複雑・ファジー小説

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ナルシスト美少女の冒険記
日時: 2017/07/21 08:51
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

久しぶりに新作を公開します。
今回はアクションファンタジーです!

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.13 )
日時: 2017/07/23 15:29
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

滝川は旅支度をしながらこれまでのことを川村に話した。

「あのときロディが助けてくれなかったら、ボクは死んでいたよ」
「滝川殿、どうしてロディ殿はお主を助けたと思うでござるか」
「本人が言うには困っているボクを見捨てておけなかったんだって」

しかし、滝川はロディの回答に疑問を抱いていた。
初対面の自分にあそこまで尽くしてくれて命まで投げ出そうとするのは、やはりおかしい。もしかするとこの答えの他に何か別の理由があるのではないか。
川村は彼女の考えを見透かしたように問いかけた。

「お主はロディ殿に助けられた理由を、本当にそれだけだと思っているのでござろうか」
「正直言って、いくら人が良いと言っても自分の命を投げ出そうとしてまでボクを優先するなんて、どう考えても裏に別の理由があるとしか考えられないよ」
「お主が疑問に思うのも当然でござろう。ロディ殿が亡くなった今、拙者が真実を教えてあげるでござるよ」
「知っているの? 彼がボクを助けた理由を」

川村は頷き、真実を話し始めた。

「ロディ殿は、異世界人であるお主らを、この世界にいる人々を数えきれないほど悲しませたとして憎んでおる。お主が私利私欲を満たす為にこの世界にやってきたのなら、ゴブリン達に襲われたところで彼は見殺しにしたでござろう。
でもそうしなかったのには二つの理由があるのでござる。
まず、お主はゴブリンに襲われた少女を自分の身も顧みずに助けようとしたこと。これが彼がお主を他人を思いやる優しい心の持ち主で、私利私欲の為にこの世界に足を踏み入れてはいないことを悟ったきっかけでござった。
第二に、お主はこの世界を救った英雄にして拙者ら主の孫だからでござる!」

滝川は川村の告白に頭が真っ白になりそうになった。
何か理由があるとは思っていたけど、ボクが英雄の孫?
嘘だ、あり得ない。

「ちょっと待ってよ。ボクが英雄の孫だなんて、何かの冗談だよね!?」
「拙者は嘘はつかないでござる。
カイザー=ブレッド。お主はこの名に聞き覚えはあるでござるか」
「ボクのお爺ちゃんの名前じゃないか!」

カイザー=ブレッドは滝川には母方の祖父に当たる男性で、晩年まで現役のパン職人として働いていた。
大柄な体格でとても優しく、滝川も彼のことが大好きだった。
カイザーの娘と滝川の父が結婚して彼女が生まれた。したがって滝川はハーフである。

「でも、お爺ちゃんがこの世界を救った英雄なんて、信じられないな」
「お主は思い当たる節がありながらそれを頭の中で必死で否定しているでござろう。顔にすぐ現れるから拙者でもそのぐらいはわかるでござろう」

滝川は図星を突かれたのでこれ以上隠し事はできないと判断し、彼に頭の中で考えていたことを言った。

「お爺ちゃんはボクによく自分を主人公にした異世界の物語を話してくれたんだ。異世界に迷い込んだお爺ちゃんが仲間を集めて魔王を倒し、異世界の王になるお話——でも、あれは真実だったんだね」
「カイザー殿はやはり自分の活躍を子孫に伝えていたでござったか。
紛れもなくその話は真実でござる。
ロディ殿がお主を助けたのは、彼の最後の言葉があったからでござる」
「最後の言葉?」
「左様。王になったカイザー殿は善政を敷き、国民の誰からも慕われる王でござった。けれど信頼するある部下の裏切りと策略により異世界追放となったのでござる。しかしながら悲しむ我らにカイザー殿は元の世界に帰還する直前、このような言葉を残してくれたのでござる。
『この世界に再び危機が訪れる時、私の孫が危機を救ってくれる』と。
そして孫が異世界に来た時の護衛をロディ殿と拙者に託された。
その孫こそが……」

川村はビシッと滝川を指差し。

「滝川麗! お主でござる!」

川村によるとカイザーは予知能力を持っており、それを駆使して川村達に滝川の名前と外見的特徴、この世界を訪れる日時と現れる場所を教えていたという。

「だからロディはボクが滝川麗だってわかったんだね」
「その通りでござる」
「でもお爺ちゃんが英雄だったなんて誇らしい気分だね。
ボクはこの世界の英雄になる気は今のところないけれど、これだけは言える。
ロディを生き返らせて元の世界に帰って、佐藤君とデートがしたい」

宣言し川村に顔を向けた滝川の爽やかな笑顔は見るものを圧倒する美しさを放っていた。
すると、彼女の身体全体から黄金色のオーラが放たれ、家全体を包み込む。

(この黄金のオーラはまさか!)

あまりの美しさと眩しさに耐え切れず、川村は腕で光を遮る。
ほんの三〇秒ほどで光は消え、後にはぐっすりと眠る滝川はいた。
川村は寝ている滝川に布団を被せ、ポツリと呟く。

「滝川殿の放った神々しいオーラは、まさしくあの男のもの。だが一体なぜ!?」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.14 )
日時: 2017/07/23 15:43
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

旅支度を終えた二人はロディを生き返らせる旅に出発した。
川村の案内で森を抜けると河原へ着いた。
橋はかかっていないため、泳いで渡るしかない。
荷物はスカルーボの指導により幾つかの魔法が使用できる川村がポケットサイズの大きさと軽さにしたから問題はない。

「この川を抜けた先に街があるんだよね。今日はたくさん歩いたしお腹も空いたから、早く街でレストランにでも入ろうよ」
「そうでござるな……」
「決まりだね!」

言うが早いが滝川は川へと飛び込みすいすいと泳いでいき、あっという間に川の向こう側へとたどり着く。滝川は泳ぎが得意なのだ。
川村は水に入るのを躊躇っていたが、意を決して水の中へとジャンプ!
しかし水中で手足をバタバタさせたものの、すぐに沈んでしまう。
その場で何度も必死に手足を動かし浮き沈みを繰り返す川村の様子に、流石の滝川も異変を感じとった。
急いで川にダイブして彼のところまで泳ぎ、ぐったりしている彼の手を引っ張り川岸へと連れて行く。

「拙者、泳げないのでござるよ」
「だからさっき浮かない表情をしていたんだね、泳げないだけに」
「つまらないダジャレを言ってほしくはないでござるよ」

極度の緊張と体力消耗から解放された川村は、そのまま睡眠につく。

「後はボクに任せて。君が起きている頃には街についているからね」

時刻は正午過ぎ。熱い日差しが滝川の真上に降り注ぐ。
彼女は背に深い眠りに落ちた川村を背負っている。二人の濡れた服は太陽光ですっかり乾いていた。
砂漠の灼熱の太陽に比べるとずっとマシであるがやはり日焼けは避けたい。
そこで彼女はなるべく日陰を歩きながら街を目指す。
川を超えた街の道のりは平坦で綺麗に整備されていた。

「これならモンスターも出ないよね」

今の滝川は背中に川村を背負っている。
この状態では闘うこともできないし、逃げるにしてもスピードが殺されてしまう。できることなら今だけはモンスターと出くわしたくはない。
そんな彼女の願いを知ってか知らずか、前方にピンク色のゼリーのような物体が現れた。

「巨大ゼリーがこんなところに。丁度お腹が空いていたんだ。
誰だか知らないけれど感謝するよ」

滝川は空腹もあってか巨大ゼリーに噛みつく。
が、あまりのまずさに口を離して食べたものを吐き出した。

「なんて不味いゼリーなんだ!」
「人を食べておいて失礼な言い方じゃないか」
「ゼリーが喋った!?」

巨大ゼリーは滝川の目の前で人型に変化した。
ピンク色こそ変わらないが首なし騎士の姿は強そうだ。

「俺はスライムのゼリマン。気軽にゼリリンと呼んでもいいんだぜ?」
「フッ……不味いゼリーの分際でよくそんな偉そうな態度を取れたものだね」
「俺はゼリーじゃねぇよ! スライムだ!」
「ああ、小学校の頃に理科の実験や自由研究で作ったアレか」
「俺達を作っただと。人間ができもしないことを言うなぁ!
だが、そんなことはどうでもいい。貴様と後ろに背負った獣人は、俺の餌となるのだからな!」

ゼリマンは腰の鞘から剣を引き抜き、滝川に斬りかかる。
だが滝川は微動だにしない。

「馬鹿め。恐怖で体が硬直したか。死ねぇーッ!」





プルン。





間の抜けた音がして、滝川の頭頂部に命中した剣は砕け散る。

「馬鹿な。貴様は石頭か!」

滝川は青い瞳を光らせ微笑する。

「フフフフ。柔らかいゼリーの君の剣でボクにダメージを与えることは不可能さ」
「小癪な! 餌は餌らしく俺に食われればそれでいいんだ」
「君は不味い。店に並べられても誰も買わない失敗作だ。
そんな君にボク達を食べ物呼ばわりされる資格はない!」
「こいつ、どこまで俺を愚弄すれば気が済むのか」
「悪いけどゼリー君、ここを通させてもらうよ。
君を食べた口直しにレストランに食事へ行きたいんだ」
「通りたいのなら俺を倒してから行くことだ」
「甘味の君が人間であるボクを相手にできると思うのかい」
「疑うのならかかってきやがれ!」
「無駄な争いは避けたいのだが、君がその気ならば仕方がない」

滝川は傍に川村を下ろし、拳を握って突進。
そして彼の胴体に何発もの拳を撃ち込んでいく。
ゼリマンの身体は凹んでいくものの、本人は笑っている。

「何ィ! ボクのパンチが効かないと言うのか!?」
「スライムの俺に打撃は一切効かねぇぜ」

すると彼の右腕が槍状になる。

「食らえ、スライムランサー!」
「ぐはっ……」

槍の一撃を受け、滝川は腹を貫かれる。


「今度は俺に食われてみるか?」
「なぜ……さっきは効かなかったのに!」
「俺の身体はゴムのように柔らかくも鋼鉄のように堅くもできる。
先ほど砕けて見せたのはお前を油断させるための演技だったんだよ」

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.15 )
日時: 2017/07/23 15:47
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

食われてみるか。
ゼリマンの発した一言が恐ろしい響きをもって滝川の耳に入る。
これまで出会ってきた魔物達——オーク、ゴブリンは滝川から身ぐるみを剥ぎ取ろうとする者ばかりであった。けれどこの不味いゼリーは違う。
彼はボクを食料として認識している。首のない身体でどうやって食べるのかはわからない。もしかすると飲み込む時に姿を変えるのかもしれない。
ただ一つ確実なのは、自分の腹の辺りに鋭い痛みを感じることと、刺された箇所から大量の血が流れていることだけだった。
ゼリマンの刺した槍から身体を引き離そうにも、彼がしっかりと槍の柄を握りしめ、槍先が完全に身体を貫通している為に引き抜くことができないのだ。
もし力づくで抜いたとしても、この先動ける保証はない。ならば、この状態で反撃できる術を考えなくては。
滝川が一矢報いる術を必死で思考を巡らしている中、ゼリマンは首のない鎧の中から笑い声を上げた。

「さてどうするかねえ。俺がこのまま剣を引き抜いて、もう一度振ればお前の身体は真っ二つになるぜ」

今はゼリマンが槍を刺したままにしているから、激痛であってもどうにか膠着状態を維持できている。
しかし彼が槍を自分の身体から抜いて突き刺しにくればその時が間違いなく自分の人生は終わるだろう。
全ては彼の気分次第。
川村はこのような状況下にあっても「もう食べられないでござる」などの寝言しながら眠りこけている。恐らくこの調子では彼はボクが死んだとしても目覚めることはないだろう。
視線を自らの服の右胸ポケットに落とす。
そこにはロディの棺が入っている。
彼を生き返らせる目的で始まった旅路。
その第一歩を出来損ないのゼリーに阻まれてしまうのか。
滝川の額から冷たい汗が流れ、顔からはいつもの微笑が消える。
動けるのは自分だけ。他人に頼ることはできない。
このゼリーの化け物を倒せる相手は今、自分以外にいないのだ。
ゼリマンは一向に槍を抜き取る様子を見せない。
どうやら膠着状態で我慢比べをして、出血多量で意識が朦朧とし動けなくなったところに一気に止めを刺す算段らしい。
首がないので相手の表情はわからないが、舐められていることは確かだった。
彼の笑い声がそれを物語っている。

「どうした、もうお終いか。俺を散々ゼリーだの失敗作だのと大層な口を効いた割にはてんで大したことないな」

滝川は彼を鋭く睨みつけ、歯を食いしばる。
食べ物に馬鹿にされたことが悔しくて溜まらないのだ。
彼女は風変わりな服装と言動、自己陶酔の多い性格上、これまで多くの人から嘲笑の対象となってきた。
それでも不屈の闘志でそれらを弾き返し、周囲と同じ色に染まることを良しとしなかった。
人間相手にならある程度なら笑って許せたかもしれない。
けれど今回の相手は食品。しかも味の悪い失敗作。
そのようなものに蔑まれムザムザと死んでいくのは屈辱だ。
槍の傷が元で死んでいくとしても、このゼリーにだけは負けたくはない。
滝川の心の中に闘志の炎がパッと燃え上がった。
必ずこの男を倒してみせる。そうしないと、ボクを庇って死んでいったロディに申し訳が立たない。だが、どうやって?
するとここで彼女の脳裏に一つの閃きが起きた。
彼がゼリーだとすれば、この方法は通用するかもしれない。
彼女はズボンの左ポケットに手を伸ばし、中を探る。
ポケットの中には川村がミニサイズにしておいた鞄が入っており、それを器用に片手だけでジッパーを外して目的のものを手探りで探し当てる。
取り出したのは酒瓶だった。

「ほう。死ぬ前の酒という訳か」

相手の言葉に耳を貸さずに栓を抜いて、瓶を上に傾け、中身を口に注ぐ。
それを飲み込まずに口に含んだまま瓶をポケットに収納する。続いて取り出したのはライターだ。

「まさか、貴様!」

ここにきて滝川のしようとしていることを察し、慌てて槍を脇腹から引き抜く。
槍は真ん中の辺りまで滝川の血で塗れており真紅に染まっている。
それをリスのように両頬を膨らませた滝川を一突きにしようとするが、初動が遅かった。
滝川はライターの火を着け、口に含んだ酒を吐き出したのだ。
強烈な火炎放射と化した炎は目前のゼリマンに引火。
彼の身体を山吹色の炎が包み込む。

「ぎゃあああああ…」

河原をゴロゴロと転がりのたうち回って悶絶する首なし男は、形状を維持できなくなり、元のゼリー状態に戻る。
滝川は口に残った酒をペッと吐き出し、爽やかな笑顔になった。

「君は焼きプリンになった方がお似合いさ」

ピンク色の身体が徐々に黒く変色していき、先の方から消滅していく中、ゼリマンは怨嗟の声を上げる。

「おのれ、早くに止めを刺していればこんなことには……こうなったらお前を道連れにしてやる!」

残る最後の力を振り絞り、再度ゼリマンは首なし騎士の姿をとる。
そして千鳥足になりながらも、自分に一矢報いた敵に近づいていく。
手を大きく広げ仁王立ちになる姿勢をとると、そのまま滝川に覆い被さろうと試みる。体格差では大きく劣る上に敵は炎を纏っているのだ。
何もせずに相手に抑え込まれては文字通り死の道連れとなるだろう。

「そうはいかないよ」
「何!?」

彼女は燃え盛るゼリマンに巴投げを仕掛け、彼を川へ投げ飛ばす。
水飛沫を上げて川に着地した彼は尚も立ち上がろうとするも、ダメージに体の負担が耐え兼ね、身体の節々から火花が散る。
死期を悟った彼は万歳をして叫んだ。

「魔王様に栄光あれぇーッ!」

それは彼が魔王配下であることを意味していた。
そして、その言葉を最後にゼリマンは盛大な水柱を上げて大爆発した。
水蒸気が晴れた後には、ゼリマンの肉片ひとつ残ってはいなかった。

「君がもう美味しければボク達はこんな虚しい闘いをせずに済んだんだ」

滝川は眠っている川村を担いで再び歩みを進める。
一〇分ほど歩くと街に着いた。
西洋風建築が軒を連ねるお洒落な街だ。

「川村君、街に着いたよ。早速ご飯にしようか」

だが川村は答えない。彼はまだ寝ていたのだ。

「しょうがないね。じゃあボクだけ美味しいランチを食べちゃおうかな」

悪戯っぽく言ってみるが彼の反応はない。
滝川はブラブラと歩きながらレストランを探す。
彼女の腹が「ぐうぅ」と鳴った頃、ようやくレストランが姿を見せた。
赤い屋根がお洒落な建物だ。滝川は川村をレストランの入り口付近に置き、店の中へと入る。
店内は高級フランス料理店のような佇まいだった。
広く、壁も天井も床も白で統一されており、店の清潔感が一目でわかる。
席に着こうと空席を探し見渡していると、不意にウェイターに声をかけられた。

「あの、お客様」
「どうかしたのかな。もしかして満席で座れないとか」
「当店では重傷者を入店させることはできません」
「何を言っているのかな。ボクは至って元気だよ」
「ですが顔は真っ青で、お腹から大量の血が流れておりますが」

滝川は表面こそ平静を装っているものの、実際の負傷度は予想以上だった。
その証拠に彼女の腹から流れた血が彼の通った場所に赤い跡を付けていた。
ゼリマンとの闘いの後、彼女は腹に刺さった槍を引き抜き、胴体に大穴が開いた状態で川村を背負って街まで来ていたのだ。
普通の人間ならばとっくに死んでいるのだが、彼女はそれでも生きていた。

「魔法つかいを呼びましょう。店内が血糊で汚れても困りますからね」
「ボクなら問題ないよ。傷はいいから食事がしたいんだ」
「まずは傷の治癒が先です。ここで死なれては困りますので」
「それもそうだね」

レストランに呼ばれた魔法つかいの老婆は滝川に治癒魔法をかけて去っていく。
治療代には二〇〇〇スターかかったが、背に腹は代えられない。
「スター」はこの世界の通貨で、星があしらわれた紙幣のことだ。
価値は日本円にして一枚一〇〇〇円程度。つまり二〇〇〇円かかった計算になる。
因みに金は寝ている川村から借りた財布で払っている。
滝川は寝言に乗じて確認をとり、彼から財布を借りたのだ。

「傷も塞がったし、思う存分食事をしようかな」
「お客様、もう少し安静になされた方がよろしいのでは?」
「お心遣いありがとう。でもボクはもう大丈夫だよ。
早速ここのフルコースを注文したいんだけど、いいかな」
「……かしこまりました」

ウェイターは冷や汗をかきながら注文を厨房へと届けた。

「川村君も起きてくればいいのに。でも眠りたいのだから起こしちゃ悪いよね」

滝川は心を躍らせながら料理が来るのを今か今かと待ちわびる。
それから一時間が経過した。
彼女がオークの丸焼きに舌鼓を打っているころ、ようやく川村は目を覚ました。
大きく伸びをして辺りを見渡す。どうやら目的地に着いたらしい。
けれど肝心の滝川が見当たらない。

「滝川殿、どこへ行ったのでござるかー?」

名前を大声で呼んでみるも返事はない。

「おかしいでござる。どこへ行ったのでござろうか」

そこで川村は目を光らせ普段の数倍の視力を発揮する。
猫目を使えば彼女がどこにいるのかわかると思ったのだ。
ふと、その視界が目前のレストランを捉える。
まさかここの中にいるはずはない。
彼女は金を持っていないのだから料理が食べられるはずがない。
しかし万が一の可能性もあるため、店の外から眺めていると、店の奥——窓側の席に美味しそうなケーキを食べている滝川の姿を発見する。

「なぜでござる!? どうして滝川殿が?」

疑問が頭を掠めたと同時に彼は自分の身体が軽いことに気が付いた。
袴のポケットに手をやると、あるべきはずの財布がない。
盗られたのだ。だが一体誰に?
思案した彼はケーキを頬張る滝川を見て最悪の出来事を考えた。
まさか、滝川殿は拙者の金を使って料理を食べているのでは。
そうでなければあれほど贅沢な食事にありつけるはずがない。
仮にも主と認めた男の孫だったとしても、この振る舞いは断じて許せぬ。
川村は怒りで全身を震わせ、店の扉を勢いよく開ける。
そして滝川のいる席に超高速で接近すると、目をギラギラと光らせた殺意全開の表情で拳の骨をポキポキと鳴らす。

「か、川村君! どうしたのかな、そんなに怒って」
「とぼけても無駄でござるよ」

川村の一言に滝川は全身冷や汗ダラダラ。顔の笑みもひきつっている。

「お主、拙者が寝ている間にこのような贅沢な食事をして、しかも拙者の懐から盗った財布で会計を済ませようとしていたでござるな!?」
「か、借りただけだよ。君の財布をボクが盗むわけはないだろう」

滝川が出した財布を強引に奪い取り、袴にしまう。
そして自らの拳にフゥゥと息を吐きかけ、滝川を見据える。

「まさか……」

嫌な予感が全身を駆け巡り、滝川の背筋に冷たいものを流した。

「成敗でござる!」

振り下ろされた拳骨は凄まじい威力で滝川の頭頂部に炸裂し、彼女は巨大なたんこぶを作って失神KO。
そのまま川村は滝川の服の後ろ襟を掴んでずるずると引きずり歩き、会計を済ませて店を出た。

Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.16 )
日時: 2017/07/23 15:55
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

魔王の城に帰還した紅騎士サラマンデスは落胆していた。
ロディの始末には成功したが川村の妨害があったために、標的である滝川を逃がしてしまったのだ。
無論、煙玉の煙が晴れた後に彼は捜索に乗り出したものの、既に時遅く、辺りに彼らの姿は見つからなかった。
それはこれまで一度として対象者を逃したことのない彼にとっては屈辱だった。
今回の成果を魔王に報告すれば失態を犯したとして無事では済まないだろう。
だが彼は自らの成果に嘘を吐くような真似はしたくなかった。
奴らに逃げられたのは全て自分の実力が不足していたからだ。
もう一度闘えるチャンスがあれば不覚を取られるような真似はしない。
もっともそのチャンスが与えられたならの話だが。
彼は魔王の城の泉の淵に腰を下ろしてため息を吐く。
すると近くの方からカチャカチャという金属音が聞こえてきた。
これは鎧を着こんでいる音だ。まさか敵が城内に侵入したのでは?
警戒の色を強め、剣の柄を握る彼の前に現れたのは、青い鎧を着た少女だった。

「ため息を吐くなんてあなたらしくないですね。私でよろしければ相談に乗りますよ?」
「ジークか」

氷騎士・ジーク=フリーザード。魔王が抱える直属の部下、四銃士の紅一点。
男性風の名前ではあるが性別は女性。
蒼い龍を模した鎧を着て、絹のように柔らかく滑らかな鮮やかな青色のロングヘアと紫色の瞳が特徴の美少女である。しかしその実態は触れただけで相手を瞬く間に凍らせることのできる強大な力を持ち、可憐な外見に似合わず、これまでに千人もの異世界転生者を倒してきた。
彼女はサラマンデスの傍に腰を下ろして口を開く。

「もしかして、異世界転生者に逃げられてしまったのですか」
「そうだ」
「百戦錬磨のあなたが逃げられるとは、相手は余程の手練れのようですね」
「我が未熟だったのだ」

サラマンデスは淡々とした語りで事の顛末を話す。
砂漠方面に偵察に行ったら滝川麗という少女が異世界から飛ばされてきたこと。
すぐには行動を起こさずオークをけしかけ実力を探ろうとしたら、伝説の英雄の一人、ロディが彼女を護衛しておりオークは全滅。
その後ロディは殺害したものの大きく体力を削がれた上に、川村猫衛門という侍が割って入り、滝川を逃がしてしまったこと。
全てを話し終わると、彼は泉の淵に手を突いて立ち上がる。

「今のお話を魔王様にご報告なさるおつもりなのですか」
「結果がどうであれ報告しなければならない。それが掟だ。
たとえそれで命を失うことになろうとも、我が未熟だったから起きた結果だ」

魔王は強大な軍隊を所有している訳ではなく、武力は僅か四人しかいなかった。
それは魔王が自ら人選したメンバーで固められており、莫大な報酬と名誉を得る代わりに強大な責任感が付きまとう。
彼らの敗北=魔王の敗北と同意義であり、一度でも敗北したメンバーは即自害という掟になっていた。
これまでに魔王の期待に応えられず散って逝った者は数知れない。
自害を恐れ、魔王の右腕と称される四銃士の司令塔の拷問を受け死んだ者、異世界転生者に敗れ、死んでいった者——その度にメンバー交代が行われてきた。
唯一交代がないのは司令塔の人物だけである。
サラマンデスとて四銃士の厳格な掟は熟知していた。
けれどもそれを承知で狭き門を潜り抜け入隊したのには、彼の家族が異世界転生者の手によって「自分の力を見せつけたい」という動機で皆殺しにされたからだ。彼はまだ小さく洞窟の奥で怯えていた為助かったのだ。

「それから二十数年。愚劣な異世界転生者共への復讐だけを糧に生きてきたが、命運は尽きたらしい」

ひとり呟き振り返る彼の顔には自嘲的な笑みが浮かんでいた。
そして彼は前を向いて再び歩き出す。

「お待ちください!」

凛とした声で彼を呼び止めたのはジークだった。
彼女が声と共に発した冷気で泉の水、地面、花々は瞬時に凍り付き、更にはサラマンデスの足元も凍り付いてしまい、彼は動きを封じられる。

「なぜ我を止める?」
「お友達が命を失う様を黙って見ている訳にはいきませんもの」
「我と共に魔王様のおられる王の間に行くと言うのか」
「はい。私わたくしもあなたにお供して、魔王様を説得してみます」
「お前の気持ちは嬉しいがそれは無理と言うもの。お前が説得したところで掟は変わらぬ」

すると彼女は首を横に振り、澄んだ紫の瞳で紅騎士を見据えると、彼の大きな手を小さな両手で包み込み、妖精の如き可憐な微笑みを見せる。

「だいじょうぶです。私に任せてください」


サラマンデスとジークは共に魔王の王の間へと向かう。
王の間は広く、その奥には宝石で飾られた玉座が置かれている。
けれど玉座には魔王の姿はなく、代わりに一台の音響機材が設置されていた。
魔王は人付き合いを好む性格ではなく、人前にも滅多に姿を現さない。
それ故に命令や部下との会話も音響機材を通じて行われるのだ。
滝川の祖父によって近代化したこの世界にとって音響機材は当たり前に存在するが、それが魔王が使うというのは現・魔王が即位するまで一度もなかった。
紅騎士と氷騎士は拳を床に突けて跪いて魔王への忠誠を表す。

『親愛なる四銃士のサラマンデス君とジークちゃん、おはよう!
朝早くから魔王の間に来るなんて珍しいねぇ! 会えて嬉しいよ!』

音響機材の中から高く明るい声が飛び出してきた。
それが全世界を手中に収める魔王の声なのだ。
彼の声を聞いた誰もが魔王という称号とその声の明るさにギャップを禁じ得ない。魔王の声を幾度か聞いている二人にとっても、その違和感は拭えずにいた。

『それで、どうしてここに来たのかな』

魔王の問いにサラマンデスは生唾をごくりと飲み込み、顔を上げる。
報告を済ませば自分の命はないだろうが、仕えた主に嘘を吐くことだけはしてはならない。彼は覚悟を決め、自らの失態を報告した。

「申し訳ございませぬ。先頃、異世界転生者の討伐に失敗致しました」

彼の発した一言に魔王は何も答えない。
約一分間、時間が停止したかのような静寂が起きた後、魔王の声が告げた。

『自害しなさい』

先ほどの陽気な言動から一変し、魔王の称号に相応しく威厳のある声が辺りに響く。
サラマンデスは言われるがままに自らの剣の柄に手を添えるが、それを制止したのはジークだった。
彼女は紅騎士を見つめて頷くと、毅然とした物腰で声を上げる。

「お待ちください魔王様! 紅騎士はこれまでに千人もの異世界転生者を殺害した業績がございます。
その上、今回の任務失敗はロディと川村猫衛門という伝説の英雄の妨害があったと聞いております」
『それは本当かね』
「左様でございます。二人もの妨害に遭った上に相手は伝説の英雄です。彼らを相手に互角以上に闘い、そのうちロディを始末するという大殊勲を挙げております。彼のような逸材をみすみす自害させるのは、あまりに惜しいのではないでしょうか」
『では私にどうしろと』
「今一度チャンスをお与えください。次は私も彼と組んで出撃致します。
一人が駄目ならば二人で闘えば確実に敵を倒せます!」
『……』
「万が一、任務に失敗した場合は私の首を差し上げます」
『わかった。そこまで言うのなら自害は取り下げてあげるよ。
ただし、次も失敗したら君達の魔力は剥奪ね。
正直言って部下に自害をさせるのは私の本意ではないけれど、君達の上司が煩くてね……だから、今回の件は保留しておくよ』
「寛大な処遇、感謝いたします!」
『期待しているよ』

それだけ言って声はプツリと切れた。
ジークとサラマンデスは立ち上がり、颯爽と魔王の間を去る。
目的は滝川の命を奪う為だ。
けれどその前にすべきことがある。
美しき氷騎士の少女は顔に冷笑を浮かべた。

「滝川麗さん、まずはあなたの実力、試させていただきます」


Re: ナルシスト美少女の冒険記 ( No.17 )
日時: 2017/07/23 15:57
名前: モンブラン博士 (ID: mOILM.Mp)

「滝川殿、誤解してすまなかったでござる」
「謝らなくてもいいよ。誤解は誰にでもあるからね」

夜中の宿。川村は昼間の件を滝川に謝罪していた。
当初は滝川が自分の財布を勝手に使い込んだと思い彼女の話を聞く気にもなれなかった川村であったが、滝川の根気強い説明により誤解は解けた。
言われてみれば彼女が確認をとったような記憶もあるが寝ぼけていたので記憶が曖昧だ。けれど滝川は嘘を吐くような性格ではない為、この話は事実なのだろう。彼はこのように考え直し、先ほどの非礼を詫びたのだ。

「お主、頭は痛くないでござるか」
「フッ……たんこぶの痛みはとっくの昔に消えてしまったよ」
「改めてすまなかったでござる」
「いいんだよ。もう気にしないでも」

土下座までして謝る彼に滝川は優しく微笑み、言葉を付け足す。

「でも君がちゃんと起きているか確認しなかったボクも悪いね。これからは気を付けるよ」
「お主は何も悪くないでござる。この件は拙者に責任が——」
「ところでベッドの寝心地はどうかな」

あまりに謝られてもいたたまれない気持ちになるので、滝川は話題を変えた。
彼女らが宿泊している宿は全部で二部屋しかない小さな宿だ。
値段も決して高いと言う訳ではないが、トイレとお風呂、ベッドは付いている。
食事も食べ終わり風呂も入って二人は一つしかないベッドに横になったものの、時間が早いこともあってか眠る気にはなれない。そこで眠くなるまでお互いのことを話して相手をもっとよく知ることにした。

「川村君は好きな人とかいるの?」
「い、いきなりどうしてそんなことを聞くでござるかっ!?」
「声が裏返っているね、動揺している証拠だ」
「べ、別に拙者は動じてなどいないでござるっ!」

口ではそう言っているものの彼は耳の先まで真っ赤になっていた。
滝川は穏やかに笑うと、

「言いたくなければ言わなくてもいいよ」
「むぅ……誰にも言わないと言うのなら話すでござる」
「ボクは他人の秘密を簡単に話すようなバカじゃない。
これでも約束は必ず守るよ。それにこの世界でボクが親しいのは君だけだから、そもそも話ができるほど親しい人が君以外にいないんだけどね」

その言葉に安心したのか、川村は首に下げているロケットを外し、滝川に手渡す。承諾を得て中を開けてみると、中に入っていた人物を見て、滝川は目を丸くした。
緩くウェーブのかかった茶色のロングヘアに光沢のある桃色の瞳に尖ったエルフのような耳が特徴の美少女で、探偵が着るインバネスコートを着用している。

「悔しいけど、凄い美人じゃないか!」

滝川は容姿に関して他人を褒めることは滅多にない。それは自分が常に一番という過剰な自信からきているのであるが、その滝川が認めざるを得ないほど、ロケットの写真に写る少女は美しかった。

「この子が君の好きな人?」

川村はこくりと頷く。

「告白はした?」
「まだでござる」
「じゃあ想いを伝えないと! ボクも応援してあげるから、彼女に想いを伝えてみようよ!」
「それは永遠に叶わぬ夢でござるよ」
「……どういうこと?」
「彼女はもうこの世にいないのでござる」

彼の一言に滝川は口を抑え。

「ごめん。悪いこと聞いちゃったね」
「もう昔の話でござるから気にしていないでござるよ」
「嘘。気にしていないなら、その目の下の雫は何かな」
「え?」

滝川に言われて目の下に触れると、指先には透明な雫が付いている。
川村は信じられなかった。自分が泣いているという事実に。

「自分でも知らないうちに涙を流すとは、拙者もまだまだ女々しいでござるな」
「そんなことない。大好きな人を失った悲しみはそう簡単に消えるものじゃない。涙を流すのは当たり前だよ」
「……そうでござるな」
「もし君さえよければ、話してくれるかな。彼女のこと。悲しい過去も二人で共有し合ったら、少しは楽になれるかもしれないよ」
「……滝川殿の言う通りかもしれぬでござるな」

川村は涙を拭き一呼吸置いてから、彼女のことを話し始めた。



ソフィアは川村と同じく、滝川の祖父カイザーに仕えた少女である。
一三歳ながらその頭脳は『時代の三百年先を見通す』と言われるほど優れ、彼女の才を欲した当時の魔王が自らの部下にならないかと勧誘をするほどだった。
だが彼女にはたった一つだけ欠点があった。
一日の食費が五万スター、男性一〇人分もの食料を朝食に食べてしまうほどのとてつもない大食いだったのである。
魔王の城に招待された際に城の食べ物を残らず食い尽くしてしまい、魔王の怒りを買ってしまう。
彼女の危機を救ったのがカイザーであり、それからと言うもの、彼女はカイザーに絶対の忠誠と深い愛を誓うようになった。
頭脳を生かしてカイザー軍の参謀として活躍。
魔王の侵攻を悉く潰し、魔王軍攻略に大きく貢献した。
ソフィアの想い人は永遠にカイザーであり自分ではない。永久に自分ではカイザーの代わりは努められない。川村はそれを理解してはいたが、それでも彼女への恋心を消すことは出来なかった。
恋が叶わないのならせめて、彼女を危険から守り抜こう。
そんな川村の気持ちを知ってか知らずか、ソフィアは彼を買い物に誘ったり、お礼として頬にキスをしたりと思わせぶりな行動をとったこともあった。
川村にはそれは彼女なりの感謝の表れで恋愛感情など皆無であることはわかっていた。わかってはいたのだが、胸の高鳴りや天にも昇る嬉しさを抑えることは出来なかった。
しかしカイザーがこの世界の王として君臨した五年後に悲劇が起きる。
突如としてカイザーの右腕とまで信頼していた男が反乱を起こし、それに巻き込まれて仲間共々殺されてしまったのだ。
異変に気づいて川村が駆けつけたが、既に遅く裏切り者の手により切り付けられ、ソフィアは重傷を負った状態であった。彼女の元へ走りより、傷口を抑えながら彼は強く言う。

「しっかりするでござる!」
「ごめん、川村君。私、もうダメみたい……彼を許してあげて……」

その言葉を最後にソフィアは息絶えた。
ソフィアの亡骸を優しく床に寝かせ、キッと彼女の敵を見据える。

「お主だけは生かしておけぬ!」

己の全ての力を出して裏切り者に向かって行ったが実力差は如何ともし難く、彼は敗北。
結局のところ川村は最愛の人を自らの刀で守ることが出来なかった。
裏切り者との実力差が地上と太陽ほどあったせいなのか、それとも怒りと悲しみで冷静さを欠いたことが敗北へと繋がったのか、それはわからない。
ただひとつ確かなのは、自分が最愛の人と仲間を一度に失ったということだけだ。

「生き残った者は拙者、ロディ殿、カイザー殿だけでござった。
ただ一人、遠い昔に封印された男を除いては。
あの日だけで無敵を誇ったカイザー軍の主力が八名も削がれ、カイザー殿も拙者らを反乱軍に人質にとられ異世界追放の身になったのでござる」
「……」
「拙者は三百年先を見通せるほどの頭脳があるソフィア殿が、あの反乱を見通せぬはずはないと考えているのでござる。彼女は何か考えがあって敢えて敵の手にかかった——そうでなければソフィア殿が討たれるなど、どう考えてもあり得ぬのでござる」
「それじゃあ川村君はその人に復讐する為に生きているの?」
「当然でござる。奴がなぜ裏切ったのかはわからぬでござるが、仲間とソフィア殿の無念を晴らさぬ限りは拙者は死んでも死にきれないのでござる!」

布団の上に立ち、拳を堅く握りしめる川村。
ふと目線を下におろすと、滝川は既に毛布を被って深い眠りについていた。

「全くお主は」

肩をすくめて自らも就寝しようとした時、彼の猫耳が遠くで草叢くさむらをかき分ける音に反応した。殺気と悪寒で、自らと滝川に重大な危機が迫っていることを察する。

「先手必勝でござる!」

空いている窓から勢いをつけて軽々と飛び降り、着地。
川村達が借りた部屋は二階ではあるが猫の如き俊敏性と柔軟さを持つ彼にとっては訳の無いことである。
そのまま彼は音がした方向に忍び足で接近していき、刀を引き抜くと敵がいると思しき場所へ一閃を浴びせた。背を斜め袈裟斬りにされた相手は一体の幽霊騎士。
幽霊騎士は消滅したが、川村は周囲を取り囲むようにして三〇人は下らないという幽霊騎士軍団に囲まれてしまう。
彼らは剣を持ち、怨嗟の咆哮を上げている。

「お主ら、拙者と一戦交えるつもりでござるか!?」
「カワムラ……コロス!!」
「カワヲハギトリ、ニクヲクラウ!」


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