複雑・ファジー小説

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紫電スパイダー(旧版)
日時: 2022/04/29 19:14
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: Jhl2FH6g)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=313

*



『篝火』と呼ばれる異能の力が、ひっそりと息衝く世界。
陽が当たらぬ裏の世界では、日夜この国の実権を懸けた争いが行われている。

そんな強者犇めく宵闇に、ひとりの少年が舞い降りた。
少年の名前は『藤堂紫苑(トウドウシオン)』。
——のちに裏社会で最強と呼ばれ、君臨する男である。

無頼と死闘に明け暮れ、骨肉削る争いの日々に、彼と出会う人々は何を想うのか?
2010年夏金賞受賞、小説カキコのバトルファンタジー群像劇——ここに再始動。



※この作品には流血やグロ等R-15に相当する描写が含まれています。

□Introduction(挨拶)>>2
■Entry(オリキャラ募集) 上記URLから
□The main story(本編)

#1 『狒々』のイワシロ【VS Saiki Iwashiro】 >>1 >>3 >>4>>10
#2 『爆弾チンピラ』カズマ【VS Kazuma Kouga】 >>5 >>8 >>9>>11
#3 『拷問婦警』ユイイツ【VS Yuitsu Usagiri】 >>16 >>17 >>20 >>23(>>27)
#4 『It's a small world』ガイスケ【VS Gaisuke Toudou】>>26 >>30 >>32 >>33

■Twitter(面識ある方のみ) @viridis_fluvius

Re: 紫電スパイダー ( No.26 )
日時: 2015/11/27 17:00
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 ——弱いくせに、弱いくせに、弱いくせにぃッ!!



 塔堂垓助(とうどうガイスケ)は、どこにでもいるごく普通の人間だった。
 気弱な気質だった彼は目立たない学生時代を送り、そこそこの大学を成績もほどほどに卒業し、それなりの企業に就職した。何の根拠もなく、それなりにいい大学さえ出れば、なんとなく幸せになれるだろう、あわよくば何かの偶然で自分は大きなことをするかも、それが彼の人生設計のすべてだった。
 モラルハラスメントという言葉をご存じだろう。浮遊感がついて回る人生でなんとなく歩んできた先に待っていたのは、上司からの嫌がらせを受ける毎日。見た目も線が細く、内面も気弱な彼だったから目を付けられるのにそう時間はかからなかった。
 日本におけるイジメは、凄惨なモノよりも陰湿なモノの方が隠蔽しやすく蔓延しやすい。この上司は非常に「どこまで相手を痛めつけたら再起不能になるか」「どの程度までのモノならば露見せず告発もし難いのか」を見極めるのが非常に上手かったと言えよう。結果としてガイスケは卒業してから4年もの間、上司どころか——ついには職場の同僚たちからさえも、退屈な日常で鬱積したストレスの捌け口として陰湿に扱われてきた。
 劣等感と恨みと、悲しきかな飲んだくれ泣き寝入る事でしかやり過ごせない日々。悪意に対して、それまでなあなあにやり過ごすことが出来てしまったから、逆に耐性を付けることも出来ずにこれまで生きてきたのだ。ストレス解消のための酒やソシャゲの課金代で賃金は溶けてゆき、ネット上の誰とも知れぬ相手に罵声を吐いて、ほんの僅かな爽快感と巨大な虚しさに浸るだけの日々。
 見るに堪えない無残な負け犬人生——転機が来たのは去年の夏だった。

「貴方は日常生活に不満を持っていますね?」

 頭の先からつま先までピンク色の衣装で身を包んだ奇異な男——なんと瞳と髪まで同じ色だった——に話しかけられたのは、ある居酒屋での話。当然ながらガイスケは警戒する。

「失礼、申し遅れました。私は目黒怨(めぐろエン)と申します、お見知りおきを……」

 奇異な容貌、奇異な風体、奇異な雰囲気。どれをとっても不審極まりないエンの喋りに、その後いつの間にかガイスケは惹き込まれていた。自分が日々貯めこんでいた理不尽への怒りや憎しみまでをもすっかり打ち明け、酒も入っているとはいえいい大人が涙まで流す始末。それほどまでにエンの話術が優れていたという事だ。
 そして話の流れも一旦途切れたところで、彼はひとつの提案を持ち掛けた。

「もしよろしければ、私が貴方の願いを叶えてあげましょう」

 流石にこればかりは、ガイスケも驚いて冗談半分に笑った。そして冗談半分に、自分の願いをエンに打ち明けた——即ち『誰にも恐れる必要のない圧倒的な力が欲しい』だった。まるで幼稚な願いを、エンは「分かりました」と真摯な語勢で受け入れ、その次に「では」と前置きしてから、ひとつだけ条件を提示した。

「その代わり、力を得た貴方は一度たりとも負けることは許されません——良いですね?」

 了承した後からの記憶は途切れている。翌日起きると自室の布団に籠っていたところを見ると、そのまま酔いつぶれて帰って来たのだろう。
 エンに悩みを打ち明けた勢いでとはいえついでに呑みすぎたガイスケは、その日久々に少しばかりの遅刻をした。上司がこれを口実にしないワケもなく、その日の叱咤は普段に増して酷いモノであった。他の職員らの前で散々な罵声を浴びせられ、背後からは不快な押し殺したような笑いが聞こえ、おおよそ人間に向かって吐くようなものではない言葉も叩き付けられ——。
 ——ほんの少しだけ頭が真っ白になったガイスケの、眼前にあったのは血の海だった。
 全体的にひしゃげた上司は、すでに人間の様相ではなかった。少し脂が浮いてハゲ散らかった上司の頭は潰れたトマトのようになって、他の部分はまるで真っ赤なアジの開きになっている。
 絶句する他の同僚と、真っ赤に濡れた手を見て、そして昨日のエンとのやり取りを思い出し——これは自分がやったのだと、ようやく認識する。エンの言葉は、決して冗談などではなかったのだ。生まれて初めて人を殺した感覚と、目の前に広がる凄惨な亡骸を見て、彼は引きつった笑いを浮かべながら振り返る。次の標的など決まっていた。
 その日、都内にあるオフィスの一角が真っ赤に染まったという事件があった。おおよそ人間業ではない犯行はしばらくの間ワイドショーを盛り上げ、様々な尾ひれがついた噂を生み出し、やがて絶え間なくめぐる日常へと消えていった。
 塔堂ガイスケというひとりの怪物は、人知れず街に放たれたまま。

Re: 紫電スパイダー ( No.27 )
日時: 2015/11/27 17:31
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)

名前:憂霧唯一(うさぎり ゆいいつ)
性別:女
年齢:25
職業:警察
篝火:『隣人たる夜(メメントモリ)』自分の受けた痛みを周囲の人間に拡散
武器:拳銃
性格:警察に属する人間として、常識や真っ当な倫理観は理解している。
だが、その上で人が苦しむさまを見ることに強い快感を覚えてしまう異常者。
外見:髪型は長い黒髪を紐で結んだポニーテール。
冷たい印象を覚える黒い瞳に、化粧気がないが整った肌で容姿はそれなりに整っている。
そこそこ胸が大きく、気にしている。
普段から黒いスーツを好んで着ている。
仮面のモチーフ:パーティマスク(ベネツィアマスク)
大切なモノ/信念:人の苦しむ姿を見るのが好き。それが『唯一』の幸福。
その他備考:
「ああ、いい、いい、いいっ、いいっ!! もっと、もっと苦しむ姿を私に見せてください! それが、それこそがっ!」
「——私が感じる『唯一』の幸福なのだから」

募集によるオリキャラさんです。
投稿した本人とは交流があるのですが、いかにも彼らしいオリキャラだなと感じました。動かしていて楽しかったので、彼女の話は人格に焦点が当てられ、戦闘はあっさり目です。

Re: 紫電スパイダー ( No.28 )
日時: 2015/11/28 06:56
名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)

Viridis さんへ
ついに怨が登場しましたね。彼と契約を交わしたガイスケ君はどうなってしまうのか気になります!

Re: 紫電スパイダー ( No.29 )
日時: 2016/01/17 13:30
名前: 紅蓮の落星 (ID: DHMZtM4G)

兄者、まだ終わりじゃないだろう?

Re: 紫電スパイダー ( No.30 )
日時: 2016/03/18 16:29
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: /qKJNsUt)





「そういえば『シュヴァリエ先輩』ってスゴい響きですよね」
「いきなり私の苗字を呼んだかと思ったらなんだい喧嘩を売っているのかなキミは」

 黒い色調で統一されたオフィスの中に、二人の男女がいた。片や銀縁メガネの男であり、片や深青の髪を肩まで伸ばした白衣の女である。二人で大量に積まれた書類と格闘する中、男が少し退屈を紛らわそうと女に話しかけたのだ。

「名前は単にからかっただけですね」
「なるほど私の実験台になってみたまえよ、キミ」
「それ遠まわしに殺すって言ってますよね」
「そうとも限らないさ。この世には『死んだ方がマシ』と思えるコトなんて幾らでもあり得るんだから」
「それはともかくとして」
「ともかくって」

 男がシュヴァリエ——『マルグリット・シュヴァリエ』から目を逸らして数秒の静寂。

「清明紋の学園都市から抜け出して、本土へ逃げ込んだ黄河くん居ましたよね」
「誰だっけそれ」
「……ええと、黄金色の火炎を操る子です」
「ああ思い出した! 何せ『色付き』の篝火だ、よく覚えているよ」

 マルグリットは勢いよく柏手を打ち、あの目つきの悪い少年を想起する。更に言うなら、もはや長い事登校してきていないが、清明紋学園でマルグリットが受け持つクラスの生徒でもあった。

「篝火で覚えているんですね……」
「当たり前じゃないか」

 マルグリットは、何がおかしいのか皆目見当もつかないといった風の表情で男を見る。もっとも、彼女の篝火に対する知識欲を思えば仕方ないのかもしれない。思えば陰陽寮の職員は、皆どこかネジがハズれている。研究者とはそんなモノなのだろうか。

「それで彼がどうかしたのかい?」
「もう彼が『この島』から抜け出してしばらく経ちますが、彼が回収されないのはなぜかと思いまして。回収班の人数が万年不足しているにしても、このまま放置してはマズいのでは?」

 篝火使いとはいってもピンキリだ。本当にスプーンを曲げる事しか出来ない程度の微弱なものから、その気になればワイドショーを騒がす大惨事を引き起こすことが出来る篝火まで実に幅広い。
 篝火使いの回収に際しては、戦闘になることが少なくない。いわゆる雇われ篝火使いの回収を行うこともあるからだ。そして事後処理、即ち陰陽寮へ篝火使いを運び込むときに、その篝火使いに関わったヒトたちの、篝火に関する記憶の消去——そのための調査も入念に済まさねばならない。なので実際のところ、増える篝火使いに対して回収・監視の人数が足りていないのだ。

「なるほど、確かに彼の篝火は『色付き』であることを抜きにしても目立つからね。使えば目につくだろうし、このままでは世間様に篝火の存在がバレかねない。よりにもよって本人は触れるもの全てを傷つけるナイフのような気質、これがまたトドメだ」

 マルグリットの記憶力は良いらしい——本人のことについては篝火で思い出したくせに。
 陰陽寮とは、篝火使いを一手に回収・管理するための組織である。強力な篝火を持った個人が暴走し、思わぬ惨事が起こらぬように監視するため遥か昔——平安の時代から歴史の陰で暗躍している、篝火使い達の集団。
 実に一〇〇〇年もの昔から、陰陽寮は世間に対して篝火の存在を隠匿してきた。これも篝火を悪用する人間が現れかねないためである。過ぎたテクノロジーは管理しなければ、人類自身がその身を滅ぼしかねない。また使いようによってはこの上なく強力な兵器とも成り得る篝火を、いつでも転用できるようストックしておく意味合いもあった。——実際に陰陽寮が成立してから二〇〇年後、大陸を席巻していたお隣の帝国が攻め入って来た際も、海上にてこれを迎え討ち侵略の阻止に成功している。いわゆる『一般の教科書』では2度の台風——神風が吹いたためなどと記されているが。
 篝火の存在が広まり、陰陽寮以外でその力を管理しようと目論む組織が他に現れれば、国内で篝火使い同士の対立が起きかねない。その隙を他の列強国に突かれれば、この国はあっという間に侵略・蹂躙される。実際、陸から離れ独自の文明を築いた『黄金の国』は昔から虎視眈々と狙われ続けてきたのだ。
 これらは無数ある理由のうちひとつに過ぎないが、だからこれまでは篝火の存在を隠匿することが絶対であった。

「もしバレたとしても、お上さん達が躍起になって集めている『記憶干渉』系の篝火使い様方のお陰である程度までならなかったことに出来るけれどね。そのあとマスコミに介入して情報を操作すればハイ終わり。何しろ大臣より陰陽寮(ウチ)の頭領様の方が権力は強い。だから今まではそうしてきた。だけど」

 マルグリットは手元の缶コーヒーに手を伸ばし、書類を眺めながら一息ついた。

「先ほども君が言ったように、陰陽寮の管理が追いつかなくなり始めている。遠からず、篝火と篝火使いが表舞台へ立つ時は来る。無論そうならなければ良いが、何しろ私たちの頭領様は未来をも見通す。つまりは逃れられないさだめとでも言ったところなのだろう。だから、止まることのない流れを無理に押し留めようとするよりは、来るべき『その時』の為に先手を打てるよう準備もしておきたいワケさ」
「それで黄河カズマが放置されているのと、いったい何の関係が?」

 すっかり冷めきった缶コーヒーはすぐに飲み干され、マルグリットの口許を離れる。

「ただの茶番さ」

 言った意味がよくわからず、思わず怪訝な視線を差し向けた。しかし彼女は空になったコーヒーの缶を手近なくずかごに投げ入れたきり、こちらに視線を向けようとしない。
 どうやらこれ以上を詳しく語るつもりはないようだ。

「……そうすると、この『塔堂ガイスケ』『藤堂シオン』『大太法師』『赤い影の少女』なども、黄河カズマと同じ理由で?」
「それもあるだろうね。けれど、彼らをはじめ『ブラックリスト』の何名かは——単に、強すぎて手に負えないだけってのもある」


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