複雑・ファジー小説

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Seventh Knight —セブンスナイト—
日時: 2018/11/29 01:02
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 始めまして、閲覧ありがとうございます。清弥と申します。

 感想や意見を求めて三千里。「なろう」でも別名「セブンスナイト —少年は最強の騎士へと成り上がる—」として上げておりますが、何分あちらのサイトではあまり受けない内容でしたのでこちらにも掲載させて頂きます。
 内容はご当地主人公の異世界ファンタジー。拙い部分も多々ありますが、お付き合い頂ければ幸いです。

(以降、あらすじ)
 人間と魔族と禍族《マガゾク》が蔓延る世界。そんな中で、禍族に住んでいた町が襲われたことをきっかけに緑の少年……ウィリアムは大いなる力を手に入れる。
 これは、『緑の騎士』と成った少年が七色の騎士たちと織り成す『七色の騎士《セブンスナイト》』の物語だ。



序章 —セブンスナイツ—
 >>1>>4
1章 —力求める破壊の赤—
 >>5>>20
2章 —救済探す治癒の藍—
 第1話「悪夢」 >>21
 第2話「その後とこれから」 >>22
 第3話「『藍の騎士』との出会い」 >>23
 第4話「再会のための別れ」 >>24
 第5話「服を脱げ」 >>25
 第6話「本当の全力」 >>26
 第7話「"余物"と呼ばれた物たち」 >>27
 第8話「生物を殺すということ」 >>28
 第9話「矛盾した能力」 >>29

1章_力求める破壊の赤 —真章_力求める破壊の赤— ( No.20 )
日時: 2018/09/16 17:47
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 ウィリアムが敗北濃厚の戦いに挑む中、エンテは気絶するブランドンに駆け寄っていた。
 彼の妻に頼まれた、ただ一つの願いを叶える為に。

「おい、おっさんっ!」

 見たところ大した重症は負っていないようだとエンテは安堵する。
 体を触って確認したところ、どうやら腹部の内臓が傷を負って内出血しているらしい。

(だけどこんなんじゃもう戦えないな)

 幾ら『騎士』と言えど傷を負えば痛いし、内臓が傷を負えば立ち上がることすら困難になる。
 結局は身体能力やらが常人離れしただけの人間なのだから、当然と言ったら当然だが。
 だが本来は絶対安静レベルなのだが、エンテはどうしてもブランドンに目覚めてほしかったのだ。

「おい、おいッ!」
「ぐ……ここ、は……?」
「おっさん、目覚めたか!」

 軽く呼びかけただけで目覚めたブランドン。
 すでに目覚めかけていたらしく、周りを確認してすぐに今の状況を確認する。

「すまん、ウィリアムを助けに——」
「ブランドンのおっさん、時間無いから率直に言うぞ」

 すぐさま立ち上がりウィリアムの助力に向かおうとしたブランドンに、エンテは制止をかけ真面目な瞳で言葉を発した。
 今から何を言うのか、その一直線な眼差しに本気と捉えたブランドンは起き上がろうとしたままエンテの瞳を見返す。

「——アンタは、『騎士』になるべきじゃなかった」
「……あ?」

 一体何を言うのかと、一瞬ブランドンはエンテを疑う。
 けれどその瞳に嘘はないのだと気付かされ、改めてエンテを睨み付けた。
 当然だ、彼からすれば“大切な人を守る術”を否定されてるに等しいのだから。

「お前、本気で言ってるのか?」
「あぁ。何度でもいう、アンタに『騎士』は似合わない」

 気付けばエンテは地面に叩きつけられていた。
 怒りで顔を赤く染めたブランドンが、エンテの首を掴み倒したのである。

 凄まじい握力と腕力にエンテは呼吸が出来なくなるのを感じながら、それでも真っ直ぐブランドンを見つめた。

「アンタは、『騎士』に成るべきじゃなかったし……! 『騎士』が似合う人でもなかったッ……!」
「てめぇッ!」

 自身の今までが否定されたように思えたのだろう。
 自身の今までが無かったことにされたように思えたのだろう。

 だが違う。
 ブランドンの今までの行いは決して間違っていなかったし、決して否定するべきものではない。
 それでも、それでもエンテはネリアから過去を聞かされ思ったのである。

「苦しいなら、やめて良いんだぜ……おっさん」
「————」

 禍族と戦うブランドンは、常に“恐怖の狂い”に呑まれていた。
 負けたらどうなるのか……きっとそればっかり頭によぎっていたからだろう。
 だから『騎士』に成るべきではなかったし、『騎士』が似合うはずもない。

 ——恐怖と戦う戦士を、人は皆“ただの人”と呼ぶのだ。

 ウィリアムはそうじゃない。
 彼は常に“自身が負ける事は考えても居ない”のだ。
 ただ護れる人が……助けられる人がいるから戦う。

 戦うウィリアムの中に一片たりとも恐怖は無く、一片たりとも狂いは無い。
 故に彼は『騎士』と成るべき人材だった。

「俺が、アンタの想いを背負ってやる」
「は……?」

 エンテにとって禍族とは人類の悪。
 倒すべき敵であり、絶滅すべき敵なのである。
 その中に恐怖も無いし、狂いも無い。

 ウィリアムが人々を護る為に盾を持つというのなら、エンテは人々を護る為に矛を持つ。
 自身が負けたらなんて、そんなことを考える暇なんてどこにもないのだから。

 首を絞める力が緩んだことにエンテは内心安堵しながら、呆けた顔で自身を見るブランドンに向けて口を開く。

「『騎士』を送るのは今だ、おっさん」

 やり直す、やり直さないの話じゃなかった。
 ただ、ブランドンにとって『騎士』という存在はあまりに合わなかった……それだけの話である。
 逆に良くここまで『騎士』として在り続けれたな、と感心してしまう。

「俺は最強になる。だから強くて憧れの『騎士』になるんだ。じゃあアンタの望みは何だ?」
「……お、れは、ただ大切な人を守りたい。それだけだ」

 震える唇でブランドンは自らの望みを口にする。
 その瞳は恐怖に塗りつぶされているのを、エンテは確認してため息をつく。

「違う、それはアンタの“表面の”望みだ」
「————」

 確かにその望みはブランドンの中で生きているはずだ。
 けれど、それは“本当の望み”ではない。
 大切な人を守る、なんていう望みは“大切な人がいる”という前提で生まれる望みなのだから。

「アンタの本当の望み、言ってみなよ」
「お、俺は——」

 幼い頃に両親を失って、若い頃に恋人を失った。
 失ってばかりの彼が望むものは、たった一つに決まっている。

「——ただ、ネリアとラネと共に……一緒に生きたい」
「言えたじゃないっすか、ブランドンさん」

 完全に力を失った首に置かれた手をほどき、エンテは立ち上がると今もなお床に座り込むブランドンに右拳を伸ばす。
 その時、初めてエンテは心からブランドンに尊敬の念を持って敬語を使う。
 家族として最も正しい在り方に、本当に心の底から尊敬したのだ。

「皆を守る役目、俺に任せてくださいっす。ブランドンさんはただ、今まで感じることのなかった幸せを噛みしめて……生きてください」
「……良いのか、お前はそれで?」

 『騎士』になるということは、それはつまり一生戦い続けるということ。
 人生の幸せを感じる暇も無く……ただ死に絶えるだけの人生をこんな少年に合わせて良いのかとブランドンは悩む。

「良いんすよ、それで」
「何故……? お前はまだ——」
「——俺が、俺“たち”が終わらせますから」

 宣言した。
 この数百、数千年にも及ぶ戦いに終止符を打つと。
 禍族と魔族……その戦いを終わらせるのだと。

(負けたな、こりゃ)

 本来なら笑われて当然の宣言。
 けれど青臭いそんな言葉でさえ、ブランドンは信じたくなった。
 きっと出来てしまうのではないか……そんな気分になったのである。

「あぁ、なら託そう。俺の想い、俺の願い、俺の望み……全て受け取ってくれ」
「任せといてください」

 伸ばされたエンテの右拳に、ブランドンは思いっきり右拳をぶつける。
 骨同士がぶつかり合う、軽く小さな音が鳴り響き——

「ブランドンさんの想い、願い、望み、全てを叶えて余りある結果を叩きだしてやりますから!」

 ——“火炎”がエンテの周りから噴き出した。




「ぐッ……!」
「Ga————ッ!」

 獣型の禍族から振るわれた爪を何とか避けるウィリアム。
 だがそれに安堵する時間すらなく、慌てて後ろ側から圧力を感じ咄嗟に盾を構える。

「Ah————ッ!」

 人型の禍族から振るわれた腕を体制が整っていない状態で受けたウィリアムは、そのまま堪えきれず吹き飛ばされた。

(まずいッ!)

 このまま地面に直撃して地面に伏せてしまえば、きっと立てなくなる……そんな予感がウィリアムに走る。
 立てなくなり、結果死んでしまうのは良い。

(けど、それでこの街の人々が死んでしまったらッ!)

 何とか受け身を取ろうと、痛む体を無理矢理動かそうとするウィリアムを誰かが支えた。

「ぇ……?」
「よう、待たせた。相棒」

 一体誰が。
 そんなの考えるまでも無かった。

「エンテッ!」
「おう、悪かったな遅くなって」

 右手に“印”を宿したエンテ……『赤の騎士』は笑ってウィリアムを降ろす。

「始めようぜ、相棒。俺たち二人の、初のコンビマッチを!」
「……あぁ、任せとけっ!」

 エンテは右手を高々と上げると、天高く届くほどの声量で叫んだ。

「薙げ、“|火炎之破壊《ファマト》”ッ!」

 周囲に火炎が出現し、エンテの右手に集っていく。
 火よりも遥かに純度が高く、驚くほどに巨大な火炎は一つの形を成す。

 それは、直刀だった。
 まっすぐに伸びる刀身を火炎が纏うその直刀を、エンテは何度か素振りすることで具合を確かめる。

「準備はいいぜ相棒」
「おう、俺が作戦は分かるよな?」

 ニヤリと笑うウィリアムを見て、一瞬呆けた表情を浮かべたエンテはすぐにニヤリと笑った。

「俺が護って——」
「——俺が壊すッ!」




 その数分後、それから傷一つ負うことなくウィリアムとエンテは禍族二体に勝利して見せたのだった。
 だが——

「ぐふッ……!」
「ウィリアムッ!?」

 ——禍族を二体同時に相手にし続けた代償として、ウィリアムは凄まじい痛みに襲われ倒れ込んでしまう。
 エンテが自身を必死に呼ぶ声を聞きながら、ウィリアムは意識を闇に落とした。

(またこのパターン……か)

2章_救済探す治癒の藍 —悪夢— ( No.21 )
日時: 2018/09/18 22:59
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 草木が生い茂る、町の外れにある小さな森の中に二人の人影があった。

「ぐっ……ぅう……」
「…………っ」

 腹部に巨大な穴を開けて大量の血を流し続ける男性に、黄金に輝く髪を汗で湿らせながら女性……いや十代後半ほどの少女が必死に治療している。

「これで、大量出血は抑えられた……はず」

 幼い頃から医療技術を学んでいた彼女にとって、彼の延命治療は簡単とは言えなくても無理な作業ではなかった。
 多量に出血している腹部の傷を簡易消毒し布で強く縛り付けたことで傷口を圧迫した彼女は、これで一先ずは安心だと息を吐く。

「後は父のところに……」

 安心させるように穏やかな笑みを浮かべようとした少女だったが、自分で言いかけた言葉を止めてしまう。

「…………」
「どうし、たんだ? 嬢ちゃん」

 止血したことで意識をかろうじて取り戻したのか、脂汗を全身にかいている男性はうつろな目で悩む少女へと声をかけた。

「……いえ、なんでもありません」

 数瞬の間、悩んでいた少女はあることを決意する。
 ようやく止血を終えたはずの布を取り去り、彼女は自前のメスを持ち運んでいる簡易手術セットから取り出した。

「お嬢ちゃん、な、にを……」
「もし”アレ”らの力が身体に侵食していたら大変です。それだけでも取り出さないと……!」

 彼女自身にもそれがただの戯言なのだと理解できないほど馬鹿ではない。
 ならば、何故こんな危険なことをしてしまったのか。

(父なんかに、頼るもんか)

 不甲斐なくミスをしてしまい患者を殺してしまうような父に、手術を任せる訳にはいかないのだ。
 だから自分が、あの人の失敗を目前で目にしている自分自身が患者の命を救う。

 それだけではない。

(成功したらきっと、私も治療の席に立たせてくれるはず……!)

 きっと自分が悪かったと言って、自らの力不足を痛感して、自身に全て任せくてるはずだ。
 ——認めてくれるはずだ。

「ぐぅっ……!」

 故に彼女は気づかない。
 意識を取り戻していたはずの患者が意識を失っていることに。
 気分の高揚から繊細なコントロールが必要な手術が、少しだけだとしても大雑把になっていることに。

 患者が死へと更に近づいたことに、気づかない。

「————」
「……ぁ」

 結果として、彼女がソレに気づいたのは全てが終わったあとだった。
 私利私欲の結果がコレだ、酷いモノである。

 ならばこそ——

「——つぐ、な……え」
「ぁあ……!」

 先程まで死に絶え、生暖かさが残っていたはずの彼の死体が急激に冷たくなり白骨化する。
 ガタガタと寒さからか震える骨の手が、幼い少女の頬を伝った。

「償え」
「ひっ!」

 どす黒い負の感情を撒き散らしながら彼は生の暖かさを求めるように両手を伸ばし、真っ白な歯を大きく開けて……

「死んで償え」




「いやぁあッ!」

 そして彼女は目が覚める。
 周りを慌てて見渡せばそこには見慣れた私室が視界に入ってきた。
 汗でびっしょりのシーツの上であることを気にせず、彼女は震える身体を暖めるように身体を掻き抱く。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 呆然とうわ言をつぶやき続ける彼女。
 吐く言葉の意味は、恐怖か、罪悪感か、それとも——

 ——己への恨みか。

2章_救済探す治癒の藍 —その後とこれから— ( No.22 )
日時: 2018/09/20 20:25
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 優しい手が伸びる。

「…………て」

 一声聞けば、安心できるような。
 その腕で抱かれれば、穏やかな眠りにつけそうな。
 思わず声をあげようとするけれど、何故か喉は焼け付いたように動かない。

「……きて」

 手が、離れていってしまう。
 嫌だよ、やめてくれ……そう願って両手を伸ばしたはずなのに、視界には何もない。

 自身という身体の全てが、存在していなかった。

「生きて、私の分まで」

 誰よりも求めたはずの腕が闇に飲まれ、視界が光で包まれていく——




 ——また、“あの日”の夢を見ていたようだ。

「ん……ここ、は?」
「お、目覚めたかウィリアム」

 暗く淀んだ夢を見ていたウィリアムは、自分に照る光で目を覚ます。
 二度と忘れることは無い過去の泥。
 けれど、今ウィリアムにとってその“夢”はどうでも良く思えて先程まで夢見ていた内容をいとも容易く忘れてしまう。

「おはよう、エンテ。ここは……」

 重たい体を何とか持ち上げ、ウィリアムは周りを見渡す。
 どうやら馬車の中らしく、ようやく今になってガタガタとこの中が揺れていることに気が付いたウィリアム。

(あぁ、確か俺とエンテが禍族二体を倒した後、気絶したんだっけ)

 周りの状況を上辺ながらも把握したことで、ウィリアムの脳が時間をかけて起動したのか今までの経緯も思い出した。
 エンテが『赤の騎士』となり、火炎を纏ってウィリアムと共に戦ったのである。

「そ、お察しの通り馬車の中だ」
「どこに行くんだ? と言うより、俺が気絶してから何があったんだ?」

 異様なほど重たい体に眉を潜め、壁に背中を預けながらウィリアムはエンテに問う。
 あの後どうなったのか、どうして馬車の中に居るのか、どこに向かっているのか。
 気絶して以降の記憶が全くウィリアムには無かった。

「今は『藍の騎士』が住まう街、確か……クェンテだったはずだ、に向かってる途中。そこに行く原因は、お前だ」
「俺?」

 唐突に指を刺されウィリアムは首を傾げる。
 特にこれと言ってやらかした記憶もウィリアムの中には無いし、それを言うのならブランドンから『赤の騎士』を継承したエンテの方がやらかしているだろう。
 なら何故、わざわざ『藍の騎士』の元にやらかした記憶のない自身が原因で行くのだろうか。

 全く気付いた様子のないウィリアムに、エンテは大きくため息をつく。

「お前、体が重く感じないか?」
「ん……? あぁ、確かに体全体が重たい気はしてるけど」

 一体それがどうしたのかと言おうとしたウィリアムは、あることを思い出した。
 同時に、何故自身が理由で『藍の騎士』の元へ向かうことも理解する。

「“|呪病《ジュビョウ》”……か」
「正解」

 “呪病”。
 それは長年戦ってきた『騎士』が良く起こす病気の名だ。
 この病にかかれば、『騎士』と成った者は『騎士の力』を扱えなくなり非常に体が重たく感じるのである。

 ほぼ唯一、禍族に対抗できるはずの『騎士の力』が扱えなくなる最悪に等しい病だが、原因はとっくの昔に判明されていた。

「二体の禍族を相手取るのに結構攻撃食らったんだろ? 十中八九そのせいだろうな」
「だよなぁ……」

 禍族と戦う『騎士』は当然、禍族の攻撃を食らうことも多々ある。
 その際に、禍族が持つ“力”が攻撃を食らった『騎士』に流れ込むことで、“呪病”となってしまう。
 つまりはこの病は、禍族の攻撃を食らいすぎた為に起きたものなのだ。

 納得し重たい体の具合を確かめようと肩を回すウィリアムに、エンテは苦笑しながら見守る。

「良かったな、現『藍の騎士』の人が“治癒系”の能力を持ってて」
「…………」

 エンテの言葉にウィリアムはぐうの音も出ない。
 本来、“呪病”とは禍族の力が抜けきるのを待つしか対策がないのだが、現『藍の騎士』は珍しい治癒の能力の使い手なのだ。
 その効果はどんな薬でも対抗できない禍族の力をも取り除く。

 だからこそ、今ウィリアムは『藍の騎士』が住まう街へ連れられていたのだ。

「それじゃあお前は俺の護衛ってことか?」
「おうよ。精々くつろいでろ」

 再度言うが現在“呪病”にかかっているウィリアムは『騎士の力』を行使できない。
 身体能力の超強化さえ出来ないので、禍族に対抗するどころか逃げる事すら危うい状態なのだ。

(なんか、癪だな)
(まぁこれもお主が見境無く攻撃を受けていたから起きた事態だ。これからは注意すると良い)

 護っていたはずの親友に護られるという事実に、若干ウィリアムは拗ねながらもバラムの至極当然の正論に頷くことしか出来ない。
 事実、ウィリアムが本来もっと気を付けて行動していれば“呪病”にかかることも無かっただろう。
 “呪病”と言えど数回攻撃を受ける程度ではかかるものではなく、何十と攻撃を受けたからなるものなのだ。

 そういう意味では、今回の“呪病”はウィリアムにとって良い薬である。
 毒も弁えれば薬となる……と言う言葉がピッタリと似合うウィリアムであった。

 意気消沈して大きくため息をつくウィリアムを見て、潮時かとエンテは別の話題へと切り替える。

「そういえば、ブランドンさんから“またな”って伝言預かった」
「……あの人らしいな」

 ウィリアムは二体の禍族との戦闘の後、そのまま気絶したためブランドンのその後は全く知らない。
 けれど、その伝言からは新しい人生への希望がありありと見えた。
 今頃戦う力を失った彼は、得意そうな力仕事をして家族と仲良く過ごしているのだろう。

「『赤の騎士』じゃなくなったんだよな、ブランドンさん」
「今は俺がその後を継いでるからな」

 小さく、事実を確かめるように呟かれたウィリアムの言葉に、エンテは笑って自身の右手の甲を見せた。
 ブランドンとは少し違う、直刀に火炎が纏う姿が描かれた“印”が少しだけ赤く光る。

(……そっか。やっぱりエンテが『赤の騎士』になったんだよな)
(どうしたのだ、いきなり?)

 心配そうに言葉を発するバラムに、ウィリアムは頬を緩めると何でもないと心の中でそう告げた。
 見せた表情は憐れむようなものでもなく、悲しむようなものでもない。
 ただ——

「エンテ」
「おうっ」

 ——ただ、親友が夢に向けて大きく進んだことへの喜びだ。

 右の掌を挙げたウィリアムがエンテに笑いかけると、彼は悟ったように明るく笑い挙げた掌に自身の掌を打ち付ける。
 馬車の中で、一際乾いた音が鳴り響く。
 それは万雷の拍手よりも、何百の喝采よりも嬉しくエンテには思えたのだった。




「——たった一つの町に”未熟な”『騎士』が二人、か」

 遠く離れた地で、ウィリアムとエンテがハイタッチを交わすのを見る影がある。
 奥深くまでフードを被っている為に、その顔はおろか女性か男性か……“人間かそうでないか”すら判る者はいないだろう。
 ただ、唯一フードから表に出ている口を大きく歪めて影は笑った。

「上手く行けば、我らの夢に向けて大きな一歩となるな」

 影は立ち上がると視界から離れていく馬車をただ見つめる。
 向かう先は『藍の騎士』が住まう街……クェンテだ。

 ——そこで何が起こるのか、それを知る者は未だ居ない。

2章_救済探す治癒の藍 —『藍の騎士』との出会い— ( No.23 )
日時: 2018/09/24 00:16
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

「はい、確かに身分証明完了致しました。……ようこそ、クェンテへ」
「『赤の騎士』様、『緑の騎士』様、ご到着いたしました」

 ウィリアムとエンテが主に先日の戦闘について語らう中、どうやら馬車は目的地であるクェンテに到着したようだった。
 従者の声を聞いて、やっと到着かとウィリアムは大きく伸びをする。

「ようやく着いたぁ」

 体が鈍って仕方がないと言わんばかりに肩を回すエンテに、ウィリアムは苦笑しながらも一足先に馬車から降りた。
 なんだかんだ言って自身の体も鈍っているのを感じたウィリアムは、他人の事は言えないなと両肩や腰を回して少しでもほぐそうと努力を行う。

「お疲れ様です、『騎士』様方」

 恭しく礼をする従者にウィリアムは優しく微笑み、「こちらこそご苦労様です」と軽く頭を下げる。
 そして、しばらく待った後に一向に出てこないエンテにウィリアムは頭に青筋を立てて馬車の中へと侵入。

「お前いつまでやってんだっ」
「いやぁすまん、体が解れなくていてててて!」

 すぐさまウィリアムはエンテの耳を掴んで馬車から引っ張り出すと、放り投げるような形で街に強制突入させた。
 青筋を立てていた表情は従者に振り返ると同時ににこやかな笑顔となり、彼はそのまま軽く頭を下げ「馬車をよろしくお願いします」と立ち去っていく。

(あの少年、こええぇ……)

 あまりの公私の使い分け様に、従者はしばらく固まっていたのは別の話。

「——それで?『藍の騎士』が居るのはどこか知ってるのか?」
「っててて……。あぁ、当然知ってるに決まってるだろっ」

 未だヒリヒリと赤くなっている耳を手で撫でながら、エンテは若干涙目でウィリアムの問いにそう答える。
 多少、語感が強くなっているのもご愛嬌だろう。

「この街の奥にある治療院。そこで生計を立てながら生活してるらしい」
「まぁ、珍しい治癒の能力を持ってたら当然だよな」

 歴代『騎士』の中でも治癒の能力を持っている者は少なかった。
 まず、殆どの『騎士』は禍族や魔族に対する殺意や勇気によって成った者たちが殆どなのである。
 故に望む力は大抵“禍族や魔族を倒す能力”を生み出す。

 ウィリアムが納得したように首を何度か頷いている姿に、エンテは流石に苦笑をせざるを得ない。

「それを言うならウィリアムの能力だって、大分珍しいんじゃないか?」
「……そうかな」

 首を傾げるウィリアムだが流石親友と言うべきだろう、彼の言葉は真にその通りだった。

 “全てを護る能力”。
 それが、ウィリアムが望む力を叶える為に生まれた能力。
 大楯と言う得物や持つ能力は、歴代『騎士』の中でもかなり珍しいだろう。

 他人より自身を大切にする。
 常に自身という媒体を通して生きている限り、痛みや恐怖から逃れるため殆どの人間はそう無意識にでも思っているはずだ。
 けれど、彼は違う。

 自身より他人が大切なのだと想っている。
 『騎士の力』が反映するのは常に“宿り主の心の奥底”。
 ウィリアムが大楯を持っているということは、つまり心の奥底からそう想っているということなのだ。

 故にウィリアムは自身が“ずれている”とは欠片も思わない。

「っと、着いたぜ。ここだ」

 話しながら歩いていれば、気が付くと目の前に古い屋敷が目に入る。
 玄関へと続くまでの庭園や、目の前の玄関などはある程度綺麗にされているが、屋敷の隅っこの壁などは草や根っこが生えまくっていた。

「なんか、ボロッちいな」
「悪かったわね、ボロッちくて」

 隅々に映る手入れのされていない部分を、苦い表情をしながらも眺めるウィリアムとエンテに掛かる声。
 酷く耳に残る、鈴の音のような声のように感じた。
 この響く美しい声は誰が放っているのかと、二人はその声の聞こえた方へ顔を動かす。

「お初にお目にかかります……『藍の騎士』、アニータ・ミエルンですわ」
「————」

 言葉を失う。
 それほど、それほどにこの目の前の女性は美しかった。
 長い絹のような金のロングヘアを揺らして、藍色の瞳を細めて見せる。

 エンテは現実を忘れ去ったかのように固まり——

「え、年下に敬語……?」

 ——ウィリアムは深く考えることをせず、ありのまま思ったことを口にしてしまう。。

 ピシリ。
 周りの空気が割れた氷のように固まったような、そんな恐怖にウィリアムは駆られる。
 内心、やっちまったと目尻を痙攣させながら。




「——で、貴方たちが『赤の騎士』エンテ君に『緑の騎士』ウィリアム君ね」
「う、うっす」
「ハイ……」

 エンテは美人を前にし固まりながら、ウィリアムは死んだ魚の目で無感情に返事する。
 屋敷に入るまでの数分の間にどうやら上下関係が確立したようで、アニータはため息をついて目の前の少年たちを眺めた。

(15……いや16歳ね。こんな子供が『騎士』、か)

 未だ21であるアニータでさえも若いと感じる少年たちが、禍族や魔族に対抗しうる切り札として在る。
 その事実に確かな歪さを感じながら、彼女は目線を二人からウィリアム個人へと移す。

(特に彼は全くダメね。……見た目筋肉も少々のみ、雰囲気も完全にインドア)

 数歩譲ってエンテは良いと思うのは、一目でわかるほどの“技術”が彼にはあるからである。
 鍛え上げられた肉体に、それを効率的に機動させる体の動かし方。
 完全にエンテは戦いに人生を預ける人種であり、何度か死線も潜り抜けてきたのは明らかだろう。

 だからこそ隣のウィリアムに酷く違和感を覚えてしまう。
 細い肉体に力配分が雑な身のこなしには、流石のアニータも溜め息しか出ない。
 マトモな鍛錬一つせず、報告で聞いた“禍族を単騎で討伐”が出来たものだと思わずにはいられないのだ。

「それで、『藍の騎士』である私を訪ねたのは何故かしら?」

 アニータの問いに無表情で固まっていたウィリアムが再起動し、一歩前に進み出る。
 彼の瞳が灯す“もの”を見てアニータは一瞬だけ目を細めた。

「実は——」

 『緑の騎士』であるウィリアムの口から語られるのは今までの事実。
 元『赤の騎士』のブランドンが住まう街でお世話になっていると、突如として禍族が二体出現したこと。
 近くに家族がいることで狂ってしまったブランドンに代わり、ウィリアム一人で禍族二体相手に時間を稼いだこと。
 その結果、“呪病”にかかり『騎士の力』が使えなくなったことまで。

 正直に言えば、アニータは目の前に居る緑の少年を見くびっていた。
 体が貧弱とはいえ『騎士』と成っただけあり、その功績も判断力も勇気も一般人とはかけ離れていたことを知ったから。

「話は理解したわ。……いいわよ、ウィリアム君の“呪病”を治癒しましょう」
「あ、ありがとうございます」

 椅子に座っていたアニータは立ち上がり、自身の豊満な胸の中心に両手を当て呟く。
 出会いの悪さからか下手すれば平服してしまいそうなウィリアムは、頭を下げながら心の中で思った。

 どうして治癒すると言った彼女が苦しそうなのだろう、と。

「穿て、“|水之治癒《ウィルン》”」

 胸の中心に刻まれた“印”が藍色に光出し、彼女の周囲に水が出現する。
 両手をそのまま広げると、周りを囲う水が両手に集い一つの……否、二つの形を為した。

「なんだ、あれ」
「…………」

 驚いて思わず口を開けるエンテと、絶句したまま目を見開き固まるウィリアム。
 それも無理はないだろう。
 今までの人生の中で、そのような形をしたものは初めて見たのだから。

 “く”の字に曲がった藍色の物体。
 一方の先端には穴が開いており、そこから90°まがった部分が手に持つ部分らしい。
 つまるところ、理解できる者に言わせれば……“拳銃”だ。

 固まる二人の少年を見て、アニータは困った表情をして「当然の反応ね」と言う。

「私だって最初は驚いたもの、まぁすぐに使い方は理解したけれど」

 アニータはそのまま右手に持つ拳銃の先端を、ウィリアムの胸板に当てる。
 ゆっくりと瞳を閉じた彼女は、しばらくした後に大きくため息をついて|面倒くさそう《苦しげ》に眉を潜めた。

「一ヶ月」
「え?」
「ウィリアム君が回復するまで、約一ヶ月は掛かるわ」

 あまりの長さにウィリアムとエンテは驚く。
 “呪病”とは基本そこまで長く続かないのが普通で、一週間か二週間で完治する。
 だが一ヶ月と言うのは中々聞いたことが無い。

「当然よ、ダメージの食らいすぎね。そこらの治療院じゃ外部の傷も治し切れてないくらい、ウィリアム君は傷を負っているもの」

 無数、というにはあまりにウィリアムの身体には傷が多かった。
 これでは“呪病”が完治したところで体が重たいという感覚は、中々治らないだろう。

「まずは身体にある外傷を治すのに一週間。そこから吸い込み過ぎた“力”を取り除くのに三週間と言ったところかしらね」
「……わかりました」

 一ヶ月。
 それはウィリアムにとって非常に苦しい時間だ。
 治療に専念する為に身体を動かせない、なんていうことも増えるだろう。

(俺はその間、何もできないのか)

 “人々を護りたい”なんていう望みを叶える努力も出来ないであろう事実に、ウィリアムはため息しか出すことが出来ない。
 残念がるウィリアムを見ながらアニータは「それと」と言葉を続ける。

「その一ヶ月の間にウィリアム君……貴方には最低限の戦い方を知ってもらうわ。このままじゃあ同じことの二の舞よ」
「……ぇ?」

 何もできないのだと失意に堕ちていたウィリアムは、すぐさまその瞳に光を灯らせ「良いんですか!?」と叫ぶ。
 あまりの緑の少年の変わり様にアニータは驚きながらも頷いた。

 子供のようにはしゃぐウィリアムに、エンテは頭を掻きながら見つめる。
 その瞳には、確かな“憂い”が存在していた。

2章_救済探す治癒の藍 —再会のための別れ— ( No.24 )
日時: 2018/10/04 19:59
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

「んーっ、久しぶりのベッドだぁ……!」
「あぁ。ここに来るまでの間は野宿だったからな、ベッドが愛しくて仕方なかったぜ」

 その日の夜、ウィリアムとエンテは宿を取り久方ぶりのベッドを心行くまで堪能していた。
 沈むような柔らかさ、とはいかないもののある程度の柔らかさのある寝床に寝転び、ウィリアムは感嘆のため息をつく。
 エンテもベッドに腰掛け静かに天井を見上げている。

「……なぁ、エンテ。お前何か隠してるよな?」
「————」

 唐突に問われたウィリアムの言葉に、エンテは大きく動揺したかのように瞳を揺らす。
 明らかな驚きの仕草に、問う彼は自身の疑問が確信へと変化するのを自覚した。
 ベッドに座るエンテは参ったと言わんばかりに両手を上げ、目を細めるウィリアムに向けて苦笑する。

「なんで分かったんだよ」
「お前、この街に来てから雰囲気変わりすぎでしょ。伊達に何年も親友やってないよ」

 どうやら親友には隠し事は出来ないようだとエンテは微妙な表情をして、頭をポリポリと掻いた。
 部屋を支配するのは静寂。
 ただただ、ウィリアムは自らの親友が何かを話しかけるのを待っているのだ。

(そうだ、そうだったな。お前はそういう奴だったよな)

 こちらに視線を向けつつ、それでも何も言葉を発しないウィリアムの姿にエンテは両手を握りしめる。

 緑の親友……ウィリアムは常に自ら隠し事を聞こうとはしない。
 相手側が話したいと望めば真摯に受け止め、一緒に悩んでくれる。
 けれど、話したくないと望めば彼はただ頷き元通りの空気へと戻してくれるのだ。

 ウィリアムの気遣いに自身は甘えているのだとエンテは誰よりも理解していた。

(そりゃまあ、9歳の頃からの親友だしな。分かってない方が可笑しいか)

 “ボロボロの姿”で9歳のとき、唐突にウィリアムは“たった一人”でエンテたちが住んでいた町にやってきたのである。
 初めは同情で彼と仲良くしていたエンテだったが、ある日理解した。

 ——どうしようもなく、ウィリアムという存在の生き方に憧れているのだと。

 それから、エンテはウィリアムと過ごすようになる。
 時には喧嘩をして、時には一緒に死にかけるような目にも合った。
 だから、“そういう日”が来ることはないのだと……心のどこかで安堵していたエンテ。

(アイツの気遣いに、いつまでも甘えてらんないな)

 大きく息を吸ってエンテは決心する。

「あのさ、ウィリアム」
「おう」

 ただ相槌だけを打ってウィリアムはエンテが話を続けるのを待つ。
 結局、今も彼に甘えているのだと理解しながらも、エンテは自身の右手の甲をウィリアムへ見せる。

「俺は『赤の騎士』になった。だから——」

 9年も共に生きてきた。
 その間、田舎よりである故郷は離れる用事も無かった為に常に一緒だったことを覚えている。

 けれどそれは今日までだ。

「——だから、お別れだ」

 禍族というのは神出鬼没である。
 出る頻度は一ヶ月に一度出れば多い方だが、その分与えられる被害はかなり多い。
 だからこそ、大陸の各地に『騎士』が配置される。

 一つの大陸の中で一定の間隔に『騎士』を配置することで、唐突に現れる禍族に早く対処しやすくするのだ。
 現在、“最前線”にて魔族を一人で抑えている『紫の騎士』を除きこの大陸には五人の『騎士』が大陸の各地に配属されていた。

 王都周辺を担当する『青の騎士』。
 大陸北部を担当する『橙の騎士』。
 大陸西部を担当する『藍の騎士』。
 大陸東部を担当する『黄の騎士』。
 ——そして、大陸中央を担当する『赤の騎士』。

 『赤の騎士』であったブランドンは、故にエレノアに住み周辺を禍族から護っていたのである。
 だが、現在ブランドンは『赤の騎士』ではない。
 今その役目を担っているのはエンテだ。

 故にエンテは大陸中央を護る為に、戻らなければならない。
 9年間、常に一緒だったウィリアムをここ……クェンテに残して。

 ウィリアムはそこまでを思い出して、咀嚼して、飲み込んで、理解する。
 つまりは親友との別れが近づいているのだと。

 ならばその親友へと向ける言葉は何が正しいだろう。
 「残念だ」、「寂しくなるな」、「一緒に行ってやれなくてごめん」?
 違うだろ。

「おめでとう」
「————」

 一番エンテが望んでいる言葉は祝福のはずだ。
 確かに残念だし、寂しくなるし、済まないともウィリアムは思っている。
 けれど、その想いは誰よりもエンテが理解しているはず。

 だからウィリアムがエンテにかける言葉は、祝福。
 最強になりたいと、『騎士』になりたいと、全てを護る為に矛と成りたいと願っていた彼の夢が果たされる。
 その時に悲しんでどうするのか、親友だからこそ笑って送るべきだろう。

 ウィリアムはだから、今日一番の笑顔でエンテを祝福する。

「お前の望み、叶えて来い」
「あぁ、ご……いや、ありがとうウィリアム。その言葉が聞きたかったんだ」

 拳をエンテへ突きつけるウィリアム。
 笑って、赤の少年は親友の拳へと自らの拳をぶつけた。

「やっぱり、お前は最高の親友だぜ」
「当たり前の事言うなよ、親友」

 二人は笑う。
 互いの友情は確かなものだと、互いの望みの為努力するのだと。
 そう確かめ合うように。

「ウィリアム、お前は強く成れ。誰よりも強く……全ての人を護る為に」
「あぁ、だから約束しよう」

 深翠の瞳と、鳶色の瞳が交錯する。
 ただ真っ直ぐ見つめ合う瞳が向かう先は、逆方向だけれど心の行く先は同じ。

 ——“全ての人を護る”。
 彼らはその盾と矛になりたいのだから。

「「次会うとき、今よりも強くなってるって」」

 月明かりが差し込む部屋の中。
 緑色と茶色の髪が、穏やかな光に照らされる。
 その中で彼らが交わすのは……“再会の為の別れ”だった。


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