複雑・ファジー小説
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- 星ノ魔法使イ
- 日時: 2017/05/06 00:20
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
人間が、“魔法民”と“普通民”に分けられるようになった近い未来の話——
× × × × × × × ×
はじめまして、綾原ぬえです。
初投稿作品ですが、どうぞよろしくお願い致します。
更新が遅れることが多くなります。週1掲載を目指します。
2017/05/03 イラスト投稿の「小説イラスト掲示板」に登場するキャラクターたちのイメージを貼りました。良かったら、見てみてください!
目次
序章 (1)>>01 (2・3)>>02-03 (4)>>04 (5)>>05 (6)>>06 (7)>>07 (8)>>08
章間 世界史(1)>>09
1章「幼き星々たちよ」
(1)>>10 (2)>>11 (3・4)>>12-13 (5)>>14-15-16
(6)>>17-18-19 (7)>>20-21 (8)>>22
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.20 )
- 日時: 2017/05/01 22:22
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
(7)
「いやー、想像以上にいいのになったねー」
ぐっと背伸びしながら、先ほどまでいた大広場から校舎までの沿道を歩く知広。
「主に私の働きあってのことね」
「うわ、うっざー楓」
「そんなことより腹空いたんだけど」
生徒会メンバーの三國時子と夢華、日向と別れた楓、知広、湊の三人は、クラスで請け負っている入学式準備に参加しようと一年生棟の教室へ向かっている途中だった。延々続くようにも見える長い道は、多くの生徒たちの手によって華やかに飾られている。
「いっつもこんな感じで楽しかったらいいのになー」
さらに歩みを進めると、三人は不穏な魔力の流れを感じ取った。
「ん? なんか、ここら辺おかしくねえか?」
湊がきょろきょろとあたりを見渡す。準備が終わった生徒からどんどん引き上げていっているようで、まばらにしか人の姿は見当たらない。ましてや、不審物なんてものは——
「楓、ここ怪しい感じがするのは、あたしと湊だけ?」
「いや、私もよ。変なところで気が合うわね」
——無属性中級魔法 中域探索(サーチ)
楓が素早く探索系の魔法を発動させる。無色透明な魔法陣が楓を中心にして水文のように、広がり、そして集束する。
「ざっと20ってところかしら。私中心で半径300メートルくらいの範囲内での話よ?」
「何が20なのか、説明してもらっても、いいかな?」
知広が引き攣った笑みを浮かべて、楓に問いかけた。無論、自分の中でも、大体の予想はついているが。
「爆弾よ、魔力で起動するタイプのね」
楓の言葉に、緊張が走った。
「と、とりあえず、一番近いのとりあえず取り出してみたほうがいいんじゃないか?」
「こいつの言う通りね。とりあえず、掘ってみよー!」
知広はわくわくとした心を抑えきれぬまま、魔力の発生源へと近づいて行った。
「(一体、誰がこんなことを……?)」
自分の知らないどこかで、何かが動き出していることに、気持ち悪さを感じる楓だった。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.21 )
- 日時: 2017/06/04 00:12
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
「こんな感じでいいのか?」
「うん、ばっちりよ」
湊は、地面に埋められている爆弾を素手でゆっくりと取り出した。
「間違っても、魔力を流さないように、慎重にね」
楓は、湊に指示を出し、それを知広が興味深そうに観察している。
「あたしには、どうして楓が爆弾処理についての知識があるのかが不思議なんだけど」
「……まあ、人には得意不得意的なそういうのがあるでしょ?」
「説明になってないし……」
「おい、取れたぞ」
湊はそう言うと、両手に収まるくらいの大きさの黒っぽい立方体を足元に置いた。
それは、金属製のようにも、木製のようにも見える不思議な物体だった。表面には薄く幾何学模様が見え、ほのかに光を帯びている。
「——魔法爆弾“エクリラ”」
知広がポロリと言葉を零した。
「え?」
「魔法爆弾でしょ? これ」
「ええ、パッと見そうっぽいけど……」
知広は少し考え込むようなそぶりを見せると、くるりと向きを変えた。
「ごめん、二人とも。私急用を思い出したから先帰るね! 逸樹先生にもそう伝えて!」
楓と湊が知広の言葉を理解できないままフリーズしているうちに、知広は姿を消していた。
「あいつ、何なんだ一体? さっきまでやけにわくわくしてたのに、血相変えて逃げやがって」
「…………。」
楓はさっきの知広の顔を思い出そうとした。いつものどんな顔とも違う、不安そうな、何かに気付いたような顔。
だめだ、そんなことよりも今、すべきことは——
「“凍結(フリーズ)”」
——氷属性初級魔法“凍結(フリーズ)”
「え、なにやってんだ大和!?」
「凍らせるだけよ、爆発しないようにね」
慌てる湊をよそに、楓は冷静に爆弾を保存した。
楓にとっては、爆弾なんかは二の次で、知広のことのほうが気がかりだった。もしここで、爆弾に爆発されでもしたら大変なことになる。
爆弾が埋められていた場所——それは木の根元だった。
「それにしても、悪意のある場所ね。こんなところに埋めるなんて」
「はぁ? 何言ってんだ」
「ここで爆発したら、木も誘発されて威力を増すわ。なんてったって、ここの学校に植えてある木は例外なく魔法木だもの」
「あ、そういうことか」
湊は納得したようで、さらに事の重大性にも気づいたらしかった。
「おい、これからどうする——って冷たっ!」
楓は凍らせた立方体をひょいと湊に投げつけた。
「それ冷たいから持ってて。これから理事長室に行くわよ」
「はぁぁぁ!? 校長室!? いまから?」
「そう、今からよ」
楓は一年生の校舎から、校長室のある中央の棟へと向きを変えた。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.22 )
- 日時: 2017/06/04 00:13
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
(8)
どうしてここにあの魔力が近づいてくるのだろう、と校長エリト=フルネミアは顔をしかめた。
今さっき、軍司令部の元帥、千神礼八郎が帰ったところで、エリトはコーヒーブレイクを楽しんでいるところだった。
しかし、近付いてくる魔力から察するに、ゆっくりコーヒーを飲むこともできないのか、と彼女はため息を一つつくと、手にしていたマグカップを机の上に置いた。
「失礼します」
バンっ、と勢いよく室内に入ってきたのはSクラス一の優等生にして問題児——大和楓と、
「ちょ、ノックぐらいしろよ!」
こちらも異端児にして問題児——菱形湊だった。
「菱形君の言う通りですよ、大和さん。こういう場所に入るときは、ノックぐらいしてください。本当のことをいえば、アポイントメントもとってほしいくらい——」
楓は、ツカツカとエリトの元まで進むと、机を力いっぱい叩いた。
「それどころではないと思いますよ、理事長。急を要することです」
「まあ、そういうところも、なってないわね大和さん。まずは、ゆっくり深呼吸ね」
エリトは人差し指を唇に当て、シーとして見せた。
「ですが——」
「まあまあ、落ち着けって。というか、とりあえず、説明な」
「うぅ、そうね」
楓は、数分前に起きたことの一部始終を話した。爆弾を見つけて、凍結させ、ここまで持ってきたということを。もちろん、知広のことは、除いて。
楓が話を終えると、エリトは固定電話の受話器を取った。
フッと魔法陣が一瞬広がったかと思うと、エリトは言葉を発し始めた。
「全教員に告ぐ。今すぐ半径300mの範囲の魔力をサーチしなさい。繰り返します。これは緊急事態です。今すぐ半径300mの範囲の魔力をサーチしなさい。怪しいものがあれば、すぐに私まで伝達しなさい。以上」
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.23 )
- 日時: 2017/05/27 23:59
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
(9)
「これは……」
三十分後、理事長室には大小計50の魔法爆弾が並べられた。それらすべてが“エクリラ”と呼ばれる型の魔法爆弾だった。
「威力は普通の魔法爆弾より小さい。その代わりに爆発が比較的長く、主に建物の解体などに使われる型ですね」
エリトは執務机の引き出しから黒色の皮手袋を取り出すとそれを両手はめ、爆弾を手に取り、ゆっくりと観察した。
「しかも、かなり新しい——最新型ですね。ここのところの術式が、前回よりも改良されている」
左手をかざし、爆弾の表面にうっすらとうかんでいた幾何学模様を浮き上がらせ、それを読み取っていく
「……なあ、これってあとどのくらい続くんだ?」
「……さぁ」
「さぁじゃねえよ! 俺、もう帰りたくたって来たんだけど」
「うるさい黙ってて」
楓は湊の足を思いっきり踏みつける。
「——!!」
ぐっとしゃがみ、痛みをこらえようとする湊。しかし、湊がそんなことを言い出したのも、それもそのはず。ここ、理事長室に殴り込みに来てからずっと立ちっぱなしの上に、なにやらことがどんどん大きくなっていっているからだった。警察やら、軍やら、国やら、この三十分で、よくここまで集まったな、と思うほどにお偉いさんたちがこの理事長室に集まっているのだった。
「このままだと、明日の入学式だっていろいろまずそうね……」
「何がだよ」
涙目で足を押さえながら楓に問う湊。
「この調子じゃ、明日の入学式は相当な警備体制になるはずよ。でも、それを一般人に悟られないように」
「そりゃそうだろうな。こんなのマスコミに漏れでもしたら、それこそ一大事だよな」
部屋の隅で、大人たちが進めていく作業を眺めながら、小声で話を進めていく。
「学園内に警官とか、軍の魔法使いとかが私服で、それも一般人に紛れて来るわけよ。その中に、見知らぬ誰かが何人か紛れていたって、そうそう気付くはずがないのよ」
「それは、確かに」
湊ががしがしと頭をかき、楓の方へと向き直った。
「つまり、お前が言いたいのはこういう事だろ『不用意に人増やしたら、それこそやべーよ』って」
「まぁ、そういう事よ」
楓は、腕時計に目を落とした。
入学式開始まで、残り20時間。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.24 )
- 日時: 2017/06/04 00:14
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
(10)
校長をはじめとした大人たちの検証やらなんやらが終わった後、楓と湊の二人は、事情聴取を受けた。
それもほんの15分ほどで終わり、今日のことを口止めされると、二人は晴れて重苦しい雰囲気の部屋から解放された。
「やっと終わったー」
ぐーっと大きく伸びをする湊。二人は校長室のある中央の棟を出ると、学園の敷地内の中でも端の方にある学生寮へと向かった。辺りはすっかりオレンジ色に染まり、ちょうどおなかも空いてくる頃だった。
「知広なにしてるかな」
楓は、知広のことが気になって仕方がなかった。
いつも明るくふるまう知広があそこまで態度を一変させた理由が、分からないのだ。何か裏があるとしか——
「ま、明日にはいつも通りになってると思うけどな」
湊の何気ない言葉が、楓の心にはすとんと落ちた。
今は知らなくても大丈夫、時期が来れば分かるはず——楓は自分にそう言い聞かせた。最悪、私には別の手段もある。
楓は速足気味に寮へと向かった。今日は久しぶりにカレーライスでも作ってみようか、とつぶやくと湊が「日向と柚木も誘って一緒に食おう」と言い出した。
知広を誘おうと言わなかったのは、湊の小さなやさしさだった。