複雑・ファジー小説
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- 天女物語 〜愛するリラへ〜
- 日時: 2020/01/26 16:28
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「昔々あるところに漁師の若者が一人暮らしておりました。ある日浜辺で海水浴を楽しむそれはそれは美しい天女様がおりました。そして、松の木に白い羽衣が掛けてあり、つい魔が差した若者はそれを取り上げました。それに気付いた天女は若者にせがみました。お願いです。それがないと天の国には帰れないのです。どうか返してくださいと。しかし若者は俺の妻になったらいつか返してやると言い、渋々受け入れて天女は若者の妻となり、一緒にくらしました。ある日家の掃除をしていると、梁の上に何やら風呂敷が。それは紛れもなく天女の羽衣だったのです。しかし迷いました。何故なら妻となった天女は若者を愛してしまったからです。その若者は何も知らず、美しい櫛を買って天女の待つ家に帰ろうとしたら、羽衣を着た天女は泣きながら天へと舞い上がっていきましたとさ。」そんな昔話をお祖母ちゃんから聞かされた記憶を思い出しながら瀬戸耀司は、センター試験に落ちて意気消沈しながら海辺近くの実家にバスで帰っていた。まさかこれからその天女様に浜辺で出会えるとは彼自身思ってもみなかった。その天女様の名はリラ。浜辺で倒れていた17歳くらいの彼女を部屋に匿うのだが・・・彼女には意外な秘密が隠されていた。・・・意外ではないかもですね。この後謎の北都共和国工作員や陸自特殊作戦群が関わってきますから。現代の天女物語が今始まる。
- Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.23 )
- 日時: 2020/05/17 22:05
- 名前: 梶原明生 (ID: wh1ndSCQ)
…帆夏が面倒くさがる。「そう言うなよ、明日できるかわからないんだぜ。」その真野の言葉に感じる所があったのか、リラが帆夏の腕を掴んだ。「帆夏さん。やりましょう。」「おお、何してる帆夏ちゃん。青春は堪能するに限るぜ。」勝也らしい意見が出た。「ま、まぁリラちゃんがやりたいならいいけど。」趣に立ち上がる帆夏。かくしてハンテンにくるまった四人と革ジャン一人が縁側に屯した。勝也のライターを借りて次々点火していく面々。「うわーっキレイ。」たかが線香花火。されど線香花火。リラは他の誰よりも花火にうっとりした。そんな彼女の横顔を見る耀司。赤や青や黄色、緑と次々変わる花火の灯りに映える、リラの顔は彼にとって花火より美しく感じられた。「おい、何ガン見してんだよ。いや、お熱い仲で寒さなんか吹き飛んじまうくらいだぜ。」「う、うるさい真野。別に俺は…」「あれ〜、余計赤くなってないかい。」「こいつっ。」「ヒェッ、ご勘弁。」線香花火で追いかけ回す耀司。「ハハハハッ。」勝也の高笑いが響いた。「ちょっと耀司、やめなよ中学生じゃあるまいし。」「ゴメン…」帆夏の一言でドタバタは止んだ。「ほら、花火ならメインイベントはこれだ。どでかく一発。」勝也が大砲かと思う打ち上げ花火と直立型の花火を用意した。「ヒュ〜ン、ドカン。」と次々花火が打ち上がり、派手に夜空を彩った。しかしそれも束の間。花火も後は数本の線香花火となった。リラにはそれがすべての青春が終わる瞬間に思えた。「リラ、この二本で終わりだよ。点けるね。」「待って。」「え…」「この二つ、とっておきませんか。もし無事日本で暮らせる平和な時が来たら。これ、花火、やりましょう。」真摯な眼差しに耀司は応えた。「わかった。その時まで…」袋に戻して仕舞った。「さて、お開きお開き。さて、コタツに戻って残りのお菓子爆食いしようぜ。」真野が片付けながら縁側から部屋に戻る。「え〜、私いい。深夜に食べると肥るし。」グダグダしながら皆戻る。その後は典型的なトランプゲームをやり、一人、また一人と眠りについた。勝也が耀司にいよいよ核心に迫った話を始めた。「ちょっといいか。知り合いの弁護士に帰化人に詳しい人がいてな。脱北者を実際何度か帰化させた実績があるんだ。俺が紹介してやるよ。」「何から何まで本当にお世話になりっぱなしで。」「いいってそんなの。それより、リラちゃんをしっかりお前が守るんだぞ。」「はい。」勝也は彼の肩に手を…続く。
- Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.24 )
- 日時: 2020/05/21 13:07
- 名前: 梶原明生 (ID: VlfYshYD)
…置いて語りかけた。ハマーのエンジン音を吹かして家に帰る勝也。灯りを消して寝袋にくるまりながら、窓の夜空を眺める耀司。今夜は眠れそうになかった。翌日は耀司が寝坊したが、背伸びしながら庭を見たらリラと帆夏が喧嘩していた。「ちょ、ちょっと…」次に二人に笑いが沸き起こる。「空手の突きって強力ですね。」「リラちゃんだって、なかなか筋がいいよ。」拍子抜けする耀司。二人は軽くスパーリングしていただけなのだ。「あ、耀司さん。おはようございます。ご飯はできてますよ。」「え、う、うん。」呆気に取られながら台所に足を向けた。それからあっと言う間に3日が過ぎ、工作活動の日を迎えた。チ リューは工作員仲間と落ち合って話している。「いいか。予定日を2日遅れての工作だ。気を引き締めていけ。幸い今日は日曜日で、イージスアショア側が 何故 か一般見学を許可し公開した。これは我々の好機の訪れに違いない。我等祖国の土を汚す凶器など愚かな日本人に与えてはならない。」「おーっ。」工作員が一気に動きだした。リラにしても、この3日間でイージスアショア見学会参加を促す懐柔を行って、見学会専用バスに乗り込んだ。何も知らずに向かう耀司達。「皆さん、今日はイージスアショア見学会に参加いただきましてありがとうございます。我々自衛隊と国民の皆様との相互理解と必要性について知って頂ける良い機会になりますよう願っております。ではこちらへ…」迷彩服姿の広報担当官がイージスアショア内を案内する。勿論その中に数人のチ リュー率いる優秀な工作員が紛れこんでいる。地下一階まで来たところで彼等が本性を現す。リラ達がドアから入ったところで一般見学者を突き飛ばして外へ出し、ドアを閉めた。「このガキ共が死ぬぞ。兵器庫のドアを開けろ。網膜認証と暗証番号だろ、早くしろ。」リラはこの時人質役を演じる予定だったが、人質は多いに越したことはないと、彼等を巻き込んだ。いや、巻き込む以外になかったのだ。やがてすんなり暗証番号を打ち込む。「素直でなかなか宜しい。」工作員達が入り込み、後ろで拳銃を向けてる工作員一名をその拳銃を掴み、帆夏が後ろ回し蹴りで倒した。「何…」リラは耀司達を突き飛ばしてドアを閉めた。「どういうことだリラ。リラーっ。」ドアを叩いて叫ぶ耀司。「これでいいの。これで。耀司さんは逃げて。」「リラ…どういうことだ帆夏。」「私は、ただ、捕まったら後ろの工作員を始末してと言われて…」…続く
- Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.25 )
- 日時: 2020/05/24 18:57
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
・・・「そんな・・・」何も言えなくなる耀司。先ほどリラは自分を人質に取るフリした工作員から打撃技で拳銃を奪い取り、鋼鉄製のドアに背中を預けた形でその拳銃を構えていた。「り、リラ様、これは一体どういうことで。」「動くな。動けば撃つ。」混乱する工作員達とチ。リラは涙しながらドア越しの後ろに叫んだ。「こうするしかなかったの。ごめんなさい。あなた達を死なせたくない。私は始め、日本は悪い人しかいないと教育されてたの。でも、あの街並みを見て、お婆ちゃんや帆夏さん、真野さんや勝也さん、そして・・・耀司さんと出会って、そうじゃないって気付いたの。だから・・・あなたや皆と出会えてとても幸せだった。でも私は北都共和国の工作員。敵を愛した時点でこうなる運命は決まってた。あなた達だけでも逃げて。お願い。」「リラ、何言ってる。君を置いて逃げられるかよ。」「耀司、逃げよう。」帆夏が彼の腕を取る。「皆は逃げてくれ。俺は残る。」更に詰め寄ろうとした帆夏を、工作員を拘束し終えた勝也が肩を掴む。「大丈夫だこいつなら。・・・リラちゃんのこと頼んだぞ。」「はい。」気丈に答える耀司にやむなく諦める帆夏。「早く逃げてください。」外に出て、他の見学客に叫ぶ勝也達。一方その頃、対峙しているリラとチ リュー達は膠着状態が続いていた。「リラ様はご乱心になっただけなのです。今なら間に合います。拳銃をこちらへ、そうすれば私から取り繕って祖国に何もなかったことにして報告しておきます。ですからこちらに拳銃を・・・」そうこうしてる間に工作員が、広報員では開けられないドアを開けた。「チ少佐。開きました。」「よくやった。」リラへの説得はそれまでの暇つぶしにすぎなかった。「やむおえません。国家反逆罪であなたを死刑に処す。」拳銃を向けようとした時、その開けたドア付近で工作員が何名か撃たれた。紺野達である。先ほど人質となっていた広報員も隠し持っていた拳銃で撃つ。紺野と合流した。「銃を捨てろ。手は頭の上に。」「く、特殊作戦群。罠だったのか。」その隙を突いて隣の部屋に逃げ込むリラ。投降するフリをして拳銃で撃ってくるチ。しばし銃撃戦となった。サブマシンガンや拳銃で応戦する工作員も、一人、また一人と撃たれていく。「くそ、広報員のボディチェックするべきだった。まさか平和ボケの素人集団自衛隊が拳銃など持ってるわけないと思い込んでいた。迂闊だった。・・・」後悔先に立たず。チは裏切り者を探し出すのが先決だった。地下の厨房に隠れるリラ。「リラ様。・・・いや、リラでいいよな小娘。俺は生意気で日本人の血が入ってるお前が大嫌いだった。だが次期総統様とあれば、従わぬわけにも行かない。だが、もうそんなタガが外れた今、お前をぶち殺さない理由なんてないよな。」わざとふざけた探し方するチに怯えるリラ。「チ リュー覚悟しろ。」陸自迷彩服に完全武装の紺野達がH&K416カスタムを構えながら入ってくる。勢いよくサブマシンガンと拳銃をぶっ放すチ。タクティカルトレーニングの手順に従い、CQBのテクニックで巧みに攻撃する紺野。手下の工作員が罠を張って飛び出すも、引っかからない紺野は躱して射殺する。「そこまでだ。お前らこそ銃を捨てろ。」いつの間にかリラの首を腕に巻き、人質にされていた。顔には殴られた痕が・・・ホロスコープにチを捉えて構える紺野達。「聞こえないのか日本人。殺すって言ってんだ。」次の瞬間意外な事が起こった。耀司がチの顔面目掛けてガスガンシグP226のBB弾を発射したのだ。勿論その程度では何ともないチであるが、意外性を出すには十分であった。「今だ。」紺野がP8拳銃をホルスターから抜き、彼の顔面に銃弾を叩き込んだ。電気がぬけたかのように倒れこむチ。一目散にリラに走り寄る耀司「君、ここは・・・」「いいんだ、しばらくほっとけ。」浜崎が駆け寄ろうとしたが、紺野が制した。リラを助け起こす耀司。「リラ、リラ・・・」 次回最終回「愛するリラへ」に続く。
- Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.26 )
- 日時: 2020/05/29 18:33
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「愛するリラへ」・・・ 春にしては暑いくらいの陽気。カモメが飛び交い、晴天の清々しい静かな海の青々とした景色。まさにここはバケーションには持ってこいの場所だろう。「お嬢様。レモネードをお持ちしました。」淡い色の私服で三角グラスに注いだお飲み物を、まるでウエイトレスのように運んでくる女性。その運んだ先には麦わら帽子をかぶり、ビーチでよく見かけるような脚も乗せられる網目の椅子で、淡い若草色のワンピースを着た美しい少女が座っている。「ご苦労。下がってよい。」言った矢先少女は顔を見合わせて吹き出す。「プハハッハハハ。中山さん真顔でやるもんだから。」「そういうあなただって・・・ハハハハ。」思わず中山は笑った。思えばこんなに笑ったのはいつのことだったか。最近心の底から笑った気がしない。そんな二人を背後から見守るように、豪華なペンションが建っていた。どうやらここで暮らしているようだ。そんな二人の団欒を打ち消すように、久々ある男が釣りのおっさんスタイルでやってきた。「お嬢さん。ここは何が釣れるんかいのう。」「コンノって魚じゃないですかね。」「紺野ね。そいつは粋が良すぎるいい男じゃないか。」「自分で言います。」中山が呆れ顔になる。「さて、冗談はそのくらいにして。・・・そろそろ身の振り方を考えないとな。内調と公安の許可は下りた。君に新しい身分を与えて国外へ逃がす。生活資金として内務費から1億円譲渡することが決定した。ただし・・・日本には二度と入国しないとの条件付きだ。」「そんな・・・」「すまない。これが君にしてやれる限度だ。」少女は意気消沈した。希望の光が閉ざされたかのように。「辛いだろうな。俺もあの青年に助けられたようなもんだ。できれば二人を会わせてやりたかったが・・・いやー非常に残念。残念。」わざとらしい言い方で立ち上がる紺野に違和感を感じた。不思議がる少女を尻目に、中山が紺野の背中に問いかける。「変な勿体ぶりやめてくださいよ。彼女混乱してますよ。」「それは悪かった。先ほど言った条件を解除するには、あることを君が承諾しなければならない。それは・・・」固唾を飲んで少女は聞き入った。同じ海でもここは亜武町の海。部屋に放置した卒業証書が置かれている。チラリと見た耀司は再び海に目を移した。今年は何故かネットでのオンライン卒業式となり、ましてや先の件で亜武町が大変になったこともあってか、味気ない自宅謹慎での卒業式となった。「ええい、ゴロゴロしてたって・・・」急に思い立った彼はシャツを着て自転車で海岸に向かった。「耀司・・・」縁側で静かに見守るお婆ちゃん。全速力で海岸に着いた耀司は、叫びながらリラと出会った岩場へと走った。思えばここが全ての始まりでもあったのだ。「俺、何してんだろ。・・・」「耀司さーん。」遠くから微かにリラの声。「まさか・・・空耳・・・だよな。でも・・・」恐る恐る振り返ると、そこには陽炎に揺れる少女の姿が。「リラ、なのか。リラ、リラーっ。」こんな奇跡があるのかと、思う前に走り出した。二人は誰はばかることなく抱き合った。「実にいい光景だ。」紺野、中山、浜崎が車から降りて佇む。リラが耳打ちしてきた。「力を貸して。私、無罪となって日本人に帰化する条件として、イージスアショアの件をテレビショーで洗いざらい証言すること。そして・・・日本人男性と婚姻届けを出すこと。つまり・・・」「勿論OKだよ。」耀司は言葉はいらないとばかりに初めてリラと熱い接吻を交わす。・・・時は過ぎ、とあるテレビ局の記者会見会場。「大丈夫。俺が付いてる。」舞台袖でリラを励ます耀司。「うん。」威風堂々とマイクだらけの檀上に上がる。「私の、かつて以前は祖国と呼んでいた国の総統が、いかに日本に酷い工作活動を行いかけていたか。これからお話します。申し遅れました。私、瀬戸リラと申します。」一斉に歓声とシャッターフラッシュが沸き上がった。今後言うまでもなく彼女等が防衛省の擁護の元、報復から守られて生活するわけだ。東京で耀司の両親、妹、お婆ちゃん、そして帆夏、真野、勝也夫妻まで招いて、ささやかな結婚式が執り行われた。「リラ、あの海で君に出会わなければ」「耀司、あの時あなたが助けてくれなかったら。」「二人の天女物語は始まらなかった。」最後は互いに同じ言葉を唱え、永遠の愛の誓いの接吻を交わした。ただ違うのは、羽衣があっても、決してリラは彼と別れることはないと言うことだ。リラ・・・それはライラックと言うフランス特有の花の名前。花言葉は「初恋」そして、「愛の芽生え」・・・ 了
- Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.27 )
- 日時: 2020/05/29 20:40
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
閑話久題・・・ 再会した海岸の日。その夜にある約束を果たしていた。線香花火。「これで、約束通りだな」「ええ。さぁ、火を。」「うん。」二人はしばし縁側で華やいだ光に恍惚とした。