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俺と携帯獣のシンカ論 【ポケモン対戦小説】
日時: 2015/04/29 01:22
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

『読者の皆様へ』

どうも、初めましてタクとモノクロとOrfevre(オルフェーヴル)です。この小説は以上の3人によって考案・執筆をしております。所謂合作です。ただ、現在はモノクロと高坂桜の2名はリアルでの都合によって直接執筆をすることができません。
よって、タクが1人でしばらくは筆を執ることになると思います。

この小説は、ポケットモンスターXY、ポケットモンスターオメガルビー・アルファサファイアを原作とした小説……というよりは、このゲーム自体を中心に展開する小説となっております。
つまり、現実世界での対戦だとかそんなものを描いた作品になります。
ポケモン廃人の方から(作者も廃人です)殿堂入りしたばかりのネット対戦初心者の方まで気軽に読んでいってください。

それでは、また。


第一章:飛翔の暴龍/咆哮の悪龍
>>01 >>02 >>03 >>07 >>08 >>12 >>13

第二章:携帯獣対戦のすゝめ
>>14 >>15 >>16 >>18 >>19 >>20 >>21

第三章:害悪支配者
>>22

Page:1 2 3 4 5



第一章:飛翔の暴龍/流星の悪龍 ( No.1 )
日時: 2014/12/17 00:08
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ---------どーする? とりあえず敵のパスは-------

ポケットモンスター、縮めてポケモン。

 ---------あ、やべ、これガチな奴だわ。

 ボール大にサイズを縮小できる不思議な生命体である。

 ---------とりあえず、メタグロスが怖くてドククラゲは出て来れない、はず。

 そして、ポケモンとポケモンを戦わせるポケモンバトル。

 ---------げっ、残りじゅーびょー、急げ、これで決定ボタンポチッ、とな。

 それが、とても白熱し、互いの絆を深める戦いであるのは-----------ゲームの中の設定だけではなかった。

「や、やっと決まった……」

 速山 翼(ハヤマ・ツバサ)は開幕でピンチだった。目の前の少女は重たそうな瞼に隠れた瞳を苛立ち気に向けながら、溜息を小さくついていた。
 やっとか、と言わんばかりに。
 翼が初っ端から緊張していたのは、何も此処が大会という場だから、ではない。
 何せこの大会自体はそこら辺であるような小さなもの。この程度の規模ならもう慣れた。
 ちなみにこの大会で皆が持ってきているのは発売されて結構経ち、今は4月だがポケットモンスターX・Yである。
 しかし、相手が悪い。
 別に見も知らずの相手ならば怖くは無い。
 だが、目の前に居たのは--------

「---------静谷、お前見たいな”秀才”が何でこんな場所にいるんだ」

 2面ゲーム機・3DSのボタンを指にあわせて翼は訝しげに言った。静谷、と呼ばれた少女は何も答えない。
 クラスメイト、いや同級生? 単に学年が同じだけか。
 しかし、彼女と口を利いたことは無い。彼女自身、社交的なタイプではなく、周りと関わることも少ないからだ。
 が、そんなことは関係ない。
 問題は、彼女の特性というか、特徴だった。
 日本人形のような黒髪にカチューシャが似合う小柄の美少女だから、という理由などではない。
 彼女は、中学2年生の割に人より一回り頭が良い、つまり優等生なのである。
 学校の成績は体育以外は全て5か悪くて4という程。テストで学年1位を取るなんてのは日常茶飯事だった。
 そんなに頭が良いのだから、家でも勉強してばっかなんだろうなー、と思っていました。
 違いました。
 ゲームの大会に出ていて、しかも目の前に居るし。
 対して翼はと言うと、成績はほとんど3。運動も普通だし、別に日常で困ることは1つも無い。
 1つも無いのだが、これといって特別な長所が無いのが彼の悩みだった。
 さて、話を戻す。最初は静谷を見て彼も見間違い、人違いかと思ったが、そんなことはなかった。
 そしてこの試合、俗に6350と呼ばれるルールで、レベル50以上のポケモンを自動的にレベル50にしたパーティ6匹を見せ合ってその中から3匹を選出する、フラットルールというもの。もしかしたら、殿堂入りしたまんまのパーティじゃね? とワンチャンス勝手に仕掛けたが、それは打ち砕かれる。はっきり言ってガチだった。
 まず、特性・天の恵みでエアスラ怯みゲームを仕掛ける害悪トゲキッス。
 次に、特性・収穫で何度でもオボンの実で回復し続けるゾンビ・オーロット。
 そして地味ではあるが高い耐久の持ち主であるドククラゲ。
 高い素早さから膝で突撃してくるコジョンド。
 じゃれつかれたら殺される(メガ)クチート。
 最後に高い素早さと特攻の持ち主である大正義600属の悪龍・サザンドラだった。
 うわあ、ガッチガチじゃん。どっからどう見ても初心者の構築じゃないじゃん。
 だが、もしかしたら、というワンチャンがある。彼女が構築だけの初心者ならば。読みが甘い初心者ならば、まだ勝てる可能性はある。
 秀才だからといって、ゲームも強いとは限らないのだ。
 こっちのパーティだって別に弱いポケモンで組んでいるわけではない。
 ゲッコウガ、サンダース、ガルーラ、ファイアロー、メタグロスにボーマンダ。と、こんな感じだ。
 大丈夫、多分勝てる。
 翼は一回戦で出オチなんて無いことを祈り、目の前の戦いに目を向けた。

 -----------バトル、開始だ!!

 こちらの初手は速くて可愛いサンダース。メガライボルトというライバルが出たものの、補助技の強さで活躍が期待できるイーブイの進化系。
 一方の相手は、コジョンドだった。
 まずった。トゲキッスが怖すぎて初手にこれを置いたのだが、初手はファイアローが良かったか、と後悔する。
 だが、ファイアローとボーマンダが見えていてわざわざコジョンドを出すとは思いもしなかったのだ。
 
 -----------サンダースは特防は高いが、防御は脆い。相手は猫騙しを撃ってくるだろうから、そのスリップダメージを狙ってファイアローに交換する!
 
 ここでサンダースは捨てられない。
 ファイアローの持ち物はゴツゴツメット。高い速さから鬼火を打って相手を火傷にすれば、もう4倍弱点の岩技を食らっても死ななくなる。
 これで有利な体面に持ち込めると思った。
 しかし、次の瞬間だった。
 
「……甘い」

 彼女の囁きのような声が刺さるように翼の胸へ襲い掛かる。
 そして、ぐさり、とファイアローの方に刺さったのは-----------岩の刃だった。

 ファイアロー:残りHP0% KO

 しばらく、唖然としていた。
 ”交代読み”。
 静谷は翼がファイアローに交代することを読んでコジョンドの技選択を”ストーンエッジ”にしたのだ。
 10万ボルトで突っ張って来る可能性も無くはなかったというのに。いや、交代していなくてもダメージがかなりサンダースに入っていたはずではあるが。

「くっ、まずい! 最初っから崩されるなんて!」

 ---------次の行動だが、サンダースを出すか。相手はコジョンドでとんぼ返りor跳び膝蹴りのはずだから、ボルトチェンジでこいつに交代だ! 
 サンダースを繰り出した翼の行動は既に決まっていた。
 ---------よし、バックだサンダース! そして行くぜ、相棒・ボーマンダ!
 流石に、飛行2匹の選出は読めないはず。威嚇が入っていれば、万が一のエッジも耐える、多分。という希望的観測の元、サンダースは電気を纏ってコジョンドに突撃する。

 コジョンド:HP残り70%弱

「よし、行くぜ相棒!」

 繰り出されたのはドラゴンポケモン・ボーマンダ。その火力と素早さは魅力的だが、一線を張っているのは同じドラゴンのガブリアス。
 しかし、それでも龍の舞を積んだ後の火力も驚異的だ。
 もっとも、積めれば、という話だが。
 コジョンドの選択もとんぼ返りだった。
 威嚇と効果いまひとつで雀の涙程度のダメージしか入っていないが。

「……時間の無駄。とっとと終わらせる」

 現れたのは------------悪龍・サザンドラだった。タイプも悪・ドラゴンとまさにそのまんま。そして高い特攻から放たれる流星群はあらゆる敵を焼き尽くす。
 しかし、素早さだけならばボーマンダの方が普通は上のはず。
 普通ならば。
 翼は分かっていた。この状況で何故静谷がサザンドラを出してきたのかが。

 -----------こいつ、拘りスカーフを持っていやがる!!

 すかさず、サンダースに交換する翼。しかし、流星群は容赦なく降り注いだ。

 サンダース:残りHP30%弱。

「HPに全振りしてる、か。でもお終い」

 安定行動か、サザンドラを引っ込める静谷。
 現れたのはコジョンドだった。特性・再生力の効果でさきほど受けたダメージもほぼ回復している。

「く、くそっ!!」

 10万ボルトがコジョンドに入った。しかし、ダメージはたったの50%程度。
 そして------コジョンドのとんぼ返りが炸裂した。

 サンダース:残りHP0% KO

 --------ま、まずい、これは技外しワンチャンでもなければ、勝てねえ、だけどまだ、勝機は0%じゃねえ!!

 翼は焦りを感じた。だが、ラス1対面はさっきのとんぼ返りで再び場に現れたサザンドラ、そしてこちらはボーマンダ。
 はっきり言って絶望的だった。

「つまんない」

 それだけを告げ、目の前の少女の選択は唯1つ。

 ---------流星群

 次の瞬間、隕石がボーマンダに降り注ぐ。
 結果は明らかだった。
 ボーマンダが倒れると同時に翼の敗北が確定したのだ。

「---------こんな駄龍と戦わされたサザンドラが可哀想」

 辛辣な彼女の言葉と共に。

第一章:飛翔の暴龍/流星の悪龍 ( No.2 )
日時: 2014/12/17 00:32
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 努力値・種族値・個体値。この3つの数値を理解でき、ポケモン廃人ロードを歩んでいる人間がこの世に何人居るだろうか。
 自分は少なくとも理解はできていると思う。んでもってポケモン廃人だと思う。by 速山 翼。
 なのに、昨日の戦いっぷりは何だ、一回戦敗退とかどこの弱キャラですか、この野郎、とずーんと圧し掛かる暗い気持ちに翼は耐えていたのだった。
 今日も学校では机に突っ伏したまま。月曜ブルー症候群に掛かってしまったらしい。
 昨日、優勝したにも関わらず無表情のままだった彼女を思い出す。

 --------とんでもなく強いのか、あるいは俺が弱いのか。
 
 いや、両方だろう、と。
 そう考えると余計気が重くなる。
 新しいクラスにもそろそろ慣れなければ。
 がくり、と無気力に倒れたまま彼はうとうとと春の陽気なぽかぽかとした暖かさに身を委ねて、夢の世界へ----------

「ねえ、あそこで寝てるのって、去年の定期テストで全部1位だった静谷さんじゃない?」
「ほんとだー!」

 --------あい? 今何て?
 覚・醒。そのまま両面イラストのカードみたいにひっくり返りそうになったが、確かにそう聞こえた。
 
「すごいよね、あんなに頭良いのって」
「でも愛想は悪いって、男子が言ってたけど」
「良いのよ、それくらいの方が! ミステリアスって感じで素敵じゃない?」

 春眠・暁を覚えず。
 速山・眠気を覚えず。
 すぐ後ろに居たんじゃないすか、コンチクショウ。
 阿修羅神、豪鬼、羅刹、般若、不動明王、今自分はどれよりも怖い顔をしていると思う翼。
 自分の席の列の一番後ろとは不覚だった。1年のときは名前と噂を知っている程度だったが、同じクラスになっていやがりました。
 --------イエスタデイのマンダ侮辱の恨み晴らさで置くものか。早速リベンジマッチ挑んでやろうじゃねえか。

「……ちょっとそこどいてくれないか、君ら」

 へっ? と振り返った途端にヒィッ、と顔が恐怖に歪んで逃げていく女子2名。我ながら紳士的な発言+阿修羅豪傑が泣いて逃げる強面フェイスだったかと軽く0.2秒の間反省。
 そして、静谷が突っ伏して寝息を立てている机をへしゃげるかと思うくらいに強く叩いて「起きやがれ、静谷ッ」と翼はバークアウト。
 むくり、と動じない顔で起き上がった彼女は一言、「誰?」と言ってすぐさま机に再び突っ伏してしまった。恐ろしい肝の持ち主ではあるが、翼が納得行く訳も無く。

「誰? じゃねえ。天才なんだろ、学年1位なんだろ。英単語とか公式とかよゆーで覚えられるんだろーが。なのに人様の顔忘れてんじゃねぇよ!!」

 ブチ切れて突っ込んでから、ぜぇぜぇ、と息を切らして翼は気付いた。

 --------やはりとは思ったが、こいつ、俺の事なんか目にない、か。

 アウトオブ眼中って奴である。あまりにも弱すぎた(彼女からすれば)翼のことなど、おそらく寝ている間、否・あの試合が終わった途端に忘れてしまったのであろう。
 ムカつくといえば、ムカつく。折角因縁の相手が目の前に居るのに相手すらして貰えないとは。
 青筋ピクピク、こめかみが引きつり、隅でさっきの女子が「速山君超怒ってるけど、静谷さんに何かされたのかな」と言っている。

「……思い出した。速山 翼、だっけ」

 がばっ、と起き上がって突然言葉を発する彼女。
 おおう、覚えてはいたらしい。いや、たった今まで忘れていたんだろうけど。

「昨日マンダで戦ってたマイナー使い」

 確かにボーマンダはXY環境では余り使われていない。
 空の暴君という2つ名はいつの間にか600属最弱クラスと言われるようになってしまっていた。
 その理由がガブリアスにぎりぎり抜かれる素早さだろう。
 彼女は要するに、翼をサブカルチックな物好きと言いたいのだろう。

「ちょ、おま、待て。俺はマイナーだから、あまり使われてねぇからマンダを使ってるわけじゃない、あいつは攻撃面ならガブを上回ってるし、物理か特殊も読みにくい。しかも、竜舞を舞った後の----------」

 しかし、反論する翼。彼はボーマンダだからこその強さを見出しているのだ。
 が、言葉はそこで途切れた。彼女が槍を入れるように言ったからだ。

「それで、何の用?」

 思わず翼は、う、と口をつぐんだ。別にこんなことを論じに来たわけではない。
 言う言葉は最初から決まっていた。断られるのは承知だ。

「もう1回、俺と対戦しろ」
「わかった」

 しばらく、間が空いた。余りにもあっさりとした受け答え。最初、断られるかもと思ったほどなのに。
 ぽかーんとしていたが、押し出すように言った。

「……はい?」
「だからやるって言ってるの。対戦。耳付いてる?」
 
 ま、勝てるわけ無いけど、と彼女は付け加えたが。
 しかし、願ったり叶ったりである。こんなにも都合よく話が運ぶとは思っても見なかったのだ。

「よーし、良いぜ。やってやろうじゃねえか。やんのは今日の放課後だ、3DS持って学校の近くの公園に5時までに来い」

 ***

 惨敗。
 負けた。
 ええ、まさかここまでボッコボコのフルボッコにされるとは翼は思ってもみなかった。
 もうマジパネェっす、サザンもクチートもマジパネェっす、と口から漏れている。
 ベンチでちょこん、と座っている静谷はふぅ、と溜息をついた。

「……これで、立ち上がれなくなったでしょ」

 諦めろ、と言っているようだった。その瞳も、いやその言い振りからも。
 
「それにサザンドラの方がすぐれてる。特攻だけなら600属最強、スカーフというアイテムでの素早さ補強、そしてどっかのアレとは違ってステルスロックに弱いわけでもなく、サイクル戦への強さ」
「---------分からねぇぜ」

 翼はそう、返した。


「俺はこいつの”爆発力”を知っている。その強さを生かせない構築で戦わせているかもしれねぇし、いくらでもこいつは活躍させられる!! 俺はボーマンダでお前に勝ちたいんだ!!」


 何度負けても屈しなかった。
 ボーマンダは駄竜なんかじゃない。600属最弱なんかじゃない。
 ガブリアスのついでに対策されたって良いじゃないか。
 こいつにはこいつにしかない、強さがある、と。

「……お手上げ。此処までボロボロにされて立ち上がってくるのも初めて見た」

 静谷はそう言うと、立ち上がってDSを閉じた。

「今日は帰る」

 だけど、と続いた。

「……でも、明日も対戦する。そっちがまだ戦う気があるなら、だけど」
「え」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。もう、飽きられたかと思ったのに。
 普通なら此処でもう止めにしてしまってもいいはずだ。
 それ以上は彼女は何も言わなかった。
 そのまま、先に公園から立ち去って行った----------

「……何か、勝手に明日もやるってことになってるな、オイ」

 とは言ったものの、彼の中ではむしろ万々歳であった。別に明日じゃなくても良かったが。まあ、良い。
 彼女と対戦を繰り返していけば、さらに実力を磨けるかもしれないのだ。

 ***

「見たっスか!? あいつっスよ、あいつぅ〜!! こないだ、大会で俺をぶちのめしたのは!」
「ガッタガタ抜かしてんじゃねえ。ただのガリベン女じゃねえか」
「いーや、それがあいつ、ゲームも滅茶苦茶つえーんすよ、それで終わった後に『つまんない』って言って来やがったんすよ!?」
「ほーお、成る程。流石優等生ちゃんは一味も二味もちげぇ。勉強にもゲームにも両方努力値を全振りしてるわけか」
「そうなんすよ!!」
「ま、俺だってあいつがちーと気に食わねぇ。まー良いや、どーすっかはもう少し考えるか--------」

第一章:飛翔の暴龍/流星の悪龍 ( No.3 )
日時: 2014/12/17 19:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「読みが甘い。そんなんじゃ、一生あたしには勝てない」
「ったく、厳しーな。もう一回だ!」

 それからはもう、日課のような感じだった。毎日、2人で学校が終わった後にポケモンで対戦するようになった。
 翼はいつの間にか、リベンジとかそういう気持ちは薄れつつあった。

「何つーかさ、悪いな。毎日対戦してくれるとか」
「……別に、暇だから」

 彼女はそう言うだけだったが。
 ちなみに今のところ、彼女には一度も勝った事がない。

「学校にもよ、3DS持ってきてるみてーだし? やっぱポケモン、好きなんだな」
「勉強以外で私の頭を生かせることといえば、これくらいだもの」

 と言う。彼女、学校にまで3DSを持ってきていたのだ。やはり人目の付かないところでゲームをしているのだろうか。
 とはいえ、翼も校則にはなあなあな方なので、別に何も咎めはしなかったが。

「お、そうだ。旧校舎に空き教室があるからよ、そこで今度からは対戦しないか。俺もそろそろ家にわざわざコレ取りに行くのが面倒になって来たし」
「分かった」

 何だかんだで、対戦の後に度々吐くダメ出し以外には彼女に対する嫌悪感は抱いていなかった。
 というか、それにももう慣れてしまった。

 ***

 静谷 未歌(シズヤ・ミカ)。彼女は人よりも頭が良い。一回りほど。何せ成績は勿論のこと、頭を使った事に関しては敵なし、だった。
 勿論、それはポケモンも同じだった。
 ----------嫌だよ、ミカちゃんとやったって、勝てないもん。
 ----------もう遊ぶのやめよ。
 だんだん、彼女の周りからは一緒にポケモンで遊ぶ友人はいなくなっていた。
 自然と彼女は周りと壁を作るようになっていた。
 中学に入っても1人、そう思っていた。別に構わなかったが。
 だが、違った。
 翼だけだけは、何度でも自分に挑みに来てくれていた。
 満更でも無かった---------


「おい、静谷」


 声がした。丁度、放課後に昨日翼が言っていた空き教室に行くため、旧校舎への渡り廊下の壁に寄りかかってうとうとしていたところだったが、それで彼女は目が覚めた。寝ぼすけの彼女はうとうとするとどこでも構わず寝てしまう癖があるが、実は寝起きは良い。声を掛けられたら、大抵はおきる。
 ぼんやりと声のするほうを見れば、そこには2人の男子生徒の姿が。
 その中に翼の姿は見られない。
 静谷はもう一度瞼を閉じたが---------

「待てよ、静谷。寝んのはまだ早いよなぁ?」

 前に出てきた少年の姿は、翼よりも背が高く、細身ではあるが筋肉のあるというだった。
 目つきは悪く、左頬には傷があり、長い前髪が掛かりがちになっていて、第一印象はお世辞にも良いとは言えない。
 後ろの少年は、ひょろっと痩せたように細く、前の少年とは対照的。
 後ろで縛った髪を撫でて、彼は続けた。
 卑しく、目を細めて口角が上がる。
 ふん、とあしらうように息をつくと、くるりと踵を返しそのまま立ち去ろうとしたが、がしっ、と彼の厚くて大きい手がねっとりと包むように自分の肩を包んだのが分かった。逃げられない、か。
 
「大事な話があるんだ。ちょっと時間を貰うぜ---------」

 ***

 時同じく、翼もその空き教室に行くために旧校舎への渡り廊下に向かっていたが、そこで少年の声が奥から響いてきた。そこは丁度曲がり角になっているが、隠れてその方をこっそり伺う。
 少年の声、そして姿に翼は大いに見覚えがあった。

「……御剣 鋏弥(ミツルギ・キョウヤ)、だっけか。何であいつがあんなところに?」

 御剣のことは結構噂で知っていた。一言で言えば、二年生にも関わらず、この学校の不良グループのリーダー、つまりを言えば番長を務めているのだが、素行悪し、暴力上等のヤンキーである。
 不良グループといっても、同い年の連中や、年下の後輩を無理矢理・あるいはこういうのに憧れて入ってくるもの達で組まれたもの。
 こいつらが現れてからだった。この学校が荒れ始めたのは。
 その彼が何故、静谷と話をしているのか、よく聞いてみる。まだ、何かされている訳ではない。下手に入り込むよりは事情を飲み込むのが先だ。

「お前さー、こんなん持ってきてるけどよぉ、困るんだよな? ”俺の学校”の校則を破ってもらっちゃぁーよぉ?」

 御剣の手には彼女の黒いカラーリングの3DSが握られていた。
 しかし、すぐにそれを彼女の手に押し戻す。

「どーしよっかなぁぁぁん? 先公にチクってやろっかなぁぁぁ、エエッ?」

顔芸に加えて、腹の立つ態度で迫る御剣。
 が、彼女の態度は一貫して変わっていない。何も言わず、何も聞こえていないかのようだった。

「キョウさぁん、こいつ全然動じてませんよ」
「うっせぇ、ヤス、黙ってろ!! ……まあ良いや、俺様も鬼じゃねえ」

 といって、彼は続ける。
 発言と言い、行動と言い、とことんまで嫌味な野郎である、と翼は好い加減出て行きたくなったが、抑える。
 問題は、此処からだ。

「こないだよぉ、俺の後ろに居るヤスがてめーに負けて泣かされたって言ってきてよぉ」
「覚えてない」
「え」

 後ろの下っ端と思われる少年はあんぐりと口を開いたまんまだった。そういやー、こないだの大会、あんなの居たっけな、と翼は思い出していた。
 どうやら、この間の大会であの少年もボコボコに負かされたついでに毒を吐かれたってのは本当っぽい。

「何か、フライゴンとかいう劣化ガブを使ってたマイナー使いのアホがいたのはうっすら覚えてるけど」
「それ、俺!! そのマイナー使いのアホって俺!! あ、自分で言っちゃった」
「んなこたぁ、どうでも良いッ!!」

 御剣の怒声が響いてこの茶番は収まる。

「おい静谷ぁ、この件をチクられたくなかったらよぉーっ、この俺様とポケモンで勝負しやがれ」
「……ポケモンで?」
「ふひひぃー、もし断るようなら、即バラすだけだぜ。いーんだなぁー? 優等生様様の株が撃落ちって奴よぉー、ケカカカ」

 ぴくり、と彼女の耳がかすかに動いたのが翼には見えた。
 が、反面翼は思っても居なかった展開に驚くばかり。
 ---------あいつ、ポケモンまでやってたのかよ!? おい、静谷、やめろ! そんな奴の挑発に--------

「……その勝負、受けて立つ」

 ---------乗るんじゃねぇーよぉぉぉ!!
 がっくり、と項垂れる翼。まずい、面倒なことになった。それ以降の会話は聞こえていなかった。何か、「勝負は明日だ、良いな? 場所は学校近くの古い公園! 分かるよなぁ? 逃げたり、もしくは俺様に負けた瞬間、学校全体にこの事をバラすぜ!」とかしか。
 あ、結構聞いてるわ、これ、と気付く。
 御剣と舎弟のヤスはどうやら、そのまま奥のほうの階段から降りていった。
 あの先の暗い体育館の裏でいつもたむろしているらしい。が、そんなことはどうでも良かった。
 静谷のことが気がかりで、翼は駆け寄る。

「おい、静谷! 話聞いてたぞ」
「立ち聞きなんて趣味が悪い」

 がくり、とこけそうになった。そんな事言っている場合か。

「そうじゃなくてよぉ!? 良いのかよ、あんな勝負受けて!」

 翼としては、彼女の身に何かが起こってはいけない、と案じているのだが、そんなことなどなど気にせず、彼女は続ける。

「何か、勘違いしてる。あたしはあんなやつの挑発に乗ったんじゃない。学校のゴミを完膚なきまでに叩き潰すチャンスだから」
「だ、だけど」

 心配する翼に彼女は振り返ってから言った。


「それに---------速山には関係ないから」

Re: 俺と携帯獣のシンカ論 ( No.4 )
日時: 2014/12/18 01:14
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

 遅ればせながらきました、モノクロです。

 (たぶん)世にも珍しい対戦形式のポケモン小説がどんなふうに仕上がっているかと楽しみでしたが……ふむ、わりとさっくりというか、あまり細かく状況描写をする感じではないんですね。初回だからあえてそうしているのかもしれませんが。
 というか、普通にこれは一方的な試合ですね。最初にアローが落とされたのが痛すぎますし、そもそもスカーフサザンに薄い選出。グロスがいれば流星群は受けられますが……どちらにせよ悪の一貫性が辛いですか。というか翼のパーティーそのものがサザン重いという。

 さて、まあ序盤の流れは作品に関わっているモノクロが今更言うまでもないですが……とりあえず、ふりゃーの悪口はやめて差し上げて未歌さん。
 とまあ言いたいことも言えたので次に移りますが、御剣のキャラがいい具合に序盤のクズっぽいですね。やっぱりタクさんはこういう分かりやすいヒールを描くのが上手いです。今後のことを考えると小物すぎる気もしないでもないですが、まあそれは今ここで言うことではないですね。

 ……なんと言うか、先が分かる作品だとなんと言えばいいのやらという感じですね。とりあえず、執筆頑張ってください。来年度には必ず参加しますので。
 あ、それと、タイトルについてなのですが、これ初見だとポケモンの二次作品って分からないと思うので、括弧をつけるかなにかして、ポケモンの二次作品だということをタイトルの時点で分かるようにした方がいいと思います。
 それではこれにて。


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