複雑・ファジー小説

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Seventh Knight —セブンスナイト—
日時: 2018/11/29 01:02
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 始めまして、閲覧ありがとうございます。清弥と申します。

 感想や意見を求めて三千里。「なろう」でも別名「セブンスナイト —少年は最強の騎士へと成り上がる—」として上げておりますが、何分あちらのサイトではあまり受けない内容でしたのでこちらにも掲載させて頂きます。
 内容はご当地主人公の異世界ファンタジー。拙い部分も多々ありますが、お付き合い頂ければ幸いです。

(以降、あらすじ)
 人間と魔族と禍族《マガゾク》が蔓延る世界。そんな中で、禍族に住んでいた町が襲われたことをきっかけに緑の少年……ウィリアムは大いなる力を手に入れる。
 これは、『緑の騎士』と成った少年が七色の騎士たちと織り成す『七色の騎士《セブンスナイト》』の物語だ。



序章 —セブンスナイツ—
 >>1>>4
1章 —力求める破壊の赤—
 >>5>>20
2章 —救済探す治癒の藍—
 第1話「悪夢」 >>21
 第2話「その後とこれから」 >>22
 第3話「『藍の騎士』との出会い」 >>23
 第4話「再会のための別れ」 >>24
 第5話「服を脱げ」 >>25
 第6話「本当の全力」 >>26
 第7話「"余物"と呼ばれた物たち」 >>27
 第8話「生物を殺すということ」 >>28
 第9話「矛盾した能力」 >>29

1章_力求める破壊の赤 —戦いと”二人”— ( No.10 )
日時: 2018/06/29 20:02
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 警戒してただ睨み付ける禍族の前に、ウィリアムが立ちはだかる。

「来いっ!」
「————ッ!」

 今まで警戒していた禍族は大楯を構えるウィリアムを見ると、その目の色を変え音のない咆哮を上げてまっすぐ突っ込んできた。
 丁度良いとウィリアムは笑い、大楯をしっかり構え足腰に力を入れる。

 直後ウィリアムの身体に伝わるのは衝撃。
 体全てを覆い尽くす大楯に、禍族は何も考えず攻撃したのだ。

(禍族は基本考えることをしない。だから攻撃も常に一直線……!)

 だからこそ、圧倒的な身体能力をもっている禍族に抗うことは可能なのである。
 考えないから攻撃は単純、考えないから力加減も単純なので何度か攻撃を受け続けるだけで、次の攻撃の威力が手に取るように把握できた。
 ある程度防いだところで、パターンを全て把握しきった“声”はウィリアムに語りかける。

(宿り主よ、準備は良いぞ)
(了、解……!)

 とはいっても攻撃が重いことは重い。
 精神が崩れない限り壊れぬ盾とはいえ、攻撃を受け続ければ扱う本人が潰れてしまう。
 だからこそ短期決戦でウィリアムは——

(三、二、一……今だ!)
「らぁッ!!」

 ——振るっているはずの盾に、全く衝撃が来ないことに強い危機感を持っていた。

 開けた視界に待っていたのは景色のみで、そこには禍族の姿は微塵も見当たらない。
 体中に鳥肌が立つウィリアム。

(まずいっ!?)

 大きく左上に大楯を振るった状態で、今一番隙が大きいのは右側であると瞬時に悟ったウィリアムは咄嗟に右側で体を隠す。
 瞬間、大楯越しに今までにないほどの衝撃が伝わるのを感じた。

「ぐぁッ!」

 力を入れにくい体制で強力な攻撃を受けたため、その衝撃にウィリアムの体は耐えられず大きく吹き飛ばされる。

(このままじゃ……!)

 明確な“死”のイメージが脳裏に浮かぶウィリアム。
 体が言うことを聞かず、受け身を取ることすら出来ない状況では地面に落下した際に首を打ち付け死ぬのは目に見えている。

 だが対策も取れず、死という地面にぶつかる……その一瞬に何かがウィリアムを受け止めた。

「大丈夫か、緑の小僧!」
「ブランドン……さん?」

 大きく地面を削りながらウィリアムを受け止めたブランドンは、そのまま完璧に衝撃を殺して見せる。
 受け止めたウィリアムを地面に下ろすと、爪を振るった状態で停止している禍族を睨み付けた。

「あの化け物、能無しの癖にフェイントをかけてきやがった」
「はい、簡単にはいかないみたいです」

 けれどこれは“禍族は考える事を知らない”という慢心が引き起こした、いわゆる自業自得。
 大丈夫だと括ったウィリアムにも責任があるし、それを見逃したブランドンにも責任はあるだろう。
 故に今度は慢心しないと、ウィリアムは大楯を強く握りしめた。

「もう一度、やらせてください」
「……信じていいんだな」

 真っ直ぐ見つめて確かめるブランドンに、ウィリアムは視線を返し力強く頷いて見せる。
 仕方ないなと顔を破綻させた『赤の騎士』は『緑の騎士』の背中を強く叩いた。

「おし。なら任せたぞ、緑のひよっこ」
「——はいっ」

 背中を押すブランドンの言葉に、ウィリアムは再度力強く頷くと禍族の元へ走り出す。

(宿り主よ、どうするつもりだ)
(お前はまたタイミング調整、任せたぞ)

 ウィリアムの言葉に、“声”は何か考えがあるのだと悟ると肯定する。
 唸り迫る敵を見つめる禍族は、聞こえぬ咆哮を上げるとアチラも突っ込んできた。

 振るわれる漆黒の爪。
 それに合わせるようにウィリアムは“横に傾けながら”盾を構える。
 未だ開けている視界に映るのは振り上げた爪をそのままに、身軽なステップで横に移動していく禍族の姿だ。

 大楯によって防がれる視界を未然に防ぐことで、禍族の移動先を予め把握したウィリアムはその方向に大楯を置く。
 攻撃を受けた時よりかは軽いものの、それでも強い衝撃がウィリアムを襲う。

(対処出来ているが、宿り主よ、これでは体制が悪すぎるぞ……!)
(解かっている!)

 襲い掛かる攻撃を防がれた禍族は怯むことなくウィリアムに攻撃を行い続けた。
 上下左右を自由に動き回りながら、大楯を持っていることで動きづらいウィリアムを確実に翻弄していく。
 どうにも頭が回る禍族に、何とか攻撃を防ぎながらもウィリアムは違和感を覚えていた。

(なんで禍族がこんなに頭が回る……?)

 禍族は普通の獣よりも知性が低く、人を襲い喰うくらいしか能に無いはず。
 けれど、目の前の獣型の禍族はそれとは違う。
 “まるで知性を持っているかのように”正確に攻撃を当ててくる。

(けど、それだけじゃない)

 知性があるが如くフェイントをかけたりする禍族ではあるが、それとは真逆にウィリアムしか狙っていない“能無し”でもあるのだ。
 先ほどから防御一辺倒のウィリアムにしかその敵意を見せていない。
 それよりかはブランドンの方が対処しやすいだろうに。

(次、来るぞ宿り主よ!)
(……ッ!了解)

 自身の死角から振るわれる爪に対して、体制を崩してでも防いだウィリアムは一旦体制を立て直そうと後ろに下がろうとする。
 けれどそれを見逃す敵は居らず、禍族も好機と見てか大きく爪を振り上げた。

 触れれば死ぬだろう凶悪な爪を前に、ウィリアムは『騎士の力』を呼びかける。
 奥底に眠る“緑の風”を握りしめそれを現界させると、纏わせたのは右腕。
 それと同時に大楯を真正面に構え、目の前の視界を全てカットしたウィリアムは右腕を突きの状態で構える。

(風を操ることが出来るのなら——)

 視界を防ぐ大楯に向けて全力で右腕を突くと、それと同時に右腕に纏う風を解き放つイメージを脳内で行った。
 盾をすり抜け、真っ直ぐ“フェイントで振り下ろす爪”に向けて飛び立つ風を。

(——放つッ!)

 イメージ通りに風が動き、右腕を纏う“緑の風”は盾をすり抜けて爪へと向かう。

 それは妨害の風だ。
 進むことは許されず、かといって退けるのは禍族にとって勝機を逃すことと変わらない。

 だから“力を込める”。
 剛腕に力を掻き集めてフェイントとなる攻撃を放つために、風の妨害を真正面から突破しようとするのだ。

 だから——

 ——だから、不意に妨害しているはずの風が消えたことに禍族は戸惑いを隠せない。

 “力を込めすぎた攻撃”はフェイントとなることは出来ず、それはただ本命の一撃となってウィリアムを襲う。

(……今だッ!)
「らぁッ!!」

 ——だから、それは弾くのに最も適切な一撃となった。

 まっすぐ正面に振るわれる全力の一撃を、綺麗に弾き飛ばしたウィリアム。
 開けた視界に映るのは大きく体を崩した禍族の姿だ。
 迷わずウィリアムは叫ぶ。

「ブランドンさんッ!」
「解っている!」

 瞬間、叫ぶウィリアムが目にしたのは“大剣の鍔から炎を吹き出している”ブランドン。
 鍔から炎を出すことで、自身の推進力とした高速移動でやってきたのだ。

 両手で大剣を握りしめブランドンは体制を崩した禍族に向けて、その刃を振り上げる。

「食らええぇぇぇッ!」

 振るわれる方とは真逆の刃から炎が吹き出し、それが振るわれる推進力の一部となって大剣とは思えない速度で禍族を“断つ”。
 あっさりと、簡単に——

「————……」

 ——禍族はその命を散らした。

 声のない咆哮を、ただウィリアムは眺めている。




「あぁあああ……疲れた」
(うむ、真に面白い戦い方を思いついたな、我が宿り主)

 時は経ち数刻。
 救われた村の人々は禍族を倒したウィリアムとブランドン、そしてもしもの為の避難に駆け回ってくれたエンテに感謝し、一人一部屋の個室を用意してくれた。

 中々にふくよかなベッドに体を押し付け、ウィリアムは戦いの疲れを癒していると不意に“声”が聴こえるのを感じる。

「面白くも糞も無い。あんなのしか考えられなかったんだよ」
(だが今まで“戦い”を知らなかったのなら、逆に良くやったほうだと思うが)

 確かにウィリアムは今の今まで“戦い”というものを知らなかった。
 体験したことがあるのは、精々喧嘩程度のもの。
 命と命を取り合う……そんな行為は『騎士』と成るまで一切なかっただろう。

 『騎士』となって初めての戦いも、考える必要はなくただ“声”に従っただけ。
 “実践”という意味では今回が本当の初めてなのかもしれない。

「……俺は強く在りたい」
(うむ、期待しているぞ)
「あぁ」

 だがそれでもウィリアムは前に進まなければならないのだ。
 『騎士』として強く、『騎士』として護り、『騎士』として在る。
 その為には“戦い”と言うものをもっと知り、対処できるようにならなければならないだろう。

(俺には、“護ること”しかできないから)

 ブランドンのように、禍族を倒す戦いは殆どできない。
 ただ人を護り、人の代わりに体を捧げるだけがウィリアムに許された“戦い”だった。

(だからとことん、考えないと)

 無鉄砲に突っ込むだけじゃ、護ることすらできないだろう。
 故にウィリアムは戦いのときは誰よりも考え、誰よりも前に居続けなければならないのである。

 意志を固めたウィリアムは、そのまま睡眠に入ろうとして……はっと思い出す。

「なぁ、“声”。お前名前はなんていうんだ?」

 今まで名前が分からず、どう声を掛ければいいのかイマイチ要領が掴めなかったのだ。
 この機会に名前を聞くくらい良いだろう、とウィリアムは考える。

(……我の名前、か。そんなものは無いぞ)

 だからこの返答に、少し……いやかなり驚くウィリアム。

「お前、名前なかったのか?」
(我に名前は必要ない。ただ、我は“力”で在るべきだからな)

 ウィリアムはう〜ん……と悩むと、ポツリと呟く。

「——バラムってのはどうだ?」
(……ふむ、バラムか。宿り主が呼びやすいなら、それで良かろう)

 少し欲しかった反応とは違うが、まぁいいかとウィリアムは苦笑する。
 結局ウィリアムもコミュニケーションを取りやすくする為、呼称が欲しかっただけなのだから。
 それでも、少しは喜んでも欲しかったわけだが。

「じゃあバラム、お前に頼みがある」
(……?何だ、宿り主よ)

 首を傾げているであろう声の口調に、なんとなくウィリアムはバラムに慣れてきたのだな……と感じる。
 故に、どうしてもこれだけは言っておきたかった。

「“宿り主”じゃ言いにくいだろ?ウィリアムでいい。俺もバラムって呼ぶから」
(————)

 時が止まったように何も発しないバラム。
 どうやら絶句しているようだと気付くころに、ようやく再起動したのかバラムが言葉を発する。

(やはり面白い宿り主だな……ウィリアムは)
「あぁ、やっぱりそっちの方が、肩がこらなくていい」

 すんなり耳に“声”が聴こえるようになった気がしたウィリアムは、重い体を起き上がらせた。
 その口元は嬉しげにつり上がっている。

「じゃあ、よろしくな、バラム」
(うむ、今後も良く使ってくれ、ウィリアムよ)

 月明かりが照らす夜。
 それは“一人と一つ”が“二人”となった瞬間だった。

1章_力求める破壊の赤 —王都到着— ( No.11 )
日時: 2018/06/30 20:33
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

 ガタガタと揺れる馬車。
 これでもかなり揺れが少ない方ではあるが、それでも乗り慣れていないウィリアムとエンテはしきりに尻を擦っていた。
 そろそろ尻も限界だなぁとウィリアムたちが思う中、外……従者席から『赤の騎士』であるブランドンから声が聞こえる。

「そろそろ着くぞっ!」

 放たれた言葉をしばらく中に居るウィリアムたちは咀嚼して、すぐに王都の事だと悟った。
 慌てて眩しい日差しを防ぐために敷かれたカーテンを開け、風よけの窓も全開にして体を乗り出すと、目の前の光景に瞳を輝かせる。

「……これが、王都!」

 ある程度の町でさえもこれほどまでに高いものはないだろうと確信できる、巨大な壁。
 軽く30mはあるだろう壁を前に、ウィリアムたちは興奮を隠しきれなかった。

「でっけー、あれが王都を囲む壁かぁ。親父から聞かされてたけど、目の前にすると流石に驚くな、こりゃ」
「あぁ、本当にデカい……!」

 ウィリアムとは真逆の窓から王都を見つめるエンテ。
 驚きようからして、この壁を前に誰もが驚くことは決定していたようである。
 二人の驚きの声を聞いてブランドンは大きく笑う。

「王都に来た者は初めにこの壁に驚くのが鉄則だからな。入る前に新参者がやらなきゃならない儀式みたいなもんだ」

 かく言う俺も初めは驚いたがな、と言葉を続けながら笑い続けるブランドンに、ウィリアムとエンテは顔を合わせ苦笑する。

 村に禍族が現れて2日後、ようやくウィリアムたちは旅を終え王都に到着したのだった。




「なんだよ、観光さえできねぇのかよ」
「黙って歩いてくれよ、エンテ」

 王都に対し興味と期待で胸を膨らませていたウィリアムとエンテは、入った直後衛兵に囲まれ強制連行されていた。
 衛兵が使う、先ほどまで乗っていたものとは全く違ってかなり揺れる馬車に乗せられ、今は王城の通路を歩いているところである。

 何とも非常識な連れ込み方ではあるが、正直言ってウィリアムの存在自体が非常識なのであまり文句は言えない。
 ブランドンが付いてきてくれたのが不幸中の幸いであるといえよう。

 ぶつくさ文句を言っているエンテに注意すること何度目か、流石のウィリアムはため息をつきたくなった頃、衛兵が一つの扉で止まる。
 謁見の間への扉だろうかとウィリアムは思うが、どうにもそれにしては小さく古臭い扉だ。

「諸君らにはここで正装に着替えてもらう。服は用意してあるし、勝手が分からなくとも女中が手伝う手筈だ」

 つまりはその姿じゃ汚いから、せめて服を着替えろということなのだろう。
 確かに今までの旅の弊害で着ている服は汚れており、この国を治める者たちに見せられるものではない。
 ウィリアムたちはブランドンがこちらに頷くのを見て、嫌々ながらもその部屋に入る。

 中に入るとエプロン姿をした女性たちが複数人待っており、こちらを見るや否や深々とお辞儀をした。
 上流階級がされるような接待は全く受けたことのないウィリアムたち二人は、オロオロしながら小さくお辞儀を返す。

(うっわ、高そうな服装ばっかり)

 気が引けるのを感じながらウィリアムとエンテは周りにかけられている服を見ると、金などの刺繍が入っており明らかに高そうだ。
 庶民と貴族たちとの間の圧倒的な壁を感じ、眉を痙攣させる二人にブランドンが釘をさす。

「かけてある服、お前らの数年の賃金より高いからな」
「————ッ!?」

 もはや高そうを飛び越えて畏怖してしまう二人に、ブランドンは笑いをこらえきれない。
 歯を必死に閉じながら途切れ途切れに笑うブランドンに、被害者二人は青筋が立ったのを感じた。
 冗談が過ぎたと思ったのか、未だ笑いながらも「すまんすまん」と目尻の涙を拭きながらブランドンは謝罪する。

「まぁ大丈夫だ、この服全部使い捨てだからな」
「使い……捨て……?」

 視界を見渡せばまだまだ使えそうな服ばかり。
 けれど、これらは全てもう使った後の服なのだという。
 改めて庶民と貴族との差を痛感したウィリアムたちは、最終的に驚くだけ無駄だと理解したのか大きくため息をついた。

「じゃあお前さんたちは初めてだろうし、女中さんたちに選んで着せてもらえ。俺も最初はそうだったぞ」
「了解〜」

 諦めがついたのか、妙に間延びした生返事で返す二人にブランドンは苦笑しながら部屋を出ていく。
 何故か部屋を出ていく後ろ姿を眺めた後、ウィリアムたちは待機する女中たちに「よろしくお願いします」と深々と頭を下げたのだった。

 十数分後、そこには見違えるように姿を変えたウィリアムたち三人が居た。
 と言ってもそのうち二人は顔を赤くしていたので、決まってはいなかったが。
 顔が赤くなっていたのは当然——

「あぁぁああぁ……全部見られた」
「もう俺、お婿にいけないっすよ……」

 ——脱がされる過程で、女中たちに汚いと下着も脱がされた結果である。

「ははは、昔の俺を見ているみたいだな」

 そう言って戻ってきたのはブランドン。
 白を基調としたジレ|ベストに、赤が特徴的なジュストコール|コートとキュレットの装いをしていた。

 そんな姿のブランドンは、全く昔の自分と同じ反応をしている二人に面白み七割と懐かしみ三割で顔をニヤつかせる。
 どうやら姿は変わっても中身は変わらないようだ。

 ウィリアムやエンテは良く在りそうな白のジレに、茶色のジェストコールとキュレットを着ているのだが、どうやらブランドンは特製らしい。
 左胸に剣と纏う炎……つまりは『赤の騎士』たる印が刺繍されていることから、ブランドン専用の正装なのだとウィリアムとエンテは気付いた。

(あぁ、だから部屋から出て行ったのか)

 ようは古着しかないこの部屋には、専用の正装が置いてあるはずないので着に別の場所へ行ったのだろう。

「んじゃあ衛兵たちを待たせてることだし、さっさと向かうぞ」
「はい」
「おう」

 ブランドンの声に三者三様ならぬ、二者二様の返事を返すウィリアムたちだった。




 外で大人しく待っていた衛兵の案内によって、ウィリアムたちが連れてこられたのは巨大な扉。
 軽くビビるほど細かな装飾によって創られたその扉は、少し強く触れるだけでも儚く壊れてしまいそうだ。
 小声でブランドンはウィリアムたちに、「あの扉、お前らの一生より高いからな」と脅す。

(この建物、高い物が多すぎるっ……!)

 もうこの建物だけで世界を救えやしないだろうかと畏怖恐々としてしまうウィリアム。
 エンテはもうその点については諦めたのか、曖昧な返事で流していた。

「では、ブランドンさん。これより先は——」
「——おう、了解。お疲れさん」

 『赤の騎士』として周知されているブランドンに対して、衛兵は頭を下げるとこの場を去っていく。
 どうやら衛兵の仕事はここまでのようだ。

 衛兵が去った後、大きく深呼吸をして両頬を叩いて気合いを入れるブランドン。
 その目は酷く緊張しているようにも、恐れているようにも見えた。

「お前ら、気を引き締めろよ。この扉の先には、文字通り禍族よりも怖い奴らが待っている」
「禍族よりもっすか……?」

 疑うようにブランドンを見るエンテに、ウィリアムも内心同意する。
 どれだけ怖かったとしても、何だかんだ言って禍族と相対するより強い恐怖なぞそうそうあるのだろうか。

 けれど、どう見てもブランドンの口調は真面目そのものだった。

「少なくとも、最低限礼儀正しくあるように。勝手に口を開くな、聞かれたらその事についてのみ答えろ……良いな?」
「は、はい」
「う、うっす」

 あまりに真剣な表情に気圧され、何度も頷く二人。
 それを見て安心したのかブランドンは「頼むぞ」と、再度注意して扉の前に立つ。

(……これ、本当に禍族よりも怖いんじゃあ)

 段々ブランドンの言葉が真実味を帯びてきたその時、ブランドンはドアをゆっくりと開けた。

「ただ今、『赤の騎士』ブランドン・ドルート任務を終了致しました!『緑の騎士』ウィリアムとその友、エンテを同行し帰還した所存でございますッ!」
「————」

 そこにあったのは、謁見の間などではなかった。
 “会議の間”だ。

 楕円形に伸びる机を中心として、並べられた椅子に座るのは男性たち。
 思わず平伏してしまいたくなるほどの威圧感、そして背中に冷や汗が出来るほどの眼差しに、ウィリアムとエンテは戦慄する。

(これが、『連盟国家・エンデレナード』を纏め上げる人たち……!)

 国を動かす人々と一度もあったことがないウィリアムでも分かった。
 この威圧感、この冷静な眼差し全てがこの人たちの“カリスマ”によるものだと。
 今座る人々の一人一人が、かつて国を纏めた“王”の子孫。

 ——その全てが“王”なのだと、気付かされる。

「ほう、若いな。そこの二人、軽い自己紹介をしてくれるな?出来ればどちらが『緑の騎士』かも、だ」

 一番奥に居る、椅子に座る人の中で最も若い男性がウィリアムとエンテを見てそう告げた。
 とりあえず『緑の騎士』ではないエンテが、先に体を一歩進め姿勢を正す。

「俺……私の名はエンテ、です。ウィリアムの友として、そしてウィリアムが『騎士』となった瞬間を見た者として、ここにきた……来ました」
「ふむ、おぬしがエンテか。良くぞ禍族相手に生き延びた、褒めて遣わそう」
「あ、ありがとうございますッ!」

 一歩前に出ていたエンテは、深く頭を下げると一歩下がって全身の緊張を解く。
 流石に国を纏める人々を前にして緊張しきっていたのだろう。
 所々素が出ていたが、ただの庶民の対応としては殆ど完璧と言える。

「さて、ということは」

 ゾクリ。
 全身に視線が集まるのをウィリアムは感じた。
 エンテよりも深く、見定めるように全ての人々がウィリアムを見ている。

(これは……ヤバい)

 この視線を浴びてようやく、ウィリアムはブランドンの言っていたことを完全に理解した。
 浴びるような見定める視線を向けられるくらいなら、まだ確かに禍族と戦った方がマシに思える。
 それほどの恐怖がウィリアムの身体を支配した。

 だが、それでもウィリアムは一歩前に体を進め姿勢を正す。

「はっ。私が『緑の騎士』に幸運にも選ばれたウィリアムです。家名はありません」

 スラスラと敬語を話して見せるウィリアムに、一気に周りの視線の重みが強くなる。
 当然だ、庶民がどもらず敬語を話すなんて殆ど聞いたことがないからだ。
 だがそれでも口を開いたのは、議長席に座る若い男性。

「随分礼儀がなっているな……まるで貴族や商人に育てられたかのように」
「ありがとうございます。ですが私には生まれてこの方両親の記憶はございません。その点についてはご容赦を願います」

 ウィリアムの言葉を聞き、議長席に座る男性は目を細めた。
 言った言葉が嘘か真実か見極めようとしているのだろう、とウィリアムはその視線を真っ向から受ける。
 目を背けることも無く、微かにも怪しい部分が見られないと判断した男性は「信じよう」と小さく頷く。

「では当事者であるウィリアムよ、ここまでの経緯を話してもらえるか。何故、おぬしが『緑の騎士』に選ばれたのか……それも含めてな」
「はっ」

 話が上手く先に進んだことに、内心安堵したウィリアムだった。

1章_力求める破壊の赤 —『青の騎士』との邂逅— ( No.12 )
日時: 2018/07/02 21:26
名前: 清弥 (ID: n4UdrwWp)

「——ここまでが、私が知り得る限りの経緯でございます」
「ふむ……禍族に襲われ『騎士』となる、か。良くある話だな。ともあれ町を襲った禍族と、道中に発見した禍族を倒したこと……闘いに慣れぬ体で良くぞここまで行った。こちらとしてもおぬしに礼を尽くそう」

 今までの経緯を話し終えたウィリアムは、一度頭を下げそのまま後ろに下がる。
 洗礼されているとは言わずとも筋の通った礼に、議長席に座る男性は静かに目を細めるもすぐに視線をブランドンに映した。

「さて、ここまでの経緯は大体把握した。ブランドン、確かまだ報告があるとのことだったが?」
「は、はっ!」

 真っ赤なジェストコールを翻し、一歩前に出て片膝をついたブランドン。
 その後顔を上げると多少口籠りながらも報告するために口を開いた。

「『緑の騎士』、ウィリアムは『騎士』と成る際に“声”を聴いたらしく……」
「ほぉ?」

 議長席に座る男性の視線がブランドンから外れ、再び後ろに下がっているウィリアムへと向けられる。
 もちろん議長席に座る男性だけではない。
 この部屋にいる全ての者たちが、一斉にウィリアムへと視線を向けたのだ。

「つまり、ウィリアム……おぬしは『騎士』と成る前に『騎士の力』に認められていたと?」
「正直に申しますと、良く分からないのです」

 話を振られたウィリアムは、問われる質問にただ首を横に振ることしか出来ない。
 本当に知らないのだから仕様がないのである。

(なぁバラム、お前は俺を認めていた……で合ってる?)
(……ふむ、“資格がある”可能性と言う意味では認めていたな)

 ウィリアムはバラムの返答に余計頭を悩ませた。
 “資格がある”とはなんなのか、一体何に対する“資格”なのか。

「今、バラム……『騎士の力』に聴いたところ、“資格がある”可能性があるので認めていたらしいです」
「————」

 とりあえず聴いたままをそのままウィリアムはこの場の全員に伝える。
 が、その瞬間この部屋全体が緊張で一気に冷えていくのが分かり、思わずウィリアムは体中に力を込めた。
 議長に座る男性を見てみれば、その瞳に浮かぶのは明らかな“動揺”。

「……ウィリアム、おぬしは『騎士の力』が今も聞こえる。そう言っているのか?」

 ようやくそこでウィリアムは思い出す。
 今までの中で『騎士』と成った後も『騎士の力』の声が聴こえるのは、自身が初めてなのだと。
 慌ててチラリとブランドンに視線を向ければ、額に右手を当てて顔を俯かせていた。

 そして悟る、やっちまったと。

「は、はい。私は今もなお『騎士の力』の声が聴こえています。そして私が——」
「——待て」

 慌てて説明しようとしたウィリアムを、議長席に座る男性が制止する。
 一体なんなのかと不思議がる彼を置いてきぼりに、男性は「皆さん」と机を囲む人々に声を掛けた。

「ここから『騎士』の話。“巫女様”の元へ向かい話を続けても宜しいだろうか?」

 机を囲む人々が、その問いに対して瞬時にアイコンタクトを巡らせると一同に頷く。

(“巫女様”……?バラムは知ってたり?)
(いや、知らぬ。我らは基本、声が聴こえる者が居るときのみ目覚めているからな、普段は眠っているのだ)

 『騎士の力』であるバラム達は、殆ど眠っていたということなのだろうかとウィリアムは考える。
 今でこそウィリアムという“声が聴こえる者”が居るので常に起きているが、それもウィリアムが初めてだったはず。
 つまり、『騎士』と成った時のみの僅かな時間だけ目覚めて、その後また眠ることが多いため外の情報が入ってこないのだろう。

(目が覚めては宿り主を入れ替え、また眠りについて……の連続ってこと?)
(まぁ今まではな)

 何か意味を込めたかのような言い方にウィリアムは首を傾げて考え出すも、すぐに議長席に座る男性が立ちあがるのを見て、思考を現実に戻した。

「では『赤の騎士』ブランドン、『緑の騎士』ウィリアム、その友のエンテ。私に着いて来い」
「了解いたしましたッ」
「はっ」
「う、うっす」

 ただ、立ち上がったのは議長席に座っていた男性のみで、他の場所に座っている人々は立ち上がろうともせずただ見送るのみ。
 何故ついてこないのだろうかと違和感を覚えつつ、男性に連れられウィリアムたちは部屋から退室した。

 瞬間——

「ん〜〜っ!流石に肩凝るねぇ……」
「へ?」

 ——議長席に座っていた男性の雰囲気が、一気に柔らかいものに変わるのを見て思わずウィリアムたちは呆けた声を出す。
 その間抜けな顔を見て、クスリと男性は「ごめんごめん」と優しく微笑み優雅に一礼する。

「改めて……初めましてウィリアム君、エンテ君。まだ僕の挨拶がまだだったね」

 頭を上げると、若く美しい顔をした男性は右手を差し出した。

「『青の騎士』ライアン・キナクス。ウィリアム君と同じ『セブンスナイツ』の一人であり、『連盟国家・エンデレナード』の議長だ」
「『青の騎士』……!」

 煌びやかになびく銀髪のマッシュを揺らして、イケメンの男性は右腕の袖を捲り上げ見せるのは、前腕にある“印”。
 三角が途中で分断されていたり、また途中で合体していたりするような複雑な文様で描かれた籠手が、その“印”には描かれていた。

「僕は代々王族……今の議長の一族に受け継がれてきた『青の騎士』、その末裔」
「ブランドンさんが言ってた、“先代『騎士』に託され『騎士』と成る者”っつうのは議長の一族の話だったんすか……」

 何とも納得したような、悔しがるような難しい表情を浮かべるエンテ。
 この『騎士』の成り方が良くあるのも当然だろう、毎回『青の騎士』だけは子孫へと受け継がれていくのだから。
 ただ、それは一般では難しいのだとエンテは悟り表現しにくい顔になったのだ。

「とりあえず自己紹介を済ませた所で、例の“巫女様”に会いに行くよ——」

 ライアンは視線をウィリアムへと至極真剣な表情で向ける。

「——僕も、君についてもっと知らなければならない」
「俺も、自分が一体なんなのか……知りたいです」

 そう言って自身の胸に手を当てるウィリアム。
 この場でバラムに問いただすことは出来るだろう、けれどそれは今じゃない。
 言っている“巫女様”と、ライアンの前でするべきだろうとウィリアムは思ったのである。

「じゃあ行こう、きっと『巫女族』が“巫女様”に伝えに言っているはずだ」
「……はい」

 “巫女様”に合えば何かが分かる、ウィリアムはそんな予感でざわつく胸を押さえつけながら、ライアンの背中を追い始めた。




 存外、“巫女様”の居る場所というのは近かった。
 王城の離れにある、木材で出来た巨大な横に広い家に居るらしいのである。

「……これが、“巫女様”の屋敷?というやつですか?」
「あぁ、そうだよ」

 少し見渡せば、木材で基礎を固めており屋根には妙な形をした石のようなものが積まれているのが分かった。
 あまりにその屋敷と呼ばれる場所は、周りに比べて異質。
 石やレンガで作られている建物が多いので、異質と言えば当然なのだが。

「お待ちしておりました、ライアン様、ブランドン様、ウィリアム様、エンテ様」

 周りに気を取られていたのか、不意に現れる女性の姿に驚くウィリアムとエンテ。
 ブランドンとライアンは慣れているのか、対して気にしている様子もなくただ女性の言葉に頷く。

(なんだろう、この服……?)

 不意に現れた女性にも驚いたが、ウィリアムが何より驚いたのは女性が纏う服だった。
 何とも動き辛そうな、ゆったりとした服……というより鮮やかなただの布を何枚も羽織っているような服に、これまた違和感を覚える。
 上半身を白い布で包んでおり、どうやら中心にある橙の糸で止めているようで、下半身は鮮やかな赤のスカートをはいていた。

 見たことも無い服に頭を傾げるウィリアムに、反応する声がある。

(なんだウィリアムよ、知らんのか)
(?……知ってるのか、バラム?)
(確か、“巫女装束”という『巫女族』が代々羽織る仕来りになっていたはずだ)

 意外なバラムからの知識に、へぇ……と頷くウィリアム。
 違和感が在りすぎて、もう別の時代に飛ばされた気分だった。

「“巫女様”がお待ちです、どうぞこちらへ……」

 そう言って巫女装束を羽織った女性は、一つ頭を下げるとゆっくりとしたペースで屋敷に向かって歩いていく。
 ライアンたちが女性を追っていく中でウィリアムだけは——

(まだ、生きているとでも……)

 ——そのバラムの声を断片的にではあるが、聞き取っていた。

1章_力求める破壊の赤 —少年の運命— ( No.13 )
日時: 2018/07/04 15:19
名前: 清弥 (ID: LqhJqVk8)

「——ようこそいらっしゃいました、皆々様」

 屋敷の一番奥、そこに“巫女様”は待っていた。
 その声は非常に澄み切っており、色沙汰に関してはほぼ無関係だったウィリアムでさえ鼓膜を揺らす音に聞き惚れる。
 けれどその声の発生者は一枚の幕によって姿を見ることは叶わない。

(影から見えるけど、声の通り女性なのか。しかもかなり若そうだ)
(ふむ……やはりそうか。ウィリアムよ、騙されるな、目の前に居る女性は『セブンスナイツ』が生まれてから生き永らえてきた存在だ)

 突拍子もないバラムの言葉に、ウィリアムは驚きの声すら忘れて目を大きく剥く。
 これほど美しい声を持っているのに、影から一瞬でわかるほど美しさのオーラが出ているのに、数百……いや数千年も生きているとわかったのだから仕方がないだろう。

 どうやらエンテも近くにいるブランドンから教えられたようで、鼻の下を伸ばしていたエンテは驚きすぎて白目になっていた。
 お近づきになろうとした美しい女性の中身が、BBAだったのだからもうウィリアムとしては合掌を送ることしか出来ない。

「深優、榛名。少々部屋から出て行っても構いませんか?少しばかりこの方たちと“だけ”でお話がしたいのです」
「……かしこまりました」

 幕の奥にいるであろう“巫女様”は、側に付き添い護衛と監視を行っていた二人の女性に退室するよう求める。
 “巫女様”の命令……お願いは絶対なのか静かに頭を下げ、目麗しい女性たちはウィリアムたちへ目線を向けながらも部屋を出て行く。

「黒髪と黒目、俺初めて見たっす……」

 呟いたエンテの言葉に、ウィリアムは内心でそれに同意する。

 ミユ、ハルナと呼ばれた女性たちは、片方は黒髪に深緑の瞳を、もう片方は鮮やかな青髪に漆黒の瞳を宿していた。
 しかしこの国の中で黒髪、または黒目というのはまず見掛けない色。
 珍しい、なんて言葉で終わらないくらいには貴重な体験だったとウィリアムは思う。

「ふ、驚いたかウィリアムにエンテ。髪か瞳、必ずどちらかに“黒”が宿るのが『巫女族』の特徴らしい。私も最初見た時は驚いたものだ」
「あれは、『巫女族』特有のものだったのですね」

 公の場である為、議長モードに変化したライアンはウィリアムとエンテに堅苦しい言葉で説明を行った。
 といっても、本来は優しい人物だということは既に二人は知っている為、初対面ほどの緊張感も無く普通に受け答えをする。

「ふふふ。仲が宜しいことですわ。ですが今は説明をしてもらえないでしょうか——」

 ふわふわとした暖かな雰囲気を持つ“巫女様”は、そこまで言うと……次の瞬間、身も凍るほどの真剣な声色で問う。

「——『セブンスナイツ』史上、初めての出来事を」
「……あぁ、すまない巫女殿。そちらも忙しい身であるのに、急に出向くような真似をしてしまい、一先ず謝罪をしよう」

 議長であるライアンは声に緊張の色を持たせて頭を浅く下げる。
 あの国を纏めていた子孫たちのトップである議長……ライアンが異様な緊張を持っていることに、ウィリアムは改めて“巫女様”に対し戦慄した。
 それほどまでに大切な存在なのだと、それほどまでに重要な存在なのだと。

「では本題に。先日、町に突如現れた禍族に対処するため、一般市民であるウィリアムが『緑の騎士』となったことはそちらも承知しているだろう」
「えぇ、禍族の出現を察知したのも、新たな『騎士』が出現したと察知したのもわたくしが行ったことですから」

 ウィリアムはそこでようやく禍族が出現したときの『騎士』の行動が、何故あんなに早かったのかを察する。
 “巫女様”がどうやってかは知らないが、禍族や『騎士』の力を察知できるからこそ地域に散りばめられた『騎士』が即時動くことが出来るのだ。

「そのウィリアムは『騎士』と成った時に、『騎士の力』を聴いたらしく……どうやら以前から力に認められていたらしい」
「……そこまではわたくしとしては“良く聞く話”程度ですわ、ライアンさん。それがここまで来た理由なのかしら?なら——」
「——いや違う」

 明らかに呆れたような、どこか諦めのような雰囲気で早口に話を終わらそうとする“巫女様”に、ライアンは遮る。
 その瞳に宿すのは、真正面で実直な真摯。

「今も聴こえるらしい、『騎士の力』の声が」
「ぇ……?」

 どうしようもなく掠れた声がウィリアムの鼓膜を揺らす。
 まるで絶望の淵にいた所を誰かに救われたかのように、大きな期待と小さな希望の想いがその声に詰まっていた。

 瞬間、幕がばさりと音を立てて捲り上げられる。

「——現れた!!」

 ウィリアムの視界に入ったのは、美しく長い黒髪と光を反射する純粋な黒の瞳。
 赤と白が目立つ巫女装束を凹凸が乏しい体に纏い、人形かと見間違えるような整った顔を焦りと驚愕で歪めていた。
 明らかに周りと違って、その顔の彫りが薄いのが印象的に感じる。

(やはり、貴女か……!)

 “巫女様”であろう若く見える女性は、一心不乱に周りを気にせずウィリアムの元へと一直線に向かった。
 息もかかるような至近距離にまで接近されたウィリアムは、その美しい顔に思わず見惚れて顔を赤く染める。

「ウィリアムさん、貴方の“印”はどこですか!?見せてくださいッ!」
「え、あっはい」

 美女に迫られている状況で考える余裕なぞとっくに失っているウィリアムは、言われた通りに“印”のある左手を差し出した。

(なっ!何をやっている、ウィ——)
「——■■■■■、■■■■■■■」

 “巫女様”が差し出された左手にある“印”に手を当て何かを呟いた瞬間、ウィリアムの脳に凄まじいまでの電流が奔る。
 何か巻き付いているようで、何か崩れ去っているようで、何か守られているような痛みがウィリアムに突き刺さった。
 痛みにもがくのも一瞬、すぐさま脳に直接突く痛みは引いていきウィリアムは体中を汗まみれにしながら荒い息を吐く。

「はぁっ……!はぁっ……!い、一体何を……?」
「申し訳ございません。貴方を護る為に少々『騎士の力』に施しを」

 急の出来事で頭が追い付いていなかったエンテたち三人。
 けれど、ウィリアムが苦しげに息を荒げているのを確認して状況の把握よりも先に彼の元へと駆けた。

(バラム、お前は何が起こったのか分かるか?)
(…………)

 先ほどの激痛はいったいなんだったのかと、ウィリアムは『騎士の力』本人であるバラムに問うが、いつまで経っても返事をする気配がない。
 嫌な予感がしたウィリアムは、慌てて何度もバラムに声を掛けるが一切反応がなかった。
 ならば“巫女様”に聞くしかないだろうと、顔を上げて彼女を睨み付ける。

「“巫女様”、バラムは……『騎士の力』の声が俺の掛け声に反応しません。一体何をしたんですかッ!」
「心配なさらないでください。脳にダメージが入った為、一時的に休息を行っているだけです。『騎士の力』の声……バラムは2,3日後には目を覚まします」

 その“巫女様”の、本来なら安心するであろう笑みに嫌悪感を抱かずにはいられないウィリアム。

 当然だろう。
何の前触れも無く脳に激痛を負わされ、更には友の気を失わせたのだから。
 逆に怒りに我を忘れて“巫女様”に飛びかかったとしても、それは仕方がないレベルだ。

 無言で“巫女様”を睨み続けるウィリアムの前に、真剣な表情をしたエンテが立つと静かに目を細める。

「“巫女様”、ウィリアムを一体何から護るっつうんですか?そこんとこ、教えてくれなきゃコイツも俺も怒りを治められないっすよ」
「……えぇ、もちろん説明するつもりです」

 あくまで仕方のない行為なのだと、“巫女様”はそう告げてからブランドンに視線を向けた。

「ブランドンさん、貴方はウィリアムさんとエンテさんをここまで護衛する際に、禍族と遭遇したはずです。違いますか?」
「えぇ、その通りで御座います。ですが、今の話にどう関係が……?」

 首を傾げるブランドンに、“巫女様”は頷くと説明を始める。

「可笑しいとは思いませんでしたか、ブランドンさん?禍族というのは一ヶ月に一度出れば多いペースですわ」
「確かに、あの禍族との遭遇は少々不可解に思っておりました」

 禍族というのは一ヶ月に一度出現すれば多い方だ。
 そういうペースだったからこそ、今の今まで人間は存続し得ることが出来たのである。

 だからこそ王都に向かう途中で禍族と遭遇する……というのは本来ならば在り得ない事実。
 一ヶ月どころか半月も経っていないというのに、二度も禍族と遭遇している。
 しかも大陸のどこかに現れるのではなく“ほぼ同じ所”でだ。

 そこまで状況を整理したところで、ウィリアムはようやく理解する。

「もしかして……俺が原因ですか?」
「えぇ、大正解です」

 一度目の禍族も、二度目の禍族も“ウィリアムの近くで”出現していた。
 更に、二度目の禍族は人間が大量にいる村を目の前にしながら、敢えてウィリアムたちの方へ向かってきたのである。
 全てが偶然だと、どうして言えるのだろうか。

「貴方は『騎士の力』、その声を聞くことが出来る。それが意味するのは——」
「ま、まさか“巫女殿”……彼が?」

 汗を一筋流すライアンから出た問いに、コクリと頷く“巫女様”。
 純粋な黒の瞳がウィリアムの深緑の瞳を一直線に貫き、まるで心まで貫かれたかのような空想に襲われる。
 それほどまでに、ウィリアムを見つめる瞳は真剣なもの。

 まるで神をも思わせる雰囲気を漂わせる“巫女様”は、一呼吸を置いてウィリアムへ告げる。

「——『七色の騎士《セブンスナイト》』、その最有力候補です」




 その日、少年の運命は決まった。

1章_力求める破壊の赤 —やるべきことは— ( No.14 )
日時: 2018/07/06 16:28
名前: 清弥 (ID: LqhJqVk8)

 “巫女様”と出会って衝撃の事実を告げられてから数日後、ウィリアムとエンテは再び馬車に揺らされていた。
 フカフカのソファに全体重を乗せて寛ぐエンテは、何を思ったのか急にため息をつく。

「はぁ……」
「どうかしたか?」

 ウィリアムは、王都で数冊頂いた本から視線を外し気力の薄い彼へと向けた。

「いや、まだ信じられなくってさ。お前の事」
「……『七色の騎士《セブンスナイト》』、か」

 『七色の騎士』、セブンスナイト。
 その単語を聞いて思い出すのは、数日前の衝撃の事実を告げられた後のことである。

(“全てを終わらせる騎士”。それを為すのが『セブンスナイト』)
(ふむ、ウィリアムがそのような存在と成り得る者とは、我も思わんかった)

 内心で“巫女様”に告げられた言葉を復唱するウィリアムに、二日ほど前に目覚めたバラムはそう感嘆を漏らした。
 一般の庶民が“全てを終わらせる”……つまり禍族や魔族との戦いの終止符を打てる存在になれる可能性があると言われれば、誰でも驚くだろう。

(『セブンスナイト』について、お前は本当に何も知らないのか?バラム)
(記憶を辿ってみたがそんな単語は見知らぬよ)

『騎士の力』として存在するバラムならば、恐らく知っているのだろうとウィリアムは何度目かの問いをするが、反応は拒否。
 声色や雰囲気から、それが本当なのだとウィリアムは悟る。

「あの“巫女様”、『セブンスナイト』について時が来たら教えるなんて言ってたけど、本当に教えてくれるのかね」

 どうやらエンテはウィリアムの脳にいきなり激痛を負わせた“巫女様”を、多少なりとも敵対視しているようだった。
 正直、ウィリアム自身もその疑問には賛成気味である。
 何ともあの“巫女様”からは、非常に深い隠し事の気配がチラホラしており、心から信頼することは到底無理だろう。

「けど、“巫女様”がしたことは間違っては無いだろう?信頼する必要はないけど、敵対視までしなくていいんじゃないか?」

 脳に激痛を負わせる形となってしまったが、“巫女様”は結果的にかなり有能なことをしたのである。
 それは禍族が短い周期で出現したことや、禍族の目標がすぐさまウィリアムに固定されたことにも大きな関わることだ。

「確かに、“巫女様”はお前の“力の漏れ”って奴を沈めてくれたけどよ」

 ウィリアムの近くにすぐ禍族が現れ、禍族がすぐウィリアムを狙っていた原因は、“力の漏れ”だったらしい。
 『セブンスナイト』としての“素質”を持つ力が抑えきれず、体の至るところから漏れ出していた結果として禍族を招いていたのだ。
 “巫女様”が行ったのは根本的原因である“力の漏れ”の鎮めであり、それにより禍族が異常に出現することもなくなる。

「おーい、お前らの町に戻ってきたぞ。明日には出発するからな」
「わかりました……!」
「うっす!」

 従者席にて馬を操っていたブランドンの声に、ウィリアムとエンテは窓を開けて町を見渡す。
 視界には自分が生きてきた町が映った。

「護りたいのなら、強くおなりなさい」

 そう呟いた“巫女様”の言葉を思い出して、ウィリアムは無意識に拳を握りしめる。
 目の前に広がる第二の故郷、そこを……そして全ての人々を護る為に、ウィリアムは強く在らねばならないのだ。
 だからこそ、ウィリアムとエンテはブランドンに着いていくことにしたのである。

(『赤の騎士』……ブランドンさんが担当する区画にて、彼から直接指導を受ける事)
(合理的な判断だな)

 『騎士』として強く在りたいのなら、『騎士』に教わるのが一番。
 どうしても、今のウィリアムの力では禍族を倒すことは確実性に欠けてしまうのだ。
 身体能力が高く特殊な武具を身に着けているとはいえ、技術や経験は素人そのものであり、他の『騎士』との圧倒的な差である。

「たまたまと言え、ここにこんなに早く戻ってこられるとは思わなかったぜ」
「ブランドンさんが住む町はここを通り過ぎたしばらく先だし。……嫌か?」
「全然、逆にうれしいくらいだ」

 エンテもすぐにまた故郷を見れるのは嬉しいのか、強気な顔に付いている頬を緩ませた。
 特にエンテはこの町出身なので、余計に感慨深いことだろう。
 そう——

「……あぁ。親父の墓、掃除していかないとな」
「————」

 ——“肉親の居場所さえ知らぬ”ウィリアムよりも、ずっと……ずっと。

 故郷に帰る二人の表情は、どちらも暗めの表情を浮かべていた。
 ただ、その宿す意味は全くの別物だったけれど。




 気が付けば一日が過ぎていたようにウィリアムは思う。
 自身を良くしてくれたバロンさんを筆頭に多くの方たちに再会し、『騎士』として役目を担うのだと決意した、それだけは明確に覚えている。
 けれどそれからは何を思って、何をしていたのだろうか。

 “懐かしい”感覚にウィリアムは儚く微笑むと、第二の故郷である町が遠ざかっていく様を見つめた。

(やっぱり、何も感じないよな)
(……?どうしたというのだウィリアムよ)

 心配でもしてくれたのか、バラムがウィリアムに問うが静かに彼は首を横に振る。
 何でもないのだと、そう告げるように。

「なぁ、ウィリアム」
「え、あ……うん。どした?」

 浅い海に溺れていたかのように、意識が朦朧としていたウィリアムを引き戻したのはエンテ。
 彼の明るい茶色の瞳は、静かに行く先の遥か先を見つめていた。

「この先に、魔族がいるんだよな」
「あぁ。俺たち人間の第二の敵……魔族がこの遥か彼方にいるはず」

 禍族とはまた別勢力の敵、それが魔族。
 人間と同じように意志を持ち、人間と同じように生きる人種だ。
 けれど、唯一違う点を挙げるとすれば——

「ただの戦士が『騎士』に対抗できる、恐ろしい存在だ」

 ——戦士一人一人が常人を遥かに凌駕する力を持っていることだろう。
 その分繁殖力が低いようで戦力が少ないのがせめてもの救いであり、今現在『紫の騎士』一人の力で押さえつけている状態だ。

「『セブンスナイト』なら魔族も全部倒すなんて……そんな儚い妄想、描いても良いのか」
「分からない」

 エンテの言葉に、ウィリアムは首を小さく横に振る。
 “全てを終わらせる”ということは、つまり禍族と魔族の問題を解決できるということだ。
 けど、その“問題の解決”が“全て倒す”とは到底ウィリアムには思えない。

 何もわからないウィリアムは、けれど一つだけわかることがあった。

「今は唯、強くなろう。きっと努力を続けた先に、答えは待っているはずだから」
「……あぁ、そうだな」

 今あれやこれやと考えても何も始まらない。
 ただ強く在ろうとガムシャラに、一直線に進むことがなにより大事なのだとウィリアムは思う。
 全てを護り切れば、全てを解決できる糸口は掴めるはずだ。

(皆を護る為にも、俺は強くなりたい)
(何をするにも力をつけてから、だなウィリアムよ)

 何もわからない現状。
 誰もわからない未来。
 いや、もし誰かが未来をわかっていたとしても構わない。

 ウィリアムに出来るのは、ただ人々を護ることだけなのだから。
 それが彼のやるべきこと。

 未だ願う未来は遠い。


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