複雑・ファジー小説

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紫電スパイダー(旧版)
日時: 2022/04/29 19:14
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: Jhl2FH6g)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=313

*



『篝火』と呼ばれる異能の力が、ひっそりと息衝く世界。
陽が当たらぬ裏の世界では、日夜この国の実権を懸けた争いが行われている。

そんな強者犇めく宵闇に、ひとりの少年が舞い降りた。
少年の名前は『藤堂紫苑(トウドウシオン)』。
——のちに裏社会で最強と呼ばれ、君臨する男である。

無頼と死闘に明け暮れ、骨肉削る争いの日々に、彼と出会う人々は何を想うのか?
2010年夏金賞受賞、小説カキコのバトルファンタジー群像劇——ここに再始動。



※この作品には流血やグロ等R-15に相当する描写が含まれています。

□Introduction(挨拶)>>2
■Entry(オリキャラ募集) 上記URLから
□The main story(本編)

#1 『狒々』のイワシロ【VS Saiki Iwashiro】 >>1 >>3 >>4>>10
#2 『爆弾チンピラ』カズマ【VS Kazuma Kouga】 >>5 >>8 >>9>>11
#3 『拷問婦警』ユイイツ【VS Yuitsu Usagiri】 >>16 >>17 >>20 >>23(>>27)
#4 『It's a small world』ガイスケ【VS Gaisuke Toudou】>>26 >>30 >>32 >>33

■Twitter(面識ある方のみ) @viridis_fluvius

Re: 紫電スパイダー ( No.16 )
日時: 2015/10/27 18:39
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 ——それこそが『唯一』の幸福なのだから!



 とある昼、警察署の食堂にて、同僚同士の会話。

「サイコパスって知ってるか?」
「警察に勤めていてそれを知らない奴こそ居ないだろうよ」
「極度のエゴイズムと冷徹さ、良識や罪悪感・責任感の欠如、慢性的な虚言癖——だとかに特徴がみられる、反社会性人格」
「乱雑に言うなら犯罪的にアタマおかしい奴ってとこかな」
「本当に乱雑だな。人格の差別みたいになっちまうから、厳密には『反社会性人格障害』なんて呼ばれてる。サイコパスなんて学術用語は無い」
「他人にとってその人格が有害かどうかっていうのが判断基準だな」
「猟奇殺人犯(シリアルキラー)や重大犯罪者・カルトの教祖なんかこれに分類することが多いとか言われてる。人喰い殺人だったり殺した死体を飾り付けてみたりなんて事件もあったろう、あれもサイコパスの仕業であることが多かったり、そうでもなかったり」
「原因の多くは脳のホルモン分泌の異常だとかなんとかだっけ?」
「生育環境だとか、その他にも幾つか考えられるけどな。だから簡単に他人をサイコパス呼ばわりしたり、逆にネットの診断結果だとかの程度で断定できるようなモンじゃないな。マジでそうかなと思ったら、速やかに専門家へかかれこのグーグル先生におんぶに抱っこのファッキンサイバーチルドレン共めらがってトコだ」
「アタシ、サイコパスかも☆ とかなんとか言ってるガキ見てると正直鼻で笑いたくなる。なぜなら」
「ガチのサイコパスはやることなすこと考えることがマジで笑えないから」
「その通り」
「さっき言った食人も現代的前衛アートもそう。やること成すことが異常なのもそうだが、現実的かつ合理的に、異常なことを実行するための道筋を考えるのも特徴だ。それも良心の呵責が一切欠けたまま、な」
「サイコパスの目の前で、自分が崖から落ちそうになっている時は、崖を掴んでいる指がひとつひとつ折られていくと思え。サイコパスが向かいのビルからこちらを指さしている時は、いま自分が居る階を数えていると思え、てな具合かな」
「それこそネット診断の話じゃねえか」
「とは言ってもガチもんの奴ほど自分からそう名乗ることは無くて、案外日常を見る限りではごくごく普通だったり、むしろ善良だったりすることが多い」
「自分が社会一般とは何か違うと分かっていながら、他者の前ではそれを悟られないようにするからだ。サイコパスは自分の中の異常性を自覚していて——それが満たされる環境が奪われることを極端に嫌う」
「そして自分の異常性を自覚しても、それが異常だとはこれっぽっちも思わない」
「サイコパスたる所以だな」
「だからもし、サイコパスが日常のすぐ隣に居たとしても大概は気付かない」
「しかも更に輪をかけて厄介なのは、そういう人間ほど強烈な魅力を持っている事が多い」
「強烈な自己中心性と異常性は、極端な話、強烈な自我と個性とも言い換えられてしまうワケか」
「さっきの、妙にサイコパスに憧れる人間が多い理由もこれに帰結するな。アイデンティティー確立のなっていない踊る赤ちゃん人間が、巨大な質量を持つヒトに得体の知れない引力で惹き寄せられていく、憧れる——割とよくある話だ」
「ただの中二病ならまだかわいいモンだが、何が厄介かってつまりは本物のサイコパスに対する抑止力が失われてゆくこと」
「そして過ちを正しいと思い込むフォロワーまでも現れること」
「だからサイコパスによる犯罪は防止が極めて難しいが——凶悪な犯罪に繋がる可能性も高い。難儀なモンだ」
「おまけに良心の欠如から、更生も難題ときている」
「故に、そういったある種の異常心理に対する犯罪対策も、充実させていく必要がある。それは昔から何度も言われてきたのに、実情と実績が追いついていない」
「あくまで異常は異常、数は少ないから優先度が低いんだろうな」
「それにしても牛歩過ぎるだろう——なあ憂霧(うさぎり)、お前はどう思う?」

「——ええ、そうですね。私もそう思います」

「ヒトがどんくらい犯罪をやらかしそうか、人格を一発で測定するようなシステムでも、開発されたら良いんだろうけれどな」
「どんくらい犯罪をやらかしそうか、その指標は『犯罪係数』なんて呼ぶのはどうかね」
「面白いな。犯罪係数が高ければ何かをしでかす前に確保するワケだ」
「実際にそのつもりのないヤツまで捕まえるワケだから、それはそれで割とディストピアになりそうだけれどな」
「うまいばかりの話もないもんだ。それじゃ憂霧、資料の整理があるから、俺たちは先に行ってるぜ」
「はい、先輩方」

 長い黒髪をポニーテールにした彼女は、微笑みながら先輩ふたりの後ろ姿を見送った。ずっと隣で聞いていた、先ほどまでの会話を思い出し、彼女は思わず黒い瞳を細める。
 異常者が日常のすぐ隣に居たとしても、大概は気付かれない。彼女は、まったく本当にその通りだと思った。

Re: 紫電スパイダー ( No.17 )
日時: 2015/10/28 20:49
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 憂霧唯一(うさぎりユイイツ)の容姿は整っている。
 化粧にこそ疎いが、それを補うほどには端整な顔立ち。吸い込まれそうな闇を湛えた、黒目がちの瞳。艶のある長い黒髪を、後頭部でポニーテイルにしてまとめ、露わになっているうなじは、服装の露出が少ないゆえに一種の情欲をかきたてる。本人も少し気にしている豊満な胸は、スーツを布地の下から押し上げていた。
 いかにも中年好みしそうな二十五の女が、ただでさえ治安が悪いこの辺りで、真夜中にひとりで裏路地を歩く。ある種愚行というか、身を捨てるような行為とも言えた。
 ふらつきながら歩いている作業服姿の男と、割合強めに肩がぶつかった。アルコールの臭いを漂わせていることから、きっと泥酔しているのだろう。いって、と男が大袈裟に声を上げた。

「ごめんなさい」

 ユイイツは小さく謝ってそのまま行こうとするが、男が彼女の手首を乱暴に掴む。男は酔わせた顔面を真っ赤にしており、視線の焦点が定まらない様子だった。

「ネーチャンよそりゃねえんじゃねえのォ!? ぶつかってごめんなさいじゃねェだろ、簡単に済ませてんじゃねェよどいつもこいつもよォ! だっりィなぁ!」
「や、ぁ、やめて、はなして」

 呂律ははっきりとしていないし、言っていることもいまいち脈絡がない。泥酔しているせいか理性が飛びかけている。ユイイツが振りほどこうにも男は手を離さないで、ワケも分からずしっちゃかめっちゃかに喚いて唾を飛ばす。
 しかしやがて視線がじっくりとユイイツの胸と顔へ集中すると、途端に目尻が垂れて、下卑た表情を浮かべた。剥き出した並びの悪い歯は黄色く汚れている。

「なんだ……結構いい女じゃねェの」

 言うと男はユイイツの二の腕を掴んで、引き寄せようとする。欲情したせいか酒のせいなのか口から息を荒く吐き、酒とその他雑多なものを混ぜ合わせた生ゴミのような臭いが撒かれる。臭いにユイイツは顔をしかめながら、なおも押しのけようと抵抗した。
 ユイイツの抵抗に苛立った男は、またもワケの分からない罵声を上げながら、胸ぐらを掴み、ユイイツの顔を平手で殴った。乾いた音が響いて、艶のある髪が振り乱れる。

 なぜかその一瞬だけ、男の泥酔は覚めた——平手で殴られたような痛みが、自分の左頬に走ったからだ。

「——やり返してんじゃねえよ!」

 彼女に殴り返されたのだと結論付けた男は、さらにもう一度ユイイツを殴ったが、またも自分の顔に痛みが走る。今度は明らかに、ユイイツは殴り返してなどいなかった。酔いに溺れていた男も流石に困惑する。
 呆気に取られていたせいで、男は気付かなかった。ユイイツの笑みと、彼女の手で鈍く光るナイフに。とっ、と短いくぐもった音。胸ぐらを掴む男の手に、ナイフが深々と突き刺さる。男は目を見開き、呆気にとられた後、ひゅっと短く息を吸って。

「ひぎゃあああああぁぁぁあああああ!?」

 先ほどの曖昧な呂律とは打って変わって、鋭い絶叫が夜空を裂く。鮮烈な痛みにぶわりと嫌な脂汗が浮く。痛みで胸ぐらを離した事などはもはや些細だった。いてぇ、いてぇよと男が苦悶の表情で泣きそうに呻く。
 それを見下ろし、眺めるユイイツの表情は——恍惚としていた。

「あは」

 白い頬をうす赤く染め、潤んだ黒い瞳を細め、少し開いた唇の間から熱い吐息を漏らし、腰をくねらせて、嗤う。これほど艶めかしい女もそう居たモノではないだろう——状況が状況でさえなければ。
 ナイフを手に突き立てられた男はもはや、この女に欲情しようなどとは思わなかった。化け物でも現れたかのような表情で、あわてて背を向けて逃げ出そうとする。

「逃がさないですよぉ?」

 金属音と同時に、今度は男が手首を引っ張られたように転ぶ。見れば右手首が、手近なパイプに手錠で繋がれている——投げた手錠で捕縛されたのだ。
 男は無様に這いながら、ユイイツの姿を見た。ゆったりと近づいて来る彼女は、妖艶な笑みを浮かべている。あまりの恐ろしさに、男の股間から生温い液体が流れて、路地裏を汚していく。
 ユイイツは近づきながら、自分の首元をナイフで浅く切った。男が小さな叫びをあげ、彼女はぞくぞくと腰を震わせる。

「痛みってステキですよね。痛みを感じている間だけは幸福なんです、私」

 男にはもはや恐怖と錯乱で何も耳になど入っていないが、構わずユイイツは語った。

「だって生きているから痛みは感じるのであってつまりここにあなたと私が生きているという証明であることから生の実感はつまり人生の幸福であると幼い頃から教え込まれてきた私にとっては痛みこそが『唯一』の幸福であって幸福は他人と分かち合うべきものだから私は私は私は何かのご縁があって話しかけてくださったあなたにも幸福を分け与えてあげたいと考えてですねだから逃げないで下さいよねぇねぇつれないですねぇ一緒にキモチヨクなりましょうよほらほらもっと苦しむ姿を表情を私に見せて下さいよ殴打が良いですか刺突が良いですか銃弾はダメですよ始末書書くのが面倒ですからそうそう普通のひとを幸せにしてあげたら理不尽にも捕まるからせめて自分が痛みを受ける幸福を知らない哀れなひとびとに私が痛みを分け与えてあげようと思って警察になったのに思ったよりも機会がなくてうんざりしちゃって——あれ、もう動かなくなっちゃった」

 語りかけながら警棒で何度も殴打し、ナイフで弄んでいるうちに、それはもうただの物言わぬ肉塊になっていた。ユイイツは得も言われぬ快楽の余韻に浸り……それから不満げで気怠そうな表情を浮かべた。
 どこか欲求不満のようなモヤモヤが、まだ下腹部の奥に残っている。それでも死体は、ちゃんとどこかに片付けなければならない。
 彼女は自分を満足させる痛みを与えてくれる、痛みを受けてくれる相手に飢えていた。
 たとえばそう——噂の『紫色の髪の少年』だとか。


Re: 紫電スパイダー ( No.18 )
日時: 2015/10/28 21:52
名前: モンブラン博士 (ID: 1lVsdfsX)

Viridisさんへ
ひとりひとりの個性が際立っており、藤堂紫苑くんによって破滅させられるのが教訓というかブラックユーモアのようで面白いです。
基本的に1話1話が短いのでサクサク読めるのも魅力ですね!
目黒が登場したらどんな展開を見せるのかも想像しつつ、続きを楽しみにしています!

Re: 紫電スパイダー ( No.19 )
日時: 2015/10/29 21:13
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)

>>18 モンブラン博士さん→
コメント及びオリキャラ投稿ありがとうございます。
昔の漫画を漁ると一話完結式のやつが多かったよなあ、
と思いつつ書いています。ブラックジャックみたいのが好きです。
続きも楽しんで書いていきたいと思います。

Re: 紫電スパイダー ( No.20 )
日時: 2015/10/30 20:24
名前: Viridis ◆8Wa6OGPmD2 (ID: AurL0C96)





 死体は重りをつけて、海に投げ捨ててしまうのが一番手っ取り早い。
 週末の夜、ユイイツは数日前に殺した男の死体を持って海へ来ていた。
 幸いユイイツが住む場所から車で少し行った場所は、湾岸に面している。見通しも良く、夜中であれば人通りが全くない場所であるため、色々と都合も良かった。人ひとりの死体を運ぶのはそれなりに重労働だが、警察官であるユイイツはそれなりにしなやかな肢体を鍛え上げている。多少の手間は取るが苦労というほどの事でもない。
 しかしやはり何事も後始末とは面倒なもので、ましてや事の最中で汚物まで撒き散らした男の死体にげんなりとしながら、170cm程度の皮袋に包まれたそれを引きずり出す。
 その作業の最中、港にひとり立つ男を見つけた。
 周りに誰かいれば、警戒するユイイツが見逃すハズはない。気配もなくそこにいた男の方へ目を向けると、その男は——いや、少年は特徴的な容姿をしていた。紫色の髪を港風に遊ばせ、身体の上下を黒衣で包み、腕は肘の前まで捲っている。黒い手袋をはめた指はタバコを挟んでいた。
 近頃、ユイイツには気になる噂があった。大規模な不良グループ『アマテラス』に対し、たった一人で大立ち回りを繰り広げたり、あちこちの暴力団と行動を共にしているという、紫色の髪の少年——そんな他愛もない噂。
 ユイイツには、他者には隠している不思議な力があった。自分が受けた痛みを、相手に移すというものだ。もし紫色の髪の少年に、自分と同じく何らかの不思議な力があったとするならば——不良どもを薙ぎ倒し、力を悪用しようと考える奴ばらに魅入られる。あり得ない話では、ないのでは。
 他愛のない噂、されど現実たり得る可能性を感じた時、ユイイツは確かめずにはいられなかった。仕事の傍ら、独断かつ秘密でその少年の動向を探っていた。
 その少年が今、目の前に居るかもしれない。
 少年の方を向きながら、もはや壊れたオモチャなど用はないとばかりに死体を海へ投げ捨てる。静かで黒い夜の海にだぱん、と水の音が響き、少年——シオンがこちらを向いた。
 シオンの方へ歩み寄りながら、ユイイツが問い掛ける。

「あなたがウワサの『紫色の髪の少年』でしょうか」
「何がどうウワサになってんのか知らないけど、俺みたいな頭のガキはそう居ないだろ」

 かつかつと音を立て、両者の距離が縮まっていく。

「お名前を伺っても?」
「ヒトに名前を訊く時は先ず自分から名乗れよ」
「これは失礼しました。私は警視庁勤務、憂霧唯一といいます」
「藤堂紫苑だ。それで警察が何の用? 捕まえにでも来たか」
「職務上そう申したいところですが、私は」

 数メートルの距離へ差し掛かったところで——。

「あなたの苦しむ姿を見たく思いまして」

 ——ユイイツの懐から、警棒とナイフと拳銃が手品のように現れた。

「なるほど、変質者だな?」

 空を切って迫る警棒。シオンはその腕を蹴って弾く。続け様にナイフの刺突。前に出て躱しながら腕を掴み背負い投げ。ユイイツは受け身を取ると二度転がり、距離をとった。
 ただ者の動きではない、この少年で間違いないと確信する。相手もユイイツの腕を感じ取ったのか、二人は互いに小さく口の端を吊り上げた。まるで獲物を見つけた獣だ。

「ただのマッポじゃないなアンタ」
「あなたこそただの子供ではないでしょう」

 銃は始末書が面倒くさい、などという些事はもはやどうでもよくなっていた。手の警棒が素早く拳銃に持ち替えられる。一発。二発。シオンの足元をめがけて放たれた銃弾は、いずれも軌道を読まれて避けられた。間髪入れずにユイイツは駆け出す。駆けだしながらナイフを——自分の太腿に深々と突き立てた。後ろに下がろうとしたシオンが僅かに目を見開く。ほんの少し動きが綻ぶ。新たにナイフが袖口から飛び出し投擲される。ナイフはシオンの髪を数本掠めるも、避けられ遥か後方に転がった。
 接近したユイイツはまたも警棒で水月を撃ち抜こうとする。しかし——シオンが軽く手を振ると小さく紫電が走り、警棒は細かく切り裂かれる。予想外のことに不意を取られた瞬間、逆にシオンの蹴りがユイイツの腹部を捉えて吹っ飛ばした。
 久しく感じていなかった強力な痛みに、ぞくぞくと込み上げるものを感じながら受け身をとって態勢を整えた。
 何か妙な得物を持っているか、でなければやはり自分と同じ不思議な力だ、と確信する。

「——痛覚の共有、それがアンタの篝火か」

 シオンが呟いた。
 どうやら自分や彼のような力の類いは『カガリビ』と呼ぶらしい、とユイイツは知る。
カガリビ、かがりび、篝火——不思議な力。ユイイツに相手と自分の痛みの共有を許した、ふしぎな力。しあわせのちから。どうやら自分が知らないだけで、自分以外にそんなものを持っている人間は、少年の口ぶりからすれば、他にも何人もいるらしい。
 思わず、くつくつと笑いが込み上げる。
 怪訝な目線を向けたシオンに向けて、ユイイツは言い放った。

「これは失礼しました。私、苦痛というモノが大好きでして——」




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