二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ドラゴンクエスト8-光を求める者
日時: 2013/11/13 14:39
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

!挨拶
初めまして、そうではない方はこんにちは。朝霧(あさぎ)と申します。前作、スレッドのパスワードを忘れてしまい、編集が出来なくなったため再度スレを立てさせて頂きました。
立て直す際に前作、獣の末裔より大幅に設定が変化している面があります。が、オリキャラや設定を一部引き継いでいる面もあります。

!詳細、緒注意

:ハーメルン、すぴぱる様にも同じものを投稿させていただいています。

:まず携帯から更新→パソコンで直すため投稿直後は読みにくいです

:ドラゴンクエストⅧの二次創作小説。

:原作+捏造ストーリー。皆様が知るドラクエ8の世界ではなく、パラレルワールドの世界です。

:ドラクエ8のネタバレがあります!

:オリキャラ、世界観捏造、キャラ崩壊、自己設定の要素があり。個人的にドラクエ8をプレイしていて、ん?と疑問を持ったところに妄想をねじ込んでいる部分が多々あります。

:恋愛あり。オリキャラの落ちは8主です。主姫好きな方には不快な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。

:一部扱いの悪いキャラがいます。特におまけの章。

:以上が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。

それでは、長くなりましたがよろしくお願い致します!

長編
序章 黒い道化師
>>43>>44,>>81,>>85
一章 旅への誘い(トラペッタ)
>>131,>>155-158,>>161-162,>>206->>215

その他
コラボ(×ユウさま、目覚めし運命)
>>90,>>93,>>94,>>97,>>104,>>106,>>111,>>113,>>116,>>117,>>119,>>122,>>125,>>126

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Re: ドラゴンクエスト8-光を求め ( No.154 )
日時: 2013/09/23 09:47
名前: 水恋 (ID: w1PAg8ZW)

まさかの悪魔と言う展開にびっくりしてる!オデットはいいドラゴンだと思っていたのに……

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.155 )
日時: 2013/09/24 21:51
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)
参照: 一章 好奇

 トラペッタに入る際、セシルは人に化けた。今回はユリマとは、別人である。
 明るい茶色の髪をポニーテールにした、十代前半の娘。緑を基調とした丈の長いスカート。その姿にシャウラは見覚えがあった。時折町に来る花売りの娘。今回は、その娘に化けたようだ。

 セシルと共に門を抜けると、衛兵がセシルを呼び止めたが、気にせず二人は駆け抜けた。
 背後から衛兵の呼ぶ鋭い声を聞きながら、二人は広場を横切る。
 途中で、セシルはシャウラと別れ、反対方向に行った。
 火事のことを、 色々聞き込みして来て、とシャウラが頼んだからだ。

 もう夜遅くのせいか、広場には人の姿が見受けられない。石の壁沿いにあるテントにも誰もいない。
 広場のすぐ上にある酒場や武器屋も灯りが消えており、とっくの昔に店じまいしたらしいことが分かった。シャウラはあれからどれだけ時間が経ってのか、非常に気になった。
 町に焚かれた明かりだけが、シャウラをじっと見つめていた。

 広場を過ぎた辺りで、シャウラは人の集まりに気が付いた。
 本来なら、我が家がある辺りに、トラペッタの住人たちが集まり、何やら話し合っている。皆、不安と好奇をないまぜにしたような顔で互いをみやっていた。
 
 火事がどうのと言う、単語がシャウラの耳に入るが、すぐに抜けてしまう。

 家がない、と言う現実を目の当たりにし、シャウラは殴られたような衝撃を覚えた。
 足から力が抜け、走るスピードががくんと落ちた。徐々に徒歩となり、ついには立ち止まってしまう。

「——シャウラ、生きていたのか!」

 シャウラの存在に気が付いた住人の一人が驚きの声を上げ、他の住人たちが一斉に振り返る。皆はシャウラ、と口々に名前を呼びながら近づき、取り囲んだ。驚いた、あるいはほっとしたような顔つきに囲まれ、シャウラは戸惑う素振りを見せた。

 住人たちを見ていたシャウラだが、ふと、目をそらすと一面の黒い地面とそこから伸びる、白い煙が目に飛び込んできた。

 今朝まで家があった場所は、黒い焦土と化していた。焼け焦げた地面が広がるだけで、家の痕跡らしいものは何一つ残っていない。
 家の土台や、柱くらいは残っていると予想していただけに、シャウラは戦慄を覚える。

「シャウラ、あんた無事だったのか!」

 隣人の奥さんが、シャウラを抱きすくめる。よかった、よかったと感極まって、泣き出した。力強く抱き締められ、息苦しかったので、離してください、と抗議すると、すぐに解放された。
 ふう、とため息をつくと、シャウラは奥さんに向かって平然と嘘をついた。

「……私用で外に出ていたので」

 ——凶悪な道化師に襲われたが、ドラゴンに助けられました。
 吟遊詩人辺りが"昔話"として喜びそうな話を、誰が信じるだろうか。
 それに、ドラゴンは聖書における悪魔の象徴だ。それを自分で呼び出したなどと言えば、キチガイと認識され村を追い出される可能性がある。あるいは教会に告発されるか。——そう、シャウラは考えていた。 村を追い出されたくなかった。

 そんなことなどつゆも知らない人々は、次々と安堵したような声を漏らす。

「よかった。シャウラちゃんまで火事で焼かれたかと」

「本当だよ」

「……その。一体、何が」

 シャウラが控えめに聞くと、住人の一人が説明してくれた。

「夕方くらいにいきなり火が出て、何時間前にやっと消火したんだ。火は凄かったけど、あっさり消えちゃうし……全く、変な火事だよ」

 原因も不明だし、と住人が補足を入れる。
 シャウラはほっとする。どうやら、人々は家の中で起きたことを知らないようだ。ただ、オデットが見えていないのは意外だった。
 そうですか、と頷き、一番聞きたいことを、住人たちに尋ねる。

「父様は?」

 その言葉に、住人たちは静まり返った。皆、困ったような表情を浮かべ、互いに顔を見つめあっている。
 人によってはシャウラをちらちら見ながら、声を潜めて話す住人たちもいた。
 皆、哀れむような視線をシャウラに向けるだけで、口を開こうとしない。
 ——誰が言っても変わらないのに、とシャウラは呆れたように鳶色の瞳を細める。
 しばし住人たちはあなたが、いや、あなたがと変な譲り合いをしていた。
 が、見かねたらしい宿屋のおかみが、私がやるよと宣言し、住人たちはほっとしたような顔になる。

「ライラスさんは家に居たんだね?」

 シャウラは頷いた。

「ええ。来客があるから、家にいると言っていました」

 おかみは、やっぱりと答えを予測したような言葉を発し、住人たちは一斉に俯いた。
 おかみもシャウラから視線をそらしたり、目を合わせてはまたそらし、と何かためらう様子だった。しかし、覚悟を決めたのか、シャウラをしっかり見据えると、彼女の肩を片手で掴む。

「シャウラ、よく聞くんだよ」

 ぐ、と肩を掴む力が強くなり、シャウラは不安がわき出てきた。
 おかみは、ゆっくりだがはっきりとした声音でこう告げる。

「多分、あんたのお父さんは亡くなったと思う」

 不安が現実となり、シャウラは立ち眩みのような感覚を覚えた。しかし、おかみの言葉に違和感を覚え、何とか口を動かす。

「……おかみさん、多分、とは……どういう意味ですか?」

「焼け跡から遺体は見つかっていないから、何とも言えないのさ」

おかみは、肩をすくめる。

「……ただ、火事のちょっと前に、あんたのお父さんが誰かと口論していたらしい。聞いている人間が何人かいる。あんたの話も含めて、ライラスさんが家にいたのは、間違いないだろうね」

「…………」

 シャウラは口を開けない。死んだ、と言われても、父は死んだように思えないからだ。だが、生きていると信じるには確証がない。
 生死、どちらを信じていいか分からず、思考がぐちゃぐちゃになる。

「あんたのお父さんは高齢だ。この火事で逃げられたとは思えない。……遺体はないけど、多分亡くなったんじゃないかねえ」

 焼け跡から遺体が見つからないなど、よくあると言えば、よくある話だ。大抵は魔物に滅ぼされた村の話だが。
 魔物が吐き出す炎は、人の身体など燃やす——否、溶かしてしまうらしい。骨が残らない程に人の身体を溶かし、存在を抹殺する。だから、遺体は見つからない。

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.156 )
日時: 2013/09/24 22:00
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)
参照: 一章 好奇

「…………」

 その話を思い出し、暗い気持ちに拍車がかかる。
 ドルマゲスは魔物じみた力を持っていた。なら、骨も残さずに父を焼き殺すことは十分可能なはず。
 ——父は、家と共に消し去られたのではないか。
 目頭が再び熱くなり、視界が霞む。
 それでも、泣くことは出来ないので、我慢する。

 ライラスさんは怪しい実験をしていなかったか、これからどうするのか、一人ぼっちだと心配だからいい男を紹介しようか。と、住人たちは 矢継ぎ早に無遠慮な質問を浴びせてくる。
 その態度にシャウラは怒りを覚えた。人々の声がやかましいのも苛立ちを増幅させるが、何より許せないのは好奇で輝く瞳だった。
 人が死んでいると言う事実を軽く、受け取りすぎだと思った。
 火事がこの家だけで済んでよかったわね、と言うおかみは、他人事と考えているに違いない。

 人々は詮索の手を緩めない。無言を貫くシャウラの口を開こうと、手を打って囃し立てる住人まで現れた。
 心にぽっかりと穴が空いたような、空虚な気持ちが全身を支配して、何か意見する気力もない。シャウラは俯いたままやり過ごしていた。

 言い訳も思い付けず、逃げることも出来ない中、不意にシャウラを呼ぶ声がした。

「シャウラ!」

 声の方を見やると、ユリマが人を無理に押し退けて、シャウラの方にやって来る途中だった。シャウラは友人の登場に強張った表情をわずかに緩め、住人たちはどよめいた。

「シャウラ、大変だったわね」

 住人たちのどよめきの声など気にせず、ユリマはシャウラに慰めの声をかける。優しく微笑み、シャウラの腕に自分の腕を絡ませた。

「帰りましょう」

 次の行動は、住人たちを唖然とさせるのに十分だった。
 ユリマは、シャウラの腕を引っ張り、この場から立ち去ろうとしていた。逃げたかったシャウラは、抵抗もせずに引っ張られている。まるで飼い主が犬を引っ張るような光景に、ようやく、住人の一人がちょっと待った、と非難の声をあげる。

「ユリマ。まだシャウラに話が……」

 その言葉に、ユリマは立ち止まり、振り返る。
 その顔には、はっきりと怒りの色が宿り、顔は真っ赤になっていた。普段の大人しい性格からは想像出来ない鋭い目付きで睨み、住人たちは思わずたじろぐ。

「シャウラは、お父さんを亡くして落ち込んでいるんですよ。放っておいて下さい!」

 ユリマは怒りで顔を上気させながら、住人たちを怒鳴った。彼女の気迫に押され、誰も反論出来なかった。その隙にユリマは、シャウラの腕を引っ張り、呆然と立ち尽くす人々の間を無理矢理通り抜ける。
 その際、おかみさんが、言い訳をするように、

「ユリマ、あたしたちはシャウラを励まそうと……」

 ユリマはおかみさんとすれ違い様に、

「……少しは、人の気持ちを考えてあげて下さい」

 おかみさんは押し黙り、ユリマは笑顔で振り向いた。

「行きましょ。シャウラ」

 シャウラは無言で頷き、ユリマと共に焼け跡から遠ざかって行った。
 空には、雲でぼやけた半月が輝いていた。


 その後、シャウラは、ユリマの家に案内された。
 家に着くまで、シャウラは無言を貫き、ユリマも気遣っているのか、話しかけて来なかった。

 家の扉を潜った途端、シャウラは心の底から、安心できた。
 ふう、とため息をつくと、暗かった気持ちがほんの少しだけ気が楽になる。強張った表情も、ほぐれていくのを感じた。

 シャウラは、ユリマに案内され、夕方頃までいた、二階の部屋に行く。
 ベッドが二つあるだけの殺風景な部屋。シャウラとセシルが、焦って飛び出したままの状態になっていた。

「本とか……触らない方がいいかな、と思って」

 ユリマが苦笑し、シャウラは目の前の光景を思わず、凝視してしまう。
 枕は斜めになり、シーツはぐしゃぐしゃで、掛け布団はめくられたまま。さらに追い討ちをかけるように、ベッドの下では、頭陀袋が開き、中から分厚い本が三冊、床に散らばっていた。
 あまりの散らかり様にシャウラは絶句したが、すぐに片付けに取りかかる。
 頭陀袋を持ち、その中に、手早く本を閉まった。

ユリマは反対のベッドを整えてから腰掛け、シャウラが片付けする様子をじっと観察していた。それに気づいた、シャウラは、ある一冊の本を見えない様、袋の奥に隠す。
 そして、不意にポツリと、

「……残った家財道具は、これだけね」

 その呟きは、ひどく悲しい響きを伴っていた。
 ドルマゲスは全てを奪い去った。——父、帰る家、挙げてしまえば枚挙にいとまがない。虚しさはますばかりだが、シャウラはこれからの生活をどうするかを考え始めていた。年からすれば、もう立派な大人だ。自分でどうにかして、生きていかなければならない。

「お金……どうしよう」

 いきなり住む家を失ったシャウラは、途方に暮れる。今まで金銭的な面は、ほぼ父に頼りきりで生活していたので、どうしてよいか分からないのだ。
 そんなシャウラに、ユリマが優しく声をかける。

「お金のことなら気にしないで。一人くらい増えても、大丈夫だから」

「……ユリマ。ごめんなさい、助けて貰ってばかりで」

 本をしまい終え、ベッドを整えたシャウラは申し訳なさそうに謝る。だが、ユリマは優しく微笑みかける。ベッドから立ち上がると、シャウラの肩にそっと手を置いた。

「もう、気にしなくていいのよ。辛いときに、助け合うのが友達でしょう?」

〜つづく〜

Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.157 )
日時: 2013/09/24 22:37
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)
参照: 一章 好奇

 その言葉に、シャウラは驚いたように瞬きをし、じっとユリマを見つめる。僅かに首を傾げ、

「……私、何もしてないのに助けてくれるの?」
「これからしてくれればいいよ」

 柔和な笑みでユリマは応える。教会の女神像より、よほど優しい笑みだとシャウラは、感じた。暗くなりがちな気持ちが、少し楽になる。少しだけ、前向きになれた。そもそも生きて父を探したい、と強く願ったのはほかならぬ自分ではないか。それを思いだし、

「……とにかく、生きてみるわ」

 シャウラは、僅かにだが口角を持ち上げて言うと、ユリマの顔が明るくなる。

「そうそう! そのいきだよ!」

*
 それからシャウラはベッドに腰掛けて、ユリマと向かい合い、色々な話あった。
 その中で驚いたのは、トラペッタの人々が噂する、火事の原因だった。誰が言い出したのか、ライラスが魔法に失敗したと言う、とんでもないものだった。
 とんでもないと言うのは、シャウラにとっての話。だが、魔法の知識がない庶民には、一理ある話になるようだ。
 確かに強い魔力を持つ人間がその力を暴走させ、自滅したと言う伝説は、呆れる程ある。——いや、今回の火事を無害なものだと説明するには、そうするしかないのだろう。
 もしこれが放火なら、人々は犯人に怯えながら生活しないといけない。 

 放火する場を誰も見ていない以上、事件ではないのだ。だから、無害なものとして風化させようとしているのだろう。トラペッタ(ここ)が安全だと証明するために。自分たちの生活を守るために。

「町の人たちね、みんな噂してるの……ライラスおじさんが、魔法の実験で失敗したから、火事が起こったんだろうって。そんなこと、あり得ないのに」

 ユリマは不信感を露にした。対するシャウラは、鼻で笑っていた。

「……ま、そういうことにしておいた方がいいでしょうね」

 父の尊厳を傷つける、怒りを覚える内容。
 だが、シャウラは冷静だった。確かに怒りは覚えるが、それを覆せる説明が自分に出来ないことは分かっていた。
 シャウラは、もう自らの意思で充分判断できる年だ。
 自分の生活は、自分で守らないといけない。自らの保身の為にも、火事の原因は父だ、と言うことにしなければ、ならない。自分だけが抱えていれば、全てはおさまる。それでいい、と。

 ——だが。

「ねえ、シャウラ。今、抱えている思い、少し打ち明けてくれないかな?」

「……え」

 心配そうな顔でユリマが提案し、シャウラは面食らう。いつもなら大人しく話を聞いているだけなのに、今日はやけに積極的である。

「辛くて抱え込みたいのは分かるけれど、抱え込みすぎると気持ちが重くなっちゃうよ?」

「…………」

ユリマは身を乗り出して、シャウラに訴えてくる。

「袋にたくさんの物を入れると、重くて持てなくなっちゃうでしょう?それとおんなじ。抱え込みすぎると、シャウラだけでは、どうにもできなくなることもあると思うの」
「……そう、かな」

 ユリマの勢いに、シャウラがたじろぐ。そこに、ユリマは畳み掛けるように、

「袋を軽くするには、物を出せばいいわ。そう、話した方がきっと楽になるよ。嫌なら、無理にとは言わないけれど……」

 シャウラは、やや迷い、口を開いた。

「……まず初めに断っておくけど、作り話じゃないのよ」
「え?」

 シャウラの唐突な言葉に、ユリマはきょとんとした。だが、真剣な顔付きのシャウラを見、ユリマも真面目な表情になる。

「私が抱えている思いは、火事に関する事実よ。……今日、火事が起きたとき、私はあの家にいたの」
「話してみて」

 ユリマに促され、シャウラは語り始める。つい先程の出来事を思い出しながら、努めて淡々と話す。
 信頼できるユリマなら大丈夫、とシャウラは、ドルマゲスに襲われた話を聞かせた。

 ユリマは黙って耳を傾けていたが、驚きを隠せないのだろう。時折、目を丸くしたり、嘘……とぼやいたりしていた。色々聞きたいだろうに、横槍も入れずにシャウラの話を最後まで聞いていた。

「……とまあ、これが今日あった事実よ」

 話し終えると、さすがのユリマも混乱した様子だ。難しい顔をして、頭を抱えて唸っている。シャウラが、分かりにくいよね、と声をかけると、ユリマは深呼吸をして、顔を上げた。

「え、と……纏めてもいいかな?」
「どうぞ」
「まず、シャウラとセシルは、ドルマゲスさんがおじさんを襲うところに出くわした」
「そう」

 シャウラは、頷いた。

「戦ったけれど、歯が立たず、危ない目にあった。でも、おじさんが呪文を唱えて助けてくれた」
「うん」
「助かったけれど、ドルマゲスさんは家に火を放ち、おじさんと共に姿を消した。それで、シャウラとセシルは、火に囲まれたけど、精霊のようなものに、助けられて、助かったと。こんな話かしら?」
「そうそう。問題ないわ」

 シャウラと話すことで、ようやく話が見えてきたらしい。だが、相変わらず顔に困惑の色は残っている。
 
 悪の象徴であるドラゴンを呼び出したとは言えないので、精霊とぼかしておいた。

「正直言って、なんて言っていいのか……」
「無理ないわ。私だって、他人から聞いたら、作り話だと思うもの」

 苦笑するシャウラに、ユリマは力強く宣言する。

「でも、私はシャウラを信じるよ」

 そして、ニコリと笑う。

「その話の方が、筋が通ってると思うの。強力な魔物の火は、全てを焼き尽くす……とも言うから、あんなに家が焼けたのも、納得できるわ」
「ユリマはドルマゲスさんを魔物だと思うの?」

 気になったことをさりげなく聞くと、ユリマは言葉を選びながら、

「……その、近くに、人間に化けるキラーパンサーがいるから……なんとなく……」
「ああ、セシルね」

シャウラがあっさりと言うと、ユリマは慌てて否定する。

「せ、セシルのことは疑ってないよ! ただ、ドルマゲスさんは、悪い魔物が人間に化けた姿なのかなあ……って」

 そこまで言って、ユリマは何か思い付いたような顔になる。手を叩き、目を輝かせて立ち上がった。

「そうだわ。火事のこと、話せば、みんな分かってくれるんじゃないかな?」

 しかし、興奮気味なユリマと対照的に、シャウラは落ち着いていた。顔色一つ変えずに首を、横に振る。

「ユリマ。この話は他言しないで」
「どうして? おじさんがあんな風に言われてもいいの?」

 ユリマは、座ったままのシャウラに詰め寄る。シャウラは、肩を竦めると、しっかり非難めいた視線を送るユリマを見据える。その瞳は、どうしようもないと言わんばかりに諦めきっていた。

「それは許せない。けど、証拠がない以上、この話は下らない妄想だと笑われるのが落ちだと思う。酷ければキチガイ呼ばわりされるわ……仕方ないの」

 諦めたような口振りだが、シャウラは、カートルを両手でぎゅっと握る。カートルが持ち上がるくらい強く握っていた。その手は、小さく震えていた。
 それでもシャウラは、感情のさざ波すら面に出さず、話を続ける。

「キチガイと見なされたら、トラペッタの人たちの反応はどうなるかしら?」

 シャウラは、わざと話を切り、ユリマに質問する。それだけでユリマはシャウラの意図を理解したらしい。不満そうに答える。

「……シャウラは、悪魔に憑かれて精神を病んだ、神に逆らう異端と見なされるわ。教会に告発され、村を追い出される……のね」

 正解、とシャウラは拍手を送る。ユリマは嬉しくなさそうに顔をしかめた。

「どうしようもないのよ。私がトラペッタで暮らすためには、黙っているしかないの」

す っかり諦めきったその声に、ユリマは何か言おうと口を動かしたが、言の葉にはならなかった。しばし視線を宙にさ迷わせていたが、やがてしぶしぶと言った感じで頷く。

「……分かったわ。私とシャウラ、セシルだけの秘密にしよう」

 でも、とユリマは続ける。青い瞳がシャウラを、しっかりと見つめた。

「私は……私は、知っているからね。それだけは覚えておいて」

「え、ええ……」

 シャウラは、ユリマの勢いに押されるように頷いた。


〜つづく〜







Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.158 )
日時: 2013/09/24 22:40
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)
参照: 一章 好奇

 その時、不意に扉が叩かれ、シャウラとユリマが一斉に視線を向ける。僅かに扉が開き、入ってきたのは、キラーパンサーの姿をしたセシル。
 意外な来訪者にユリマとシャウラは、瞬きをした。セシルは、何やら疲れきった顔付きで、ため息と共に言葉を吐き出す。

「……おい、酔っぱらいを何とかしてくれ」
「こら、待たんか、セシル!」

 低い怒鳴り声がして、セシルはめんどくさそうに顔をしかめた。シャウラとユリマの方に逃げてくる。
 その直後、部屋に一人の男がやって来た。黒い立派な髭を蓄えた、背が高めな男だった。——ユリマの父、ルイネロ。
 着ている服は庶民のものだが、黒い毛玉かと思う程盛り上げた独特の髪型と、青い石をはめた首飾りは庶民のものではない。それらが示す通り、ルイネロは一風かわった人だ。いや、だったと言う方が正確か。

 ルイネロは顔を真っ赤に染め、おぼつかない足取りでセシルに近付いてくる。
 その際、強烈な酒の匂いが漂ってきて、ユリマは思わず手で鼻をつまんだ。
 しかし、すぐに手を離すと、立ち上がり、ルイネロの前に立ちはだかる。きっと娘に睨まれた父親は、突然青ざめた。

 シャウラは酒の匂いが平気らしく、特に顔色を変えていなかった。

「お父さん……また飲んだの?」

 ユリマが呆れたように聞くと、ルイネロは彼女から視線をそらした。

「……少しだけだ」
「もうやめて。そんなに飲むと、身体を壊しちゃうよ」

 ユリマは、必死にルイネロに訴える。しかし、ルイネロはうるさいと一喝した。

「ええい、うるさいぞ、ユリマ」

 びくっと身体を震わせ、ユリマは沈黙してしまった。父の身体を気遣う娘と、断固として酒をやめない父の平行線な会話。
 毎日のように繰り返される会話を、シャウラは、飽きる程聞いていた。この会話に自分が混ぜて貰えないことも分かっていた。
変に会話に入っても、ユリマとルイネロに関係ない、と弾かれるのがいつものことだった。
 現にシャウラとセシルなど、いない同然の扱いで、二人は話を進めている。

「もう、どうして!?」
「それはわしの勝手だ!」

 ユリマとルイネロが口論を始める中、シャウラは足許でユリマとルイネロの喧嘩を見ているセシルを背もたれにして、床に座る。

「……おじさんと、何かあったの?」
「酒場で情報を集めていたら、マスターに押し付けられた。それから、しつこく絡んできてうるさいのだ」

 セシルは、うんざりしたように呟いた。柔らかい体毛に心地よさを感じながら、シャウラは、身体を前に伸ばす。

「それは不運ね。今日は、おじさまやけのみしてたのよ」

 改めてシャウラは、ルイネロをじっと眺める。その時、不意にルイネロがシャウラを見つめた。
 ルイネロは目を丸くし、彼女を凝視しながらゆっくり歩み寄る。近付かれたシャウラは、たじろぎもせず、静かにルイネロを見つめていた。



「……む、むむ!」

 腕を組み、唸るルイネロ。いつにない真剣な表情でシャウラを観察しては、何やら考え込んでいるのか、俯いてしまう。
 ユリマがお父さん、と心配そうに呼ぶが反応がない。かなり集中しているらしかった。
 ——シャウラは、ルイネロに挨拶を忘れていたことを思い出した。観察されても、特に気にしていなかったようだ。

「こんばんは、おじさま」

 それが合図だったかのように、ルイネロは口を開く。

「おぬし、ドラゴンにつかれているな?」

 シャウラは、"ドラゴンに疲れているな"と言う意味で、受け取っていた。
 オデットのことを見抜かれたのかと、シャウラは少々焦った。

「まあ……」

 曖昧に答えると、ルイネロは首を振る。
 そして、シャウラが呆然とすることを告げた。

「その"疲れた"、ではない。この世のものではないものに取り憑かれておる、と言う意味の、"憑かれた"、だ」
「わ、私、ドラゴンに憑かれているんですか?」

 ルイネロは今はただの飲んだくれ親父に見えるが、こう見えても占い師だ。それ故か、何かを見抜く不思議な力を持つ。シャウラもその力は身をもって何度も体験している。

 シャウラは、ルイネロに聞いたが、動揺のあまり、立ち上がり、声がひっくり返った。
 ドラゴンに憑かれる覚えはある。——オデットだ。
 しかし、オデットに救われたシャウラは、人に憑依するような悪魔には思えないでいた。
 だからルイネロの指摘に、シャウラは声がひっくり返る程驚いた。
 元々オデットを快く思わないらしい、セシルは当然そうな顔をしていたが。
 オデットを知らない、ユリマだけが呆然としてシャウラと父親を交互に眺めている。

「白いドラゴンの姿が見えるから、悪魔と思って間違いないだろう。が……悪魔にしては悪意を感じないな。代わりに凄まじい執念を感じるぞ。かなり強い意志を持って、お前に憑依したようだな」

 白いドラゴンと言われてしまえば、オデットであることはほぼ確定したようなもの。ルイネロに力強く言い切られたシャウラは、オデットに疑念を抱き始めていた。
 さらに詳細を聞こうとルイネロに声をかけようとするが、ルイネロは背中を向けてきた。

「やれやれ、火事のせいで酔いが覚めたわ」

 疲れたのか、ルイネロが額に手を当てながら、部屋を出ていった。その後を追いながら、ユリマは注意する。

「お父さん。不謹慎なことを言わないで」

 二人が部屋を出ていき、シャウラとセシルが残された。互いに顔を見合わせ、行動をはじめる。

「……オデットの奴に話を聞いてみるか。その方が早い」
「多分、夢の中で会えるはずよ」

 言うと、シャウラはベッドに潜り込んで、セシルは床に四肢を折って身を伏せ、彼らは目を閉じた。

〜つづく〜






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