二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ドラゴンクエスト8-光を求める者
日時: 2013/11/13 14:39
名前: 朝霧 ◆CD1Pckq.U2 (ID: 9kyB.qC3)

!挨拶
初めまして、そうではない方はこんにちは。朝霧(あさぎ)と申します。前作、スレッドのパスワードを忘れてしまい、編集が出来なくなったため再度スレを立てさせて頂きました。
立て直す際に前作、獣の末裔より大幅に設定が変化している面があります。が、オリキャラや設定を一部引き継いでいる面もあります。

!詳細、緒注意

:ハーメルン、すぴぱる様にも同じものを投稿させていただいています。

:まず携帯から更新→パソコンで直すため投稿直後は読みにくいです

:ドラゴンクエストⅧの二次創作小説。

:原作+捏造ストーリー。皆様が知るドラクエ8の世界ではなく、パラレルワールドの世界です。

:ドラクエ8のネタバレがあります!

:オリキャラ、世界観捏造、キャラ崩壊、自己設定の要素があり。個人的にドラクエ8をプレイしていて、ん?と疑問を持ったところに妄想をねじ込んでいる部分が多々あります。

:恋愛あり。オリキャラの落ちは8主です。主姫好きな方には不快な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。

:一部扱いの悪いキャラがいます。特におまけの章。

:以上が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。

それでは、長くなりましたがよろしくお願い致します!

長編
序章 黒い道化師
>>43>>44,>>81,>>85
一章 旅への誘い(トラペッタ)
>>131,>>155-158,>>161-162,>>206->>215

その他
コラボ(×ユウさま、目覚めし運命)
>>90,>>93,>>94,>>97,>>104,>>106,>>111,>>113,>>116,>>117,>>119,>>122,>>125,>>126

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Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.209 )
日時: 2013/11/13 13:35
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 ユリマが手短に話した内容に、シャウラは首を捻った。

「いいとは思うけど、ユリマにしては、随分乱暴な発想ね」
「そ、そうかな?」

 困ったようにユリマが笑うと、今まで黙っていたセシルが口を開いた。

「幸い、今、トラペッタの連中に力あるものはいない。存外、上手い方法かもな」
「衛兵さんは? 訓練を積んだ兵だし、簡単に屈するとは思えないけど」
「バカを言え。あいつは平和ボケしていて、真っ先に逃げる奴だぞ。前にキラーパンサーの姿でからかってやったら、一目散に逃げていったわ。やはり、賢い私に衛兵ごとき敵ではないな」

 得意気に自慢するセシルに、シャウラは言葉を失い、卒倒しかかる。町を守る衛兵が弱虫であると言う事実と、セシルの悪趣味が二重の苦しみとなって、シャウラにのし掛かる。
 その横でユリマも苦笑していたが、すぐに話題を戻した。

「どう?」

 シャウラも頭を切り替える。

「確かに上手く行きそうだとは思うけど、不安なところもあって」

 正直なところ、失敗した際のことが頭をよぎり、行動を躊躇してしまう。失敗を恐れる気持ちが、まだ残っている。
 それをユリマに隠さず吐露すると、彼女は優しく微笑んだ。

「悩むのはよく分かるわ。私もトラペッタから追い出されると思うと、怖いもの」

 ユリマの笑顔から恐怖は読み取れない。むしろ、大丈夫だと確信しきった顔付きである。それだけに、シャウラには意外だった。

「じゃあ、どうして魔物を救おうとするの?」
「後悔したくないから」

 ユリマは手を組み、女神像を見上げる。

「魔物を救えたのに、って後悔したくないの。きっと、どっちを選んでも後悔するわ。だったら、自分のやるべき事をやった方がいいと思うの」
「……やるべき事」

 シャウラも女神像を見詰める。静かな笑みが、こちらを見下ろしていた。

「行動を放棄しなかった分、後悔は少なくなると思うから」
「うん……」

 二人は自然と視線を下げ、お互いを見ていた。ユリマは柔和な目でシャウラを見る。淡々とシャウラは見返していた。

「もし町を追い出されたら、三人でどこかに引っ越そうよ。三人いれば何かのお仕事にはつけると思うから」
「ルイネロさんは?」
「お父さんも力強くで引っ越させればいいわ。四人で引っ越すの」
「……強引ね」

 シャウラは呆れてため息をつく。ふふ、とユリマは楽しそうに笑い声を上げた。

「四人で力を合わせれば、新しい町でも生活出来るよ。………あくまで最悪の場合、だけどね」

 そう前置きして、迷いのない目で二人を見据えた。

「私は上手く行くと思う。シャウラやセシルとなら、何とかなりそうな気がするの。あの火事から生き残ったあなたたちとなら、きっと上手く行く」

 自信満々にユリマは断言し、シャウラは迷いが何処かに吹き飛んだ。考えてみれば、迷ったのがバカなようだった。
 どうせ近い将来、トラペッタを追い出されるのは避けられないし、殺される可能性だってあるのだ。それが早いか遅いかの違いだけだと気づき、シャウラは変にほっとした。
 気が付くと、シャウラは無意識のうちに眼鏡のつるを掴んでいた。

「私、魔物を助けるのを手伝うわ」

 頭の片隅に思考を追いやると、シャウラは自分の意思をはっきりと表現する。
 セシルも仕方ない、と言った感じで、

「いいだろう。やってやる」

 二人の言葉を聞いたユリマは嬉しそうに笑ったが、すぐに次の行動に移った。
 席から立ち上がると、教会の右奥の扉まで駈けていき、扉を開けた。ややあって、何かを両脇に抱えながら帰ってきて、シャウラが座る席の後ろにそれを置く。
 それは外套が付いた、紺色の長いローブ。
 恐らく旅に用いるものなのか、シャウラが持っていたものよりずっと丈夫そうだった。触ってみると、結構厚みがあり、寒さにも耐えられる便利な代物であると分かる。
 だが、問題はその横にあるものだ。
 恐らくは豊穣の祭りの際に用いる、被り物。牛の頭を模したそれ。きちんと色も付けられた精巧なものである。
 シャウラは、身体を捻った体勢のまま、唖然としていた。
 外套だけで、顔を隠せないから被り物をするのは分かる。
 だが、もう少しましなものはなかったのだろうか。何故牛を選んだとシャウラは一言、ユリマに言ってやりたかった。

 一方のユリマは早くも着替えに取り掛かり、牛の被り物を被っていた。

「シャウラ、すぐに着替えて」

 頭だけ牛になったユリマがシャウラの手に、ローブと牛の被り物を押し付ける。被り物を被れば、完全に牛でユリマの顔は全く見えていない。
 渋々、シャウラも着替えを始めた。首もとにあるボタンを止め、ローブを身に付けると、シャウラは牛の被り物を手に取る。じっと見詰めながら、

「ねえ、何で牛なの?」

 不満そうに聞くと、ユリマから弁明の声が。

「被り物、これしかなかったんだもの」
「……後、これって泥棒?」
「"借りるだけ"。洗って返せば大丈夫よ」

 ユリマの声は、晴々としていた。罪悪感など皆無に等しいようだ。
 そういう問題か、と思わず突っ込みを入れたくなるが、今はそれ程暇ではなく。シャウラはユリマに意見するのを止めた。

「…………」

 事態が急を要するので、シャウラは責めるのを諦めて牛の被り物を頭から被った。だが、眼鏡が引っ掛かった。
 それを見ていたセシルが、ユリマに話しかける。

「おい、ユリマ」

 するとユリマは視線をシャウラからそらした。
 その隙にシャウラはユリマに背中を向け、眼鏡を外した。
 すると鳶色の瞳が、左右で色の違う瞳に変化していた。左目はエメラルドを思わせる鮮やかな緑、右目は空を写しこんだような青。
 シャウラは手早く牛の被り物を被り、眼鏡を服のポケットに捩じ込む。頭だけが牛と言う、怪しい人間が二人、現れた。

「あ、シャウラも着替え終わったね」
「お前ら怪しいな」

  セシルはからかうように言うが、すぐに真顔に戻る。何やら呪文を唱えると、煙が上がり、セシルの姿が消えた。シャウラは片手を握り、拳を作る。

「行こう」

 ユリマの言葉にシャウラは頷いた。


Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.210 )
日時: 2013/11/13 13:40
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 シャウラとユリマが、教会で魔物を救う準備をしていた頃、トラペッタの酒場に旅人が訪れていた。
日が落ちかかるこの時間、仕事を終えたトラペッタの人々が次々とやってきて、酒場は騒がしい。——はずだった。
 ところが、今日は酒場にほとんど人がいなかった。いつもの喧騒はなく、酒場のマスターがグラスに氷を入れる小気味よい音だけが場を支配する。

「兄貴ーどうしたでがすか?」

 野太い声に呼ばれた、"兄貴"こと、エルニアは振り向いた。
 身なりは、旅人らしいものだった。頭にオレンジのバンダナを巻き、服は長袖の青いシャツ、その上に黄色のチュニック。下も動きやすそうな暗めな緑のズボン。
 バンダナの下から覗く短めの髪は暗めの茶色。いかにもひとが良さそうな顔立ちをしていて、漆黒の瞳も穏やかな光を湛えている。
 ここまで見れば、エルニアはただの若い旅人に見えるかもしれない。
しかし、その背にある長剣は、ただの旅人が持つにしては使い込まれた様子のものだった。

「いや、人がいないなあって……」

 エルニアは、男——ヤンガスを見て、答える。
 ヤンガスはエルニアよりもずっと年上、三十代後半と言ってもおかしくないふけた顔の持ち主。ふくよかな体格で、身なりは一見山賊風だ。上半身、特に前はほぼ裸に等しく、熊らしい毛皮を一枚纏うだけ。丸太のように太い腕や、贅肉付きの腹が丸出しである。下はダボダボの、明るい青緑のズボン。
 鋭い眼光を放つ黒い瞳と顔や腕にある傷。極めつけに棍棒を背に持てば、誰がどう見ても立派な山賊に見える。

「変でがすなあ……この時間なら、確実に人がいるんでがすが」

 ヤンガスがいぶかしむと、エルニアも腕を組んだ。
 彼らの目的は、『マスター・ライラス』と言う人物を探すことだった。
 このトラペッタの何処かにいると聞いたが、彼らは何も知らない。なので町の人に教えて貰おうと、人が多い酒場にやって来たのだ。
 だが、酒場の人々は何かに怯える様子で口を閉ざしており、とても話が聞けそうな状況ではない。困った二人が突っ立っていると、酒場のバニーが声をかけてきた。

「あら、お客さん。広場に魔物が出たって言うのに、随分冷静ね」

 その言葉で二人の顔から、さあと血の気が引く。

「ま、まさか……!」
「おっさんと馬姫様が危ねえ!兄貴、急ぐでがすよ!」

 エルニアとヤンガスは大慌てで、外に飛び出ていった。

 エルニアたちが酒場を飛び出すと、空は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
 酒場の前では、人々が集まり、不安そうに下の広場を見ていた。
エルニアとヤンガスも広場の様子を窺おうとするが、人々が集まりすぎているせいでよく見えない。
 二人は仕方なく、人々の間に無理やり割り込み、広場が見渡せる位置まで移動する。

「す、すいません……」
「ちと、通るでがすよ」

 向けられる非難めいた視線に謝りながら、人々を押しやり進むと、ようやく広場の様子が見えた。
 広場は人々で溢れ、怒号や罵声が飛び交っていた。
 彼らは皆、トラペッタの出入りである門の前を怒りの眼差しで睨み付けていた。
 そこには、緑色の魔物がうつ伏せになっていた。緑の肌には赤い擦り傷や切り傷が多くあり、痛々しい。意識がないのか、ピクリとも動かない。

 その魔物を守るように、馬車に繋がれた白馬が立ち塞がっていた。
 人々が怖いのか、深緑色の瞳には、不安そうな光が灯っている。
 それでも、人々の敵意の視線と暴言に対し、時おり、白馬は馬蹄(ばてい)で地面を力強く叩き、応戦する。鼻息を荒くし、威嚇の真似のようなこともするが、深緑の瞳は誰かの助けを求め、あちこちをさ迷っている。

「陛下、姫!」

 それを見たエルニアは、ほぼ無意識に身体が動いていた。剣の柄を掴み、高台から飛び降りようと一歩踏み出す。それに気付いたヤンガスが、慌ててエルニアを止めようとする。

「兄貴、どこへ行くつもりでがすか?」
「陛下と姫を守るのは、僕の仕事だ。町の人たちから、二人を取り戻すんだ」
「兄貴、おっさんと馬姫さまが心配なのは分かりやすが、落ち着いて下せえ」

エルニアは怒りの形相でヤンガスを睨み、

「これが落ち着いていられるか! 二人の危機な……」

 なんだ、と言う声は遮られた。

「み、みなさん!」

 不意に通る声がし、人々の視線が一斉に声がした方角に向く。エルニアとヤンガスも広場に目をやる。

 広場に二人の人間が現れた。人々を押し退け現れたのは、長いローブに身を包み、牛の被り物をした二人の人間。つまりは、シャウラとユリマ。同じ格好をしている上に元々体格も似ているので、遠目には見分けがつかない。
 人々は双子が現れたような気分だった。そして、突然の怪しい人間の登場に、広場はどよめきに包まれる。人々の反応などまるで無視し、ユリマは白馬を守るように前に立ち、シャウラは背後の魔物の元へと歩み寄る。
 ユリマは広場を見据える。作り物の無機質な瞳が人々を捉えた。

「だ、誰なんだ……あんたたちは!?」

 突然現れた、それも異様な格好をした彼らに対し、人々は敵意を込めた眼差しを送る。
 辺りから悲鳴や怒りの声が上がるが、彼らは静かだった。何かの動きもせず、じっと立っているだけ。それがかえって異質さを高めている。

「あ、兄貴……」

 広場を見ていたヤンガスが戸惑いがちに、エルニアを見る。

「な、なんなんだあの人たちは……」

 エルニアもまた、怪しい人間たちに困惑していた。
 だが、すぐに本来の目的を思い出し、剣を抜こうとし、エルニアはヤンガスに剣を奪われた。

「ヤンガス。僕は二人を守らないといけない。今度は、今度は……」

 エルニアは拳を握り、震わせながら言って、ヤンガスは首を振る。

「兄貴、気持ちは分かりやすが、下手に動けば、おっさんと馬姫さまに危害が及ぶかもしれないでげす。だから、兄貴の頼みでも聞けないでがす」

 ヤンガスが言って、エルニアは辺りの様子を窺う。
魔物と馬に視線が集まっている今、下手に動けば、かえって二人を危険にさらしそうだ。町の人たちは数が多く、二人で対応するには無理そうだった。
 今は大人しくした方がいい、そうエルニアは判断し、渋々ヤンガスに従う。

「……分かった」

 二人は改めて広場を見た。広場では、トラペッタの人々とユリマがにらみ合いをしている。
 人々の強い眼光に牛人間——ユリマは、気圧された様子だったが、いつの間にか横にいたシャウラが無言で手を差し出すと、迷わず掴んだ。 それで落ち着いたらしく、すうと息を吸い、いつもより声の調子を落とし、宣言する。

「わ、私たちは放浪の魔物使いです! トラペッタに魔物が迷い混んでいると聞き、ここに来ました!」

〜つづく〜




Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.211 )
日時: 2013/11/13 13:47
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 人々はぷっと吹き出す。わはは、と大声で笑う声もした。
道化師か何かと勘違いしているようだ。

「ま、魔物使いって……」

 エルニアも呆気にとられた。ヤンガスは町の人たちに混じり、大笑いしていた。
 多くの人々が小声でひそひそと囁き、小馬鹿にするようにユリマを見るなか、威勢のいい若者が口火を切った。

「魔物使いだと? 嘘を言うな! お前もそいつらの仲間だろう!」

 人々は口々にそうだ、そうだと叫ぶ。

「魔物使いだが、魔法使いだが知らんが、証拠を見せろってんだ。そしたら、信じてやるぜ」

 中年の荒くれがそう挑発すると、人々からどっと馬鹿にするような笑いが起こる。何も知らない人々は野次を飛ばしたり、馬鹿にしたりと、魔物使いであると信じてはいないようだった。
 そして、魔物の味方など神に代わって裁いてやる、と一部の過激な人々が足下の小石を手にとった、その時。
 怪しい人間の一人——シャウラが、笑った。可笑しくてたまらない、と言わんばかりに笑った。
 シャウラの突然の行動に、人々が唖然とするなか、シャウラは冷たい声で、

「のんきなものね」

 広場がどよめきに包まれる中、ユリマが明るい調子で、

「なら、証拠をお見せしますね」

 シャウラとユリマは見つめあって頷きあう。シャウラは、背中に隠していた拳を天に掲げ、早口で叫ぶ。

「母なる大地の力、我が祈りに応えん。魔物を操る力をこの手に宿らせよ!」

 そして、拳を一気に降り下ろし、ぱっと手を開く。
 少なくとも、人々にはそれだけの行為に見えた。
 直後白煙が上がり、その中から一匹の獣が現れた。
 豹のような体躯、赤いたてがみ、鋭い牙と爪。それらが意味するものを、分からない者はいない。本で、絵画でよく登場するそれ。魔物の中でも、特に凶暴で人に懐かしいはずのそれ。
 人々の手から、石が溢れ、地面にぶつかる音がする。

「きゃあ! キラーパンサーよ!」

 一人の女性が悲鳴を上げた途端、図ったようにあちこちから叫び声が上がった。人々は、凍り付いた。
 先程と打ってかわって、その顔に余裕はない。顔は青ざめ、恐怖の色に染まっている。ある者は身体を震わせ、ある者は逃げ出し、またある者は泣き出す。広場は、恐怖と混乱に包まれていた。

 何人か気丈にキラーパンサーを睨んだが、キラーパンサーが低い威嚇音を発しただけで、奇声を上げながら逃げていった。
 一方、高台の方では大半の人々は逃げ出したが、エルニアとヤンガスを含め何人か残っていた。残った人々は恐々と、身を乗り出して広場の様子を窺う。

「な、何でキラーパンサーが出て来るんでげすか!?」

今にもひっくり返りそうな勢いでヤンガスは絶叫し、

「トラペッタに、キラーパンサーは生息していないはずなのに……」

 魔物は人間が付けた呼び名であり、実際のところは生物だ。鳥が空に、魚が海に住むように、魔物が生息する範囲も不思議と決まっている。
 どこでも生きられるしぶとい生命力の魔物もいれば、寒いもしくは熱い場所にしかいないものもいる。挙げればきりがない程、魔物はあちこちに生息する。
 野生のキラーパンサーは、本来、トラペッタ付近には存在しない。それこそ、魔法か呪術で呼ばない限り、いるわけがないのだ。

 エルニアは我が目を疑い、広場のキラーパンサーを凝視する。鋭い牙と爪は、野生のそれで、見世物として飼われている訳ではなさそうだ。 ただ、野生にしては体毛は綺麗で、けづやもよく、きちんと手入れがされているのが分かる。

「キラーパンサー、町の人たちを引き裂きなさい!」

 ユリマの言葉で町の人たちは震え上がる。
 キラーパンサーは、身を屈め、威嚇しながら人々に近付いていた。悲鳴を上げながら、人々は広場から逃げ出した。
 ユリマが指示を出すと、威嚇しながら近付き、人が逃げ出すのを見たら、また別の人々に近付き、の繰り返し。まるで、広場から人を追い払っているようだ。
 エルニアがふと気が付くと、牛人間の片方——シャウラが消えていた。

 どこへ行ったのかと、姿を求めるとシャウラは魔物を抱え、馬車の側面にいた。魔物を片手で抱き、空いた手を魔物にかざす。すると手が淡い緑の光を帯び、魔物の身体もわずかに輝いた。
 傷を回復する魔法——ホイミのようだ。

(彼らは、陛下と姫を助けようとしているのかな?)

 ホイミを使う牛人間を見、エルニアは確信する。
 彼らは、この場から魔物と馬を救おうとしているのだと。
 キラーパンサーを呼び出したのは、力で町の人たちを従わせるためだろう。そうすれば、今の状況もつじつまが合う。
 キラーパンサーに、町の人たちを襲わせないのはあくまでも、力を見せつけるつもりだから、なのだろう。町の侵略が目的なら、問答無用で町の人たちをキラーパンサーの餌食にすればよいのだから。

 ふと視線を戻すと、キラーパンサーに一人の男が近付くのが見えた。左手には、小瓶が握られている。
 エルニアは小瓶の形に覚えがあった。

(あれは、聖水?)

 聖水は、魔物を寄せ付けないようにする道具だ。神の祝福を受けた、特別な水のことで、その水を身体につけることで効力を発揮する。魔物は神の力が嫌いらしく、聖水をつければ大抵の魔物は寄ってこないのだ。

「くらえ!」

 キラーパンサーに近付いた男は、瓶の栓を抜き、中の透明な液体をキラーパンサーの顔にぶちまける。

「はは! 魔物には、神の力が効くだろう!」

 男が得意気に笑う。だが、男は勘違いしていた。
 聖水は魔物を"寄せ付けないようにする"だけで、魔物に致命的なダメージを与える代物ではない。
 キラーパンサーは顔から雫を垂らしながら、呆れたように目を細める。

「——バカめ。聖水ごときでこの私を倒せるとでも思ったか?」

 憮然とした声は、キラーパンサーから。
 広場は一度凍り付いた。半拍程遅れて悲鳴が上がり、広場は逃げ惑う 人々で、混乱状態に陥った。あちこちで罵声や悲鳴がし、広場から離れようとする人々が道に集まり、押し合い圧し合いをしている。

「き、キラーパンサーが話しただと!? どうなっているんだ?」
「ママー! 怖いよぉー!」

 大人は顔を真っ青にし、子供は親に抱き付き、泣き叫ぶ。キラーパンサー一匹のために、トラペッタは翻弄されていた。

「あ、あんたたち! トラペッタをどうするつもりだ!?」

 若い男が叫び、ユリマは淡々と答える。

「私たちは、この魔物と馬車を頂きたいだけです。これらを頂けるなら、すぐに町から出ていきますよ」
「魔物でも馬車だけ持って、さっさと出ていきなさいよ!」

 若い女が吐き捨てるように言って、夫らしき男性が駆け寄ってくる。
 片手で女の口を塞ぎ、叱る。

「バ、バカ! キラーパンサーに襲われたら、どうするんだよ!」

 そして、ユリマに取り繕うような笑みを見せて、

「ど、どうぞお持ち下さい。そうしたら出ていって下さるんですよね?」

 男に確認するように聞かれ、ユリマは静かに頷く。
 すると、男は嬉しそうに笑い、女の口から手を離した。町の人たちにてきぱきと指示を出し始めた。

「おい、道を開けろ! 魔物使いの方々が通れないじゃないか! あんたたちは、さっさと散れ! 見世物じゃないんだぞ!」

 男の指示で、人垣が割れ、まっすぐな道が出来る。人々は怒りと敵意をない交ぜにした視線を牛人間たちに向けるが、彼らは動じなかった。
 シャウラは魔物をユリマに渡すと、馬の鞍を叩き、何やら話しかける。
 馬は安心したように目を細め、シャウラは馬のたてがみをそっと撫でた。そして片手で馬の手綱を掴み、歩き始める。すると、馬は大人しくシャウラの後に続いて歩きだし、エルニアは目を剥く。
 シャウラを先頭にユリマとキラーパンサーが後を追うように続いた。

「も、もう二度と来るな、化け物め!」

 南門へ向かう彼らの背に、町の人々の罵声が突き刺さる。
 しかし彼らは見向きもせず、まっすぐに南門へ向かい、門を開けて外に出ていってしまった。それを見送ると人々の間にほっとしたような、怒りのような、微妙な空気が漂い始める。

「……ヤンガス、行くよ」

エルニアとヤンガスは、困惑する人々の間を通り抜け、外に急いだ。

〜つづく〜






Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.212 )
日時: 2013/11/13 13:56
名前: あさぎり (ID: 9kyB.qC3)

 外に出ると、緑の魔物が白馬の頭を撫でていた。
 魔物の肌には、多少擦り傷やアザが残るが、特に大事はないらしい。元気に頭を下げた白馬に抱き付いたり、たてがみを撫でたりしていた。

「陛下、姫!ご無事ですか!?」

 エルニアは魔物と馬に声をかけながら、駆け寄る。
 それに気がついた魔物は馬から身体を離し、エルニアに近付いた。魔物の背は、エルニアの膝より少し高いくらいなので、自然と見上げる格好になる。

「おお、エルニア。わしもミーティアも無事じゃ。あの魔物使いには、感謝してもしきれんのう」
「ああ、よかった」

 エルニアは安堵したように微笑むと、馬に歩み寄る。——真っ白な馬。その場に佇むだけで絵になりそうな馬だった。
 すらりとした体躯、真っ白な毛並みは美しく、馬車を引く馬のようには見えない。汚れらしい汚れがほとんどないことから、きちんと手入れがされているようだ。

「姫、恐かったでしょう?」

 優しい声で問いながら、エルニアが馬のたてがみを撫でると、馬は小さく頷いた。まるで甘えるように、エルニアの手に顔を擦り付ける。それだけだが、行動はどこか上品に思える。
 ふふ、とエルニアは笑い声を上げた。

「もう大丈夫ですよ。僕がそばにいますから」

 エルニアがたてがみを撫でながら、穏やかな声音で言う。馬は安心したように深緑色の瞳を細め、撫でられるがままになっていた。
 しばし馬を撫でた後、エルニアはため息と共に言葉を吐き出す。

「……全く、トラペッタの人たちは最低だよ。陛下に乱暴をするなんて」
「そういえば、あの魔物使いたちは何処に行ったんでがすかね?」

 ヤンガスは辺りを窺うが、人はいない。

「わしらを逃がしてすぐ、何処かへ行ってしまったのじゃ。全く、恥ずかしがることでもないのにのう」

 と、魔物は何か思い出したような顔になり、エルニアに視線を向ける。

「ところでエルニアよ、マスター・ライラスの行方は知ることが出来たのかの?」

エ ルニアは馬から離れ、魔物に視線をむける。困った表情で頭をかいた。

「それが……この騒ぎで聞きそびれてしまいまして」
「む、そうか……それは、困ったのう」

 その時、エルニアたちは背後から誰かに呼ばれた。

「……あの」

 控えめな声に振り向くと、そこにはユリマとシャウラがいた。牛の被り物とローブは外し、いつもの町娘らしい姿だった。シャウラは再び眼鏡をし、瞳は両方鳶色に戻っている。

 その姿を見ると、エルニアは鋭い目付きでユリマとシャウラを睨みつけた。あまりの剣幕にユリマは震え上がるが、シャウラは顔色をかえない。エルニアに静かな視線を返した。

「何か?」

 落ち着いた声音でシャウラが尋ねると、エルニアは険しい顔つきのまま、首を振る。

「別に」

 そしてユリマとシャウラの行動に目を光らせる。
この二人がやって来たのは、門の方。つまり、彼らはトラペッタの人間。
 それだけでエルニアは、陛下に危害を加えに来た連中、と勝手に判断し、彼女らを敵視しているのだった。

「あ、あの……わ、私、皆様にお願いがあって、こ、こうしてやって来ました」

 エルニアの視線にたじろぎながらも、ユリマは自分の目的を明かす。

「願い、じゃと?」

 ユリマは魔物たちをしっかりと見つめ、頭を下げた。シャウラはただ付き添いに来た、と言う感じで、ユリマから離れた場所に佇む。エルニアの視線など、完全に無視していた。

「お願いです、どうか水晶玉をとってきて頂けませんか?」
「……そんな面倒なこと」
「ええい、エルニアよ、お前は黙っておれ」

 エルニアは断ろうとしたが、魔物に一喝され、しぶしぶと言った感じで口を閉ざす。

「お嬢さん、詳しく話してもらえんかの?」


 トロデに促されたユリマは頷き、ゆっくりと話始めた。

「願いとは、父のことです」
「親父さんでがすか?」
「あ、申し遅れました。私はユリマと言います。私の父の名はルイネロ。かつては有名な占い師でした」

 おお、と魔物が感嘆の声をあげる。

「確か、探し物に関しては右に出ないとまで言われた占い師じゃな。最近は、全く音沙汰がないが……」

 やや俯き、ユリマは項垂れる。

「いつの頃からか、父は占いが全く当たらなくなり、生活も堕落していき、今はみる影もなく……今日だって、占いをしたんですけど、外れたみたいで、お客様を怒らせてしまって」
「何で外れるようになったんでがすか?」
「その原因は、水晶玉がただのガラス玉に変わってしまったせいです」

 ユリマは断言する。

「ガラス玉とな?」
「夢で、水晶玉が滝壺に投げ捨てられ、家にガラス玉が置かれるのを見ましたから」
「作り話じゃないの?」

 ユリマを初めから信じていないエルニアが嘲笑うように言って、再び魔物に注意される。

「エルニア、話に口を出すなと言っておるじゃろう! ……すまんな。お嬢さん、気にせずに続けてくれ」
「……陛下は人がよすぎるんですよ」

 注意され、ふてくされた態度をとるエルニアを無視し、ユリマは再び口を開く。

「だから、水晶玉さえ取り戻せば、父は力を取り戻すと思うのです。今の父は自分で自分を傷つけているみたいで、見ていてとても苦しいんです」

 青い瞳を伏せ、憂えを帯びた表情を見せるユリマに、トロデは感銘を受ける。両のまなじりから涙を流し、それを手で懸命に擦っていた。

「え、えらい! 何て、優しい娘なんじゃ……さすがは、ミーティアと同じ年頃じゃの」

 感動している魔物に対し、エルニアは呆れたようにため息をつく。

「よし、命令じゃエルニア。お嬢さんの願いを聞き届け、水晶玉を手に入れるのじゃ!」

 すぱっと下された命に、エルニアは黒い瞳を大きく見開いた。すぐに、反対の意を示す。

「へ、陛下! 狼藉者の願いなど、聞く必要はありませんよ!」
「わしがやると言ったら、やるのじゃ!主の命が聞けないと申すか?」

 しばし議論が展開されたが、魔物は譲らず、結局エルニアが折れた。

「……分かりましたよ。やればいいんですね」
「うむ、それでこそ我が家臣じゃ!」

 得意げに胸を張る魔物を見ていた、ユリマが不意に、

「後、もう一つだけお願いがあります。私の友人を、同行させて欲しいんです」
「ど、同行でがすか?」

 ヤンガスが瞬きをする。

「私、夢で告げられたんです。『人でも魔物でもないものが、あなたの友人と力を合わせる時、願いは叶うであろう』と」

 うんうん、と魔物は納得したように何度も首を縦に振る。

「確かにわしは魔物でも、人でもない。それは、わしのことで間違いないじゃろうな。して、友人と言うのは……」
「この人です」

 ユリマが掌でシャウラを示すと、一同の視線が彼女に集まる。シャウラは瞬きしていた。

「ユリマ、私まで行くなんて聞いてないわよ」

 鳶色の瞳をパチクリさせるシャウラを見て、

「おお、この娘さんか。失礼ながら、戦えそうには見えんが」

 トロデが感想を漏らす。その横でシャウラを見ていたエルニアは、不満そうな顔つきでユリマに聞く。

「この弱そうな娘さんと一緒に、水晶をとってこいと言いたいんですか?」

 弱そう、と言われたシャウラはエルニアに冷ややかな視線を送る。

「彼女は魔法が得意です。ですから、弱くはありません」

 ユリマが抗議するが、エルニアは首を横に振る。

「残念ですが、出来ません。彼女は足手まといにしかならないかと」

 そこで、黙っていたシャウラがようやく口を開く。

「ユリマが言った通り、これでも魔法の心得が少々ございます。……あなたたちの足を引っ張るような真似は致しません」
「僕とヤンガスだけで十分です。なあ、ヤンガス?」
同意を求められたヤンガスは、渋い顔をする。

「え、でも……」
「水晶玉探しは陛下の命により引き受けますけど、彼女の同行は許可しません」

 ユリマに反論する隙を与えず、エルニアはきっぱりと断る。
 どう返してよいか分からず俯くユリマを見て、魔物が助け船を出した。

「しかしエルニアよ、彼女は魔法の心得があると言っておるんじゃぞ? 力を借りた方がいいのではないか?」
「陛下に乱暴をした狼藉者と力を合わせるなんて、ごめんです」

〜つづく〜



Re: ドラゴンクエスト8-光を求める者 ( No.213 )
日時: 2013/11/19 21:43
名前: 朝霧 ◆Ii6DcbkUFo (ID: 9kyB.qC3)

 そこで言い切り、エルニアは怒りがこもった目付きで、シャウラを睨んだ。その視線には、非難の意も込められていた。
 助けを求めるように、ユリマがシャウラに視線を飛ばすと、シャウラはエルニアを見て、クスクスと笑うだけ。

「無理みたいね。ま、この方たちにお任せすればいいんじゃない?私は必要なさそうだし、帰るわ」

 それだけ言い残し、シャウラはエルニアたちに背を向け、門の方へ歩いて行ってしまう。

「待って!」

 ユリマが呼んだが、シャウラは町の中に消えていった。愕然としたユリマは、エルニアたちに頭を下げる。

「す、すみません」
「自分から身を引くなんて、ありがたいですから、大丈夫ですよ」

 エルニアが嬉しそうに言った。ユリマは、困った顔でため息をついた。

「水晶玉は明日、しっかり探してきますから」
「……水晶玉は、ここから北にある"滝の洞窟"と言う場所にあります。魔物が出るので、気をつけて下さい」
「キミの家は?」
「酒場の裏手にある、井戸のすぐそばです」
「そう」

 短く言い切ったのは、さっさと帰れと言うエルニアなりの意思表示。必要な情報は得たから、これ以上話すつもりはなかった。
 ユリマは、それを悟ったらしい。お願いしますと頭を下げ、とぼとぼとトラペッタに帰って行った。
 それを見送った後、ヤンガスが珍しく非難の視線をよこす。

「……兄貴、あの姉さんと嬢ちゃんに冷たくしすぎでがすよ」

 魔物も同意する。

「エルニアよ、トラペッタの人間全てが、わしに乱暴をしたわけではないぞ」
「でも、あの二人が関わっていないと言う、証拠はありませんよ。……もし乱暴をしなかったとしても。助けなかったのは、乱暴をふるうのと同罪です」

 消えていくユリマを見て、エルニアは当然そうに言ったのだった。そして、

「……今日は、野宿だね」
今までとは違う穏やかな顔でヤンガスに笑いかける。
「おっさんと馬姫さまが見つかったら、まずいでがすからなあ」
「しかし、お前たちはしっかりと休むべきじゃろうに」
「大丈夫ですよ、陛下」

 エルニアは微笑むと、馬車から道具を出し、野宿の準備を始めるのだった。

 青い空が広がる翌朝。
シャウラはトラペッタの広場にいた。肩にはずだ袋を下げ、手には皮の袋を握っている。
 壁沿いに並ぶ露店の一角に立ち、セシルから渡されたメモを見ながら商人と話し込んでいた。

「やくそうはありますか?」
「はい、ありますよ」

 シャウラが尋ねると、商人は後ろの棚から麻の袋に詰められた野草を取りだし、台の上に置く。"やくそう"は鮮やかな緑の野草で、葉を何枚も重ねたような形をしている。

「おいくらですか?」
「一つ、8Gになります」
「なるほど……」

 麻の袋を台の上に置いて、やくそうを手に取り、じっと観察するシャウラ。
 が、見たところでやくそうの質などまるで分からないので、すぐに台の上に戻す。
 シャウラは持ってきた皮の袋を開け、ひっくり返し、掌に数枚の硬貨を出した。そして、頭でやくそうがいくつ買えるかを計算する。

「買えて9個が限界……10個は欲しかったのに」

 メモを見ながら頭を悩ませるシャウラは、初めてお使いに来た子供の頃を思い出した。あの時もお金が足りず、悩んだのだった。
 商人は声をかける。

「この辺りはバブルスライムがいるから、"どくけしそう"もオススメしますよ」

 愛想のいい笑みを浮かべながら、商人は棚から別の商品を取りだした。それは、麻の袋に詰められた草。やくそうに似た色だが、形は柊の葉を幾重にも重ねたような草だった。

「一つ、10Gになります」
シャウラはどくけしそうをじっと見ていたが、"10G"と聞いた途端、掌の硬貨に視線を落とし、眉をひそめた。

「……どくけしそうは、必要ありますか?」

 なるべく出費を抑えたいシャウラは、疑問を口にする。メモにも、買えたら買うとしかかかれていないので、あまり必要がないように思えた。
 それに、バブルスライムと言われてもシャウラにはピンと来ない。トラペッタ周辺にいるスライムやドラキーしか知らないシャウラには、未知の魔物だった。
 商人は首を縦に振る。芝居がかった口調で、

「なめちゃいけません。バブルスライムは、身体の表面に毒がありましてね、触れただけで我々人間の体内に毒が入り込んでくるんですよ」
「恐いですね」
「どくけしそうか、"キアリー"の呪文があれば恐いことはありませんが、毒を放置すれば死に至ることだってありますよ」

 商人の話でシャウラは、どくけしそうを買う気になった。

「うーん……いくつ買おうかしら……」

 いくつ買おうか考えていると、商人はさらに商品を売り付けようとしてくる。両手には鳥の羽を加工した道具と皮で作られた盾をそれぞれ持ち、シャウラに見せる。

「あ、後、お帰りにはキメラの翼、防具として皮の盾がオススメですよ!おまけして、総額で100G(ゴールド)になります」
「……大金すぎます」

 100Gと言う法外な値段を提示され、シャウラは目眩に近い感覚を覚える。
 確認のため、指で弾くように硬貨を数えるが、100Gはない。
100Gもあれば、買いたかった防具も買えるのに、とシャウラは内心ため息をついた。

「要りません」

 商人はがっくりしたような顔付きになる。が、すぐにまた商売人らしい笑みを作り、

「ではお客さん、どうなさいますか?」
「このお金で買えるだけ、やくそうとどくけしそうを買いたいので相談に乗って下さい」

 シャウラは硬貨を袋に戻すと、それで台を叩いた。硬貨がぶつかる小気味いい音がした。



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