二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 俺と携帯獣のシンカ論 【ポケモン対戦小説】
- 日時: 2015/04/29 01:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
『読者の皆様へ』
どうも、初めましてタクとモノクロとOrfevre(オルフェーヴル)です。この小説は以上の3人によって考案・執筆をしております。所謂合作です。ただ、現在はモノクロと高坂桜の2名はリアルでの都合によって直接執筆をすることができません。
よって、タクが1人でしばらくは筆を執ることになると思います。
この小説は、ポケットモンスターXY、ポケットモンスターオメガルビー・アルファサファイアを原作とした小説……というよりは、このゲーム自体を中心に展開する小説となっております。
つまり、現実世界での対戦だとかそんなものを描いた作品になります。
ポケモン廃人の方から(作者も廃人です)殿堂入りしたばかりのネット対戦初心者の方まで気軽に読んでいってください。
それでは、また。
第一章:飛翔の暴龍/咆哮の悪龍
>>01 >>02 >>03 >>07 >>08 >>12 >>13
第二章:携帯獣対戦のすゝめ
>>14 >>15 >>16 >>18 >>19 >>20 >>21
第三章:害悪支配者
>>22
- 第二章:携帯獣対戦のすゝめ ( No.20 )
- 日時: 2015/04/12 13:27
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
----------どうしよう……! ロトムに交代したいけど、サイコキネシスが来たらガブリアスが受けられなくなるかもしれない!
可愛い顔をして、えげつない戦法を使うポケモンは多い。ヌメルゴンの特殊耐久も当てはまるといえば当てはまるが、ニャオニクスの場合は、欠伸ループによってサイクルをガンガン回していくので、よりタチが悪いのだ。
択ゲーを押し付け、エースの無償降臨を狙う、それが起点構築だ。
----------とにかく、ヌメルゴンが眠っちゃうのだけは絶対ダメ! 最悪な状況を避けるように、立ち回れって教えられたもん!
「ヌメルゴン、引っ込んで!」
【ポケモントレーナーのカナはヌメルゴンを引っ込めた!】
ウルガモスはヌメルゴンの繰り出しで受けられる。ハッサムも耐えてから大文字で焼ける。ガブリアスはロトムで倒せる。
何とか、最悪の局面だけは避けたいところである。
そして、繰り出したのは---------
【カナはロトムを繰り出した!】
ウォッシュロトムだ。ただし、欠伸が入ってしまったが。
【ニャオニクスの欠伸!】
5ターン目終了
ロトム残りHP:60%
ニャオニクス残りHP:10%未満
リフレクター残りターン:4ターン
光の壁残りターン:3ターン
----------やっぱり交代してきたか。このままサイキネでダメージを与えたいところではあるが、ヌメルゴン無償降臨がツライ。欠伸連打安定だな。
ヌメルゴンにとっては、ニャオニクスのサイキネなど余裕で受けられる範疇。ボルチェンをしてくるところではあるが、相手もこちらの物理アタッカーを受ける為に、ロトムの役割をここで放棄したくはないと踏んで、再び欠伸を選んだ。
その結果。
【ニャオニクスの欠伸!】
交換は無かった。居座るつもりか、あるいはもう1つのパターンがある。
それは、後攻ボルトチェンジで後続のエースを無償降臨することである---------
【ロトムのボルトチェンジ! ロトムはカナの元に戻って行く!】
ニャオニクス残りHP:0%!!
【ニャオニクスは倒れた!】
電撃によって、たまらずニャオニクスはダウン。
そして、そのまま欠伸を無効化しつつ、現れたのは---------
「行くよ! これがあたしのエース!」
【ポケモントレーナーのカナは、バシャーモを繰り出した!】
現れたのは、紅蓮の炎に包まれた軍鶏。闘気に満ちた蒼き瞳、強靭でスマートな肉体。
炎/格闘複合ポケモンにして、猛火ポケモンのバシャーモだった。
「くっ、此処で出てくるかよ----------!!」
---------いや、落ち着け俺! まずは此処でガブリアスを繰り出せば---------
ガブリアスにカーソルを合わせ、選ぼうとする御剣だが、ここで踏みとどまった。
どうせ、ガブリアスを出しても、ロトム返り討ちにされる未来しか見えない。
つまり、この場合。ロトムでも後受けできないポケモンを繰り出せば良いのだ。
----------ウルガモス。
御剣の今回の選出は、ロトム、ガブリアス、そしてウルガモスだった。
そして、このウルガモスはサイコキネシス持ち。バシャーモの上を取れば、倒せる。
さらに、壁もまだ残っている。
バシャーモは恐らく、メガシンカ型。そして、メガシンカ型ならば意地っ張りが多いはず。
そして、今回のウルガモスは最速。相手が初心者であること。そして、守って加速してきた隙を突き、蝶の舞(特攻、特防、素早さを1段階上昇させる変化技)を使えば確実に次のターンには上を取ることができる。
万が一、ヌメルゴンが出てきたとしても、起点にして舞い続けて攻撃すれば、勝機はある。
「エース降臨の準備は十分に整った!! やっちまえ、ウルガモス!!」
【ポケモントレーナーのキョウヤはウルガモスを繰り出した!】
6ターン目終了
バシャーモ残りHP:100%
ウルガモス残りHP:100%
リフレクター残り3ターン
光の壁残り:2ターン
神々しい太陽のような羽を持つ蛾のポケモン、ウルガモス。その種族値は無駄が無く、実質600族に匹敵する程であり、第五世代で猛威を振るったポケモンの一角だ。
ただし、赤い害鳥の所為で大きく数を減らしてしまった。
とはいえ、ウルガモスのスペックが落ちた訳ではない。天敵が増えただけなのだ。
御剣の選択はもう決まっていた。
蝶の舞、1択だ。
【御剣ポケモンDETA
ウルガモス:太陽ポケモン
タイプ:虫/炎
種族値:H85 A60 B65 C135 D105 S100
型:最速CSアタッカー
持ち物:命の珠
特性:炎の身体(接触攻撃をしてきた相手を火傷にすることがある)
技:大文字、虫のさざめき、サイコキネシス、蝶の舞
天敵:赤い害鳥と岩】
C135、D105、Sも見かけによらず100とかなり高水準。BとAは低いが、それを抜いても恐ろしいスペックである。
アローがいないパーティには本当ガン刺さりになりがちなのだ。
---------どうしよう。バシャーモで一応守って加速しようかな。
そう思い、守るを選択しようとする夏奈。
そのときだった。前に教えられた翼の言葉を思い出す。
(俺のボーマンダのように、素早さを一緒に上げる積み技を持ってる奴の前で、安易にバシャーモを守らせるな)
(どうしてですか?)
(次のターン、相手も素早さを上げてくるってことは、同速勝負やそれ以上に不利な状況になりかねんからだ)
(守るは安全に加速を発動できる---------でも、そこに隙が生まれる)
(バシャーモの初手守るは、それだけ有名で読まれやすいってことだ。相手に積む隙を与えることになるぞ)
---------何だか分からないけど--------ここは守っちゃいけない気がする!
夏奈はウルガモスが蝶の舞を持っていることを知っているわけではなかった。
しかし。
直感だ。直感で、ここは守ってはいけない、と悟ったのだ。
---------で、でも、深読みは負けの元だっていうし……いまいち確信がもてないよ……でも!
翼が対戦の前に言っていた。
---------お前が思ったとおりに動けば良い。
迷いを振り払った。メガシンカを選択し、技を決定する。
「行くよ! バシャーモ! メガシンカ!」
【カナのメガリングと、バシャーモのバシャーモナイトが反応した!】
【バシャーモはメガバシャーモにメガシンカした!】
---------メガシンカまでは想定内だ! さあ、守れ! その隙に積んでやる----------!
ここで守ってくる隙を狙い、積もうとする御剣。
しかし。バシャーモは動かなかった。
【ウルガモスの蝶の舞!】
【ウルガモスの特攻、特防、素早さがあがった!】
この時点で、御剣の焦りはピークに達していた。
先制し、のうのうと蝶の舞を舞ったのは、ウルガモスの方だったのだ。
つまり、バシャーモは守らず、攻撃技を選んだと言う事になる。
「バシャーモ、頼んだよ! 落として!」
「な、バカな! 守って来なかった、だと!?」
【バシャーモのストーンエッジ!!】
たとえ、リフレクターが貼られていたとしても。
防御が低い上に、元から岩が4倍弱点のウルガモスは、貫かれるしかない。
成す術なく、ウルガモスはバシャーモが放った岩の刃に切り裂かれ、その場に羽を散らし、崩れ落ちたのだった。
「なんつー、大胆なプレイングだ。初心者とは思えないぜ!」
「……翼が教えたんじゃなかったっけ」
「実践するか否かは別だ。どの道、直感だろうが読みだろうが、この場面では間違いなく、あいつは御剣に読み勝っている!」
【効果は抜群だ!】
ウルガモス残りHP:0%!
【ウルガモスは倒れた!】
相手のエース撃破。
夏奈の顔が、歓喜で輝く。
【夏奈ポケモンDETA
バシャーモ:猛火ポケモン
タイプ:炎/格闘
種族値:H80 A120 B70 C110 D70 S80
メガ後:H80 A160 B80 C130 D80 S100
型:AS準速メガシンカアタッカー
持ち物:バシャーモナイト
技:フレアドライブ、飛び膝蹴り、ストーンエッジ、守る
称号:ホウエン御三家】
御剣は、初心者に今の行動を読まれたのに動揺してしまった。
まさか、ニャオニクスに対面でドロポンを打つような女が、こんな読みをするわけがないと思ったのだ。
目の前の少女が、翼に重なって見えてくる。
「ば、ばかな、ありえねぇ……! くそっ!!」
【ポケモントレーナーのキョウヤは、ガブリアスを繰り出した!】
【御剣ポケモンDETA
ガブリアス:マッハポケモン
タイプ:ドラゴン/地面
種族値:H108 A130 B95 C80 D85 C102
型:AS起点作成
持ち物:気合の襷
技:逆鱗、地震、岩石封じ、ステルスロック
称号:最強600族】
現環境トップメタのガブリアスを繰り出した御剣は、何とかバシャーモと後ろのロトム、ヌメルゴンは突破せねば、と焦り出した。
まず、リフレクターはまだ残っている。
押し切れるはずだ、と思い直す。さもなければ、対戦を続けられる気がしなかった。
7ターン目終了
バシャーモ残りHP:100%
ガブリアス残りHP:100%
リフレクター残り:2ターン
光の壁残り:1ターン
そして、御剣のやるべきことは、ただ1つ。
地震で目の前のバシャーモを何が何でも撃破することだった。
一方の夏奈は、ロトムに引くのが安定ではあった。
しかし。先ほどバシャーモでウルガモスを倒した喜びが忘れられず、それを完全に失念。
すぐさま、ガブリアスへ殴りかかる。
【バシャーモの飛び膝蹴り!】
ガブリアス残りHP:55%
しかし。流石のダメージといったところであろうか。リフレクターが貼られているにも関わらず、ガブリアスの残りHPは半分に。
一応、ローブシン並みの物理耐久とランクルス並みの特殊耐久はしているのである。
「落ちろぉぉぉぉ!!」
【ガブリアスの地震! 効果は抜群だ!】
バシャーモ残りHP:0%!
地面を踏み鳴らし、振動でバシャーモの身体を内側から破壊するガブリアス。
流石のメガバシャーモもその場に、あっけなく崩れ落ちる。
「残るは---------ロトムだけ、か」
ヌメルゴンは逆鱗で倒されてしまう。
彼女が頼れるのは、もうロトムしかいなかった。
8ターン目終了
ロトム残りHP:60%
ガブリアス残りHP:55%
リフレクター:残り1ターン
光の壁:解除
ここでの彼女の負け筋は、急所突破。これはもう、プレイングではどうにもならない。
そして、勝ち筋は逆鱗耐えてオボン発動→鬼火→逆鱗耐え、ドロポンと鬼火ダメで突破、というものだった。
「いっけええええ!! 叩き潰せ、ガブリアース!!」
「お願い、耐えて!!」
【ガブリアスの逆鱗!】
怒り狂い、突貫するガブリアス。
しかし。
ロトム残りHP:10%
耐えた。僅かではあるが、HPを残し、ロトムは耐え切る。
そして、大きな木の実を洗濯機の蓋をあけ、自らの体内に吸収した。
体力が回復する。
【ロトムはオボンの実で体力を回復した!】
ロトム残りHP:35%
そして、お返しと言わんばかりに青い炎を放つ。
ガブリアスの身体に炎が灯り、鮫肌を焼いていった。
物理攻撃力はこれで2分の1。次の逆鱗も耐えられる。
【ロトムの鬼火! ガブリアスは火傷になった!】
9ターン目終了
ロトム残りHP:35%
ガブリアス残りHP:火傷で40%
リフレクター:解除
そして、暴走を続けるガブリアス。逆鱗状態になり、しばらくの間、制御が不能になるのだ。
なおも、目の前の敵を排除しようと暴れまわるが---------
「頼むよ! ロトム!」
【ガブリアスの逆鱗!】
ロトム残りHP:14%
削り切れず。
火傷状態になったガブリアスは、既に本来の力を失っていたのだ。
「いっけえええええ!!」
【ロトムのハイドロポンプ!!】
ガブリアス残りHP:0%!!
【ガブリアスは倒れた!】
彼女の思いに呼応するかのように、最後の力を振り絞ってロトムはガブリアスにハイドロポンプをブチ当てた。
無振りとはいえ、相当の火力。
ガブリアスは遂に力尽き、音も立てずに崩れ落ちたのだった。最強といえど、無敗ではないのだ。
「や、やった---------!」
【ポケモントレーナーのキョウヤとの勝負に勝った!】
初めての初陣。
初めてのガチ同士でのバトル。
そして----------初めての勝利だった。
「勝ったんだ----------!!」
- 第二章:携帯獣対戦のすゝめ ( No.21 )
- 日時: 2015/04/13 20:50
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
***
「ちっくしょー!! してやられたぜ、これは!!」
叫んだ後、ふぅ、と息をつく御剣。何であれ、これによって夏奈の初陣は白星で飾られたのだった。
悔しい気持ちはある。勝ちに拘る御剣だから尚更だった。
「ま、ほぼ互角だったし仕方無いな」
「……初心者と互角って言われても嬉しくないと思う」
「全部聞こえてるぞ、てめーら」
しかし、あの場面でのウルガモスの蝶舞読みストーンエッジは本当に意外であった。
守る安定の場面でストーンエッジをブチ当てた読み、いや彼女の場合は直感というべきか。
「夏奈。これが真のポケモンバトルだ」
「はいっ!」
ようやく今日、知ることが出来た気がする。
ポケモンバトルは相手の行動の読み合いによる戦略ゲーム。1手1手が勝利、敗北のどちらにも繋がるシビアな世界。そこに運の要素が絡むので、勝つのはもっと難しくなる。
だが、それゆえに----------勝ったときはとても嬉しい。
だが、それでも忘れてはいけないことがある。
あ、そうだ! と彼女は3DSをおき、御剣の前にでて、彼の手を両手で握り締め言った。
「対戦、ありがとうございました、御剣先輩!」
チッ、と舌打ちをした彼だったが、彼女に向き直って言った。
「勝ち逃げは許さねぇぞ。次はぜってー勝つ」
ポケモンプレイヤーは皆、ライバル同士。御剣が、夏奈を単なる”初心者”ではなく、”ライバル”として認めた瞬間だった。
彼女も屈託の無い笑顔で返したのだった。
「望むところです!」
この2人、意外に気が合うのかもしれない。
「こないだよりも丸くなったんじゃねえか、お前」
「ほっとけ。俺はもう行くぞ」
踵を返し、とっとと部屋から出て行こうとする御剣。確かに無理やり連れ出してしまった上に、不機嫌にさせてしまったか、と翼は思ったが、違った。
彼が言ったのは、嫌味でも捨て台詞でもなく-----------
「次に会ったときは、今度こそポケモンでブチのめすぞ、速山。俺様のメガハッサムでてめーのボーマンダを眉間をぶち抜く」
-----------宣戦布告だった。
「へっ、精々大文字と空飛び避ける準備をしておくことだ」
翼もニヒルな笑みを浮かべて、言い返す。
「このパーティはまだ調整が足りん。てめーを完膚なきまでにぶっ潰すために、更に俺も強くなる」
「おー、怖い怖い。楽しみにしてるぜ」
「何度も言うが、次は絶対勝つ」
そう言い残し、戸を開けて彼は部屋を後にしようとした。
「それと、」
まだ言い残したことがあるように、彼は背中を向けたまま続けた。
「次にぶっ潰すのは、てめーもだ東雲。今回のようには行かねぇぞ」
「はいっ!」
彼の威圧的な言葉に怯まず、彼女もまた、元気な声で返したのだった。
「あー、今まで悪いことばっかしてきたから、後輩にあんな風にお礼言われて照れてるのか」
「というか……負けた癖に……威勢が良すぎ……」
「へっ、あの程度で折れてくれるよりはマシだ。俺ももっと、強くならねえと」
静谷に好戦的な視線を送る。彼女も負けじと睨み返す。
「ま、つーわけで。此処にいる3人は仲間にして、ライバル同士ってことだな」
「……そうなる」
「とにかくっ、先輩方今後もよろしくお願いしますね!」
仲間がまた1人、増えた。
そして、初陣に勝利した。
今日は嬉しいことばかりである。
「そんじゃ、次の対戦に向けて厳選開始だ!」
「……私、ギルガルド」
「あたし、さっきの対戦でニャオニクス強いなーって思ってたんですけど、誰か孵化余り持ってます?」
「お、丁度良いな。こないだミラクルに流れてきた奴がいるから、それ使え----------」
テーブルを囲む3人の中の時間は、すぐに流れていった----------
***
「……速山翼……静谷未歌……東雲夏奈……か」
少年は、タブレットに登録した3人のデータを見ていた。
「静谷未歌。公認大会を今年度に入って3連優勝を飾っており、いずれもハイレベルの読みとサイクル戦で確実に相手を追い詰めるタイプ。
速山翼。去年度は公認大会準優勝が2回、今年に入ってからは無し。こっちはそんなに大したことはない……ように見えて、テンプレの中に地雷を仕込み、アドバンテージを取る厄介な種別のプレイヤーだね。使ってるポケモンもメジャーどころだったり高種族値だったりで悪くない。
そして東雲夏奈、データなし。未知数か」
眼鏡をくいっ、と押し上げ、口角を吊り上げる。
「……彼らならば、僕の夢を適えるために共に戦ってくれるかもしれない------------」
***
「だ、大丈夫でしたかィ、兄貴---------!?」
御剣の側近・ヤスは、帰ってきた彼を真っ先に迎えた。
「うるせー、何とも無かった」
「そうじゃなくて! 当然勝ったんでしょ、バトル---------」
そこで舎弟の言葉は途切れた。
御剣の掌が、舎弟の胸倉をしっかりと掴んでいたからだ。
「うるさい、俺は今、すっっっっごい機嫌が悪いんだ!!」
と、怒鳴り飛ばす。
しかし、その後に「いや、違うな」と続けた。
「”機嫌が悪い”は正しくねえか。負けて悔しかったのは悔しかったが、それ以上に次勝つためにどうするか、という意思の方が上だ。とにかく、俺は今、すっごい強くなりてぇ気分なんだ」
おい! と倉庫にいる舎弟達に御剣は怒鳴った。
「誰でも良い! 腕に自信のある奴から、手加減無用で俺様に掛かって来い! 勿論、ポケモンで、だ!」
彼の闘争心はそれほどまでに燃え上がってきた。
手当たり次第に、舎弟達にポケモンで勝負を挑もうとする。全員が、困惑した表情を浮かべていた。
「い、いや、でもあいつらに仕返しとか---------」
「そんなの考えてるヒマがあったら、正面から奴らをぶっ潰した方が早いって気付いた。おらぁ、まずはどいつだ!」
「俺です!」「いや、俺だ!」と集まってくる舎弟達。
曲がりなりにも、彼も強くなろうという意思があってのことかもしれない。
その様子を見ていたヤスは、遠くで御剣を見ながら、チッと舌打ちをし、呟いた。
「……あれはもうダメだ。あの速山から何を吹き込まれたのか知らないが、あんな番長は、もういらねぇ。とっととこの学校から消えちまえば良いのに----------!! ”あの方”にドヤされるのも、時間の問題か」
- 害悪支配者 ( No.22 )
- 日時: 2015/04/28 23:17
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)
おかしい。
なぜ、金が回ってこない。
奴らが馬鹿だとしても、僕がいなければ自分たちの非行がとっくに露呈していることは分かっているはずだ。
なのに、なぜだ。なぜ、奴らの貢物は止まる?
……そうか。
御剣鋏弥がやられたのか。
だから連中も、動くに動けないのか。
仕方ないと言えば仕方ない。裏で動いているとはいえ、組織に従属する身だ。トップには逆らえないだろう。
だが、“支配者”たる僕に逆らうことなど、許されざることだ。
しかし奴らが動きづらい事実は変わらない。致し方ない、僕が少しばかり手を出すことにしよう。
幸い、奴らから話は聞いた。御剣を潰した奴の話を。
速山翼。
奴を潰す。
そして僕の支配を盤石にする。
それが、支配者たる僕の使命だ——
***
「——ここはやっぱ裏をかいて押すべきか……いや、裏の裏をかいて引くが吉……だが待て、相手はそれすら読んで裏の裏の裏をかく可能性もある、だったらこっちは裏の裏の裏の裏の——」
「ねぇ、ちょっと。翼」
「なんだよ、こっちは今、猛烈に頭をフル回転させてんだ! 邪魔すんな!」
「……いや、でも」
放課後、いつものように教室に集まり、ポケモン対戦に興じていた翼、未歌、そして夏奈の三人。
人数が奇数なので、対戦はローテーション。今は夏奈が観戦者となり、翼と未歌が対戦しているのだが、
「……考えるのは悪くないけど、考えすぎ……」
呆れたように、嘆息交じりで言う未歌。
今、翼の場にはボーマンダ、未歌の場にはサザンドラがいる。
翼は、サザンドラの持ち物がいまだ分からないため、押し引きに悩んでいるようだった。眼鏡なら押す、スカーフなら引く、というように。
だがしかし、その思考にかなり時間をかけている。未歌は既に選択済みで、軽く手持無沙汰だった。
「ポケモンってこんなに長く考えるんですねぇ、私いっつもさっさと決めちゃってました」
「対戦に慣れて来たら、長考はした方がいい。相手の体力、技、努力値、残りポケモンなどの情報を分析して、次の一手をしっかりと考えることは、とても重要なこと」
だけど、と未歌は翼の方を見遣る。
「あんまり長引かせても、ただの遅延行為になりかねない。特に、こうやって面と向かい合ってる時は、対戦相手に失礼」
「誰が遅延行為だ! これも長考だろ!」
「下手な考え休むに似たり、って諺もある」
「そういえば私、この前レーティングですっごく長く考える人と当たりました。それで、いつの間にか終わっちゃってて……グライオンとラッキーとポリゴン2が相手だったんですけど……」
「それ受けループ……遅延行為ではないけど」
「俺はあの戦術大っ嫌いだな。なんつーか、ポケモンバトルをしてる感じがしねぇ」
受けループとは、簡単に言えば、相手の攻撃をすべて受け止めて、時間切れまで戦う戦術。
ポケモン対戦は時間切れになると、ポケモンの総体力が多いプレイヤーが勝つのだが、その仕様を利用し、高い耐久のポケモンで粘り続け、体力も回復させながら時間切れを待つ。
1ターン1ターンを時間いっぱいまで使うので、10秒程度でさっさと決めてしまうプレイヤーからすれば、なかなかに鬱陶しい。
しかもポケモンも、身代わりや守るを多用するので攻撃が全然当たらず、グライオンはハサミギロチンで一撃必殺を連打、ラッキーは小さくなるで攻撃を躱し続けるなど、とにかく一般的な戦い方をするプレイヤーからすると、専用の対策をしなければ構築の時点で詰みかねないので、毛嫌いされていることが多い。
それでも立派な戦術の一つで、ルール違反をしているわけではないのだから、一方的に毛嫌いするのも間違っている、という意見もあるのだが。
要は曖昧なマナーの問題だ。そしてそのマナーという点において、翼の長考は遅延行為扱いされてしまっているというだけだ。
「いーや、やっぱここはこれか、それか、それとも……」
「まだやってる……」
「あはは……あれ?」
夏奈がふと廊下の方へ視線を向けると、少し焦ったように声を上げた。
「あ、あの、先輩っ、誰か来ますよ!」
「なに? 誰だ?」
翼と未歌も、こっそりと窓の外を見遣る。
そこからは、まだ遠いが、はっきりと教師の姿が確認できた。
「あれは……生徒指導の……」
「やっべ! 見つかったらまずいぞ! 早く隠れろ!」
学校にゲーム機を持ち込むだけでも、厳しい教師は怒る。
それを空き教室に勝手に忍び込み、隠れてこそこそやっているとなれば、大激怒だ。しかも相手は生徒指導。校則やルールには厳格で、見逃してくれるはずがない。
翼たちは急いで扉と窓を閉め、電気を消し、掃除用具入れのロッカーの中と教卓の下に分かれて隠れる。
「——って、なんでこっちに来るの」
「仕方ねーだろ、掃除用具入れには東雲が隠れて、俺じゃ入れねーし」
先に教卓に潜り込んでいた未歌は、後から入ってくる翼に、刺々しい声で言う。
分かれて隠れる。それはよかったのだが、空き教室であるここには、大したものは置いていない。
隠れられる場所は掃除用具入れと教卓の二ヵ所のみ。そうなれば必然、二人は同じ場所に隠れなければいけない。
二人とも中学二年生。体もそれなりに成長している年頃だ。
教卓の下なんて狭いスペース、入れないとは言わないまでも、二人も潜り込めば体が密着してしまうのは仕方のないことである。
「ぐ、狭い……もっと寄れないのか?」
「無理。そっちこそ、もっと寄って」
「それは無理な相談だ」
結局、互いに身を縮めあい、背中合わせのような形で教卓の下に入り込んだのだった。
コツ、コツ。と足音が響いてくる。生徒指導の教師が近づいてきているのだ。
同時に、焦りと緊張で鼓動が高鳴る。背中合わせとはいえかなり密着しているため、お互いの心臓の鼓動も聞こえてくるようだ。
だが、この鼓動の高鳴りは、本当に焦燥から来ているものなのだろうか。教師が近づいていて、見つかるかもしれないという恐怖が、心臓をのビートを速めているのだろうか。
そんな考えがよぎる。
そして、そんなことを考えているうちに、足音が遠ざかっていく。
「……行ったか?」
「たぶん……」
念のためにまだ様子を見ようと、少し待ったが、足音は完全に聞こえなくなった。
それでも念には念を入れて、そーっと顔を半分出して、教室内の様子を覗く。そこには、誰もいない。
そこまで確認して、やっと翼は教卓の下から這い出てきた。同時に、未歌もパタパタと制服に付いたほこりを払い落しながら出て来る。
「危なかったぜ、生徒指導に目を付けられたら厄介だからな」
「確かに。内申点とかも、下げられるかもしれないし」
「だな……っと、忘れてた。おーい、東雲! もう大丈夫だぞ!」
翼の呼び声で、キィ、と掃除用具入れが開き、中から夏奈がひょっこり顔を出す。
「先生、もう行きました?」
「行った行った。はーぁ、マジで冷や冷やしたぜ。だが、これで対戦にもど——」
と、翼が手に持った3DSに目を落とした、その時。
「あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ……っ、いきなり大声出さないで。先生が戻ってきたらどうするの」
「俺のマンダが! 俺のマンダがいつの間にかあぁぁぁぁぁぁ!」
見れば、翼のボーマンダは戦闘不能に。そしてなぜかサンダースが場に出ていた。
その様子を見て、未歌はぼそりと呟くように言う。
「……隠れてる間に、時間切れになったんだ」
「時間って、技とか選ぶ時に、画面の右下に出てるあれですか?」
「そう。時間切れになると、左上に表示されている技が勝手に選ばれる」
「くそー、交代するつもりだったのに!」
しかも隠れている間は3DSの画面など微塵も見ていなかったので、目の前のボーマンダを殺戮したサザンドラがどのように動いたのかもわからない。持ち物どころか、流星群で特攻が下がったのかどうかすらも不明だ。
「あの先公……! よくも俺のマンダを……!」
「もう、対戦も滅茶苦茶。仕方ないから、無効試合ってことにしよう」
突然のアクシデントだったため、仕方ないことではあるが、これからもこのようなことがないとは限らない。
そのたびに、いちいち隠れていては、対戦にも支障をきたす。そうでなくても、見つかったら厄介なことになるのは確かだ。
「今までそういうことがなかった方が奇跡染みてったわけ、か。そろそろ、ここで隠れて対戦するのも限界かも」
「そうだなぁ。もっと、堂々と校内で対戦できればいいだけどな」
しかし、校則として『学校生活に関係のないものの持ち込みは禁止』とされているので、なかなかそういうわけにもいかない。
いっそ不良たちのように開き直れば話は早いのだが、表向きは優等生ということになっている未歌などに、今まで築いてきたイメージを破壊させるのも忍びない。
「なにか、他のことで必要だから、みたいにして持ってこられたらいいんですけどね」
「他のことってなに……内容が曖昧すぎるし、ゲームが必要になる状況なんてあるわけ——」
「ちょっと待て。だったら、ゲームを持ってきてもいい状況を、俺たちで作っちまえばいいんじゃないか?」
「なにをいきなり。どうするのそんなこと? 校則を変える運動でもするの? そんなの、すぐに鎮圧されるのがオチ」
「いーや違うね。学校全体を変えることができなくても、一部の場所だけでゲーム持ち込みオッケーってことにすればいい。つまりはこういうこった」
翼はスゥっと息を吸い、高らかと、そして堂々と。
宣言した。
「俺たちで、部活を作る!」
- 第3章:害悪支配者 ( No.23 )
- 日時: 2015/07/12 14:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
部活を作ると宣言した翼。
確かに、部活動という名目であれば、公に3DSだろうがゲームカセットだろうが持ち込みは可能だ。
とはいえ、ゲームなどという娯楽的なもので部活動の申請が通るかどうか、甚だ疑問なところではある。いやむしろ、突っ撥ねられるのがオチだろう。
「——って、さっきから言ってるのに、まったく聞く耳持たないし……」
「たりめーだ。できるかどうかなんて、やってみなくちゃ分かんねーだろ。何事も、やらないよりやってみるべきなんだ」
「下手にこんなことして、目をつけられるっていうデメリットは考えないの……?」
無論、まったく考えていない。
これがダメなら違う方法を考える、くらいの勢いで、翼は部活動の登録申請用紙を片手に、ズカズカと生徒会室へと向かって行く。
本来なら顧問の教師を通して登録の可否が決定されるだが、翼は直談判で無理やり押し通してしまうつもりで、直接生徒会へと要求を叩きつけるつもりだった。
その強引な手法に呆れつつも、未歌はふと疑問がよぎる。
「というか、顧問の先生は見つかったの? こんな活動で」
「まーな。名前だけ貸してくれって言って、なんとか頼み込んだ。元々、やる気のない教師だったし、何度も頼み込んだら、そのうち折れた」
ともかく、表面上は部活申請に必要なものはすべて揃っている。ネックになりそうなのは活動内容くらいだが、そこは巧言令色、口先三寸と勢いで押し通すつもりだ。
そんなことで大丈夫だろうか、翼が生徒会相手に口先で勝てるのか。とにかく不安しかない未歌だが、タイムリミットだ。
いよいよ、生徒会室に着いてしまった。
「さて、ここからが俺たちの戦いの始まりだぜ」
「そんな打ち切り漫画の煽り文句みたいなこと言わなくても……」
だが言ってることは間違っていない。
さしもの翼も少しは緊張した面持ちを見せ、額からは一筋の汗が流れ落ちる。
「それじゃあ……行くか!」
翼は思い切って一歩を踏み出す。
そして、『生徒会室』とプレートの下がった扉を、強くノックした。
***
「——分かった、部活動の登録を許可しよう」
「……へ?」
それなりの覚悟を持って入室した翼たち。自分たちの用件を告げ、恐る恐る申請用紙を生徒会長に渡して、返ってきた言葉はそれだった。
「? どうしたんだい?」
「あ、いえ、その……案外、あっさり登録できるんだなー……って」
「当然さ。書類に必要事項は全部書かれているし、部員も顧問もいるし、活動内容もしっかり明記されている。使いたい教室も、今は使用していない教室だから使用しても他の部や授業などと差支えはない。問題がない部活申請を却下するわけにはいかないよ」
「は、はぁ……」
必要事項云々はておき、活動内容については本当に良かったのだろうかと思わないでもないが、これで申請できたのならば御の字だ。徹夜で文面を考えた甲斐があった。
(まさかこんな部の申請が通るなんて……)
(だな。生徒会長様々だぜ)
小声で未歌とやり取りしつつ、翼は書類に再び目を通している男子生徒を見遣る。
現生徒会長、虻村英一。
ストレートにした焦げ茶色の髪に、端正な造りの顔立ち、スマートな細い身体と、正に容姿端麗な生徒。
しかも良いのは見た目だけではなく、成績優秀で、性格も相当な人格者だと聞き及ぶ。
事実、彼が生徒会長になっているのは彼の人柄が成した結果であり、こうして生徒会長であり続けているのもその証左だ。
この内容に問題がありそうな部活動申請が許可されたのも、彼の人柄に救われたのかもしれない、と二人は考える。
「……静谷未歌、東雲夏奈。そして、速山翼……」
「?」
一瞬、虻村がこちらを見たような気がした。
「部員は、現在この三名で全員なのかい?」
「……あ、はい。そうです」
どうやら、ただのメンバーの確認だったようだ
虻村はトントンと書類をまとめると、改めて二人に向き直り、宣言した。
「分かった。それじゃあ、『極・ポケモン部』の設立を、正式に許可しよう」
「ありがとうございます!」
(なにその微妙なネーミング……)
ここに来て初めて知った部活名に、また未歌は呆れる。どこから“極”なんて字が出て来たのか。普通に『ポケモン部』とかではダメだったのか。
と、そんなことを思うも、なにはともあれ部活動の申請はできた。
これで、これからは堂々と校内で対戦ができる。
「それじゃあ、失礼します!」
そうして二人は、嬉々とした表情で生徒会室を後にした。
- 第三章 害悪支配者 ( No.24 )
- 日時: 2015/10/11 01:57
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「——こんなもんか」
ふぅ、と翼は一息つく。
思ったよりもすんなりと部活動の申請が通り、晴れて翼たちは日陰者から脱却した。もう、隠れてこそこそ対戦をする必要もないのだ。
これからは、部活動として学校内でポケモン対戦ができる。
そう、部活動になったのだ。今までの活動は。
「だったら、部室もそれらしくしないとな」
「そんなこと言っても、これ、ただ本棚置いただけ……」
翼がどこからか、小さな本棚を持ってきては組み立て、部室に設置した。
もうこの空き教室は、『極・ポケモン部』の部室なので、その証明も兼ねて、ポケモン対戦に役立つ資料を置きたいとのことだった。
「手書きのノートに、廃人向けの攻略本まで……こんなもの売ってるんだ。でもこれ、もうほとんどの事項を頭に叩き込んでるあたしたちに必要……?」
「不要じゃねーだろ。夏奈はまだ半人前だし、同じような初心者が入部してくる可能性だってある」
「この部の存在を知ってる生徒が、どれだけいると思ってるの……」
しかしまあ、自分たちの部を作り上げていくことに、特別な何かを感じる、そしてその特別をさらに構築していきたいという翼の気持ちは、未歌にも理解できる。
それは、初めて自分のパーティーを組んだ時の感覚に似ていたかもしれない。
なので未歌は、それ以上は反駁しなかった。
「設備を充実させるなら、PCとルーターも欲しいけど……流石に、中学生のあたしたちじゃ、すぐに手は出ないか」
「それは追々考えていこうぜ。とりあえず今はこれだけだが、出だしとしては悪くないはずだ。これを明日、夏奈に見せたら驚くだろうぜ」
「……まあ、あの子なら、ね」
素直で純粋な彼女のことだ。「わあ! 先輩、なんですかこれ!?」みたいな感じで、飛び上がることだろう。
「とりあえず、今日はもう下校時間だし、このくらいにしとこうぜ。あとは少しずつ揃えていけばいい。それに、これでもう、こそこそしながら対戦する必要もないんだ、いやー気分も晴れ晴れだな」
「ま、確かに隠れてやってるのはちょっと心苦しかったし、そこが解消されるのは、悪くないかも」
そうして二人は教室を出る。温度差があるように見えるが、結局のところ二人とも、部室が、そして部活ができて喜んでいるのだ。。
「……鍵、ちゃんと締めてよ」
「分かってる分かってる。任せとけって」
翼はがちゃがちゃと鍵穴に乱雑に鍵を突っ込んで回す。ガチャリ、と音が鳴ると、引き抜いた。
「雑……」
「締まればいーんだよ。ほら、とっとと鍵返しに行くぞ。正式な部活動になった以上、戸締まりは必要だからな」
「分かってるって。それに、翼には言われたくない」
「おい、それはどういうことだ?」
などと言いながら、職員室まで鍵を返し、その後、二人は各帰路についた。
日が明けた後に判明する惨劇のことなど、知る由もなく——
***
「な、な、な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それが、翼の開口一番の台詞——というより、叫びだった。
「うるさ……なに、なんなの」
そんな翼に、顔をしかめる未歌。彼女でなくとも、いきなりこんな大声を上げられたら、少しは文句も言いたくなるものだろう。
しかしこの場合に至っては、翼の叫ぶ気持ちも分かるというものだ。
念願の部室を手に入れた翼たち。今日は夏奈も引き連れて、部としての活動、即ち部室を使用した初めての部活動を行う予定だった。ささやかなパーティーでもするつもりで、それはもう、翼の財布の紐は緩みに緩み、大量の菓子やら飲み物やらを買い込んだ。
だが、しかし。
「わあ! 先輩、なんですかこれ!?」
「そんなものは俺が聞きたい! なんなんだこれ!?」
「……これは、流石にひどい……」
部室を覗き込む三人。そこには、見るも無惨な光景が広がっていた。
まず、机と椅子が乱暴に倒され、散乱している。それだけならまだよかったのかもしれないが、中には足が折れていたり、天板が割れているものものある。
他にも、とりあえず置いておいた文房具も、へし折られていたり、砕かれていたり、もはやまともに使える状態ではなかった。
そして、なによりも。
「本棚が……!」
昨日、翼が最も気合いを入れて設置していた本棚が、大破している。小さな木組みの本棚が、ほぼ原型をとどめていないほどに壊されていた。正に、書いて字の如く、木っ端微塵だ。
そして同様に、その中の攻略本や資料も、ビリビリに破かれ、ただの紙屑へとなり果てていた。
「すごい荒らされちゃってますね……」
「畜生! 誰がこんなことをしやがった! 御剣の復習か!? ポケモンで俺らに勝てないからって、実力行使か!?」
「いや、あいつの身分であたしたちに手を出してくることはないと思う……でも、これは一人の犯行じゃない。たった一日でここまでするなんて、とても一人じゃ無理」
つまり、集団の犯行だ。
この惨状は複数人の手でやらなければ、とても生み出せないだろう。
「でもいつの間に……昨日、あたしたちが部室を出た時は、もう下校時間間近だったし、午前中から今まではずっと授業だった。休み時間とか、早朝に来て荒らすにしても、これだけのことをする時間があったのか……それに、昨日新設されたばかりの部活動の存在を知ってるって、一体……」
ぶつぶつと呟きながら思案する未歌。
一方で翼は、当然だが、怒りを露わにしていた。
「なんでもいい! とにかく、これをやった奴は見つけ次第処す! ぜってーに処す!」
「とりあえず、どうしたらいいんでしょうか……部室、このままってわけにもいきませんし……」
「とりあえず、生徒会に被害届けを出すか。向こうで犯人捕まえてくれるかもしんねーし——」
「あ……待って」
と翼が廊下に出ようとするのを、未歌が制止した。
「なんだよ」
「これ、生徒会の人には言わない方がいいと思う」
「はぁ? なんでだよ。俺らは被害者だぜ? だったら、生徒会にそれなりの対応をしてもらう権利があるだろ」
「ちゃんとした実績のある部活動ならまだしも、この部はつい昨日できたばかり。それに……」
未歌は、どこか思い返すように思案すると、翼のへと向く。
「……翼」
「なんだ?」
「昨日、ちゃんと鍵締めた?」
「締めたに決まってるだろ。お前も見てただろ」
「じゃあ、ちゃんと締まってたか、確認した?」
「あ? えーっと、それは……」
していない、と思う。
鍵を鍵穴に入れて、回して、引き抜く。その作業をしたことは覚えている。
だが、ちゃんと締まっているかは、確認していない。
鍵穴の構造なんて、外からでは分からない。なにかの間違いでちゃんと締まっていないということなど、ザラにある。だからちゃんと締められているか、確認をするのが鉄則だ。
それを、翼は怠っていた。
「で、でも! ずっと開いてたんなら、こうして鍵は閉まってないはずだろ? 俺らは今日、職員室から鍵をもらって、それを差し込んで開けたんだ。つまり、鍵は閉まってた」
「夜には警備員が徘徊してて、マスターキーで全部締めるから、結局同じ……そうなると、昨日の犯行ってことになるけど」
「むむむ……!」
唸る翼。
少し浮かれすぎていたのかもしれない。昨日は部活動の申請が通って、部室もできて、その喜びが、気の緩みを生んでしまった。
思えば、窓の鍵も締めたかすら曖昧だ。扉が閉まっていても、窓が開いていれば、そこから進入も可能だ。
「壊されたのはあたしたちの備品だけじゃなくて、学校の備品も含まれる。初回だから見逃してくれるかもしれないけど、こうなると、あたしたちの管理能力を疑われかねない」
それは、翼たちにとっては非常にまずい。
もしもこの問題から、部活停止。果ては廃部になど追い込まれてしまっては、たまったものではない。
せっかく手にした部活動という大義名分を、失うわけにはいかないのだ。
「じゃあ、どうするんだよ。このままにしとくわけにもいかねえだろ。それになにより、このままじゃ俺の腹の虫が収まらねえ!」
「それはあたしも同じ……机と椅子は、しばらく隠しておく。幸い、全部が壊れてるわけじゃないし、元々かなり古くて錆び始めてたから、しばらくしてから言えば、そっちの方は言い逃れができるかもしれない」
壊された備品と、破られたノートは、直しようがないので諦めるしかない。備品は後で補充すればいいだけだが、本棚やノートに関しては、ご愁傷様と手を合わせる他はなさそうだ。
「犯人については、もう少し調べないと……職員室で、鍵を管理している先生に話を聞いてみる」
「んじゃ、俺は御剣に話を聞いてくる。あいつらの復讐って線も、なくはないだろうしな。ことによっては即刻しばき倒す」
「あ、あたしも友達とかに、いろいろ聞いてみますっ」
こうして、『極・ポケモン部』の部室荒らしを捜索することになった翼、未歌、夏奈。
この時、三人はまだ、その裏にある影に気付くことはなかったのであった——
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