複雑・ファジー小説

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天女物語 〜愛するリラへ〜
日時: 2020/01/26 16:28
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

「昔々あるところに漁師の若者が一人暮らしておりました。ある日浜辺で海水浴を楽しむそれはそれは美しい天女様がおりました。そして、松の木に白い羽衣が掛けてあり、つい魔が差した若者はそれを取り上げました。それに気付いた天女は若者にせがみました。お願いです。それがないと天の国には帰れないのです。どうか返してくださいと。しかし若者は俺の妻になったらいつか返してやると言い、渋々受け入れて天女は若者の妻となり、一緒にくらしました。ある日家の掃除をしていると、梁の上に何やら風呂敷が。それは紛れもなく天女の羽衣だったのです。しかし迷いました。何故なら妻となった天女は若者を愛してしまったからです。その若者は何も知らず、美しい櫛を買って天女の待つ家に帰ろうとしたら、羽衣を着た天女は泣きながら天へと舞い上がっていきましたとさ。」そんな昔話をお祖母ちゃんから聞かされた記憶を思い出しながら瀬戸耀司は、センター試験に落ちて意気消沈しながら海辺近くの実家にバスで帰っていた。まさかこれからその天女様に浜辺で出会えるとは彼自身思ってもみなかった。その天女様の名はリラ。浜辺で倒れていた17歳くらいの彼女を部屋に匿うのだが・・・彼女には意外な秘密が隠されていた。・・・意外ではないかもですね。この後謎の北都共和国工作員や陸自特殊作戦群が関わってきますから。現代の天女物語が今始まる。

Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.3 )
日時: 2020/02/02 00:56
名前: 梶原明生 (ID: W4UXi0G0)  

…撃とうとしたが手首を掴まれて天井を銃撃してしまう。もみ合いになるなか、乗降口のボタンを押して急停車したバスから転げ落ちる二人。「いいからさっさとバスを出して。」紺野は運転手に叫び、バスは再び走り出した。窓の外からまるで有り得ないアクション映画の一幕に、ただ驚愕の目を向けた。「お婆ちゃんお婆ちゃん聞いてよ。」早速自宅に帰るや否やお婆ちゃんの瀬戸真知子に叫ぶ耀司。畑仕事の傍ら聞く。「何だいいきなり。」「さっきバスジャックあったんだよ。犯人と戦う身長180くらいの男の人がいてさ、すごかったんだよ。あ、きっとニュースになってるかも。」「夢でも見たんだろ。それよりセンター試験どうしたの。」「あ…」「その様子だと浪人だね。やれやれ、あと一年寂しい思いしなくてすむね。」「お婆ちゃん…」酸っぱい顔しながら家に入り、夕方のテレビニュースを見る。「あれ、あれあれ…」バスジャックのバもないくらい先ほどの事件がない。スマホも使って情報を集めるもそんな話は一つもない。「バカな…夢…いやいやいや確かに。」「こ〜れ、糖分が足りんのじゃ。これでも舐めなさい。」頭の上に何か袋を載せるお婆ちゃん。「また黒飴。もういいってば。」自分の部屋に戻る耀司。「ただいま里沙。」部屋には今村里沙のポスターばかり。布団に寝転がると階下からまた夕方のラジオ放送。お婆ちゃんの日課だ。「またかよ。」ヘッドホンでアイドルの楽曲を聴くが、容赦なくラジオが天気予報を伝える。「今夜は夜半にかけて荒れた天気になるでしょう。明日も午前中まで大雨が…」予報通りまるで台風並みの風と大雨が降り注いだ。天女も共に舞い降りる。耀司の悪友、真野からのメールが入った。「ゴアテックス製の軍用レインスーツ手に入れたからよ。また海岸でサバゲーやろうぜ。誰も来ねーしさ。」まただよ、と呆れるものの何故か断る気もなく、参加することに。「風すげー。」お婆ちゃんが座椅子でうたた寝しているのを横目に外へ出た。「よぉ、悪いな。」「悪いなじゃねーよ。どうしてくれるんだ大学。」「だから…お詫びも兼ねてレインスーツ。いいだろこれ、最新迷彩だよ。」ペースに乗せられて仕方なくサバゲーは始まった。「ウホっ迫力満点。嵐の中の決闘ってか。」一人興奮する真野。「おい、どこ行った瀬戸。」何回戦かした耀司は、少し離れた浜辺まで逃げた。「そう撃たれっ放しになるかよ。ここまで来れば安心。」そう呟いて移動した時だった。…続く。

Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.4 )
日時: 2020/02/02 06:59
名前: 梶原明生 (ID: 99wOCoyc)  

…足が何かにぶつかった。硬い物と言うより、明らかに弾力があり、それでいて存在感を示す重みがあった。「ま、まさか…」氷を背中に当てられる感触とはまさにこれだろう。夜中、雨風、浜辺、そしてこの感触。次に連想するのはあれしかない。「し、死体…」よく海辺や海岸に死体が上がったとか、第一発見者は犬の散歩のおじさんかおばさんだったりするとか、よくニュースで見る話だ。しかしもしそうなら「第一発見者は雨風の中エアガンで撃ち合いしてた変わった高校生。」という間抜けなテロップになってしまう。想像が膨らみ、やがて闘争から逃走に切り替わる。「んん〜。…」さっきに比べると雨風がだいぶ凪いだせいか、生きている人の呻き声がハッキリ聞こえた。「え、幽霊…にしては。」耀司はそれがまさに年若い女性の声だとわかった。恐怖半分好奇心半分でライトを点ける。すると…幽霊でも死体でも流木でもない。岩場の隙間にある砂場に横たわる美少女ではないか。しかもまだ生きている。「お〜い瀬戸、どこ行った。」する必要もないのに、まるで反射的に彼女を隠すように庇う耀司。真野は気付かず歩き去った。「ごめん、やっぱり寒いし遅いし、先帰った。またな。」スマホで耀司はそうメールした。改めて少女を見る。耀司が一目惚れするのにはそう時間はかからなかった。普通なら救急車を呼ぶのだが、格好が格好な上、エアガン持ってて救急隊員や警察になんて説明するか。正直死ぬほど恥ずかしい。なら選択肢は一つしかない。葛藤しつつも初めて触る美少女の体に、つい良からぬ願望が。「いけないいけない。人助けだ、うん。」自分で自分に言い訳するように唱えながら彼女を背負った。自転車で来なくて良かったと思いながら、雨の中急いで自宅へ歩いた。「やっぱり人間一人担ぐの大変だ。」いくら18歳とは言え、彼は体育会系ではない。たどり着いた時はゼェゼェ呼吸していた。しかしそこで重大なことに気がつく。「待てよ、ずぶ濡れだ。このままじゃ冷えるし、お風呂にどうやって入れる…」ドキドキしながら良からぬ妄想が彼を襲う。「いかんいかん…し、しかし、洗ったり暖めてあげねば。」また言い訳をしつつお風呂場へ静かに運ぶのだが…「耀司、お前何してるの。」運悪くお婆ちゃんが起きてきた。悪戯を発見された小学生並みに飛び上がる。「いや、お婆ちゃんこれはそのあの…」「いいから、凍えてるじゃないか可哀想に。すぐ風呂沸かして。」「え…」…続く。

Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.5 )
日時: 2020/02/02 09:58
名前: 梶原明生 (ID: 99wOCoyc)  

…意外な言葉に驚きを隠せない。「何突っ立ってる。早く。」「は、はい。」いつものお婆ちゃんとは違う怒号に体がピシッとなる耀司。「沸かしたね。ならあんたアイマスクして。」「え…」「当たり前だろ、年寄り一人で介抱させる気かい。でもあんたにゃ目の毒だからね。指示するから安心しな。」「ええ…」半分安堵のような残念のような…耀司は脚を持ち、お婆ちゃんが脇を持つ。「こら、アイマスクずらすな。相手は年頃の娘なんだからね。」「ぼ、僕は別に…」手に感じる背中の柔肌ばかりはどうしようもない。しかしそれを妄想させないためにも次から次へ手厳しい指示を出すお婆ちゃん。あれよあれよと言う間もなく二階の寝室へ運んだ。「もういいよ。」その言葉でアイマスクを外す耀司。「うわ〜っ…」初めてライトで見た彼女よりも一段と美しく見えた。スヤスヤ布団で眠っている。「お婆ちゃんあの…」「事情は後で聞くよ。それより看病しておやり。あたしゃ疲れたよ。…あ、寝るからって私のいない間に妙な気を起こしたら…」「ば、馬鹿言わないでくれよお婆ちゃん。僕に限って…」「もうひとりの僕は反応してるみたいだけど。」「お婆ちゃん…」そそくさ退散されたものの、いざ二人っきりになると、何とも言えない沈黙が流れる。「こ、こんな子が彼女になってくれたら…」と妄想するも、疲れが一気に出て少女の横で寝入ってしまった。何時間経ったろうか、もうとっくにお天道様は昼間を指している。「カムセダ カムセダ」女の子の声で聞き慣れない言語が耳に入ってきた。「ん…あ、君、その、あの…」助けた女の子は既に起きていて、部屋の隅で布団にくるまって何か叫んでいる。「に、日本人じゃないのか…」耀司は一生懸命身振り手振りで事の成り行きを説明した。「ぼ、僕は耀司ようじヨウジ。君は…」「ヨウジ…リラ。」「リラか、リラって言うんだ。」たったそれだけ通じただけなのに、妙な安堵感が二人を包んだ。「おはよう。起きたかい。さ、遅い朝飯だ。二人共降りてきなさい。」まるで孫が二人増えただけみたいな態度でお婆ちゃんは接してきた。「リラちゃんね。そうかそうか。これ、ヒラメの煮付け。それからこれは耀司の好物カボチャの味噌汁。」「ヒラメ、カボチャ…」「おいしい。」「オイシイ」「ほら、食べて、こんな顔。おいしい。」「ああ、オイシイ。」何故かお婆ちゃんはすぐ意志疎通ができるようだ。その驚きにも増してリラの笑顔が狂おしい。…続く。

Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.6 )
日時: 2020/02/03 21:04
名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)  

…しかし、回復すると次に心配になるのは警察に届け出ることだった。恐らく言葉からして「北都共和国」の女の子に違いないし、船が難破して流れついたならそれなりの公的機関の関わりになってくる。耀司としてはそれだけは嫌だった。このまま家にしばらくいて欲しい。その気持ちを強くしていた。しかし、お婆ちゃんらしくない意見が飛び出す。「この子しばらく家にいて欲しいね。」「え… 」「何だい、出てってほしいのかい。」ほっぺを揺るがす。 「ブルルル〜っ、とんでもない。お婆ちゃんさえ良ければ何日でも…」「なら決まりだね。はい、食後のデザートは夏みかんゼリー。お食べ洋子。」「洋子…」「ああごめん。リラちゃんだね。忘れてた。」その言い間違いに聞き覚えがあった。萩市に親父や母さんや妹と暮らしていたころのことだ。親父には年の離れた姉がいた。つまり真知子お婆ちゃんの娘になるわけだが、水難事故で亡くしたらしい。彼の親父が5歳の頃だったのでほとんど記憶にないのだが、酒の勢いで聞かされることがあったので覚えている。たしかその人の名前が洋子。食事後、お婆ちゃんが畑仕事に出たのをいいことに、古いアルバムを引っ張り出した。「確かに似てるかも…」そっくりではないが、美少女だったのは間違いない。「まさかお婆ちゃん、洋子おばさんが帰ってきたとか錯覚して…」少々複雑な気持ちになる耀司。その頃、チ リュは部下と落ち合っていた。「リラ様はまだ見つからんのか。」「は、手分けして捜索しておりますが未だに。」「船舶隊のバカが。肝心な時に事故を起こしやがって。リラ様は自ら工作活動に志願された崇高なるシューキン総統様の第三夫人の長女なるぞ。もしものことがあれば我々の命ばかりか親兄弟親戚にいたるまで粛清される。何としても探し出せ。」「はっ。」部下達は散開する。「お婆ちゃん。お久しぶり。あいつはまだ生きてる。」自転車に乗った女子高生が畑仕事のお婆ちゃんに声を掛ける。「あれ、帆夏ちゃん。耀司なら生きてるよ。センター試験に落ちたようだけど。」「やっぱり。喝入れなきゃね。」勝手知ったる我が家のように縁側に入る。彼女の名は浅井帆夏。萩市にいた頃からの幼なじみで、高校生になってからはクラスメートになった。一度淡い恋心を耀司が抱いた相手だったが、暴力的で殴られた過去のトラウマから抜けきれてない。お婆ちゃんの家の近所に住んでいる。「ヤバい。あの暴力女が…」リラの存在を知られたら変態スケべ…続く。

Re: 天女物語 〜愛するリラへ〜 ( No.7 )
日時: 2020/02/05 16:29
名前: 梶原明生 (ID: SKF4GgT1)  

…、痴漢、犯罪者のレッテル貼られてぶん殴られるは必至。「耀司、いるんだろ二階。帆夏様が来てやったぞ喜べ。来ないと冷蔵庫の夏みかんゼリー食ってやるからな。」勿論返事はない。「たく、世話焼かせやがって。」ズカズカと上がり込んでくる音。「ヌガセヨ、ヌガセヨ。」「へ、ぬ、脱がせよってどういう…と、とにかく隠れて。」リラの言葉を遮って押し入れに入れる耀司。「何だいるなら返事ぐらいしろよ。」「て、テスト勉強中だからね。ははは。」「テストって、どうせ落ちたんならまだいいだろ。ん、あんたなんか隠してるね。」その言葉にドキッと来る。「へ、な、何を…」「何年の付き合いだと思ってんの。幼なじみだよ。あんた隠し事ある時いつも落ち着かない態度取ってるし。見え見えなんだよ。今のうち白状しな。」「いやだから、隠し事なんてないって…」「嘘つけ。てか…なんでこっちの部屋に布団敷いてんのさ。あんたの部屋隣だろ。」廊下を隔てた向かいを指差す帆夏。「いや、気分かな…」容赦なくガラリと隣の襖を開ける帆夏。「あれ、こっちにも布団。おまけに今村里沙のポスターか。それはどうでもいいけど隠し事これじゃないよね。なんで2つ敷いてんの。まさか…」「え、あ、ちょっ…」言う間もなく強引に押し入れを開ける帆夏。「な、な、な、あんた誰。てか耀司、この変態スケベ犯罪者っ。」強烈な後ろ蹴りが彼の鳩尾を捉えた。「ゲホッ…だから誤解、だ、てばさ…」「どこが誤解よ。いくらあんたでもここまではないと思ってたのに。見損なったよ。」更に殴ろうとしたが、お婆ちゃんがフォローに入った。「やめなさい帆夏ちゃん。」「お、お婆ちゃん…」「ごめんね誤解させて。実はこの子はうちの遠い親戚の子でね。しばらく預かってくれと頼まれたんだよ。」「あ、そうだったの。あたしとしたことがごめんね耀司。」「い、いいけど…」こうして一難去ったが、逆に帆夏とリラが急接近し始めた。「へー、リラちゃんフランス語ならできるんだ。私も最近習い始めたんだよ。」そのおかげでだいたいの概要がわかった。元々リラはフランス生まれのフランス育ち。留学中の東洋人と北都共和国官僚の息子との間に出来たのがリラだった。学生結婚状態で暫くは幸せに暮らしていたものの、父の官僚職の跡継ぎが必要だとして、お祖父様の部下達によって強制送還させられた。数年後リラも引き取られ、父親の下で育った。しかし北都共和国が嫌になって脱出してきたんだとか。…続く。


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