で帰って行った。
紺色の髪をした方は一回転んでいったけど。
いきなり来たからちょっとびっくりしちゃったけど、あの騒がしさからしたら、ひとりの時って静かだなー・・・。
いっつも、いっつもこう。
「メヤルナは寂しいよ」
ぽつりとつぶやいた言葉が虚空に響いた。
「うおわーーー!!」
暗闇を切り裂いたのは、叫び声だった。
あたらしい挑戦者さんかな? この森に住む生き物に追われてるのかもしれない。
「あんたね、自分のファミリエぐらい操れるようにしておきなさい! ほら、左に傾いてますよ!」
「・・・あ、やべぇ止め方わかんない」
「なにそれほんとやばい!」
しかし聞こえてきたのは聞いた事のある声で、しかもつい最近にしりあった人・・・。
明るいなにかになっているみたい。暗闇になれた目をしばたく。
・・・なに、あれは?
その質問に答えるように、それはやってきた。
———いや、突っ込んできた。
盛大に水しぶきがあがり、ふっと光が消える。またもとの暗闇にもどった。
本当ならそこに大きな物体があるはずだか、まるで消えてしまったかのように静かな水面だけがある。
実際に消えてしまったのだ。なら、あれは・・・ファミリエ?
ばしゃっと音がして、人間の頭が二つ水面に現れた。
顔をよく確認するまえに、濡れた布をかぶせられる。見てみると白いシャツだった。
正面に大きく字が書かれている。ずっとこの森にいた自分には人間の言葉は読めなかったが、とても素敵に思えた。
シャツはとても大きく、膝ぐらいまで伸びている。当然肩幅も大きくて、片方がずれおちた。
はじめてあった時のように、火が灯った。ろうそくが濡れて使い物にならないからなのか、火の玉が浮いているだけだった。
「————! ・・・五八番殿、もっとセンスのいい服選んでくださいよ」
「うっさい、これくらいしかもってなかったの!」
なにをしにきたんだろう。
二人の顔を見て、まずそう思った。しかしその答えは想像もしてなかったし、聞くこともないだろうと思っていたことだった。
「『友達になれ!』」
「五八番殿、上から目線ですよ」
「えーっと、『なってください?』」
「なんで疑問系なんですか」
「『俺を・・・支えてくれ・・・!』」
「ノリノリだなアンタ!」
思わず、ふふ、と笑いが漏れる。
楽しい人たちだ、と思う。
「———ってやっべえ、時間ないぞ! 次の授業まにあわねー!」
「はぁー!? 先行ってますね、いでよユニコーン!」
ふいに現れた美しいユニコーンに驚く。この二人は両方とも魔法使いなのか。
「あっ、まてよ・・・いでよ、フェニックス!」
火の玉なんか比にならないほど明るい鳥が現れた。
あれだ。
あの、明るい光の塊。
「おいフェニ、ちょっとまだ首までいってな・・・わっ」
首の付け根が飛ぶときの定位置らしいが、まだ乗るのになれてないようで、首までいかずにフェニックスは浮かび上がる。
帰るのだ、と気がついて、急いでかけよる。
そうだ、帰るんだ。この人達は、帰ることが出来るんだ。
「まだ!」
気がつくと叫んでいた。
頭で考えるより先に口走っていた。
名前も聞いていないただの挑戦者に。
「まだ、メヤルナは返事をしていないから!」
フェニックスの持ち主が振り返る。
「———返事をするまで、質問をしたひとは待ってなくちゃいけないんだよ!」
彼はそれを聞いて、ふ、と笑った。
「ああ、わかったよ」
フェニックスは勢いよく飛んでいった。彼は危なっかしくフェニックスの首にしがみつく。
不格好でいて、綺麗だった。