複雑・ファジー小説
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- アニマーレ
- 日時: 2025/02/06 22:19
- 名前: 長谷川まひる (ID: oQuwGcj3)
ライトノベル「アニマーレ」です。
主人公が殺人ギルドを抜け出した少女、という設定なので
暴力シーン多めです。
が!
よい子は、というか、
あくまでフィクションですので
どうか、これに感化されて暴力行為や奇行に走るとか
そういうことはやめてください。
お願いします。
長谷川
- Re: アニマーレ ( No.19 )
- 日時: 2025/03/06 22:21
- 名前: 長谷川まひる (ID: yyWFfh9m)
0019
倉庫の中はひどい状態だった。
炎・氷使いの男がチカの首を掴んでいて、チカは弱弱しく抵抗を見せていた。
奥にはリーダー:ミスグが横たわっていた。
「ひどい。」
「僕がチカの救出に行く。アイカはリーダーの処置を。」
「うん!」
ふたりが動き始めたのと同時に、炎・氷使いの男はチカをぶん投げる。
「ブースト10」
アオイはダッシュし、投げられたチカを受け止める。
「おー!やるな、テメエ!オレと戦おうぜ!」
アオイは無視する。
「チカ。」
呼吸が乱れていて、満身創痍だ。
「何で、、あんた、、、なの。
アイカが、、、よかったんだけど。」
「文句言えるならたいしたもんだ。」
アオイは壁のそばにチカを座らせておく。
「痛みがひどかったら、これ使って。」
バックパックを置いておく。
「この白いのが痛み止めだから。乱用禁止な。」
「余計な、、、お世話。」
アオイが炎・氷使い:ディアと交戦を始めたころ、アイカはミスグのもとへ走っていた。
「リーダー!」
ミスグは上体を少し起こす。
「アイカ!」
リーダーは切羽詰まった口調で叫ぶ。
「来ちゃダメ!」
「え?」
直後、だれかに後ろから首元を掴まれ、ひょいと持ち上げられる。
「何!?」
「残念、また一人、仕留めた。」
「誰!?」
掴む手に力が入る。
「少し寝ていろ。」
「い、、やだ!」
まずい、息が。
ってか、誰?雑兵は全員倒してあった。
お頭の炎・氷使いの男はアオイと戦ってるし。
息、吸えない。
助けて。
「助けて!」
突然、男は後ろから脇腹に拳を食らう。
アイカを掴んでいた手が開く。
「アイカ、、、離せ!」
「「チカ!」」
アオイとアイカの叫び声が重なる。
「座ってないと!痛み止めで押さえてるだけなんだから!」
「うっさい!あんたはあんたの戦いに集中しろ!」
アイカの咳が収まる。
「どういうこと?」
「炎・氷使いじゃなくて、炎使いと氷使いの双子だった、、、!」
直後、チカが倒れる。
「やばい、、、体、力入んね。」
また、息が乱れ始める。
そこに氷使い:ラーチの手が伸びる。
「バキッ!」
その手に刀を振り下ろしたのはアイカだった。
「痛いんだが。」
「安心してください。鞘はついています。」
「アイス:ゴーレム。」
氷の像が現れ、アイカを襲う。
「後で遊んでやる、今はそれと戯れていろ。」
「チカ!」
ラーチは動けずにいるチカの髪を鷲づかみにする。
「さて、どうしたものか。」
ごめん。
見ていることしかできない私が嫌になる。
両足折られて、助けに行けない。
得物が壊れていたら、能力の使い道がない。
もともと、能力の扱いがうまくないからジュラルミン製の巨砲を作ってもらったのに。
それがないと、私は何もできない。
ごめん、みんな。
ごめん、こんなリーダーで。
ごめん。
みんな、、、
「みんな!」
アオイが突然、叫ぶ。
「各自、自分に今必要なもの、それでいて、僕が出せるものを言え!」
「お前の能力、知らねえからわかんないわ!バカ!」
チカが怒鳴る。
「誰がバカだ馬鹿!じゃあ、ほしいもの、してほしいこと言え!」
アオイは驚くディアを足蹴で吹っ飛ばす。
「せーの!」
「ゴーレム溶かして!」
「こいつの隙つくれ!」
「大きな鉄砲をください!」
三人の声が重なる。
「火達磨:ゴーレム。
鉄剣。
鉄砲:猫製・倍化。」
氷のゴーレムは火達磨となり、ラーチの両足を貫通する剣が地面から生えた。
ミスグのそばに巨砲が現れる。
「あっち!あ、ありがとう!」
ゴーレムは溶けて消滅する。
「ナイス!」
両足を貫かれた激痛に怯むラーチに、チカはアッパーを見舞う。
「ありがとう!」
巨砲で、神経麻痺の効果が付与されたレーザーを打つ。
ラーチとディアはよろける。
猫は激しくせき込む。
「猫の解除。」
鉄剣、火、巨砲が消滅する。
覚悟してたけど、ひどい注文だったな。
ひとつひとつは軽いとはいえ、同時行使はキツイか。
血の混じった咳をする。
「大丈夫?」
アイカはアオイの背をなでる。
「使いすぎた。」
またせき込む。
たまらず膝をつく。
「アオイ、リーダーの骨折、直したいんだけど。
どれ使えばいい?」
アオイのバックパックを漁るチカ。
コイツ、状況わかれ。
やべえ、咳とまんね。
アオイはナイフで指先を切り、アイカの腕に血を塗る。
たちまち、奇妙な模様をつくる。
「アイカ。」
「わ!」
アイカは自分の耳をさわる。
「すごい!念話?」
「みたいなもん。チカに使うなって言って。」
「チカ。使っちゃダメだって。」
「は!?怪我直す系のやつ、あるでしょ?」
チカが怒る。
「大丈夫だよ、チカ。自分の怪我くらい、自分でどうにかするから。」
リーダーは自分のバックパックから消毒液や湿布、包帯を取り出し、応急処置の準備を始める。
やっと咳がおさまる。
「二人とも重症だって。」
「私はいいから、はやくリーダー治せ。」
「はいはい。」
他人を治療するのは慣れてないけど。
「足、どんな感じ?」
えっと、さっきはめちゃくちゃ痛くて、でも、今はあんまり。
そりゃアドレナリンのせいだ。
そっか。うーん、ぐるぐるというか、よくわかんない。
僕が触ってるのわかる?
なんとなく。でも、あんまりわかんない。
「けっこうイってるな。」
一応、痛み止めな。アドレナリン切れたときがやばいから。
「そういうのいいから、早く治せ!」
「うっせー!怪我の程度わかんねーと、治療できねーんだよ!
アイカ、あいついじめといて!」
「はーい。」
アイカとチカがじゃれあう。
「こういうのって、なんか、意外と地道なんだね。あ、失礼な言い方でごめん。」
「いや。能力は魔法じゃねえからな。バックパックは僕専用のけっこー効くやつだから。
今はリーダーのやつ考えてる。」
まだ、チカが暴れてる。
「チカ!文句あんなら掛かってこいよ!」
リーダーは呆れる。
「あおらないで。」
チカは怒ってアオイに向かってくる。
「怒ってねえわ!全然、怒ってねえ!私は自分の弱さが、、、」
チカがせき込む。
「はいはい。」
アオイはアイカに瓶を渡す。
「これ、薬。飲ませといて。」
チカは100mlほどのそれを飲み干す。
静かになってしまった。
「何、これ。」
「酒。」
「え!?」
「百薬の長だからね。」
なんで持ってんの?
消毒用。
「はい、これでどう?」
アオイはリーダーの肌に黄色くて薄い布を張り付ける。
たちまち皮膚と同化する。
「1,2分で治ると思うけど、なんかあったら言って。」
「うん、ありがとう。なにからなにまで。」
結局、チカの怪我って?
アイカはぐっすり寝てしまったチカの横に座る。
酒に弱いらしい。
単純に言うと、喉と肺が焼けてた。
長時間、火使いと近距離で戦っていたのだろう。
先刻と同じような布をチカの首に貼っておく。
「ふむ。
何度見ても、素晴らしい治療術だ。」
手をたたきながら歩いてきた男がいた。
「私は鹿。名は鹿(かのしか)。
しばらくぶりだな、猫。」
軍服に身を包み、腰にサーベルを下げたその姿から彼を思い出す。
「鹿、ミリオタは相変わらずみたいだな。ちゃんと得物、身につけやがって。
思い出話に花を咲かせに来たんじゃないのか?」
猫は立ち上がる。
「貴様の愚行、以前なら目を瞑ったものの。独断専行の次は、下人たちと正義ごっこか。虫唾が走る。」
鹿の行使の許可。
猫の行使の許可。
「かくれんぼデスゲーム、かよ。」
0020へ
- Re: アニマーレ ( No.20 )
- 日時: 2025/03/07 23:34
- 名前: 長谷川まひる (ID: 2DtFjIhe)
0020
「シールド:立方、付与 硬化30」
アイカたちを囲むようにシールドを展開する。
「鹿。これは、僕を殺せっていう命令か?」
「いや、独断だ。私が猫:ソマリはこの世に必要ないと判断した。」
鹿はサーベルを抜く。
アオイはナイフを両手に持つ。
「ブースト20」
「ふん。能力がないと私と対等にも戦えないのか。だが、面白い能力だ。生きてたら、いつか教えてくれ。」
両者が剣を交える。
「誰が教えるかよ。専売特許だっつうの。
お前もさっさと能力使ったらどうだ。死んじまうぜ!」
氷鎖:ダブル、硬化20。
2本の鎖が鹿の両腕を縛る。
「私は戦いにおいて能力は使わない。」
腕力で鎖を破る。
「まじか。」
猫はせき込む。
「ビョーキも治っていないようだな。なら、私に分がある。」
サーベルを突く。
「シールド:硬化30」
割られる。猫の肩をかすめる。
「ってーな。」
ブースト20。
硬化:腕 40。
咳が出る。
クッソ、今日も調子悪いわ。
バックパック、シールドん中入れちゃったし。
鹿へ両ナイフを投げる。ダッシュし、鹿のサーベルを腕ではじく。
得物が飛び、焦る鹿に拳を見舞う。
「殴られるのは新鮮だろ。」
鹿は膝をつく。
そこに回し蹴りをくらわす。
壁に追いやる。
「ゲスが。」
「うっせ。仕事終わりで疲れてんだよ。さっさと終わらすぞ。」
鹿は腰の小型ナイフを出そうとする。
氷鎖:硬化40。
1本の鎖で全身を縛る。
「サーベルを取ってこい。再試合だ。」
「んなことするかよ。降参しろ。」
「ふざけるな!私が貴様ごときに、、、」
「ふざけてんのはテメエだろ。さっさと帰れ。」
「薄汚い猫ごときが!」
鹿が吠えると、突然、地面からサーベルが飛び出し、猫を襲う。
間一髪で回避したはずが、鹿は鎖を破り、そのサーベルで猫を刺す。
それは腹を貫き、続いて、猫の両腕を切り落とす。
刹那の剣技である。
「痛てーな、この!」
猫は回し蹴りで、油断していた鹿の顎を狙う。
「ゴッ!」
鹿は気絶し、そのまま倒れた。
「マジでクソ痛え。」
今日、結構キてるんだけど。
もう、そんなに回復できる体力残ってねーのに。
好きにやりやがって、こいつ。
猫は、床に突っ伏す鹿を睨みつける。
どこ治そう。腕、、腹、、。
「鹿、遊びすぎだ。」
そう言ったのは鯨だった。
入口にそれが立っていて。
「猿、回収だ。」
「はいっす。」
猿が歩いてきて、鹿を担ぎ上げる。
「鯨、、、」
その姿をとらえた瞬間、血の気が引く。
すぐに腕を回復し、構える。
限界をむかえ、腹が回復できない。流血する感覚が気持ち悪い。がしかし、その感覚は殺人鬼時代のそれであり、どこか懐かしい感覚でもあるのが悲しい。
「誰かと思えばソマリ、こんなものたちに飼われているのか。」
鯨はアイカたちのもとへ歩み寄る。
「手、出したら殺すぞ。」
鯨は猫を一瞥する。
「何、少し顔を見るだけだ。」
そうして鯨は簡単にシールドを破る。
この人は常に鯨を行使してるのか?そうでなければ、これがノーマルなのかよ。
「久しぶりだね。この間はひどく失礼した。
私は鯨、名は白長須鯨。アニマーレの園長を務めている。」
鯨は手を差し出す。
「えっと。」
差し出されたリーダーは困惑する。
「握手だ。」
「あ、はい。」
握手を交わす。
「そうだ、ソマリ。」
心臓が跳ねる。
「アニマーレに戻る気はないか?」
「え。」
「すべてを水に流してやる。と言っているんだ。」
「何で、そんな急に。」
知っての通り、アニマーレの主力は猫、お前だったのだ。
今の猫はいかん。まったく使い物にならん。
戦争だとかそのあたりも仕事にはしているが、やはり主は暗殺だ。
狗もやるやつなのだが、何分、あいつは仕事を選びすぎる。
えり好みせず、雑食、その上、群を抜く実力を持っているお前が必要なのだ。
「主戦力としてお前に戻ってきてほしい。
この前の罰もちゃんと謝罪してやろう。」
僕は。ボクは。
ここに。
いたい。いたくない。
温かい。アニマーレに。
この場所で。戻って。
アイカと。鯨のもとで。
仕事がしたい。
僕は。ボクは。
「嫌だ。」
鯨は「残念だ。」と口にし、「猿、どうにかしろ。」と丸投げする。
猿の行使の許可。
「許可する。」
そう口にしたのは鯨だ。
「鯨に言われると張り切っちゃうなー!」
鯨は鼻で笑う。
猿と猫の戦いをよそに。
「さて、猫が世話になったようだ。
感謝の品でも送ろう。何がいい?某国の王の呪われた冠、妃の黄金の爪、貴婦人の髪でできたダイヤモンド、、、」
「あの。」
アイカは鯨を見る。
「アオイを、猫ちゃんを連れて行かないでください。」
「ダメだ。あいつは我々のものだ。我々が作り上げたものだしな。それに、必要なのだよ。」
「人殺しに、ですか?」
鯨はアイカの眼前でしゃがむ。アイカと目線が交わった一瞬、「良い目をしている。」とつぶやく。
アイカは見透かされた気がして怯む。
続いて、鯨は立ち上がる。
「まだ、殺さなければならない人がいる。そして、殺しを望んでいる人がそれより多くいる。」
「そんな人はいません。あなたは間違っている、、、」
間違っている、とアイカが口にした瞬間、鯨は表情を変えた。
「私が間違っている、だと。」
鯨はアイカの首を掴む。
0021へ
- Re: アニマーレ ( No.21 )
- 日時: 2025/03/08 08:58
- 名前: 長谷川まひる (ID: 2DtFjIhe)
0021
「私は違えない。」
そうだろう、猿?
「その通りっす!」
猿は猫を蹴とばす。
「だが、こいつは!私が違えていると、、、!」
猫が顔を上げる。
「アイカ!」
ブースト40。
血を吐きながら、猫は鯨を殴る。
鯨は微動だにしない。
「アイカ、離せよ。」
ナイフでおどす。
鯨はアイカを投げ飛ばす。
アオイはそれを抱きとめる。
猫の息があがる。ブースト解除。
「猿、猫があんなに元気だぞ。」
「申し訳ないっす。」
「まあいい。お前はそういう風につくっていない。」
鯨は懐から瓶を取り出す。
「猿、これをナイフに塗って、猫を刺せ。
狐の作った毒だ。一滴で足りるらしいが、いくら使っても構わない。」
「了解っす。」
猿はナイフにそれを塗り、猫のもとへ走る。
「くたばれっす!」
硬化:全身 40。
大丈夫、こいつ、力は強くない。ナイフをはじいて、それから、、、。
瞬間、焼き印を押されたような痛みが走った。見ると、毒が猫の腕にかかっていた。
「っこれ、、、」
皮膚が溶けるやつか。
「アイカ、僕の後ろにいろ。」
アイカは怯えた表情で、アオイの背後に回る。
クソ、腕が動かなくなってきた。皮膚にかかっただけなのに。
これ、全員連れて飛んだほうがいいんじゃねか?勝てねえだろ。
つーか、回復できないのがつらいわ。
「食らえっす!」
足を刺される。
っこの野郎!容赦って知らないんか!
血流にのって、毒が回ってくるのがわかる。
太ももを切り落とす。
「アオイ!何やって、、、」
「足だけで済んで安いくらいだ。でないと死んじまう。」
クソ痛え。本当に何やってるんだ、僕。バックパックほしい。
シールド:立方、硬化50。
僕とアイカを囲む。
アオイ、どうしよう。
どうしようもないな。僕、もう戦闘不能なんだけど。
足の出血が止まらない。頭がくらくらする。
火達磨:右足。
「ぐ!」
ジュっという音とともに傷口を焼く。もう、これしか止血の方法がない。
汗が止まらない。呼吸が早くなる。
「ソマリ、シールドどけてください。」
猿がナイフでつつく。
誰がどけてやるかよ。
ヒューっと音がして、長い、長い刀が飛んできた。
それはシールドを破り、猫を串刺しにして地面に刺さる。
「は?」
硬化50だぞ?今の僕の最高硬度だぞ?なんで破られて、、、。
「アオイ!」
「アイカ、逃げろ。」
「でも!」
氷鎖:トリプル。
入口付近の地面から3本の鎖が生成され、それぞれアイカ、ミスグ、チカをとらえる。
それはそのまま、巻き取られ3人は入口へ引かれる。
これで、ひとまず避難完了。
じゃない、アイカの鎖だけちぎられて、、、。
「お前は、許さない。」
鯨はアイカをつないでいた鎖を引きちぎる。
子供かよ!ったく、もう動きたくねえんだけど。
身体を貫く刀を引き抜こうと、もがく。
「猿、毒ナイフでこの小娘を刺せ。」
猿は「え。」とつぶやいてから目を丸くし、一瞬ためらう。
そして、何かを飲み込むように「了解っす。」と言い切る。
ブースト20。
今日、何度目かわからないが、ダメ押しのダッシュをかける。しかし今度は片足だ。
マジで今日、限界超えてんだよ。早く帰ってくれ!
走る僕を誰かが踏みつける。鯨だ。
「足、どけろ!」
猿は恐る恐るナイフを前に出す。
「腹だ。腹を刺せ。」
「はいっす。」
そして
「う、、、ああ!」
アイカの腹に深々とナイフが刺さる。
「アイカ!」
終わると鯨はようやく足を退ける。
「小娘。私を怒らせるとどうなるかわかったか。」
「アイカ!」
アイカを抱きとめる。
「猿、お前!」
顔をあげた瞬間、焼けるような痛みがした。
鯨は瓶の残りをぶちまけた。
「ぐあ!」
皮膚が焼ける。
鯨は刀を拾い、僕に向ける。
そして、静かに振りかぶる。
「うちに戻ってきてもらう前にもう少し、躾けておかないといかんな。」
「やめなさい。」
凄惨な倉庫に凛とした声が響く。
声の主はハンだった。クロコタもつれている。
「到着に時間がかかってしまった。申し訳ない。」
瞬間、ハンは鯨と剣を交える。
「これはこれは。アハトの代表がお見えとは。初めまして。私はアニマーレの現園長、鯨、、、」
「ここは退いてください。」
「なぜ?」
鯨は表情を変えずに問う。
「こう、なるからです。」
瞬間、鯨の、刀を持つ手が宙を舞った。
鯨は一瞬、驚いたような表情を見せた。
「ふむ、、、。わかった。猿、帰るぞ。」
今度の代表だが、最低限の戦闘力は備えているらしいな。
猿、鯨、猿に抱えられたままの鹿は裏口へ向かう。
途中、鯨はハンとクロコタを一瞥する。
しかし、残念だな。貴様より私のほうが一枚、上手のようだ。
そのころ、僕はバックパックにたどり着く。
「アイカ、意識あるか。」
そういう自分の声も乱れていて、自分も気絶寸前であることがわかる。
「大丈夫、だよ。そんな顔しないで。」
解毒用の布をアイカの腹部に貼る。傷口付近に触れる一瞬、顔をゆがめる。
自分の傷も治したかったが、なんだか頭がボーっとしてきて、それ以上に疲れていて、自分のことはどうでもよかった。
「ひとまず、たすかってよかった。」
そうつぶやいてから、バックパックを腰に巻く。
「かえろう。」
立とうとして、片足がないことを思い出す。
「アオイ、顔色悪いよ。」
汗だくのアイカが僕の顔を覗き込む。
「そう?」
まあ、のうりょくつかいすぎたし、、、。
ハンが歩いてきた。
「生きててよかった。」
頭をなでられる。
本当に疲れていたから、少し眠ろうと思って、目を瞑った。
ドサリ。
僕は自分が倒れたのだと気づけなかった。
0022へ
- Re: アニマーレ ( No.22 )
- 日時: 2025/03/10 20:28
- 名前: 長谷川まひる (ID: w7lzUlmG)
0022
次の瞬間には、上をむいていて、そこはどうやら病室らしかった。
いつもの病室とは違う。
起きようとすると足元では布団を枕にアイカが寝ていた。
自分の腕から管が出ている。
それは点滴の袋につながっていて、僕の知識によると解毒用の成分が含まれているらしい。
ああ、毒にやられたのか、僕。
至る所に包帯がまかれていて、正直動きにくい。
足が片方ないのを思い出して、回復しようと思ったが、猫の行使をしようにも応答がなかった。
まだ、十分に体力が回復していないようである。
アイカに動いてほしかったけど、どうやら夜らしい。やめておこうと思う。
窓からトントンと音がした。
見ると、猿がベランダに立っていた。
誰が開けてやるか、と思っていたら、自分ですり抜けて入ってきた。
能力の類だろう。
「何しに来たんだよ。」
ナイフを出そうとしたが、やはり応答がなかった。
「この前はすまなかったっす。」
「、、、そんなんで済むと、、、」
「思ってないっす。思ってない。」
猿は上着を脱ぎ始める。
「何やってんだよ。風呂でも入るわけじゃあるまい。」
「ヴァンパイア、使ってよ。」
「何で知ってんだよ。」
猿はとうとう上裸になってしまう。
「吸いたいだけ吸って。」
僕は大人しく猿の肩に噛みつく。
アオイのスキル:ヴァンパイア。
幼いころ、父親の血肉を食らっていたことで目覚めたスキル。
人の血を吸うと、自らの能力の糧にできる。
「本当に申し訳ない。」
どの口が、と思うが吸血中のため言葉にはしない。
猿は自分の服を抱きながら続ける。
「アイカを巻き込む気はなかったし、巻き込みたくなかった。」
きっと、いい子だから、と。
猿はあの時、ためらっていた。
「でも、鯨には逆らえなかった。
だから、君を尊敬するよ、アオイ。」
「いらねーよ、そんな尊敬。」
吸血を終えたアオイは、牙の痕を治しておく。
「もう、いいの?」
「十分吸った。」
包帯を取り、足や腹、やけどを回復する。
「何でアニマーレに戻らないの?」
急に、猿は聞いてきた。
「疲れたんだよ、人殺し。」
笑われる、そう思った。
「ずるい。」
猿はそう言う。
「少し甘えていい?」
「勝手にしてくれ。」
私も嫌なんだ、人殺すの。
猿は猫の上に丸まる。
猫ほどじゃないとは思う。直接私が手を下すわけじゃないから。
想像だけど。
私は、いかに人を殺すのかを考える人だから。
けど最近、計画を練っていると、殺される人の悲鳴とかが聞こえる気がしてくるんだ。
それが、苦しい。
「何でアニマーレ、入ったんだよ。」
それ、私の昔話しろって意味?まあ、いいけど。
勉強が好きで、というか、知ることが好きで。
小さいころは勉強しすぎで、特別枠で大学に入学、卒業したんです。
「ダイガクって何?」
あー、つまりめっちゃ頭いいってことです。
「何かむかつくわ、その言い方。」
事実ですから。
卒業したのが12才の時。
いろいろな人から声がかかりました。
国のお偉いさんや、シンクタンク、世界中です。
うちに来ないか、好待遇を約束しようって。
ただ、ダメでした。
いくつか回ってみたんですけど、面白くない。つまらない。周りの人が全員馬鹿に見えて、仕事ってのはつまらないものなんです。
好きで、楽しくて勉強してきた私にとって、その一か所で手に入れられる知識は少なすぎた。
そこに鯨が来ました。
「私のもとへ来なさい。」
あなたを欲しているといわれました。
内容はわかっていました。
組織の名前も、その人の顔も、私の頭の中の知識情報のひとつでしたから。
殺し、というのはよかった。
罪悪感より、好奇心とかが勝りました。攻略困難なゲームをやっている感覚です。
私が、今までに勉強してきたものすべてを総動員してこなしていく仕事でした。
薬学や構造学、語学、化学、なんだって使えた。
相手が手ごわいほど面白い。
でもあるとき気づいたんです。
ふと冷静になったとき。
これ以上、自分をだませなかった。
私は、自分は人殺しをしているんだ、と。
当たり前ですけどね。
でも、意識すればするほど、それは大きくなっていった。
罪悪感は大きくなっていったんです。
それが苦しくて、押しつぶされそうで。
苦しくて。
猿は泣いていた。
ごめんなさい、甘えすぎました。
猿は謝る。
「アニマーレ、やめればいいじゃん。」
そう言って後悔した。
「うん、辞めれば、辞められればいいんですけどね。」
けど、そんなことしたら。
何をされるのかわからない。自業自得なんです。
自分をあざけるように、悔しそうに泣いていた。
必死に考えたのだろう。辞める方法を。
猿はそんなに馬鹿じゃない。
僕がバカだった。
「そろそろ帰ります。」
猿はアオイの足元で依然、スヤスヤと眠るアイカの髪をひと撫でし、立ち上がった。
目元を乱暴に拭う。
「おい、クーゴ。」
久しぶりに名前で呼んだ気がする。
「獅子が、苦しいときはこうすればいいって。教えてくれた。」
猿の身体を寄せて、両腕を回す。少しきつめに抱きしめる。
「どうだ、少しは苦しくなくなったか?」
「こんな、、、」
こんなことされたら、帰れないじゃないですか。
猿はまた少し涙を流した。
帰れなくなるじゃないですか。
そう言いながら、猿も抱きしめ返した。
デバイスが音を立てる。
猿はそれをちらりと確認する。
「ありがとうございます、アオイ。」
仕事が入りました。と苦しそうに言った。
「そう、僕はもう少し寝るよ。」
あの。
うん?
私たちは、友達ですか?
猿は顔を赤くする。
「そんなの。」
どうでもいいだろ。
お前も僕も人殺しで、今の僕は自警団だ。
さっきのお前はただの泣き虫だったしな。
「そう、ですよね。」
猿は窓に近づく。
「また、来てもいいですか?」
「うん、待ってる。」
猿は嬉しそうに笑った。
「感謝するっす!」
0023へ
- Re: アニマーレ ( No.23 )
- 日時: 2025/03/11 18:04
- 名前: 長谷川まひる (ID: C0FcWjM6)
0023
目が覚めると、真横にアイカがいた。
「わ。」
ビビった。心臓が跳ねる。
きっともう朝だよな。日、昇ってるし。
今、何時だ?
「おい、アイカ。」
未だにぐっすりと寝たままのアイカをゆらゆらと揺らす。
「うーん。」
「今、何時?」
「えーっと」
ポケットからデバイスを取り出す。
「10時、、、アオイ!」
アイカの目が覚める。
「アオイ!」
抱きつかれた。
どうして、時間聞いただけなのに。
アイカは泣きはじめる。
「どうしたの、アイカ?」
そこに扉を開けて入ってきたのはハンだった。
「おはよう、アオイ。」
「、はよう、ございます。」
「元気そうでよかった。」
続いて謝られた。
「すまなかった。もっと早く到着すべきだった。」
「気にしないでください。僕の問題ですから。」
「気にするよ。ボロボロになるまで戦ってくれた。」
申し訳なかった。そして、ありがとう。
終始、となりでアイカが泣いているものだから、話の一部は泣き声にかき消されたが、そのせいでいくつかの発言に対し生返事を返したことは秘密である。
「ハンさん。」
「うん?」
「アイカ、どうしてこんなに泣いてるの?」
いろいろだよ。いろいろ。
いろいろな理由があるけど、一番はやっぱりアオイが起きてうれしいんじゃないかな。
アイカは、アオイのことが気がかりでろくに食事も摂れていなかったからね。
それに、アオイはみんなを守るために頑張ってくれたんだ。
能力を使いすぎてしまったのが自分のせいだと思ってる。
「そう、なんだ。」
アイカは僕のために泣いているのか。
こういうとき、なんて声をかければいいんだろう。
わからない。
「アイカ。」
わからないから、ひとまず挨拶はしておこうと思った。
「おはよう。」
アイカは顔をあげて、涙でぐちゃぐちゃのまま「おはよう。」と笑った。
ハンさんには、その不器用さを少し笑われた。
傷は治したので退院となったが、解毒がまだ完了していないらしく、薬を処方された。
「自分で解毒できるんだけどな。」とつぶやくと、アイカが目を腫らしたまま、「能力禁止!」と怒ってきた。
「わかった。」
気圧された僕はそれ以外の答えを返せなかった。
支局に到着し、ドアを開けるなり、リーダーに抱きつかれた。
「よかった、よかった。」
繰り返し言われて、少しうれしかった。
うれしくて少し笑っていると、チカが歩いてきた。
「何、笑ってんだ。気持ち悪い。」
「チカ、泣いてたくせに。」
アイカが突っ込むと、チカの顔はみるみる赤くなる。
「お、お前のほうが泣いてたじゃんか!」
「泣いてるのは否定しないんだー。」
「あのさ、みんな。」
アオイが切り出す。
「迷惑かけてごめん。」
いろいろと。鯨とか、鹿とか、あと猿とか。
すごく危険な目に遭わせた。
「ごめ、、、」
言いかけると、リーダーは僕の肩に手を置く。
「こういうときは謝るんじゃなくて、ありがとう。っていうんだよ。」
あ、そうか。
「みんな、ありがとう。」
みんなを危険な目に遭わせてしまったうしろめたさよりも大きな、この温かい気持ちを伝えるには。
獅子、うれしいときはありがとうっていうんだよ。
「危ない目に遭うことくらい、お前が入った時からみんな、覚悟してんだよ。」
僕は、みんなのことを侮りすぎたらしい。
猿の血を多く吸ったせいで、あまりおなかが空いていなかった。
食事を残したら、アイカに心配されてしまった。
逆にアイカはおなかが空いていたらしく、僕が残したものを食べてくれた。
「太るよ。」というと怒られた。
夜、ひどい夢をみた。
鯨は僕の腹に手を伸ばす。
手は僕の腹の中に入った。
「お前がアニマーレに戻らないというのなら、黒だけでも返してくれないか?」
腹の中をかき混ぜるようにする。
僕は苦しみながら、止めてくれと懇願する。
そうして、鯨はふと諦め消えてしまう。
夜に飛び起きてからも、痛みを忘れられずにひとりうずくまる。
「痛い。」
腹の中が痛い。痛い。
歯をくいしばる。
そのままずっと、朝まで丸まっていた。
アニマーレからの追手が途絶えた。
それをいいことに僕らは順調に仕事をこなす。
ある日、チカは珍しく「用事。」と言って休みをもらっていた。
「彼氏?」
アイカが聞くと、「私が男つくるわけないじゃん。」とぶっきらぼうに返し、「先生のとこ。」といった。
さっさと支局をあとにしてしまう。
「先生って誰?」
アオイが尋ねるとリーダーが答える。
「チカに体術を教えてくれてる人。」
「へえ。」
大人嫌いのチカが教えを乞う人、、、年下?
「いや、おっさんらしいよ。」
「あれ?」
「育ての親みたいなモンだからね。そこは苦手意識無いでしょ。」
「そんなもんなの?」
夕方、まだチカが帰宅しない。
「道、迷ってるんじゃない?」
「まさか。」
そんな軽口をたたいていたのもつかの間。
とうとう日が暮れた。
「僕、探してくるよ。」
「え、じゃあ、私も。」
「大丈夫。」
猫に姿をかえる。
「これで街中、歩いて探すから。」
「じゃあ、よろしくね。」
チカのニオイをたどる。
夜は寒い。鼻先が冷たい。痛いくらいに。
導線は街の外まで続いていた。
見たことのあるところだな、と思って合点した。
果たして、その先にあったのは僕の初仕事の現場となった倉庫だった。
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