複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ナルシスト美少女の冒険記
- 日時: 2017/07/21 08:51
- 名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)
久しぶりに新作を公開します。
今回はアクションファンタジーです!
- Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.18 )
- 日時: 2017/07/23 15:59
- 名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)
川村は一体ずつ幽霊騎士達を撃破していく。けれど大立ち回りを一人で続けているうちに体力は尽きかけている。まだ二体も幽霊騎士を残してはいるが彼は肩で息をし、額から汗がダラダラと流れ、足元はおぼつかない。
「シネーッ!」
好機と見た幽霊騎士たちは剣を振り上げ川村に止めを刺そうとする。
しかしそれを防いだのは滝川だった。
パジャマ姿の彼女は所持していた袋に入れた塩を幽霊騎士にばら撒くと、彼らは苦悶の声を上げつつ消滅した。
「川村君、大丈夫?」
「助かったでござる……」
滝川は自らの肩を川村に貸して部屋へ戻ると、宿屋の主人に頼んで魔法つかいを呼んでもらった。
この世界では「誰でも格安で怪我を治せるように」という魔王の政策により、魔法つかいはどのような怪我であれ一万スターを超えない範囲で治すようにと法律で義務付けられている。レストランで滝川の治療費が驚く程安かったのもその為なのだ。
魔法つかいの呪文によって疲労と負傷が回復した川村は、滝川の隣で横になる。
一緒に眠ろうと滝川が提案したのだ。
川村は先ほどの騒ぎのせいで眠る気が起きなくなったので、以前から気になっていた疑問を滝川に言ってみた。
「お主は恐怖を感じないのでござるか」
「え?」
「拙者が闘っていた相手は幽霊騎士と呼ばれる騎士の亡霊でござる。並の精神をした人間ならば拙者を助けず宿で怯えているはずでござる」
「そ、それは君が友達だから助けないといけないと思って体が勝手に動いたのさ」
「それだけではござらぬ。拙者と会うまでの旅路でオークと闘ったり、ゴブリンから少女を救い出したりしたと話していたではござらぬか。
もっと言えば拙者と初めてあったあの時、お主は生身の人間であるにも関わらず魔物の騎士と対決していたでござる。
これはお主が稀代の英雄、カイザー殿の血を継いでいることを差し引いても説明できないことでござる。
拙者の見当違いでござったら謝るが、お主、拙者に何か隠し事をしているでござらぬか?」
「川村君には気づかれてしまったか。ロディはわからなかったんだけどね」
滝川はため息をひとつ吐いて右を向きいつもの笑顔を川村に見せる。
けれどその顔は普段とは違う暗い影を感じさせるものだった。
「君の言う通り、ボクは恐怖や不安を感じない」
はっきりとした声で言い切った滝川に川村は大きな瞳を更に大きく見開いた。
川村は出逢った当初から彼女に対し若干の違和感があった。けれどその正体が何かはわからず悶々とした時を過ごし続けた。けれども彼女が幾度も修羅場を乗り越える様を聞いたり見たりしているうちに、違和感の正体に気づき始める。
この女子は恐怖を感じない精神の持ち主ではないか。
果たして彼の予感は的中し、彼女は自らが抱いていた懸念と同じ言葉を口にしたのだ。
けれど同時に新たなる疑問が川村の頭を掠める。
普通の人間には絶対にあるはずの不安や恐怖の感情。
それがどうして彼女には存在しないのか。
オークや幽霊、更には紅騎士サラマンデスにでさえも一歩も引かずに立ち向かう姿勢を見せるほどのメンタル。
間違いなく彼女は一切の恐怖や不安を感じていない。
だが、何故だ?
何故彼女は不安や恐怖を感じないのか。
まさか——
無言で頭を回転させていた川村はひとつの答えに辿り着く。
けれどもそれは決して自らの口では訊けない問いかけだった。
黙っている川村の答えを見透かすように彼女は口を開いた。
「ボクがどうして不安や恐怖を感じないのかなって君は思っている。
そうでしょう?」
「その通りでござる」
「ボクも昔は普通に恐怖も不安も感じる女の子だったんだよ。
そう……あの時までは。
ボクの家族が皆殺しにされたあの日の、あの瞬間まではね——」
つぅっと滝川の瞳から透明で光り輝く雫が流れ、彼女の細い顎を伝ってパジャマに沁みを作る。
そして滝川は物語を語って聞かせるかのような穏やかな澄んだ声で、自らの過去を打ち明けた。
滝川はフランス人の母親と日本人の父親と共に日本で暮らしていた。
両親はパン屋を経営しており、お客さんの絶えない人気店であったこともあってか暮らしぶりはよく、滝川は両親の愛情を一杯に受けて成長した。
一〇歳から読み始めた男装をした少女が活躍する少女漫画の影響で、いつしか一人称が「私」から「ボク」に、口調も男性的なものとなったが両親は別に咎めたりはせず、風変りながらも愛する娘を見守り続けた。
そして中学二年生の七月に悲劇は起きた。
彼女が学校へ行っている最中に、両親の店へ訪れた強盗により、愛する父親と母親が殺害されたと言うのだ。
急いで家へ帰った滝川が見たものは、大勢の野次馬とパトカーや救急車、そして二度と目を開くことのない両親の変わり果てた姿だった。
「わあああああああッ!」
滝川は大雨が降りしきる中声が掠れるまで泣き叫び、気づいた時には彼女の心の中から恐怖と不安という感情が抜け落ちていた。
暫くはショックのあまり食事も摂らず会話もできず、別人のようにやせ細り、目の下に隈ができるほど憔悴しきっていた。
そんな彼女を救ってくれたのが母方の祖父であるカイザーで、彼は孫娘を引取り、両親に負けず劣らずの深い愛情でもって彼女の心と体に光を与え続け、見違えるほどに回復させたのだ。
けれど彼の愛情をもってしても、失った感情が戻ることは決してなかった——
「これがボクの過去のお話。それじゃあ、お休み」
川村が何かを言おうとするのを遮り、一方的に部屋の電気を消して眠ってしまった。これは彼女の防衛機制なのかは川村にはわからなかったが、彼女の秘密を知ってしまった以上は彼女に無謀な行いをさせて傷を負わせる訳にはいかないと静かに誓った。
- Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.19 )
- 日時: 2017/07/30 07:22
- 名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)
「この国は今日から我のものだ」
剣を高々と掲げて宣言したのは、魔王直属の四銃士が一人サラマンデス。
彼の目下にはラシック王国の国王と王妃が胸と腹から血を流して死亡していた。
サラマンデスは二人の死体を蔑んだ瞳を向けて呟く。
「おとなしく我の要件を飲めばこのような目に遭わずに済んだものを」
すると王の間の扉が開き、一人の少女が入ってきた。
三つ編みにした金髪と黒色の瞳に白を基調としたミニスカートのドレスを着たその少女の名はメープル=ラシック。ラシック王国の姫だ。
「お父様、お母様!」
倒れている二人に駆け寄り心音を確かめたり肩を揺すったりするが、父と母の目は閉じられたままだ。
「嫌ぁあああああっ!」
辛い現実に彼女は顔を覆い泣き出す。
彼女の悲しみは涙や鼻水となり、大理石の床に落ちていく。
どれほど泣いても大好きだった両親は二度と戻ってこないのだ。
あまりにも突然に訪れた別れ。何者かに城が襲撃されたため、部屋に隠れて騒ぎが収まるまで出てくるなと言われた。けれど両親の相手を説得する声や悲鳴が微かに聞こえ、心配になって王の間へと来てしまったのだ。
そして目にしたのは血染めになった両親の姿。
さよならも言うことが出来なかったあまりにも突然の別れ。
もしも自分が両親の傍にいることができたら、殺害を止めることはできずとも、自分の顔を一目だけでも見せることができたはず。
自らの力の無さを悔い、彼女は声が枯れそうになるほど泣き叫んだ。
そして長い時間が過ぎてようやく顔を上げると、彼女の目に飛び込んできたのは陽の光に照らされて鋭く輝くサラマンデスの剣の切っ先だった。
「選べ」
涙が収まり幾分か冷静さを取り戻したものの、肩で息をしているメープルにサラマンデスは冷酷に告げた。
「この国を我に渡すか、それとも両親と同じく死ぬか。どちらか選べ。
城の兵は半分は殺害し、残った兵は我に怯えて逃げ出すか、部下になった。
つまり、お前に味方は誰もいない。さあ、どうする?」
ギロリと濃い緑色の瞳で睨みつけ、勝利宣言ともとれる嘲笑を見せた。
「この国をあなたにお渡しします」
彼女は涙を拭いて立ち上がり、一三歳とは思えぬほどの毅然とした物腰で言うと言葉を続けた。
「ですが二つだけ条件があります。
一つはお父様とお母様の遺体を冷凍保存すること、もう一つは決して戦争をして国民を巻き込まないことです」
「その二つを守るのならば国を渡すと言うのか。小娘の癖に大した度胸だ。
よかろう、約束を守ってやる」
「……国民をよろしくお願いします」
それだけ告げると最愛の両親に別れのキスをして、そっと王の間を出て行く。
城を出る際に彼女に与えられたのは、僅かな金貨とボロボロの衣服だけ。
元王族とは思えぬほどの貧しい服装で、彼女は赤子の頃から暮らしてきた城を追い出された。
その日を境にラシック王国はサラマンデスが統治する国となった。
なぜ友好的だった魔王が配下を送って国を奪うような真似をしたのか、それはメープルにはわからない。
わからないことだからこそ、自分が直接魔王の城へ赴き、彼に直接問いたださなくてはならない。
国を抜け、山を登り、遥か下に見える国を眺め彼女は拳を握って胸に当てた。
「お父様、お母様。私が国を取り戻すまで、待っていてください!」
夜遅く。
魔王の城の王の間に一人の中年男性が入ってくる。
白髪のオールバックに金色の瞳、純白の軍服を着た長身痩躯の男だ。
顔には張り付いたような笑みを浮かべている。
彼は玉座にある音響機材に頭を下げることもなく、手にもったカードの束を斬りながら口を開く。
「我が主よ」
『その声はシャドウ=グレイ君、久しぶり! こんな夜遅くにどうしたのかな』
「魔王に耳に入れたいことがある」
『何かな。君が現れるぐらいだから、よほど重大なことなのだろうね』
「左様。俺の部下のサラマンデスがラシック王国を占領した」
『ええっ!? ラシック王国がサラマンデス君に乗っ取られたの?王様とお妃様は無事かな』
「サラマンデスに殺された」
『メープルちゃんは?』
「国を渡すとだけ告げてどこかへ逃亡している」
『どうしてそんな酷いことを! 私はあの国が大好きだったんだよ。
今週もモンブランでも注文しようかと思っていたのに』
「魔王の悲しみはよくわかる。あの国の菓子はどれも舌がとろけるほどの絶品だったからな」
『その通りだよ。だからこそ私はあの国だけは積極的に干渉しなかったんだ。
それなのにどうして今になって』
「サラマンデスの独断でやったことだ。魔王の名に傷は付かん。
奴がラシック王国を占領したのはジークの入れ知恵だとか。
何でも滝川麗とか言う異世界転生者を始末する作戦にラシック王国の支配は必要らしい」
『ラシック王国を占領して王族まで手をかけて、それで失敗したら魔力剥奪ってことを彼はわかっているのだろうか』
「奴もそれは理解している。だが魔王よ、魔力剥奪はどう考えても甘すぎる。
最低でも自害か、あるいは八つ裂きにして焼却炉に落とすべきだ。
使えない奴は肉も骨も溶かして消した方が他の部下の教訓になる」
『君はそう言って私が魔力剥奪した子や解雇して退職金を渡した子を消してきたじゃないか』
「代わりの者はいくらでもいるし、血飛沫や断末魔を聞くのは俺の楽しみだ。
その点は魔王も理解しているであろう。何、代わりの者はいくらでもいる」
『でも可哀想じゃないか』
「宜しい。ならば賭けよう。サラマンデスが滝川を始末できるか。俺が勝ったら奴を細切れ肉にして焼却炉に投げ捨てる。魔王が勝ったら奴の魔力を剥奪すればいい」
『それなら私は勝つ方に賭ける』
「俺は敗北する方だ。もっとも奴が戦死すれば賭けも無効で手間も省けるのだが。フフフフフフフフ……」
- Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.20 )
- 日時: 2017/07/30 07:24
- 名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)
幽霊騎士の襲撃に遭うというハプニングもあったものの、その後にモンスター達が襲ってくる気配はなく、滝川は朝八時に起床した。
彼らの宿泊している部屋には日本のホテルと同じように洗面台と風呂が備え付けられているため、何より風呂を好む滝川は朝風呂に入って癒され、服を着替えて顔を洗い、歯を磨いて洗面所を出ると、ようやく川村が起きたところだった。
「川村君、おはよう!」
「おはようでござる……」
「どうしたの? 元気ないみたいだけど」
「拙者は朝に弱いのでござる。ところでお主、風呂に入ったでござるか」
「その通り。君も入った方がいいよ、すっきりするから」
「それがいいでござるな」
寝ぼけ眼の目を擦りながら、のそのそと入れ替えりになる川村。
彼が風呂に入っている間、滝川はベッドに腰を下ろし、まるで探偵のように顎に手を当てながら、あることを考えていた。
(どうして昨日の幽霊騎士はボク達を狙ってきていたのだろう。
食料や金目のもの目当てならばもっと他の人を狙うはず。
それなのにボク達をピンポイントで、しかもあれほど大人数で襲い掛かってきたということは、誰かの差し金かもしれない。だが、そうなるとボク達が寝ている時に刺客を送り込まなかったのは何故だ?)
考えてはみるものの考えれば考えるほど新しい謎が生まれる。
自分一人ではどうやっても答えに辿り着かないと結論付けた彼女は川村の風呂が終わるまで待つことにした。風呂から上がって滝川の疑問を聞いた川村は目を鋭く光らせた。
「実は拙者もそれを気にして夜中まで警戒をしていたのでござる。
けれども一向に敵襲の気配はなかったでござるから寝てしまったのでござるが」
「本気でボク達を殺めたいのなら寝込みを真っ先に襲うはず。
でもそうしなかったってことは、ボク達に幽霊騎士達を倒され手駒がなくなったか、ボクらをいつでも倒せるという余裕の表れ……」
「あるいは拙者らの実力を探る為に幽霊騎士を送り込み、どこからか監視しているのかもしれぬでござるな」
「その可能性も捨てきれないね。もっともその根拠もないからそうだとも言い切れないけど」
「今度敵が襲ってきたら、監視しているか否か訊ねた方がよいでござるな」
「でも相手にそれを見つかったら別の方法で攻めてくるかもしれない」
「何にしても次に敵が攻めてきた時でござるな。拙者達の考えすぎで、実際は盗賊の幽霊騎士集団が宿を襲おうとして、偶然拙者らを見つけて倒されただけということもあり得るでござる」
自分で言って満足気に頷く川村に滝川が訊いた。
「待って! それじゃあどうして奴らは君の名前を知っていたの?」
「拙者は世界を救った英雄の一人として学校の教科書にも活躍が載っているから、知っている人は誰だって知っているでござるよ。だからレストランの時も主人がお金を返してくれたでござろう」
「そうだったのか!」
先日、滝川は熟睡中の川村の財布を借りてレストランに入った。そのことがばれて川村に成敗されたが、会計の時に払ったお金は店主が川村の顔を見るなり返金してくれたのだ。
あの時から滝川はずっと気になっていたのだが、たんこぶの痛みやら歩いた疲労やらで訊くことができないでいたのだ。
「この宿の主人も君のことを知っているといいね」
「拙者を知っているのと無料にしてくれるのとは違う話でござる。
それに拙者も世間から遠ざかって長いことになるから、あの時の主人のようにはうまくことは運ばないでござろうな。それに、何でも知名度だけで美味しい思いをしようというのはあまり関心しないでござるよ」
「うん……そうだね」
無料で高級ホテルに宿泊し、好きなものを買い放題しながら旅ができると考えた滝川の落胆ぶりは顔によく現れていた。
- Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.21 )
- 日時: 2017/08/03 02:21
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: WEFYk.MN)
こんばんは!以前作品を紹介していただいた四季というものです。
お話読ませていただきました。
相変わらず安定の愉快さでスムーズに読み進めることができました!ござる口調なんて面白いですね。私も笑いのセンスが欲しいなと思いつつ、いつも読ませていただいています。
これからも更新楽しみにしています!
- Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.22 )
- 日時: 2017/08/04 05:27
- 名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)
四季さんへ
感想ありがとうございます!川村の口調が気に入っていただけたようで良かったです!その言葉だけでこれからも更新を頑張れます!ありがとうございます!