複雑・ファジー小説
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- ジルク【キャラ募集中】
- 日時: 2021/05/02 21:17
- 名前: おまさ (ID: EmSHr2md)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1260
どうも、初めましての方は初めまして。セイカゲからの方はこんにちは、おまさです。
今回は、SF的な作品が書きたくてスレ立てさせて頂きました。この作品は、皆様と一緒に作っていきたいのでキャラ募集をします。リクエスト掲示板の方に関連スレを立てましたので、そちらにキャラ情報を投稿していただければその中から選抜して作品に登場させたいと考えています。(詳しくは関連スレへGO)
あ、ちなみに関連スレは上のリンクから行けます。
世界設定などは本編の方で触れますのでご了承下さい。
なお、本スレは感想など受け付けておりますが、ここに投稿したキャラクターリクエストは受理しないと思ってください。
また、スレッドを荒らすような真似は絶対にしないでください。宜しくお願いします。
では、本編どうぞ!
****
2021年5月2日をもちまして、当作品の執筆を終了させて頂きました。ご愛読ありがとうございました。
なおそれに伴い、スレッドをロックさせていただきます。
カキコ引退の旨に関しまして、雑誌掲示板にてご説明させて頂いておりますのでそちらを参考に。
****
もくじ
(最新更新:>>28) (関連イラスト:>>18) (一気読み用:>>01-)
1話:逢瀬 >>1
2話:外出はパーカーと共に >>3
3話:アフレイド・オブ >>4
4話:オムカエ >>5
5話:ファン・トゥ・ドリフト >>6
6話:羅刹 >>7
7話:偽善の形 >>8
8話:アネサマ >>9
9話:王子 >>10
10話:velvet >>11
11話:Raison d'etre >>14
12話:傲慢 >>15
13話:捕捉 >>16
14話:神ヲ驕ル者 >>17
15話:冷たい感触 >>19
16話:ふぉーてぃーせぶん >>20
17話:ばけもののすがた >>21
EX:前日譚1(上)「16年前の雲の上で」 >>22
18話:オマエヲコロス >>23
19話:天誅 >>24
20話:ダンシング・クラウン >>25
EX:書き下ろし短編「An another automata(with its sarcasm)」>>26-27
21話:デスティネーション >>28
- 20話 ( No.25 )
- 日時: 2020/08/30 18:45
- 名前: おまさ (ID: Yo35knHD)
1
わけが、わからなかった。
何故、イオトはこんな状態なのか。何故、目の前の50系機構人形が競合区域に立っているのか。
眼前の〈M-53GL-B〉はさも愉快そうに肩を揺らして笑っている。
「な、んで………貴方が…」
「這う這うの体で聞くことがそれ? もうちょっと有意義な情報交換をしようよ」
「茶化さないで、ください。私は……、」
「つくづく変わってるよね、43って」
「………。」
53はそこで一旦区切りをつけて、再び口を開いた。
「まぁ詳しい話は“上”で聞けるはずさ。少なくとも僕は話さない。話さない権利は、僕にあるはずだよ」
「……ま、た、そうやって……有耶無耶にする気じゃ」
「君が僕に信用を置いてないのは分かったよ。……まぁでも、この後僕が何をするのか大体想像はつくはずさ」
前置きし、果たして53はーー揶揄うように頬を歪めた。
「イオト君の身柄は僕が預かる。ついでに、『天使』ちゃんも連れて帰る。ーーー予想の範疇だろ、“シザ”?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
けれど思考が理解に結実した瞬間に湧き上がったのはーーー困惑と、それを上回る憤怒だ。
「その名前で……私を呼ぶなぁ………っ!!」
半ば崩壊した喉を酷使して吠える。咆哮する。
それほどまでに、相手は私の内側をーー致命的なまでに踏み躙ったのだ。
「よりによって、貴方が……お前が! 無粋に私の中に踏み込んでくるな! ……彼を、馬鹿にするなぁ!!」
怒りに睨めつけるも、53は涼しい顔をしてそれを流した。
「正しい判断だ。今のは明らかに、悪意をもって君を揶揄ったからね。怒って当然」
「っ……!」
感じた怒りは掴みかかりたくなるくらいのものだった。潰えた身体は、動かすことすらままならないけれど。
遣りどころのなくなった感情を奥歯で噛み潰した。
「まぁともあれ、この少年のことは心配要らないさ。………実際のところ、僕も興味がある」
「……興味?」
やや不機嫌な声音で応じるが、私の中の本音は先程から変わっていなかった。否、「本音」というよりかは「疑問」の方が言葉的には正しいか。
ーー何故、この機構人形は知り得ないことをも知り得ているのか、というのが私が抱いた疑問だ。
先程私を揶揄った際、その悪意が際立っていたのは「当人しか知り得ないこと」を見抜いた上で相手の怒りを煽るような言動をしたからだ。思い返せば、私の怒りの内にも「知らないはずのこと」を的確に言い当てられる気味悪さが確かにあるように思えたが。
応じた私に、53は「ああ」と愉快そうに腕を組んだ。
「当然、興味さ。ーーー君の『死』、つまり君の中の救いの礎が崩れた今、仮に君と再開したときこの少年はどんな解答をするのか。僕は、それが見たいんだよ」
「……私の…礎……?」
言っていることの、意味が分からない。
分からないことだらけだ。53が何を言っているのか。情を持たぬはずの『天使』が何故、これほどイオトに身を捧げているのか。何故、そもそもイオトは重傷なのか。
……何故私はあのときーーー「守りたい」と思えたのか。
そんな私の思考の煩悶はついぞ知らず、53は気持ちを入れ替えるように息を吐いた。
「まぁ、それだけが理由の全てじゃないけどね」
「……53、何の、話を……」
「イオトくんの怪我に対して、失態とはいえ僕はいわば加害者だ。謗られる覚悟はあるし……責任はくらいは負うさ」
「責任……? 本当に何が、」
口に出しかけ、気付く。この男が持てる能力と、……イオトの重傷の原因について。
再び、燻っていた怒りが再燃する。
「……お前が…お前は! どれだけ私を掻き乱す!? どれだけ私を怒らせれば気が済む!? 責任? ふざけろ。心底、反吐が出る!!」
「カッカするなよ。だから言っただろ? 失態だったんだって。僕は意図してイオトくんに、こんな傷を負わせたわけじゃない。それに、あそこで僕が〈オスティム〉を嗾けなければ……本当に彼は死んでしまっていた筈だよ?」
「御託はもういい! さっきから、何の話を!」
「ーーー君の妹が、イオトくんを殺そうとしていたって話だよ」
「っ!?」
一瞬、何を言われたのか分からない。頭が真っ白に染まった。
53は続ける。
「無慈悲な現実を繰り返そうか。ーー47は、イオトくんを抹殺しようとしていた。だから僕は魔獣たちを誑かし、47の蛮行を阻止した。イオトくんが、僕が〈オスティム〉は引き上げさせる前に群れから脱出しようとしたから、〈オスティム〉は興奮して制御不能に陥り、彼は重傷を負ったわけだけど」
「つまり……47は、少将に与している、ということですか……!?」
「否定はできないけど、肯定するにも判断材料が足りない。詳しい話は少佐に伺いなよ」
またも蚊帳の外にされる感覚に、無力を噛みしめ奥歯を噛む。そんな私を余所に、53はイオト右肩に担ぎ、『天使』の残骸を左腕で掴んだ。
「そんなわけで、イオトくんには時間がない。僕はこれにてお暇するよ。報告は入れておく」
「ーー。………私は、」
「……うん?」
『天使』を引き摺って立ち去ろうとしていた53は、私の掠れ声に振り返る。
「……ひとまず、イオトは貴方に託します。…けれど、私は貴方を……お前を、許しません」
「ああ、そうかい。 “上”で会えたら、次の君に謝っておくよ」
言い残し、三歩ほど歩いたところで再び、53は足を止めた。
「……いや、一つ大事な事を忘れてたよ」
ーーー振り返ったその手に握られている拳銃で、何をする気なのか分かった。
私の頭蓋に銃口が向けられる。
アンドロイドには必ず、拳銃が装備される。
自衛用のものではない。ちっぽけな拳銃は〈オスティム〉の殆どに無効だ。
これはきっとーー介錯用なのだろう。
死して屍の山を築くことのみが機構人形の存在理由。けれどその中で生き残ってしまった機構人形に、意味を持たせるために。
「きちんと死んどけーーーー死に損ない」
撃発は3回。
3発の9ミリパラベラム弾が頭蓋をぶち抜き、脳髄を掻き回す。脳漿が漏れ、シナプスが引き裂かれ、『死』に陵辱される感覚。
刹那、覚えていたい少年の名前が過ぎるーーその前に脳が死ぬ。
ーーー砂が吹き付ける砂漠には、哀れな骸すらも残らない。
*****
ハイペースで進んでおります、本編ルート。今回はちょっと文字数少なめだけど。
……ま、まぁ文字数少ない方が読みやすいしね!
本文中で53が言及している「礎」という言葉、よく覚えておいてください。
- 書き下ろし短編 ( No.26 )
- 日時: 2020/11/08 13:06
- 名前: おまさ (ID: RV.2lxzs)
お久しぶりです。2ヶ月近く更新できずすみません!
本編かと期待した皆様には申し訳ありませんが、ヨモツカミ様主催の「みんなでつくる短編集」にて公開したジルクの短編を投下します。
「ジルク」の世界観における、いつもと少し違った視点のお話、お楽しみ頂ければ。
***********
題名:「An another automata(with its sarcasm)」
ごうごうと、砂嵐が唸っている。
嫌になるくらいの赤砂に塗れた地表。緑も文明もひとしく枯れ果てたその砂漠には、夜風とともに黄昏の帷が訪れてきていた。
日没後の砂漠は氷点下にもなる過酷な土地だ。だから、こんな時間に砂丘を出歩くのは余程の馬鹿か———それ以外。
白磁の玉肌、霓裳の如き煌めきの銀髪。静観するような凪の瞳。小柄で華奢なその美貌は作り物めいているが、どこか婉然とした雰囲気すらも滲ませる。
陽が落ちた砂丘に佇む機構少女〈M-44GN7〉は、目を眇めていた。
「———戦隊各位、応答なし………ボクだけ残っちゃったか」
あたかもお菓子を食べ残してしまったような、そんな声音の呟きだった。
「まいっか。とりあえずポッドまで戻ろっかな。……まったく、47はどこに行ったんだか」
こんな時に限って音信不通の探査型機に恨み言をぼやきつつ、怖いくらいに静かな砂丘を歩き出そうとした時だった。
「あれ……」
ふと、聴覚センサが辛うじて何かを拾った。それを頼りに歩を進める。砂丘の稜線に沿って晦の夜帷を歩いてゆくと、その音の正体が見えてきた。警戒しつつ、砂丘から様子を窺う。
「——、」
あれは———剣戟と、果たしてそう呼んでいいのだろうか。
人影が得物を手に、宵闇を……否、何かを斬り伏せようとしている。
機敏な動きで相手を翻弄するあれは、ひょっとして〈オスティム〉か。大型種ではないけれど、成人男性の身長ほどある体軀は人間にとっては十分に脅威だ。
《視認対象を雷槍駆逐型と断定》
「——っ……!」
インターフェースにブリップが灯るや否や反射的に吶喊しようとする、戦闘機械としての本能をどうにか抑え、〈M-44GN7〉はその戦闘を暫し傍観する。
人影——少年の戦い方は、酷く無様だった。得物の構え方も様になっていないし、一閃の度に剣に振られているような動きが目立つ。技ではなく、力で無理くりねじ伏せるような闘い方。
振って、打ち合って、殴って、抉って、払って、割いて、斬って、躱して。
少年は異様なほど〈オスティム〉に執着していた。相手との間合いを図るような真似はせ
ず、徹底して肉薄してゆく。
けれど、……猪突猛進は時として、ただの蛮勇に成り果てる。
雷槍駆逐型がけたたましく咆哮する。刹那動きが止まったそれに、我が意を得たりと少年が斬りかかる。
〈オスティム〉はぶるりと身を震撼させるや否や、凭れさせていた槍のような部位を持ち上げた。カウンターで仕掛けるつもりか。
故意か、それとも化物としての本能か。〈オスティム〉の体で死角になっていて、少年にはその「槍」が見えない。
———駑馬風情が、衒うな。
そう言いたげな一撃が、少年の心の臓を縦貫する。
……断じて、否。
両者の間に入ったのは、戦場にそぐわぬあまりに脆そうな痩躯。けれどその体軀は、戦闘に最適化されたものだ。
槍柄を横から殴り、〈M-44GN7〉は相対する〈オスティム〉の刺突の位置を逸らし槍撃を回避。呆気に取られる少年を尻目に、幾つかの急所に指で刺突を与える。絶叫が上がる。
間髪入れず、〈M-44GN7〉は背負っていたガンケースを一旦パージし、ケースから飛び出した無骨な狙撃銃を構えた。
——初弾装填。
撃発。
.338口径の自動式狙撃銃がけたたましい爆音で咆哮。貫通力の高い完全被甲弾は1000メートル毎秒超過の初速を以て大気を縦貫、至近距離で放たれた射撃の、ほぼ減衰されていない運動エネルギーが発砲と殆ど同時に〈オスティム〉の頭蓋と脳髄を食い破る。〈オスティム〉の血潮が大地に篝花を描き、怪物は四肢を震わせて沈黙した。
「一件落着……って、」
「ッ……」
一息つこうとしたが何故だろう。少年はあろうことか、機構少女に刃を向けていた。その形相は、先程〈オスティム〉に執着していた時よりも怒りや屈辱の色が濃い。……怯えも、少々。
思わず、問うた。
「ボク、いま君を助けたはずだけれど」
「——黙れよ、紛い物」
「へぇ、言うね?」
純粋に少し驚いたその反応を、少年は嘲弄と受け取ったようだ。けれど少年には、機構人形相手に掴みかかるといった度胸もないようで、ただ唇を噛むだけに留まった。
錆びたなまくらを構える少年と間合いを保ちつつ対峙していると、少年が口を開いた。
「……訊きたい、ことがある」
「何?」
「———。俺は、アンタらアンドロイドがこいつらと戦ってるところを見たことがある」
少年は、かつて見たある情景を回想していた。それは戦塵と爆轟、砂塵が入り乱れる戦場。そしてそこに吶喊するのは、華奢な少女の姿を模した戦闘機械たち。
彼女らは何の未練も執着もなく、笑いながら砂丘に散っていって。……いっそ悪夢のような光景はけれど、現実のもので。
「壊れ果てて、それでも戦って、戦い続けて。アンタらは何で、戦ってるんだ?」
味方が潰えても戦かず、自らの生にも執着しない。挙句には自爆すら厭わないその姿勢は、なるほど戦士としては赫々たる武勲を挙げるも道理であろう。
けれど、その在り方を———人間のちっぽけな倫理観が、許容できない。
彼女らが作られた存在であることは理解しているつもりだが、また同時に感情と自我を持っていることも知っている。だから尚更に、彼女らの在り方が歪に見えるのだろう。
〈M-44GN7〉は少し考えた後、首を傾げた。
「何でって……そりゃ、ボクはそのための存在だから」
「……そんな寂しい自己定義を、アンタらは容れられるのか?」
「できるできないの話じゃないよ。ボクたちは、そういう明確な目的を以て造られたんだから」
肩をすくめ、〈M-44GN7〉は「じゃあさ、」と首を傾げた。
「君はさっき、何で〈オスティム〉なんかと戦ってたの? いくらなんでも無謀だよ」
「———。それは、人間風情が戦場にしゃしゃり出るなってことか?」
「そうだよ?」
「………っ、」
兵器というものは、古来から人間の道具だ。
けれど、攻撃力を追求するあまり、いつしか兵器はひとのからだを痛めつけるものになり、……戦場においては脆弱なひとの体など、むしろ邪魔になるようになった。
きっとそんなことは、当の人間が最もわかっているはずだ。
それでもなお、戦場から離れないのは。
「俺が…………俺が、コイツらと闘うのは、それが誇りだからだ」
「………誇り?」
「俺は孤児だった。地上では珍しくはないけれど、気付いたら砂の上で寝てた。それからはいろんな人に世話んなった。飯を装ってもらったこともあった。寝床も分けてもらった」
「………。」
「でも11の夜に思ったんだよ。———与えられるだけの人生に媚びて、何の意味があるのかって」
人間とは、万物に意味を求める獣の名である。たとえそれが意味のない命題であっても、意味を確認しない限り、ヒトはその存在を認めない。
だから。
「こうして闘ってるのは……うまく言えないけれど、多分存在証明なんだと思う」
「……でも、闘って散る以外にも存在証明の方法があるとボクは思うけど」
「安寧に溺れたくない。———与えられた平穏を貪る、無様な豚に成り下がってたまるものか」
少年は言い切る。
仮に魂を散らそうとも、不侵の高邁さは躪らせまいと。
「……無様?」
小鳥の囀るような声だった。
機構少女は、くつくつと肩を揺らして哄笑している。
「無様、かぁ。……よりにもよって、そんな下らない理由で。そっかぁ」
そして———、
「お前なんか、生きてるくせに」
- Re: ジルク書き下ろし短編 ( No.27 )
- 日時: 2020/11/14 16:03
- 名前: おまさ (ID: RV.2lxzs)
「お前なんか、生きてるくせに」
弾けるような微笑みに含んだ声音だった。
そのくせ、どろりとした渇望と怨嗟に塗れた声音だった。
白銀の双眸に羨望と憎悪を滾らせ機構少女は嗤う。……心底羨むように。嫉妬するように。
「本当は、君はそんなこと望んでないんじゃないの? 本当は、自分の存在なんて判らないんじゃないの?」
「そ、れは……」
「判らないのが嫌で、自棄になってるんじゃないの? ———そうやって君は思考停止の末に、せっかくの命をかなぐり捨てようとしてるんじゃないの?」
後半は嫉妬を通り越して侮蔑も滲むような嗤笑を以て、機構少女は少年を糾弾——否、啓蒙している。
「その歪んだ価値観、いちど撓めた方が君のためだよ。そんな生き方は、あまりにも勿体ない」
自分にはない「命」というものを持っているのに。 それを、……あろうことか投げ捨てようとは。
よくも、ぬけぬけと。
命の容れ物であるヒトが、模造品に過ぎない偽物に命の価値を問われるとは、まさしく皮肉と呼んでいいものだ。
「……お、れは、死にたくは、ない。死にたいとは、思って、ない!!」
「けど、生きていたいとも思わないんでしょ? ———それはもう、死んでることと同じだよ」
「っ!?」
生きる意味なんて、ない。
生物には本来、そんな命題に答える余裕などない。ただ、生きるのに必死なだけだ。生命の樹形図の延長線上にいるヒトの生にもまた、意味などという高尚なものはない。
故に、ヒトを生かすものがあるとするなら———ヒトはそれを、「目的」と呼ぶ。
人生における「目的」は人によって千差万別だが、人類という種の観点からすれば「目的」は共通する。
……そう。
浮世に生きとする者は——たとえ蟭螟であっても——生まれ落ちたその瞬間から、「死」に向かって生きている。誰しもが例外なく、死ぬために生きている。
そしてその誰しもが例外なく、生への執着を持って生きている。それらの執着がなくなることがもしあるとすれば、それは命が潰えたとき。
だから、生きていたいと思わなくなったことは、『死』んでいることと同義なのである。
「———」
一瞥を向けた先、少年は呆然とした面色で、構えていた得物をゆっくりと下げていた。
「……あーあ、今回はこんな幕引きか」
聴覚センサに微かな反応があり、〈M-44GN7〉は後方に目線を向ける。
見れば、〈オスティム〉が唸りながらじりじりと迫ってくる。兎ほどの大きさの小柄な〈オスティム〉だが、群れているそれらが一斉に飛びかかれば、アンドロイドとて無事では済まない。
群れのうちの一頭がぴくりと耳らしき部位を動かした瞬間、白群の〈オスティム〉は牙を鳴らして吶喊した。
一頭が〈M-44GN7〉の臀部に食らいつく。
《警告》
《大腿部アクチュエーター大破》
《N9バイパス破損。したがってこれを破棄。以降はG12バイパスへ流動切替》
《第108から112番疑似神経回路、断裂》
インターフェースに警告の文字が、やけに喧しく表示される。
構わず、少年に向き直った。少年は、人型のものが目の前で喰まれるという現実感のない構図に呆然とするほかにない様子だった。
「君は、ボクたちみたいにならなくていい」
《警告》
《インタークーラーに亀裂発生》
《冷却液浸水》
「君は生きてる。 生きているのなら、希望はあるよ。……だって、」
《警告》
《機体の損傷過度により当機体を破《警告》
《警告》《警告》《警告》《警告》《警告》《警《警告》《警《警告》《警《警《警《警告》………。
「生きているんだから。 だから君は、ボクらみたいにならなくていい。……そんな生き方、命が勿体ないよ」
神の理に反した紛い物であるアンドロイド。その存在意義は死して屍を積み上げることだ。紛い物の命だからこそそれができて、………それしかできないから。
本物の命を持つ人間は、色んな存在証明ができる器用さを持っているから。
だからもっと、「生きて」ほしい。
インターフェイスが警告で埋め尽くされるのも構わずに、〈M-44GN7〉は花が咲くように微笑った。
「生きて」
そのまま、機構少女は地面に転がった。
少女の左脚は根元から千切れ、右腕は関節の数が倍になっていた。
視力は死んだ。鼓膜も既に残っていないけれど、金属製の骨盤が脊骨から外れる音がした。
右脚の根元から入った牙は、眼窩から侵入した牙と体内でぶつかり、そのまま横へ横へと機械仕掛けの臓腑を喰い荒らしながら進む。
声帯とともに脳髄が引き抜かれ、下垂体にも亀裂が走る。
最後に、残った綺麗な顔の皮が剥がされ、頭蓋に爪が迫り、そのまま『死』に陵辱される。
…刹那。
少女の骸が青白く発光したかと思った次の瞬間、——少年の網膜を暴力的な白光が灼いた。
自爆。
至近距離での爆発に少年は吹き飛ばされ、砂の上を転がった。次いで耳朶を殴る爆発音と、ぴりぴりと産毛を焦がすような熱が殺到する。
その衝撃波と爆風を至近距離で浴びた〈オスティム〉は当然無事では済まない。抉れ出た内臓は爛れ、色々欠け落ちた魂の抜け殻だけが残った。
当然だが、機構少女「だったもの」は爆散し、完全に沈黙。
———最期まで、その頬を微笑に歪めたまま、機構少女は砂に斃れた。
*****
〈オスティム〉に覆い隠されて見えなくなるまで微笑を保っていたアンドロイド。しだいに夜風がさらってきた砂に犯されてゆくその骸を少年は見ていた。
「…………、」
気付けば、いつの間にか剣を取り落としていた。砂に落ちた得物を拾い上げようと手を伸ばして、そこでふと伸ばした手を止める。
『生きて』
……自分は、思考停止の末に生きることを諦めたのだろうか。闘っているのは、もし命を落としてもそれが戦闘に依るものだと言い訳できるからなのか。
それは判らない。けれどもし、先のアンドロイドが語ったもの——戦う以外に、自分の存在を確定できるものがあるとするならば。言い訳を考えて死ぬよりも遥かに綺麗な生き方ができると思った。
それに。
戦い続け、戦うために余計なものの一切を切り捨てた果ての姿がアンドロイドなのだとしたら。
……あんな。
『お前なんか、生きてるくせに』
あんな姿に成り果てるのは———どうしても容れられなかった。
少年は、剣柄に伸ばしかけた手を引き、晦の暗い砂漠を歩き出した。砂地を歩くのは慣れているはずなのにその足取りはどこか拙い。
この先、自分がどこに歩いてゆくのかはわからない。そんな不安もあった。
ただ、戦い抜いたその先で羅刹のように笑うのは嫌なのだと。
———そんなささやかな主張を見届けるはずの月も、晦の今宵に限りいなかった。
《了》
******
ちょっと専門用語(主に銃)があったので注釈をば。
・砂漠
夜になると寒くなるのは、植物など地中の熱を遮るものがないため、熱が大気中に放出されやすいから。あと、砂漠=砂丘みたいなイメージがありますが、世界の砂漠の大半はネバダ州の砂漠みたいに岩盤が露出してるタイプです。因みに、作中で出てくる砂漠はナミブ砂漠を意識してます。
・338口径が〜
実在する90年代のライフル用弾。飛距離は結構いい。.338ラプア・マグナム弾のバリエーションのうち.338口径 ロックベース B408が完全被甲弾ですね。
作中の時代背景に合ってない気がするけれど。
・フルメタルジャケット(FMJ)
微笑みデブは関係ないです。
完全被甲弾……つまり、弾を完全に硬い金属で覆った銃弾です。普通の弾は鉛でできているので着弾した時に潰れてかなり甚大な被害を出すので、陸戦条約でFMJを使うように定められてたり。徹甲弾(APSS)も似たようなものですが、あちらはタングステン鋼で弾を覆ってます。
長文失礼しました。そして更新遅れてすみません。
- 21話 ( No.28 )
- 日時: 2020/12/14 20:10
- 名前: おまさ (ID: 5cM7.Mt8)
1
「———」
誰かが呼んでいるような気がして、目を開けた。
知らない天井だった。真っ白で、なおかつ見たことがないような青白い灯が灯っている。
体重を預けている寝台も、柔らかいのか硬いのか、とにかく体験したことがないような快適な寝心地だった。
ぼんやりとした意識のまま体を起こす。
寝起きで誰もがそうするように、終身前の記憶を辿り———、
——掌を喰いちぎられたことを思い出したイオトは、はっとして思わず掌を見た。
息を詰めて見れば、指が欠損していた筈だった左掌には、見たこともない金属で作られた義指が二つ嵌めてあった。軽く動かしてみると、その機械仕掛けの指は思い通りに動く。
「……ぇ、」
無事だったことへの安堵や指を失った喪失感よりも、無事でいたことの困惑の色が強い。
だって本当ならば、イオトはあの場で散っていたはずなのだ。他の誰にも看取られることなく——否、一人だけイオトの最期を見るはずだった人物がいた。
「シザ……」
その名を口にして、けれど残るのは激しい罪悪感と自嘲だった。
思い出すのは卒倒する寸前の光景だ。暗転してゆく視界、そこに映り込んだ短髪のシザ。
あのあと、シザはどうしたんだろうか。……どうもしないだろう。シザは多分、イオトのことを覚えていない。それなのに、そんな彼女に淡い期待を抱いている自分の方こそ、どうかしていると思った。
そう、どうかしている。
自分でも本当にそう思う。どうかしているのだ。……欠けているのだ、自分は。きっと何かを掛け違えていて、だから論理が矛盾だらけなのだろう。
そんな歪んだ論理観でしか物事を捉えられないから「怪物」と揶揄されるのだろう。
……逢瀬を望んだのは、イオト自身が「機構人形としてのシザ」に会いたかったからなのか。己の厚顔無恥と傲慢さは痛いほど自覚したけれど、真に逢瀬を望む理由は未だに掴めずにいた。
もし仮に自分が機構人形としてのシザを求めているなら、それは彼女の名の、矜持の、魂の価値を否定するということだ。
けれど———彼女の名の価値を否定するのなら、そもそもイオトは彼女に名前を捧げないはずなのだ。
イオトは、彼女のことを「紛い物の人形」だと無意識のうちに認識していた。
ただ、彼女らが感情を持っているということは分かっている。分かっているからこそ、無意識のうちに認識していたこととの歪な乖離があって。
何が本当なのか、分からない。考えれば考えるだけ余計に分からなくなる。
——否。
これは考えてはいけないことだ。
だってもし考え至ったら、己の価値観が変わってしまうかもしれなくて。……そのことが酷く、恐ろしくて。
怖い。そうだ。……だから、仕方ない。
頭を振ってイオトはタオルケットから抜け出し、寝台の縁に腰掛けた。
やや重い頭を持ち上げると、視界に飛び込んできたのは白い部屋だ。壁や床は金属でもコンクリートでもない素材でできていて、そのどれもが白磁の花瓶よりも色白だった。
その白一色の部屋の中心にぽつんと置かれた寝台から立ち上がる。意識は病み上がりのように少しぼんやりとしていた。
ぺたぺたと裸足のまま部屋の壁まで歩くと、ぷしゅうと空気の抜ける音がして、壁の一部が上へスライドした。
(これ……扉、か……?)
少々恐々としながらも、イオトは開いた扉の外——仄暗く冷たい金属製の廊下とへ足を滑らせる。
部屋の出口から廊下の先を覗き見たところで、イオトは廊下の先に見えたものに目を奪われた。
それは蒼くて荘厳で、なおかつイオトが見たことのない壮大さの。
……そう。
「———惑星……!」
蒼々とした中に砂漠の朱色が混じる雄大な惑星が、こちらを見上げていた。
2
自分は今、惑星の外にいる。
自分は今、惑星を見下ろす位置にいる。
ならばここは———、
「……〈ジルク〉の、中」
そう口に出して噛み締めてみればなるほど、この金属製の廊下にも納得だ。砂漠に育ったイオトにとって風音のない空間は異質でどうにも落ち着かないが、それよりも気になることがあった。
「ここが〈ジルク〉なら……一体誰が、オレをここまで運んできたんだ?」
イオトにとっての最後の記憶は、己の血と罪に溺れながら砂に沈んだ場面だ。そこから目覚めれば、唐突に病室と思しき場所で目覚めている。おまけに傷は塞がり、若干の倦怠感すらあるが左手には義指が嵌められているし、体も洗われたのか右掌にこびりついた泥や砂もきれいになっている状況だ。———これはもはや、イオトを治療するためにジルクに運ばれたと考えて自然ではなかろうか。
現状、イオトが関わった〈ジルク〉所縁の存在は2つしかない。そのうち片方は殺し、もう片方はきっと、イオトの存在を忘れている。
したがって、その二人以外の存在がイオトをここまで運んできたと、そう考えるのが自然だが、当然ながらイオトには思い当たる節がない。二人以外に、イオトを知る〈ジルク〉の存在はないのだから。
そのことを今考えていても詮無いことと悟ったイオトは暫し、考察に沈む。
誰がここに自分を招いたのかは置いておいて、目的がイオトの治療だけであるならば、その目的は既に達成したといえよう。……では、その後は?
治療を終えた後、イオトは地上に送還されるか———あるいは。
前者はまずあり得ないだろう。〈ジルク〉側が地の民草一人にわざわざ干渉する義理も理屈もない。しかし、そのまま此処に留まるとあらば話は別だ。おそらくは治療以外にも何かしらの目的を持ってイオトを招集したのであろう。
———〈ジルク〉に留まるという機会を、うまく使えないだろうか?
「………?」
ふと、そんな風な感慨を抱いた自分に、イオトは当惑した。
ひょっとして、未だシザとの逢瀬を望むのか。望むのは———考えるのは怖いと、思ったのではなかったのか。
一体自分は、何を考えている?
何故彼女に逢いたいのか。いや、そもそもの話、本当に自分は再会を望んでいるのか……?第一、何が自分をそこまで動かしている?
解らない。判らない。わからない。
怖い、と思ったのは多分、わからないということへの恐怖なのだろう。望み考え、その果てに自分が変わってしまうかもしれないという恐怖とは別に、無理解によって歩く道が見えなくなることの恐怖が今、胸の奥から滲みイオトを陵辱していて。
怖くてもそれでも、いずれは答えを出さなければならないということが判っているからこそ———逃れられないのが、この時はただただ憎かった。
……不意に。
「———何を迷ってるのかは知らないけれど」
背後、聞こえた囁くような声音に息が詰まった。硬直した身体でそれでも首を後ろへ向けたイオトは———、
「答えが出ない時はいっそ考えるのをやめるのも選択肢のひとつだと思いますよ?」
そう言って微笑む、見覚えのない桃色の髪の人物に戸惑いを覚えた。
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すいませんすいません! という感じでスライディング土下座。
超絶遅れた本編更新です。誰だよ12月は忙しくないとかフラグ立てた奴はぁ!
………。
…………。…………。
………。(ツッコミ待ちの涙目上目遣い)
- Re: ジルク【キャラ募集中】 ( No.29 )
- 日時: 2021/05/02 21:12
- 名前: おまさ (ID: EmSHr2md)
お久しぶりです。
突然の挨拶ですみませんが、当作品の連載をこれにて終了とさせて頂きます。
カキコ引退の旨は雑誌掲示板にてお話させて頂いてますんで詳しくはそちらからお願い致します。
こちらとしても未完結のまま執筆を終えるのは非常にやるせない気持ちですが、ご理解いただければ幸いです。
2年と少し、ジルクのご愛読ありがとうございました。