複雑・ファジー小説

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ナルシスト美少女の冒険記
日時: 2017/07/21 08:51
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

久しぶりに新作を公開します。
今回はアクションファンタジーです!

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.8 )
日時: 2017/07/22 06:48
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

ロディが苦悶していると、上空から何者かが落下してきた。
砂地に土煙を巻き上げながら着地する謎の人影。

「なんだ!? 何が起きた?」

突然の出来事にロディは面食らうものの、とにかくクレーターが出来た場所へと馬で行ってみることにした。幸いなことに滝川はぐっすりと寝ており、起きてくる気配はない。

「ちょっと出かけてくるぜ。そのまま夢の中でおねんねしてな、お嬢さん」

彼が問題の場所へ向かうと、そこには一人の男が腕を組んで立っていた。
緑の瞳に青白い肌。背中に生えた一対の蝙蝠の如き翼。
龍を模した赤い甲冑姿は騎士を彷彿とさせる。
彼は緑の瞳でロディを見据え、口を開いた。

「我の戦闘員を倒すとは少しはできるようだな」
「昼間俺達を襲ったオーク共はテメェの差し金か」
「その通りだ」
「なぜ俺達を狙う?」
「この世界に侵入した異世界人を排除するのが我が役目……」
「するとテメェは——」
「察しの通り、我は魔王様の家臣の一人、紅騎士サラマンデス。
世界を混乱に陥れる異世界人の少女を守護する保安官よ、お前達二名の命は我が頂く」
「できるもんならやってみやがれ」

するとサラマンデスは大きく手を広げ、口元には嘲笑を浮かべた。

「用意ができているのなら、さっさと我に攻撃をかけてみるがよい」
「後悔しても知らねぇぞ」
「それは我の台詞になるかもしれぬな」
「言うじゃねぇか。じゃあ遠慮なくこっちからいかせてもらうぜ!」

拳銃を引き抜き、両手の銃弾から全ての弾を撃ち出す。
だが銃弾はサラマンデスの赤い鎧に命中すると、傷一つ付けることなく地面に落ちた。

「もう弾が切れたのか。呆気ないものだ」

ロディは先のオークとの戦闘で銃弾を消費していた為、残りは六発だった。
貴重な銃弾を全て使用したにも関わらず、サラマンデスは無傷である。

「へッ……鎧が堅いだけだろ。残念だが、俺の武器は普通の弾だけじゃないんだ」

服の内ポケットに隠し持っていた銃から鋼鉄製のワイヤーを発射し、巧みなワイヤー捌きでサラマンデスの四肢の自由を奪う。

「挽肉になりな」

渾身の力でワイヤーを引っ張ると強固なロープがサラマンデスの身体に食い込んでいく。
けれど、彼の表情は変わらない。

「効かぬ」

サラマンデスが僅かに力を込めると、頑強なはずのワイヤーが千切れ飛ぶ。

「それなら——こいつはどうだ!」

閃光弾を放り投げサラマンデスの視界を奪うと、隙を逃さず急接近し彼を砂に押し倒すと、その足を取り足4の字に固めていく。

「早く降参しないと足の骨が折れちまうぜ」
「その程度の技など、蚊に刺されたほどにも感じぬ」

サラマンデスは4の字に極められたまま、腕の力だけで倒立。
更に腕力だけで自分とロディを空中へと舞い上がらせる。
そのまま上空で体勢を入れ替え、パイルドライバーの如き状態で落下していく。
砂地であるとはいえ、高角度から全体重をかけられ頭部をぶつけたのだ。
技を解除し離れると、ロディは口から吐血し大の字に倒れた。

「我とお前の実力差は今の通りだ。これ以上闘えば命を落とすことになるが、どうする?」
「闘うに決まっているだろう。俺がここで逃がしたら、お前は滝川を殺しに行く」
「惜しい男よの。大人しく尻尾を巻いて逃げればよいものを」
「生憎俺には尻尾がなくてね。逃げる選択肢は最初ッからないんだよ」
「愚かな。命を捨ててでも我を止める気か」
「当たり前だ。それが隊長との約束だからな」
「あくまで忠義に生きるか。まあ、それもよかろう」

鎧に装着されている赤い鱗を一枚引き抜き、それを魔力で赤い鞘の長剣へと変化させる。

「先代の魔王様を倒した英雄の一人、ロディよ。お前はかつては英雄だったのかもしれぬが今は違う。
現在のお前はただの化石だ」
「時の流れというものは残酷だ。俺の強さを見誤るとは」
「何を言い出すかと思えば笑止千万。
お前は現に我の身体にかすり傷さえ付けられぬ身ではないか。
現実を受け入れるがよい、時代は変わったのだ。
過去の英雄は今宵、我が剣の前に散る」
「俺が魔王と闘った時にはお前のような奴はいなかった。
今の魔王が部下として引き入れたか」
「そうだ。昔の魔王がどのような奴だったかは知らぬ。興味もない。
現・魔王様は国民を第一に考え尽くしてくださる偉大な支配者だ」
「異世界人の犠牲の上にか?」
「黙れ。魔王様の偉大さもわからぬ保安官風情が」
「お前の慕っている魔王など、俺から言わせればゴミ同然だ」
「減らず愚痴を叩くとは恐れを知らないようだな」
「俺は生まれてから一度として恐れたことはない」
「ならば笑ってあの世へ逝くがいい」
「お前がな」
「我はお前のような輩が好かぬ。早急にお前を倒し、次は異世界人の番だ」

サラマンデスの瞳に緑の炎が宿り、ロディとの間合いを一気に詰めると、剣を振り下ろす。
だが、振り下ろした先にロディの姿はない。

「どこへ消えた!」
「ここだよ」
「!?」

ロディはいつの間にか彼の背後へ回り込み、左腕で相手の身体をガッチリと押さえつける。
その右手には手榴弾が握られていた。

「貴様、何をするつもりだ」
「なァに、大したことじゃねぇさ。
ちょっと付き合ってもらうんだよ……地獄までな」
「離せ!」
「うるせぇ口だ。これでも食って黙っていろよ」

彼は強引にサラマンデスの口の中に手榴弾を押し込む。

「隊長、これが俺の足りねぇ頭で出した答えだ。あとのことは他の仲間に任せたぜ……滝川、短い時間だったけど、お前と過ごせて楽しかったぜ。じゃあな!」

ロディが手榴弾のピンを抜いた刹那、砂漠に巨大な爆音が響いた。

















「一人だけ犬死するとは、救いようがない奴だ」

砂煙が晴れると、血塗れになったロディを蔑むサラマンデスの姿があった。

「保安官が自滅してくれたおかげで、楽に異世界人を始末できるな。
だが何故だ?
何故こやつは一異世界人である少女を守ろうと必死に——わからぬ
理由がわからぬだけに、どこか不気味だ」

ロディの遺体を蹴飛ばし、滝川の元へ向おうと蝙蝠のような翼を広げる。。

「待っているがいい滝川とやら。我がもうすぐお前の息の根を止めてやる!」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.9 )
日時: 2017/07/23 13:00
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

「ウフフ、くすぐったいよ」

何者かに舐められる感覚を覚え滝川が目を覚ます。
彼女を舐めていたのはロディの愛馬であった。

「おはよう、いい朝だね」

青い空に眩しい太陽。猛暑ではあるが天気は快晴そのもので、滝川の目覚めはよかった。
大きく伸びをして、新鮮な空気を吸い込む。
と、ここで彼女は異変に気付いた。

「エリザベス、ロディはどこ?」

エリザベスとはロディの愛馬(雌馬)の名前である。
彼女とロディは常に一心同体で片時も離れたところを見たことはない。
また、ロディが彼女だけを置いてどこかへ行くことも考えられなかった。
そうなると導き出される答えはひとつ。

「まさかロディの身に何かあったの!?」

ロディの愛馬は頷き、蹄で砂を蹴り上げた。自分に乗れと言っているのだ。
滝川は既に何度かエリザベスの背に乗せてもらっているだけあり、容易に背に跨ることができた。

「ボクをロディのいる所へ連れていっておくれ!」

エリザベスは高らかに鳴き、全速力で駆けだした。





「これは!?」

目の前に広がる光景に滝川は目を疑った。
ロディが仰向けに倒れているのだ。
髪や服は血塗れとなり、何者かに襲われたことを意味する。
急いで駆け寄り、脈を測り、心臓に耳を当てる。
だが彼の脈も心臓も既に機能を停止していた。

「嘘だ。あり得ない」

オークを瞬殺できるほどの実力者であるロディ。
その彼が死んでいるのだ。
一体誰に!?
いや、それよりも彼は本当に死んでしまったのか。
滝川は僅かな可能性を信じ何度も心音を確かめるが、反応はない。

「嘘だ。嘘だ!」

彼女の両の瞳から大粒の涙が流れ、ロディの顔を濡らしていく。
滝川にとってロディは異世界で初めてできた友人だった。
一緒に過ごしていくうちに、彼女にとってロディはなくてはならない存在となっていた。その彼と、こんなにも早く別れることになろうとは。
こみ上げてくる悔しさと己の無力さをどこへぶつけていいのかわからず、滝川は握った拳を幾度も砂へと叩き付ける。

「無様だな」

上空から聞こえてきた声に、滝川は顔を上げて相手を睨む。
彼女の目に飛び込んできたのは、赤い鎧を着た異形の怪人の姿だった。

「誰だ!」
「我はサラマンデス、魔王様が家臣の一人。魔王様の命を受け、貴様の命を奪いにきた」

サラマンデスはゆっくりと降下し、砂地に降り立つ。
そして一歩一歩、滝川に歩み寄っていく。

「異世界人はこの世界にいてはいけぬ存在。お前を守る為に我と闘い命を散らしたその男は愚か者だ」

彼の口から放たれた衝撃的な言葉に、滝川の青い瞳が大きく見開いた。

「まさか——君がロディを殺したのか!?」
「そうだ。我の邪魔をする者は何人たりとも容赦せぬ」
「許せない」
「何か言ったか?」
「よくもロディを! 君は絶対に許せないッ!」

滝川は怒りに震え涙を流し、拳を堅く握る。眉はつり上がり、瞳は鋭く相手を睨みつけ、強く歯を食いしばった。

「ボクの友人を……ロディを返せぇーッ!」
「武器も持たず我に挑むとは。無謀という他ない」

滝川が放った左ストレートを難なく受け止め、片腕の力だけで彼女を宙に浮かばせると、軽々と背後に投げ捨てた。

「オオオオオオオッ!」

勇ましく叫び、己の怒りをぶつける滝川。
けれどいくら殴ろうと、蹴ろうとサラマンデスの身体は全く揺るがない。

「何と貧弱な攻撃、これではカも殺せまい。攻撃と言うのは、このようにしなくては」

パァン!
乾いた音と共に滝川は思いきり頬を張られた。

「がはあっ!」

衝撃で遥か後方まで吹き飛ばされるが、それでも戦意を喪失せずに滝川は立ち上がる。

「まだ立ち上がるか。諦めの悪い娘だ。
ならば少しだけ力を出してやるとしよう」

サラマンデスが両手を開いてあげると、彼の周囲の砂が集まり腕を生成した。
腕の長さは五メートルを超えている。

「押しつぶされて死ぬがいい」

サラマンデスの動きに合わせて砂は拳骨を作り、蛇のように伸びて滝川に襲い掛かる。
砂とは言え、あれほど巨大で固まった拳を食らったら一発であの世行きだろう。

「うわッ!」

身を翻して間一髪で巨大拳骨を回避するものの、砂の拳は滝川を嘲笑うかのように次々と放たれていく。
命中した地点には底が確認できないほどの深い穴ができており、その破壊力を物語っている。

「ハァ……ハァ……」
「どうした。息が上がっているぞ」
「まだだッ!」

炎天下の中、滝川は必死になって避け続けるが、水も食事も摂らないでの激しい動きをしているうちに、今の状態では限界が近づいていくのを悟った。
このままでは時間の問題で、拳骨を食らってしまう。
意を決して自らの上着に手をかけ。

「何をする気だ」
「身体を軽くするのさ!」

滝川は勢いよくコートを脱ぎ捨てた。
強い拘りを持っているコートであるが背に腹は代えられない。
滝川の身軽になった姿を見て、サラマンデスは口元に薄ら笑いを浮かべる。

「その軽くなった体でどれほどの動きができるのか、見せてもらうとしよう」

彼は鎧の鱗を一枚抜いて、ロディと闘った時と同じく剣を生み出し、疾風の如き速さで滝川に斬りかかる。

「我が剣の前に敗北するがいいッ!」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.10 )
日時: 2017/07/23 15:18
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

重く厚いコートを脱いだ滝川は、スピードでサラマンデスに勝っていた。
彼が繰り出す斬撃を冷静に躱し続け、少しずつ疲労を蓄積させていく。
彼女の真の目的は勝利ではなく逃走である。
まずは恐るべき力を誇る紅騎士から逃げ切り、今後を考えなくてはならない。
そのために敵の体力を削ぐことが最優先。
結論を導き出した彼女は自分の命を守る為に、この危機を脱する為に、全力で敵の刃を回避する。
幾度となく剣で斬りかかろうと斬撃が命中しないので、サラマンデスは眉間に皺を寄せ、こめかみに血管を浮かび上がらせ苛立ち始めた。

「敵の攻撃を真っ向から受け止め反撃する。それが戦士としての美学!
それなのにお前は我の攻撃を逃げてばかりいる。自らの行いを恥ずかしいとは思わぬのか!」
「そんな台詞は自分の防御力に自信を持つ君だから言えるのさ。
ボクは君と違って普通の人間で、剣で斬られたら死んでしまうからね。
逃げるしかないのさ」
「小娘の癖に減らず口を叩きおって!」

怒りの影響で無意識のうちに剣を振る動作が大振りになり、滝川がより避けやすい状態になっていることに彼は気づいていなかった。
加えて攻撃の空振りというのは命中した時と比べて何倍も疲れるのである。
昨夜はロディ、そして今朝は滝川と連戦である上に、既に一〇時間以上も闘い続けている彼は自分でも知らぬうちに身体に深刻な疲労を抱えていた。
実はロディの死因は自爆が原因ではなかった。
彼は戦闘の途中で自分の力ではサラマンデスに勝てないことを悟り、時間稼ぎをする戦法に切り替えた。
敵は強固な鎧に覆われており生半可な攻撃では通用しない。ならば自らも命を落とす可能性のあるギリギリの攻撃を連発して、致命的なダメージは与えられずとも足止めだけはしておこう。
万が一サラマンデスが滝川と相対した時でも少しでもダメージや疲労が蓄積されていれば、もしかすると滝川に逃げる隙を与えられるかもしれないのだから。
ロディは気力だけを武器に何度倒れても立ち上がり、10時間という常軌を逸する時間を闘い続け、息絶えたのである。
そして彼の玉砕覚悟の最後のがんばりは決して無駄ではなかった。

「おのれ。なぜ当たらぬ!」

怒り、焦り、疲労と負の三拍子が揃ったサラマンデスは、怒りで冷静さを見失い、隙の多い攻撃をして避けられ、結果的にますます疲労が溜まっていく……という負のスパイラルに陥ってしまったのだ。

「ぬがぁ!」

ついにストレスが限界を超えたサラマンデスは剣を放りなげ、瞳に緑色の炎を宿す。そして鎧から黄金色の刺を無数に生やして、真上に跳躍。
そのままボールのように体を丸め、体当たりを敢行する。

「棘弾ニードルボール!」

滝川は足を踏み込み、手で相手の体当たりの威力を抑えようとするが、敵の回転は増していき、摩擦で手袋から火花が散り、両掌は弾かれ、彼の体当たりを正面からまともに食らってしまう。

「ぐあああああああああッ!」

上着が裂かれ白い肌が露わとなるが、先ほど威力を軽減しておいたおかげで肉体の損傷は避けられた。
けれど棘弾を受け止めるのに全体力を使い果たし、彼女は倒れ伏す。
立ち上がろうと指を動かそうとするも、全身が痺れてどれほど力を込めようとも起き上がることさえできない。空中で停止したサラマンデスは棘弾状態で言葉を告げる。

「我の必殺・棘弾を受け止めるとは褒めてやる。だが、一度目はできても、二度目はうまくいくであろうか?」
「くっ……」
「死ね」

二文字の言葉が恐ろしい響きを持って滝川に重くのしかかる。
ロディは死に、エリザベスのいる場所までは遠く、自分の身体は動かない。
八方塞りの最悪の状況下で先ほどの刺弾を食らったら本当に死んでしまう。
友人の敵討ちもできず、逃走も叶わず、無様に倒れ伏している今の自分の無力さ、情けなさに、滝川の瞳からは透明な雫が流れ出る。

「ロディ。ごめん」

微かに口を動かし、今にも消えそうな声で彼女は友に詫びた。
君の言う通り自分の力を過信して怒りで自分を見失い、
勝ち目のない敵に挑んで返り討ちに遭うボクは醜い。
昨日君がボクを守ろうと命をかけて闘ってくれていたのに、ボクはそれに気づかず寝てしまっていた。

「君を死なせてしまって、本当にすまない」

その様子を見ていたサラマンデスは冷笑する。

「何を一人でブツブツと言っているのか。恐怖のあまり気でも触れたらしい。
ともかくこれで我の使命は達成される。異世界人の小娘の死によって!」

歓喜と狂気を含んだ弾丸は、滝川を死に至らしめるべく凄まじい回転力で迫ってくる。滝川がそれに気づいた時には、既に棘弾は目と鼻の先まで接近していた。
あと二秒ほどで自分に着弾し肉を抉って殺すのだろう。
彼女は自分の最後を覚悟し、ぎゅっと強く目を閉じた。








だが一向に激痛がくる気配がない。まさかサラマンデスが情けをかけたのか。
いや、それはあり得ない。だとすると一体——
恐る恐る目を開けてみると、自分とサラマンデスの間に割って入った人物の後姿が見えた。
時代劇などで侍が着る黒い袴姿に、腰部分から生えた白い猫の尻尾。
長く艶やかな髪をポニーテールで束ねている。
謎の人物は、右手にもった日本刀一本で真っ向からサラマンデスの棘弾を受け止めている。

「お主——動けぬ女子を攻撃するとは卑怯でござるよ」
「お前は何者だ!」
「拙者は川村猫衛門かわむらねこえもん。悪の心を浄化する、正義のサムライでござる!」

川村猫衛門と名乗る侍は、刺弾を弾き、滝川の方に向き直る。
目尻がつり上がり、猫のように大きくパッチリとした瞳が特徴の美少女の如き可憐な顔立ちをしており、袴の袖が長過ぎるのか手の甲まで覆われていた。

「お主、大丈夫でござるか」
「ありがとう。君のおかげで助かったよ」
「あの者に関わると危険でござる。拙者と一緒に逃げるでござるよ」

川村は滝川が説明するよりも素早くロディの元へ駆け寄り、小柄な体躯のどこにそれほどの力があるのかと思うほどの怪力でロディを担ぎ上げて、エリザベスへ乗せ、急いで滝川の方へ戻ると彼女の手を握る。

「逃がしはせぬっ」

憤怒の形相で飛びかかってきたサラマンデスに、川村は懐から煙玉を取り出し地面へと投げつける。
すると辺りは煙に包まれ滝川達が見えなくなる。

「下らぬ小手先の術など我には通じぬ!」

翼を羽ばたかせ突風を巻き起こして煙を蹴散らすが、既に滝川達はいない。
周囲を見渡すが、彼らの姿はどこにも確認できない。

「あの短時間で何処へ消えたと言うのだ……
それにしてもあの川村とか言う奴、我の棘弾を防ぎきるとは只者ではない。
残念だが、魔王様に奴の存在を報告せねば!」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.11 )
日時: 2017/07/23 15:20
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

「これでよしでござる」

川村はロディの遺体をソファに寝かせ、額の汗を拭いた。
煙玉でサラマンデスを巻いた彼は、滝川を自分の住む森の中の小屋へと連れてきたのだ。

「お主、闘い疲れで喉が渇いたでござろう」

川村は湯呑に緑茶を注ぎ、テーブルの上に置く。

「ありがとう」

短くお礼を言い、息を吹きかけて冷やすと一口飲んだ。疲れていることもあり緑茶の温かみが全身に染みわたり、激戦での疲れも癒えていくように滝川は感じた。

「こんなに美味しいお茶を飲んだのは初めてだよ」
「喜んでもらえて拙者も淹れた甲斐があるでござるよ」
「ところで君はどこの誰で、どうしてボク達を助けてくれたの?」
「そう言えば自己紹介がまだでござったな。
拙者は川村猫衛門かわむらねこえもんでござる。因みに性別は男でござるよ」
「えっ——」
「拙者が男に見えないでござるか!?」
「どこからどう見ても美少女にしか見えないよ」

目尻が上がったパッチリとした黒い瞳に長い睫毛、頭頂部に生えた猫耳、白い肌に小さな顎。
川村は本人が性別を名乗らない限り、誰もが美少女と間違えるほど整った顔立ちをしていた。

「お主も他の者と同意見でござるか。拙者が男らしいと言われる日はいつ来るのでござろうか」

ため息を吐いた言葉の内容から、滝川は彼が外見のせいで理不尽な扱いを受け、男らしくありたいと悩んでいることを察し、肩を叩く。

「ボクらを助けてくれた時の川村君はとても男らしかったよ」
「ほんとでござるか!?」

目を輝かせ頬を赤く染めて小さな手で滝川の手を握る川村。
男らしいと言われたことが余程嬉しかったらしい。
しかしこの時、滝川は彼を不覚にも可愛いと思ってしまった。

「君が自己紹介をしたから、今度はボクの番だね」

滝川はサッと宝塚風のコートを羽織り、にこっと天使の如き笑みを浮かべ。

「ボクは滝川麗。よろしくね」

彼女は川村の腕を握り返し互いの自己紹介は終わった。
ここで再び椅子に腰を下ろすが、滝川の疑問はまだ解決したわけではなかった。

「ねぇ川村君。君はどうしてボクらを助けたの?」

すると彼は滝川から視線を逸らし、ソファで永遠の眠りについているロディを見つめる。

「それは、ロディ殿に頼まれていたからでござる」
「え!?」

川村は立ち上がるとロディの前に歩み寄り、その亡骸の組まれた腕にそっと触れた。

「拙者とロディ殿は同じ主に仕えた仲間だったのでござる」
「主?」
「五〇年前、拙者とロディ殿はこの世界を救うために立ち上がった一人の男を主と定め、圧政を敷く傍若無人な魔王を共に倒した仲間だったのでござるよ」

川村の口から語られた衝撃的な事実に、滝川は思考が追いついていかなかった。

「待って! 話が飲み込めないからひとつずつ質問させて。
まず、川村君は何歳なの?」

訊ねられた川村は腕を組み、「うーん」と唸る。

「少なくとも四〇〇歳は超えているでござるな」
「川村君って人間じゃないの!?」

滝川はこの瞬間まで川村を猫耳カチューシャと猫の尻尾のアクセサリーを付けて、時代劇風の恰好をした風変わりな美少年という認識でしかなかったため、常人を遥かに超える年月を生きていることに驚きを隠せなかった。

「拙者は人間と猫のハーフでござる。母親の血が強すぎたせいで、尾と耳しか父の血筋を継いでいないでござるが」
「つまるところ君は獣人って訳だね」
「そうでござるな。ただ並の獣人の寿命は長くても二〇年でござるが、拙者の場合は一二歳から外見が変わらず数百年生きているでござる」
「数百年も……辛かったでしょう?」
「最初の頃は地獄の苦しみでござったが、今はある程度慣れたでござる」
「ロディも君と同じく何百年も生きているの?」
「その通りでござる」
「どうして?」
「先代魔王と闘った拙者ら一三人は、世界を救った功績を称えられ、あるお方によって不老長寿を授けられたのでござる。故に寿命でも病でも死ぬことはこざらん。死ぬ時は戦死と決まっているのでござるよ。
拙者達は数百年もの長きに渡り生きてきた身。死ぬことに恐怖はござらぬ。
されど、苦楽を共にした仲間との別れは辛いものがあるでござる。
先の大戦で大半の仲間は死に、拙者を合わせても五人しかいないのでござるが、ロディ殿まで逝ってしまうとは……」
「ごめん、川村君。ボクのせいだよ」
「お主が悪いのではござらぬ。
ロディ殿は自分からこの最期を望んだのでござるよ」
「彼を蘇らせることはできないの?」

この世界には魔法使いがいる。傷なども治せるぐらいなのだから、もしかすると死者をも蘇らせることができるのではないか。
僅かな希望を懸けて川村に訊ねると、彼は少しの間口ごもっていたが、やがて深呼吸をして切り出した。

「結論から言って、並の魔法使いでは不可能でござる」
「そんな!」
「拙者が知る限り、死者を生き返らせる術をもつ者はただ一人でござる」
「誰? どこに住んでいるの!?」

ロディを生き返らせる為ならなんだってする。
自分を守ってくれたのだから、今度は自分がロディの為に頑張る番だ。

「そのお方にかかればロディ殿を生き返らせるのは朝飯前でござる。ただ——」
「ただ?」
「いや、何でもないでござる」
「川村君は私が『生き返らせるには条件が伴うから嫌』なのだね」
「うわあっ!」

いつの間にいたのだろうか。二人の間に長身の男性が立っていた。
顔は黒い三角帽子に覆われよく見えないが、黒いコートに金色の髑髏のネックレス、黒いブーツを着て身の丈ほどもある巨大な鎌を持った怪しさ全開の人物だ。

「あなたは?」
「君はこの世界とは別の世界……地球の日本から来たようだね。
私はスカルーボ=ブラック。高校二年生の滝川麗さん、よろしく」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.12 )
日時: 2017/07/23 15:23
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

スカルーボは一目で滝川の名前、出身、高校生であることを言い当てた。

「スカルーボさん、どうしてボクがこの世界の出身でないことがわかったんですか?」
「私は人の心が読める。だから君の心を読んで言い当てることができたんだよ」

その答えを聞き、滝川はドキリとした。心の中が読めるのであれば、彼に隠し事は絶対にできない。

「君はロディ君を生き返らせたいと思っているね。そして川村君から私が蘇生魔術の使い手であることを聞いて、ロディ君の蘇生を頼もうとしている。
違うかな?」
「お、仰る通りです……」
「ハハハハハハハハハハハ!かしこまらなくてもいいんだよ。君はロディ相手にも対等の口調で話していただろう。私にもそうしてくれて構わないよ」
「は、はい」

滝川はスカルーボに小さく頷くことしかできないでいた。
これまで異世界で出会ったどの相手違う雰囲気を察し、自然と敬語口調になってしまっているのだ。
彼は所持していた大鎌を壁に立てかけ、ロディを寄せてソファに座る。
三角帽子を深く被っている為、影がかかってその素顔は見えない。
けれどきっと声と同じく優しい顔なのだろうなと滝川は想像を膨らませた。

「スカルーボ殿、どうかロディ殿を生き返らせてはくれぬでごさるか」
「ボクからもお願いします!」

深々と頭を下げて頼み込む二人に、彼は穏やかな声で言った。

「私としてもロディ君を生き返らせたい気持ちは同じだよ」
「じゃあ——」

パッと顔を輝かせる二人に彼は言葉を続ける。

「でも、そう簡単にはできないね」
「どうしてですか!? 方法が難しいとか——」
「私にかかれば死人を生き返らせることなどは、呼吸をするのと同じぐらい簡単なことだよ。
でもね、亡くなった人が簡単に生き返ってしまったらそれを知った人々が次々に私にお願いしてきて、この世界の生死バランスは崩壊して大変なことになってしまうかもしれない。けれど私も君達もロディ君を生き返らせたい。じゃあ、どうすればいいのか。答えは簡単だよ」

彼は指を鳴らして一枚の地図を出現させると、それをテーブルに敷き、告げる。

「君達が私の家まで無事にロディ君を運んできてくれたら生き返らせてあげよう」
「ええっ!?」
「これは私が君達に与えるクエストだよ。二人で力を合わせてロディ君を私の住んでいる国の私の家まで連れてきておくれ。ああ、ちなみに彼には防腐魔法をかけて頑丈な棺桶に入れて、ポケットサイズに縮小しておいたから安心してもいいよ」

いつの間にか彼の手元には小さな棺桶が置かれていた。中にはロディがミニサイズとなり入っている。

「これで持ち運びと腐敗の心配は消えたね。それでは私は家で待っているから、頑張るんだよ」
「あっ、待ってください!」

だが滝川が制止するよりも早くスカルーボは瞬間移動で消えてしまった。
すっかり小さくなったロディを覗き込んで、川村は滝川に訊ねる。

「スカルーボさんの電話番号は知っている?」
「知らないでござる。そもそもあのお方は電話を持っていないでござるから、連絡するには直接本人に会いに行くしかないでござるな。
もっとも、さっきはあのお方自らが出向いてくれたでござるが」
「二人で行くしかないんだよね?」
「ロディ殿を生き返らせるには、それしか方法がないでござるよ」
「そうだね」

川村の家からあまりにも遠いスカルーボが住む国。
けれどロディを蘇生させるにはこれしかない以上、考えている暇はなかった。
滝川は決して広くない家を見渡し。

「じゃあ、まずは旅の準備をしよう。ボク達は村を出た時ミスをしたから、同じ過ちを繰り返したくはないんだ」
「ミス? どんなミスをしたのでござるか?」
「水も食料も着替えもお金も、全然持たずに家を出たんだ」
「それは災難でござったな」

口ではそう言いつつも、川村は腹を抱えて笑っている。

「もう! 笑わないでよ!」

顔を真っ赤にして恥ずかしがる滝川を尻目に、川村の笑い声は暫く止むことはなかった。


「ここからスカルーボさんの国まで何日ぐらいかかりそう?」
「そうでござるなぁ……どんなに早くても一か月はかかるでござるな」
「一月も!?」
「移動手段が歩きしかない以上、仕方のないことでござろう」
「川村君は車とか持っていないの?」
「期待に応えられなくてすまないでござるが、拙者は車も運転免許も持っていないのでござるよ」
「じゃあタクシーで行こうよ。その方がずっと楽だし」
「山あり谷ありの険しい道をタクシーが通ってくれるとは思えないでござるよ。
それに、目的地まで行くのにどれほどの料金がかかることやら」
「ここから飛行場まで何時間ぐらい歩けばいい?」
「……先ほどからお主は楽をする手段ばかり考えているでござるな」
「できるだけ楽な方法で行って汗をかきたくないんだよ。何日もお風呂に入れないなんて、ボクにはもう耐えられないからね」

滝川にとって風呂に入れないことは死活問題であった。
彼女は出来るだけ早く行ってロディを生き返らせたいと考えているのだ。
そんな彼女の態度に川村は額を抑えてため息を吐く。

(ロディ殿ならこういう時、『甘えるな!』と怒鳴っているでござろうな。
大体、命を助けてもらった恩人に殆どお礼を言わず、図々しい態度を取り続けるというのはちょっと人として問題があるのでは——)

「何か言った?」
「な、何でもないでござるよ!」

愛想笑いをして手を振って誤魔化した。
危ない、危ない。自分でも気づかない内に心の声が小さく漏れていたとは。
これからは気を付けなくては。
滝川が読心術の使い手でなくて本当によかった。
ほっと安堵したが、問題は解決した訳ではない。
彼女の甘い性根を叩き直さねば、この旅の目的が達成されることは永久にないであろう。
ならば、多少手荒ではあるが、拙者が甘え切った性根を正しくさせる他ない。
川村は腰の鞘に触れ剣の柄を握ると、無断で煎餅を食い散らかしている滝川の背後に回り声をかける。

「滝川殿」
「え? 何?」
「すまぬでござる」

川村は鼠を襲う猫のように目をギラリと光らせ日本刀を引き抜き、滝川に容赦の無い一太刀を浴びせた。振り向いた滝川は頭から縦に斬られた感覚を覚えたが、痛みも血が出る様子もない。
川村の持つ刀『斬心刀』は何でも斬ることができる凄まじい切れ味の剣である。
生物は勿論のこと、その名の通り相手の『心』を斬り、改心させることもできる。
彼は滝川の心を斬ることによって甘えた性根を断ち切ったのだ。
ほんの数秒放心状態にいた滝川だったが、再び煎餅に視線を戻し、ムシャムシャ。

「お主、人の家のものを勝手に食べてすまないと思わないのでござるか」
「もしかして怒っているのかな? 何が原因で怒っているのかはわからないけど、怒った顔も可愛いね。君はボクの次に愛らしいよ」
「反省していない!?」

剣の効果を試す為に敢えて少し厳しい声で言ってはみたが、どうやら効果はなかったらしい。

「拙者の斬心刀が通用しないとは、恐るべし滝川殿!」

逆に心を折られた川村は、愛刀も彼の心を表すかのようにへにゃりと曲がっていた。

(この調子だと、これから先が思いやられるでござるなぁ……)


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