複雑・ファジー小説
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- 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー
- 日時: 2020/05/29 16:20
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
あらすじ・・・陸上自衛官の父を持つ鳥影年光は、父に反発して就職先は工場勤務にした。そこで知り合ったサバイバルゲームを趣味とする同僚に触発されて、のめり込むことに。やがて時はすぎて、年光は自分の父を理解しはじめ、「カエルの子はカエル」だなと悟りはじめる。そんな時、千葉県に元自衛官や元警察官で創設した会社「提中訓練研究社」の存在を知り。仕事を辞めてその会社の危機管理と戦闘訓練コースである「特級コース」を取得し、二年後に卒業して社長等に激励をうけた。しかし、社会に出れば誰も関心がなく、危機管理アドバイザーとしてどこも雇ってくれずに貯金も底を突き、やむなく派遣会社に登録してまた工場勤務で仕事をすることとなった。何とか研修期間3か月を乗り切ったある夜勤の日、ある異変が起こりはじめる。会社の金を使い込み、あまつさえ傭兵を雇って国外逃亡を図ったロシア人前社長が、本社工場に仕返しを企んでいたのだった。金でまたもや雇った傭兵を使って。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.26 )
- 日時: 2020/09/17 15:41
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「現実社会の冷遇」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何だこれは。わたしの駒が全滅だと。ヤポンスキーが。」パソコン画面の前で悪態垂れて頭を抱えるベラルーシにいるアントン・シコルスキー。「い、いかが取り計らいましょうか。全財産投入したために今後株は回収できませんし。ここの資産を売り払っても損害金額に比べたら雀の涙ほどです。」「わかっとるわい。ああ、役立たずが・・・」そう言った矢先パトカーのサイレンが。「馬鹿な、ベラルーシ当局が何で・・・」警察官と当局員らしいコート姿の男数名が黒い車で何台もおしよせていた。「アントン・シコルスキーさんですね。令状です。あなたを株取引不正並びに資産運用不正の容疑で身柄を拘束します。」淡々と口上を述べる銀髪に端正な顔をした長身のベラルーシ人の職員が現れたのだ。「それに、傭兵を使って不正な入国と、その傭兵を使って外国で殺人をするよう教唆した疑いもあります。」「馬鹿な、何でこんな急に、八ッ・・・・」政府車両に見慣れた日本大使館職員の男が乗っているのを目撃して悟った。「図ったな。クソ、弁護士が来るまでここから出ないぞ。」「それもできません。特例なもので、従わない場合は強制連行も許されています。」「ウググ・・・」歯ぎしりして悔しがるアントン。かくして秘書も含めて車両に乗り込んだ。大使館職員の乗る車に先の銀髪職員が乗り込む。「これでいいんだよな。」「はい。」「ま、日本側とベラルーシ政府にとって利害が一致したからな。これで手打ちか。なんせベラルーシじゃ金持ち狩りは最近の流行りだしな。」「流行りで資産家が逮捕されたらたまりませんな。ま、アントンの場合は例外ですが。日本の平和ボケ司法のおかげで私が尽力するはめになりましたからね。正直迷惑ですよ。」「何はともあれ、ミスタークロダ。これでめでたしじゃないか。ところでクロダ。君は本当に大使館の外交員なのか。その割には・・・」「おっと、それ以上深読みしても互いの利益にはならない。・・・でしょ。」互いに苦笑いして車を出した。一方日本ではどうかと言うと、ジョンマクレーンの国なら多数がヒーロー扱いだろう。しかしここは木の葉が沈んで石が浮かぶ日本だ。とくに反日勢力にはいいカモにすら見えたろう。アントンや傭兵の大罪は棚に上げて、鳥影の失態ばかりをクローズアップして裁判が進められた。キーポイントは「暴力戦争主義者の人殺し」と「420名近くの尊い命が犠牲になった」の二つだった。これには提中訓練研究社や、SCCH工業社員一同をはじめ、各分野の著名人も交えて激しい論争が繰り広げられた。「日本では140人以上の社員を救ったヒーローを殺人犯呼ばわりですか。」提中訓練研究社の弁護士が異例の弁護を引き受けていた。「そうは言いますがね、140名以上が重軽傷を負い、なおかつ救えた420名の命を見殺しにして、戦わなくても説得すればいいものを暴力装置にさせられた彼は大勢の犯人を殺害した。これは立派な犯罪です。」これには傍聴席もざわめいた。「そんな・・・」佐藤美佐はじめ、証言に来ていた野口、山下、鈴木、にタン達も憤慨していた。・・・続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.27 )
- 日時: 2020/09/18 20:03
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
・・・やがて最後に被疑者扱いにされた鳥影自身の発言が許された。万策尽きた弁護士は、原稿を用意したのだが、鳥影は読んだだけで、原稿は証言台に置いた。そして彼自身の肉声による陳述が始まった。「確かに、私はミツバチの例え話により、140名弱の方々を煽動したかもしれません。失われた尊い命を救えなかったことは悲しく思います。昔危険作業のアルバイトをした時、上司からこう言われました。今日も笑顔で只今と家族の元に帰って下さい。決して棺桶に入って無言の只今はしないでください。無事故無災害こそが最高のお土産ですと。なのに私は420名の会社の同志達を、尊い家族を、無言の只今をさせてしまった。それが罪なら甘んじて受けましょう。ですが、皆さん。・・・あの状況下でまともに正確な判断ができますか。検察官にお尋ねしますが、あなたは一度でも殺される極限状態に追い込まれたことはありますか。あなた方は雨風しのげるコンクリートの快適な一室でただ法律と常識ばかり机の上で追及するだけ。果たして私と同じ極限下で私と同じことをして140名弱の命を救えましたか。説得なんて甘っちょろい発想なんか通用しない。ただ殺されるだけ。それを手を加えて見てろって言うんですか。まるでダチョウみたいに。」
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.28 )
- 日時: 2020/09/19 18:01
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
・・・拳を握りしめて熱弁を振るうと、ありえない現象が起きた。傍聴席の多くの人がヤジを飛ばし始めたのだ。「そうだそうだ。こんな裁判自体不当だ。」「140人も救ったんだぞ。それでこの扱いか。」裁判官は驚愕して唖然としたが、すぐに甲高くガベルで叩く。「静粛に静粛に。傍聴席は発言を許されてません。退廷を命じますよ。」この叫びにようやく騒めきは去った。「被告人、続けてください。」「はい。・・・ダチョウと言ったのは、ダチョウは危険が訪れた時、身を守らずに砂や土の中に頭を突っ込んで見ないようにすると言う話からきています。今までの日本がそうでした。今、そこにある危機にすら怯えて見て見ぬふり。それで何が解決できますか。何が守れますか。立ち向かうこと、戦うことも、解決とサバイバルの糸口ではないでしょうか。私はそう思います。あの場合、ああするしかなかった。ただそれだけです。」鳥影の熱弁は終わった。こうしてしばらく休廷となり、判決が言い渡されるだけとなった。「主文・・・・・よって、被告人、鳥影年光を無罪とする。」「ヤッター。」山下が野口に抱き着く。こうして一連の事件は幕を閉じたのであった。・・・次回「守るべきもの」に続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.29 )
- 日時: 2020/09/22 14:45
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「守るべきもの」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・晴れやかな空が続く中、身元保証人として両親が車で迎えに来ていた。父が運転しながら言った。「お前とは色々仲違いもあったが。父さんはお前を誇りに思うぞ。よくやった。世間が何と言おうと俺の自慢の息子だ。」「父さん。・・・」意外な言葉に鳥影は微笑んで涙ぐんだ。「あ、すまない父さん。寄るところがあるんだ。SCCH工業へ。」「でも、今日は日曜だぞ。何でまた。」「待たせてる人がいるんだ。それに紹介したい人も。」「え・・・」キョトンとする両親。工場近くの自然公園の駐車場に入った。鳥影自身の車、「日産Xトレイル」から降りてきたのは何と、佐藤美佐にタン、鈴木、山下に、野口。そして隣の日産スカイラインから降りてきたのは殿と仰ぐ井上専務ならぬ、井上社長だった。「紹介するよ。こちら佐藤美佐さん。俺と婚約してる大事な人。」母親が驚愕する。「まあ、いつの間にお前がこんな可愛いお嬢さんを・・・」「そんな可愛いだなんて。美佐と申します。今後ともお見知りおきを。」「やるなこいつ。」親父が冷やかすが、その合間を縫って井上社長が前に出る。「お初にお目にかかります。SCCH工業社長の井上と申します。この者達は息子さんの親しい同僚でして。」
「ど、ども山下でーす。」「タンいいます」「鈴木です。」「班長の野口です。」それぞれ挨拶すると父親が礼を言う。「ありがとう皆さん。息子のことを今日まで支えてきて。」「いえ、そんな。息子さんがいなかったら今頃私達は・・・だからこちらこそ命の恩人ですよ。」野口の総括に感無量の両親。それを見て回想に耽るは佐藤だった。家では両親が鳥影との交際を反対していた。マスコミの情報を鵜呑みにしていたからだ。「そんなことない。お父さんは現場にいなかったからわからないのよ。長い間お世話になりました。」鳥影がかつて住んでいたマンションに転がり込んだ。しばらくは彼の所持品や車は佐藤が預かっていたのだ。やがてそんな両親も佐藤の説明に懐柔しはじめ、鳥影を娘の恩人とすら思うようになった。井上社長が割ってはいる。「鳥影君。誠にすまない。社長職に就いたからこそ、君を警備担当として残せないか打診したが、役員会から猛反対を受けてね。やはり組織は体面を大事にするもんだから退職勧奨となった。誠に申し訳ない。」「何をおっしゃいます井上社長。お手をお上げください。構いません。皆と別れるのは辛いですが、まだ道はありますから。」「ありがとう鳥影君。そこで相談なんだが・・・確かに退職勧奨なんだがね。そのかわり君さえ良かったら私の弟が経営する警備会社に入ってみる気はないかね。」「え・・・」井上社長が振り向いた先に、見知らぬスーツ姿の男が。「はじめまして。井上一彦と言います。とある部署を立ち上げたいと思っていてね。その名も監禁介入特殊部隊。」「え・・・」「お、君ならこの響きに応じてくれると思った。私の姪っ子はね、相良愛って言うんだ。」「まさか、あの・・・誘拐事件の。」「そうだ。幸い戻ってはきたけれど。それがきっかけでね。被害者の会に参加することも多くなり、警察や司法だけではない、第3の力が必要だと考えていたんだ。まあ、そんなわけで今はまだ仮名だが、新しい部署をうちの警備会社に立ち上げたいと思っているんだ。どうかね。」「喜んで、お受けいたします。」熱く握手を交わす鳥影。新たなスタートの幕開けであった。・・・次回「エピローグとあとがき」に続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.30 )
- 日時: 2020/09/23 14:52
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「エピローグとあとがき」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「佐藤さん一緒に来てくれるかい。」少ないマンションの荷物を日産Xトレイルのバックシートに詰め込んで鳥影は言った。「喜んで。でも、もう佐藤さんってやめません。美佐でいいです。」「あ、そうか。そうだね。あ、妊娠は大丈夫かな。」美佐は初めて鳥影に求められた日を思い出した。まだ起訴される前のことだった。勿論彼女も心の隙間を埋めたい気持ちもあったため、承諾の上でのことだったが、夢のような出来事だった。「大丈夫・・・て言うより、妊娠してたほうが良かったかな。」「美佐・・・」再びキスを交わす二人。車に乗り込み、一路井上一彦が運営する「スペシャルセキュリティー警備保障」のマンション寮に向かうのだった。了・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あとがき。いかがだったでしょうか。これまで工場を舞台にしたダイハードみたいなアクション小説若しくは映画等は、自分の知る限り見たことはなかったので書いてみました。しかしこの「凄瀕凄憎工場」は、本当は実話が元になっているんです。手前味噌で申し訳ないですが、3年前、とある工場に勤務した時に危機管理に興味を持ち始めていました。そこで親しかった工場のお偉いさんと話していたら、「ドッキリでやってみないか」と打診されました。自分もドッキリは嫌いではなかったので意気投合。自前の迷彩服で食堂にお昼時、テロリストを装って紙のおもちゃナイフ(全く切れない刺せない)を持って叫びながら突入しました。案の定皆さんキョトンとされ、以後マイクでお偉いさんが説明をはじめ、非常階段がないこと。皆逃げない態度のこと。そして危機管理の事など二人で20分ほど語って終わりました。実はこれがこの小説の元になっていることを、あとがきに替えてここに示しておきます。これからはテロと危機管理の時代になると思います。誰しもが死体袋で帰らないことが一番です。あなたを愛する家族、人がいるのですから。そして、大好きな日産自動車に栄光あれ。だからこそ罪逃れするゴーンが許せなかったことも付け加えておきます。ここまで読み進めてくださった方々に感謝します。テロのない世の中を祈ります。 梶原明生より。