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【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】
日時: 2016/11/17 17:25
名前: ナル姫 (ID: bkADf4XB)

 緑雨りょくう
  ——新緑の季節に降る雨。《季 夏》

  引用:デジタル大辞泉


足をお運びいただきありがとうございます。
タイトルを見てお察しいただけましたかと思います通り、当小説は明星陽炎様のFate/stay night二次小説『人間未満の聖杯戦争』の転生物、現代社会人パロディとなります。
ですので、『人間未満の聖杯戦争』主人公である七紙時雨、ディルムッド・オディナが主人公、教会組が主要人物となります。その他、新たにオリキャラとかちょいちょい出てきたりします。
魔術も無ければ魔法もない、そんな普通の世界で恋して喧嘩して泣いて笑って、最後はやっぱり好きだよ——みたいな、
恋 愛 夢 小 説 だ と は 思 わ な い で く だ さ い 。

関係性としては八割九分家族してます。普通の恋愛夢小説を期待していた方々、ごめんなさい。(菩薩顔)



たまーに暴力表現だったりシリアスだったりありますが、だいたい平和してます。
年齢としてはサザエさん方式になっております。深くツッコんではいけない。

  ※尚、この小説は『人間未満の聖杯戦争』の ネ タ バ レ を含みます。
  ※ネタバレ箇所になるページには、目次に*マークをつけます。


さてまともな挨拶もままなりませんが、とりあえず最低限のネチケットとルールを守り読んでくだされば嬉しいです。

それでは彼らの日常喜劇、お楽しみくださいませ。

目次は>>2

Page:1 2 3 4 5 6



Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.21 )
日時: 2016/12/07 22:51
名前: ナル姫 (ID: LL/fGGq1)

「これ看板増やした方がいいかもしれませんね」
「警務課に行っとくぜ。また文句言われそうだなぁ……」

 寺林とディアルムドがそんな会話をする。そういえば、と藍那はディアルムドを見た。

「今は巡査なの?」
「え? いや……あぁ、そういえばこんな格好だったな……」

 苦笑しながらディアルムドは頭を掻く。ディアルムドは今、巡査の制服を着ていた。長袖の合服で帽子を被っている。

「課長に、お前は貫禄がないからいつもの格好……スーツだと不審者扱いされたり逆ナンされかねないって言われてな……」

 苦笑するディアルムドに、寺林と藍那が、あぁ……と憐れむような視線を向けた。そんな目はやめてくれと言わんばかりの視線をディアルムドが返す。

「ま、貴重な制服姿が拝めたってことで、眼福眼福」
「そりゃどうも。さて、俺達は仕事なんでもう行くぞ。立入禁止区域入るなよ」
「はいよー」

 藍那は人混みの中へ、寺林とディアルムドは先程の場所へ戻っていった。藍那は再び静かそうなところを探そうと思ったが、どこもかしこも人まみれで、とても落ち着いて電話の出来そうな場所はない。そして、いっそのことと、足をある方向へ進めた。

   *

「来ちゃった」
「何でよー」

 うるうるきらきらの瞳で、藍那はドア越しに時雨を見つめる。

「仕方ないじゃない! 静かな場所がなかったのよ!」
「そもそも何で一人で祭り行ったの?」
「クーさんに会える気がして!」
「会えないから」

 なぜ人前では猫被りな時雨と、同じく基本的には猫を被る藍那が仲がいいのか——発端は高校一年生のときに遡る。
 面食いな彼女は、当然同じクラスのディアルムドに一目惚れだった。それから何かと可愛らしくアタックするも、ディアルムドはあーはいはいと言うように流していたのだった。アタックされているのには気が付いている、だがしかし答える気配ゼロ、そんなディアルムドの近くにいつもいる言峰時雨と言う存在に、彼女が気がつくのに時間は掛からなかった。
 気の強い彼女は当然のように時雨に突っ掛かるが、煽りスキルの高い時雨はこれに真っ向から対峙、ディアルムドには残念ながら止める力などない。路地裏で人目の付かない場所で、とはいえ、こんなことで喧嘩されたくはないのが本音だ。
 二人の間でオロオロするディアルムドと、ギャンギャンと吠える藍那、そして煽っていく時雨。もう無理矢理引き剥がすしかない、と思ったとき、ドンッとディアルムドの背に誰かがぶつかり、彼が前のめりに転びかけた。それに驚いた二人も喧嘩を止め、三人はディアルムドの背後に目を向ける。……そこには、絵に描いたような柄の悪い大学生たちがいたのであった。
 咄嗟にディアルムドが、男して二人を庇うように前に立つが、足は完全に震えていた。彼は一年ほど前、こういった柄の悪い集団に殺されかけているのだ。恐怖対象にならないはずがない。突っかかってくる大学生に、強く出られるはずもなかった。
 そんなディアルムドの様子を見た二人は、口を出すのを止めて手を出し始めた……勿論、お互いにではなく、突っかかってきた大学生たちを相手にだ。
 時雨の拳や藍那の蹴りが次々と炸裂し、あっという間に不良たちは撃退された。そうして化けの皮を剥がしたまま二人は、アンタやるじゃない……!あんたもね……!と言うように握手と友情を交わし、藍那のディアルムドに対する恋愛感情も薄れ、恋愛は友情に変わり——現在に至る。
 ……勿論、都合とは言え結婚した際には、『裏切り者ー!!』と言われたが。しかしそれは結婚を越されたという意味であり、彼女の現在の本命は教会に居候するクーである。

 中に入れてもらった藍那は、リビングテーブルの時雨の真正面に座った。

「そういえばディアルくんに会ったわ。イケメン度増してたわねー、色気酷かったわ」
「警察学校で筋肉ついたからそのせいもあるかも」
「そうなの? 長袖着てたからそこまではわからなかった……ってゆうか待って、ディアルくん基本春夏秋冬長袖よね? どのくらい筋肉付いたとか服の上から見ただけでわかるの? ……ま、まさか!」
「あれやこれやはしてないんで宜しく」

 両手の平を藍那に向け、時雨は藍那の予想を否定する。藍那はなーんだというように脱力した。

「ディアルは別に家の中では半袖着る。流石に暑いし」
「あぁそうなの。それじゃわかるわね確かに」

 そんなことを話していると、廊下からギルガメッシュが現れた。風呂上がりらしく、髪が濡れている。

「む? 藍那ではないか! 久しいな!」
「お邪魔してまーすギルガメッシュさん」
「ギル兄、アイはわかってるから見ないようにしてくれてるけどパンツは穿いて。パンツだけでも穿いて」
「この我に指図するとはな。まぁ良い。お前の数少ない友人がいるのなら仕方あるまいな! 狗ぅ! 下着を用意せよ!」
「うるせぇ!! 自分で用意しやがれ!!」
「不敬よな!! 不敬であるぞ!!」

 そんなことを言いながらギルガメッシュは廊下へと消えた。直後、ガツンッと痛そうな音が響く。恐らく洗面所に来た綺礼から拳骨でも貰ったのだろう。

「相変わらずねー」
「本当残念だよねギル兄」
「イケメンは鑑賞に限るわ……」
「そう言って本命だってイケメンなくせに」
「クーさんは別なの!」

 そんなことを話していると、廊下から綺礼とクーが現れた。

「久しぶりだな蔵元嬢。元気そうで何よりだ」
「よっ。さっきは悪ぃな、あの馬鹿が」
「お邪魔してます!」

 クーを前にして、姿勢がびしっとなる藍那のわかりやすさに、時雨は不覚にも吹き出した。クーとしても鈍くないため彼女が自分を狙っているのはわかっているのだが、今のところその気はない。

「夕飯は食べたのか? まだなら作るぜ、俺達も今から飯でな」
「えっ、良いんですか!?」

 ぱあっと表情を輝かせる。クーは構わねぇよと笑いながら夕飯の支度を始めた。

「なんか食えねぇもんはあるか? 回鍋肉なんだけどよ」
「大好きです!」
「あれ、アイってピーマン苦手じゃないっけ」
「克服したのよ今この瞬間に!!」

 はははと笑いながらクーが夕飯を作り始める。
 にやにやと口元を緩ませながら、ディアル最いたら良かったのにと時雨は思っていたのだった。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.22 )
日時: 2016/12/09 11:29
名前: ナル姫 (ID: VC3X1bJz)

 夕飯が終わり、そのまま何となく帰る機会を失い9時半を過ぎた頃、ただいまという声とともに扉が開いた。

「靴が多いが誰かいるのか?」
「ディアルおかえりー、アイいるよ」
「へ?」

 リビングに顔を覗かせ、彼は一瞬目を見開く。藍那もおかえりなさーいと笑った。

「来てたのか。もう十時前だぞ?」
「帰り道が危険って言うなら送っていきなさいよ」
「お前親御さんは? 怒ってるんじゃないか?」
「親御さんってところが警察口調。ママには連絡したわよ」

 ディアルムドが帰ってきたのを音で知ったのであろうクーが、リビングへ来た。

「おかえりさん。飯自分で温めてくれねぇか? 金ピカがぶっ倒れててよ」
「!? 大丈夫なんですか!?」
「ギル兄の自業自得ー」
「あぁなんだ……いつものことか」

 それ以上聞くことはないと判断したのか、ディアルムドはキッチンで自らの夕飯を温め始めた。

「あっ、そういえば巡査服撮れば良かった」
「あ、見たかった」

 藍那に続いて時雨が言う。ディアルムドが微妙そうな顔をした。見たって得はせんだろうと言いながら茶碗に米を盛る。電子レンジがピピッと音を立て始め、ディアルムドは皿を取り出した。

「だってディアルはさ、巡査にならないで直接刑事になっちゃったじゃん。貴重な写真だったのに」
「む……そんなに見たければ見に来ればいいだろう。明日もどうせいるんだ」
「めんどい」
「お前……」
「でも見たいんでしょ?」
「うん」

 そんなに見たいのなら見に来いともう一度言い、ディアルムドは時雨の隣に腰掛けた。

「藍那ピーマン苦手だろ? ちゃんと食ったのか?」
「んふふー、それがねぇ、クーさんがわざわざ少なくなるようにしてくれたのよー」
「ほう、それはそれは……いや、それはどうなんだ……? 主に健康バランス的な問題で」
「全くクーさんさ、何だかんだ藍那に甘いよねぇ」
「そう! そうなのよ! だから勘違いしちゃいそうなのよね!!」
「……まぁあの人は基本優しいから」

 苦笑しながらディアルムドはピーマンだらけの回鍋肉を口へ運ぶ。……実際ディアルムドも別にピーマンが得意なわけでもないのだが、それでも彼の皿にこれほど乗せられているというのは、それなりにクーが藍那を可愛がっている証拠だろう。
 ディアルムドが食べ終わる頃には、時間は十時半になっていた。そろそろ藍那を送らねばならないか、とディアルムドがヘルメットを取りに二階へ上がろうとすると、ギルガメッシュとクーがリビングへ現れた。
 ギルガメッシュの左頬に痣ができているのは、多分綺礼による制裁だ。

「あ、ディアル、いいぜ藍那は俺が送っていくからよ」
「え? しかし……」
「いいって。お前自分の顔鏡で見てみろよ、疲れてっから」

 にやにやとしつつクーは人差し指で自分の顔を指差す。一瞬、まじか、という顔をしたディアルムドは、一つ溜息を吐いてお願いしますと軽く頭を下げた。

「気にすんなよ、行こうぜ藍那」
「はーい! じゃぁね、しー、ディアル。また来るわ」
「ん、ばいばいアイ」
「またな」

 挨拶を交わし、家の扉が閉まる音がすると、冷蔵庫から麦茶を取り出し飲んでいたギルガメッシュが、藍那の座っていた席に座ってきて、ディアルムドはさっき座っていた席に戻ってきた。
 ギルガメッシュは、手を口の前で組んで深刻そうな顔をした。

「……何を話すかはわかるな?」
「兄さんに締められたその痣?」
「たわけぇ! 違うわ! 確かに綺礼の行き過ぎた対応は痛い故話し合いたい所ではあるがな!」
「……藍那と御子殿のことだろう?」

 やれやれといった感じでディアルムドがネクタイを解き、シャツの袖を捲りながら言う。ギルガメッシュと同様、彼の藍那に対する態度には少し物申したいのかもしれない。

「わかってるよぼくだって。何か構いすぎな気がするよね、とは言えくっついてたら絶対ぼくたちに報告するじゃん?」
「つまりくっついてない」
「で、アタックには今のところスルー」

 時雨に続きディアルムドが、そしてギルガメッシュが言う。正直なところ、クーはナンパ癖があるために三人ともクーが藍那に対してどう思っているのかがいまいち解らないのだった。

「あれは、もう少し相手が食いついてきたら本気になる、といったところだろうな」

 突然聞こえた声。見れば、綺礼が風呂から上がってきていた。

「つまり、藍那のアタックが本物だと理解すれば、御子殿も応える……ということですか?」
「そういうことだ」
「しかしだ、綺礼。それにしては甘過ぎの対応ではないか?」
「……それはもう分かってるんじゃない? アイが自分にベタ惚れって」
「それに藍那が折れるわけないしなぁ……自分から幻滅しない限りは」

 高校の時を思い出し、ディアルムドが苦笑いを浮かべる。そのとおりだ、と綺礼は言った。

「相手の本気はわかっている。あとは、どこまで本気なのか……自分の甘いが応えるつもりのない態度でどこまでついてこれるか、なのだろう。どこが合格基準かは知らんがな。……ただまぁディアルムドの言う通り、蔵元嬢は折れそうにもない」
「狗が応えるのも時間の問題ということか」
「うむ、そういうことだ——というわけで」

 言いながら綺礼がギルガメッシュの横に座る。三人が手を膝にやり背筋を伸ばした。

「これより家族会議を行う」
「はい」

 長兄に対する三人の返事が揃う。
 家族会議——それぞれの進路の決定など、大きな問題になりそうなときは勿論、今回のような割とどう転んでもどうとでもなりそうな時にも行われる会議である。ちなみに今回は後者だ。

「そもそもだ、狗は藍那に対して本気になるのか? ならないのか?」
「相手が本気だからと言って御子殿が本気とは限らんよなぁ、確かに」
「でも、これからも跳ね返すつもりならあんな送ってくとか思わせぶりなことする?」
「……そう考えるといつかは付き合う。そう考えるのが妥当か。では、クーと蔵元嬢は付き合う。その前提で考えよう。まず、この面子への被害は?」
「ぼくは楽しいけど」
「我の疎外感」
「俺は別に……」
「ふむ、無問題に等しいな」
「貴様らぁッ!!」

 ギルガメッシュをスルーし、次の問題に移る。議題は、生活への被害である。

「懸念すべきは夕食に帰ってこないことだな」
「そうだよねぇ、ディアルが過労死する」
「……是が非でも俺に作らせるつもりか……!」

 ぐだぐだと続く会議は、クーが帰ってくるまで行われた。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.23 )
日時: 2016/12/10 20:32
名前: ナル姫 (ID: /HyWNmZ0)

 家族会議の結果は、くっつくなら応援はするがしないのならそれはそれで構わない、ただ少し藍那が気の毒という結果に終わった。元々議題がどうにでもなるようなものであったので、どう転んでも彼らに大した損害はない。
 クーが帰宅したのは日付の変わる前で、それぞれが寝る支度を始めた。

「ふぁぁ……俺はそろそろ寝る」
「髪はちゃんと乾かせよ、風邪引くから」
「わかっている……」

 風呂から上がったディアルムドはこしこしと眠たげな目を擦りながらドライヤーを手に取った。時雨も寝ようと思ったのだが、ふと気を抜けば寝てしまっていそうなほど眠そうなディアルムドを見ていられなくなったため、二階に上がろうとした足を止めて、彼が座っているソファーの方へ踵を返した。弱く握られていたドライヤーを手にすると、彼の指はあっさり離れる。そのままワシャワシャと癖の強い髪を掻き分けつつに熱風を送った。

「すまんな……」
「はいはい、いつもお疲れ様」

 言いながら髪を乾かし続けていると、突然ディアルムドが、ふふっと小さく笑った。

「何?」
「いや……こういうの、昔泊まりに来たときに……ギルに、やってもらったなぁ……と」
「あぁ……ぼくなんかは毎日やってもらってたや、ギル兄や兄さんに」
「……そうか」

   *

『父上! お待たせいたしました!』
『いや、構わないとも。バーシュタハは?』
『すぐに来ます』
『すみません……遅れました』
『こらー! 御子息様! バーシュタハ! 水浴びのあとは私の部屋に寄りなさい! 髪を乾かすと何度も言っているでしょう!』
『わ、悪かったって……』
『全くもう……あなた達は人の子なのですから、風邪を引きますよ……さぁ、乾きました。ご飯にしましょう』
『あぁ!』
『お腹空いた』
『沢山食べてくださいね、美味しく作ってありますから——』

   *

『セーラ、昔は俺が何しても駄目って言ったのに、フィオナには反対しないのだな。シュティにも』
『もう二人共、子供ではありませんからね』
『たしかに。ぼくなんかはもう、本当だったらとっくに誰かに嫁いでいる歳だ』
『御子息様は、ようやく親離れの歳ですが……ふふ、二人共立派になられました』
『何だ急に……照れくさいな、なんか』
『本当だよ。ぼくは師匠の足元にも及ばない』
『良いのです、今はまだ』

『……お二人の門出に祝福のルーンを授けましょう。gebo anzus wunjo.神の祝福を、あなた方に』
『セーラ……』

『……あなた達は今日までの五年間、まるで姉弟のように育ちました。あの時子供だったあなた達は、立派になりました。……しかし、忘れないで。御子息様は、我が主妖精王オェングスの子で、バーシュタハは、我が旧友のアネリアンの子であると。そして、あなた達二人共、このセーラの愛しい子供であることを。
あなた方二人が一緒なら、何でも乗り越えられます。だって、私の子供なんですから。辛いことがあっても、きっと耐えられる。乗り越えた先に未来がある。
あなた方が歩む道は、我々不老不死の妖精にとっては瞬く間の出来事でも、あなた方にとっては長く険しい道となる。正直、いつ死のうが文句など言えぬ茨の生い茂る崖の上にあります。
……その魂が天へと召される時、生まれてよかったと言える人生を、どうか送ってください』

『一生懸命、幸せに』

   *

「…………」

 随分懐かしい夢を見た。寝てしまっていたか、と首を起こす。肩に、若干の重みが掛かった。見れば、時雨が肩に寄りかかって寝ていた。起こさないようにそっと抱き上げ、彼女の部屋まで運ぶ。ベッドに寝かせて薄手の布団を被せる。
 ……こういうことを、『昔』はセーラがやっていたんだな、などと考えつつ、彼も部屋に戻った。

   *

 夕方、屋台の中を藍那と時雨が歩いていた。見たいならくればいい、との言葉を受けてじゃぁ押しかけてやろうと藍那が言い出したのだった。

「昨日はね、こっちらへんにいたのよ。あの、もっと向こう側」
「向こう暗いなぁ。よく見えない」

 などと話していると、ポンポンと後ろから肩を叩かれ、時雨が振り返る。それに倣って、藍那も後ろを向いた。

「衛宮くん」
「あら、久しぶりね。どうしたの? 一人で夏祭り?」
「久しぶりだな、蔵元、こと……いや、言峰とはそんなに久しぶりじゃないか。二人共何か食べたりしたか?」
「何にも? 食べに来たわけじゃないもの。何よ、奢ってくれるの?」
「逆だよ、逆。実はさ、慎二と焼きそばの屋台の手伝いしてるんだ。客の呼び込みに使われちゃって」
「えー? 何その焼きそば、わかめ入ってないでしょうね?」
「なんでさ……」

 ニヤニヤして藍那が言う。士郎は苦笑いを浮かべて否定した。

「ま、気が向いたら行ってあげるわ」
「助かるよ。向こうの、派手なチョコバナナの横にある場所にいるから。……というか、二人は何しに来たんだ?」
「ディアルの様子を見に来たのです」
「ディアルの?」
「はい、監視として出動させられてるとのことなので」
「へぇ、警察って大変だな……あ、そうだ、じゃぁさ」

 士郎は、ぱっと表情を明るくして二人の手を引いた。

   *

「はい、これ。たしか、先輩さんもいるんだよな? 寺林さんだっけ? ディアルと、その人の分な。この金は俺が払っとくから、二人に」
「気を使ってくださらなくても……」
「いいって。仕事頑張ってるんだろ? 子供たちが安全に祭りを楽しめるようにしてくれているんだから、これくらいの労いはな」

 士郎が、パックと割り箸がの2つずつ入ったビニール袋を差し出すと、時雨は困ったように受取った。士郎が笑う。

「おい衛宮! さっさとこっちを手伝えよ!」
「あぁ、悪い慎二! じゃぁな、二人共。明日もいるから気が向いたら来てくれ!」
「はいはい、バイト頑張ってね」
「ありがとうございます、衛宮くん」

   *

 なんか、偉業よね、藍那の口からそんなセリフが出た。

「何が?」
「お祭りやってる人、皆よ。道行く人、皆笑ってるじゃない? 友達と来たり、恋人と来たり、食べ物食べたり、喋ったり、売ったり。お祭りの雰囲気が、そうしてるのかもね」
「……」

 屋台の明かりが、ふわふわと目に入る。淡い色と混じり合っていく様子は、確かに悲しいとは思えなかった。

「それで、そうして笑っている裏で、頑張ってる、警察官がいる。お祭りって偉業を、支えている人たちがいるのも、また凄い気がするの」
「……うん、同感、かな」
「ふ、それは良かったわ。さ、早くあなたの旦那を労いに行きましょ!」
「おーけー!」

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.24 )
日時: 2016/12/15 12:05
名前: ナル姫 (ID: xJkvVriN)

 二人が姿を現したときの彼の顔は、「うっわ、本当に来た……」と言うような苦々しいものだった。

「本当にくるか……」
「いいじゃん別に。てか来いって言ったのはそっちだし」

 言いながら近づく二人。時雨はじっとその巡査の制服を見つめた。

「似合ってんじゃん」
「それはどうも」
「寺林さんは?」
「もう少し向こうだ」

 ディアルムドは、くいっと親指を自分の後ろに向ける。たしかにそこには、警棒を持った一人の男性がいる。暗くて顔は見えないが。時雨は、持っていたビニール袋を差し出す。ディアルムドは疑問符を浮かばせながら受け取った。

「衛宮くんから差し入れ。2つあるから寺林さんにもあげて」
「へぇ、士郎から。何なら課長の分も欲しかったな」

 ケラケラと笑って、ありがたくいただこうと笑顔を見せる。

「衛宮くんの支払いだから、あとでお礼言っときなよ」
「あぁ、感謝する」

 あまり仕事の邪魔にならないよう、二人はディアルムドの仕事場所を後にした。そして、人混みの中に紛れると、時雨が考え込むような顔をする。どうしたのだろうかと、藍那が彼女の名前を呼ぶ。

「しー?」
「……アイ……思ったんだけど……」

 深刻そうな顔で、若干声を潜めている。藍那は固唾を飲み込んだ。

「巡査服来てるあいつ3割増でイケメンじゃない?」

 コケた。

「何でコケた?」
「何でってアンタ……何でって……そんな深刻そうな顔で惚気けられたら誰だってコケるわよ……」

 両手で顔を多い、どんな顔をしているかと思えば多分笑っているのだろう。ふふふとたまに押し殺すような笑い声が漏れている。

「って言うか元々普通にジャニーズ入れるくらいのイケメンじゃない! 何よ今更!」
「だってディアルはたしかにイケメンだけどそんなまじまじ見たことないんだよー……」
「まぁそうかもしれないけど……」

 仕方ないかもしれない。二人は、男女の関係だとか恋だとか、そういうのを知る前に大切な友達になってしまったし、結婚だって言ってみれば都合婚だ。

「よく見るとイケメンって部類じゃないものねぇ。パッと見てあっ、イケメンって部類」
「そうそれ。どこかイケメンかなんて見ないでしょそれ?」
「たしかに」

 笑いながら、二人は帰路についた。

   *

「平和ですね」
「まぁこっち側はあまり人来ねぇからなぁ。今頃あっち、花火がそろそろ上がんだろ、あっち側なんて侵入しようとするガキでいっぱいだぜ」
「こっち側、花火良く見えませんもんね。遠くて」

 草の上に腰掛け、二人で貰った焼きそばを食べる。食べ終わった頃、会場に女性のアナウンスが渡った。花火開始のアナウンスだ。

「——どうぞ、お楽しみください!」

 いい終わりと同時に、ヒューと花火が上がり、大きな音を立てて咲いた。最初の一発は大きな金色で、おお、と思わず声が出る。続いて、ドンドンと大きな花火が上がっては散って、上がっては散っていく。

「なんか悪いな、一日目も二日目もこんなおっさんと一緒で」
「はは、仕事ですから」

 花火を見ながら、そういえばと口に出す。

「看板の件、警務なんて言ってました?」
「またですかーだとよ。何とか余ってんの探してなけりゃ作るとか言ってたが、ねぇだろうな」
「ボロいとかで捨てるんですかね」
「それもあるが、高校生たちが毎年二個か三個ぶっ壊すんだよ。器物損壊で罰金取ってるがな」
「うわぁ……」

 苦笑を漏らす。

「だから毎年作ってるんだが、まぁ、そんなに要らねぇってやっぱり突っぱねるだろ。警務は忙しいしな」
「あぁ、夏休み明けに向けていろいろしますしね」

 花火はとめどなくあがる。
 時雨も、同じ花火を見ているだろうか。

   *

 翌日、漸く一般人として二人で祭りを楽しめることになった。といっても、二人共昨日のうちに花火を見てしまってはいるのだが。

「あ、ディアルクレープ食べたい」
「クレープ? どこだ?」
「あそこあそこ」

 グイグイと浴衣の袖を引っ張っていく。人の波に揉まれながらも、二人は列に並んだ。三日目とあって、一日目二日目とは人の量が違う。何しろ、この日は最も人の量が多くなるのだ。
 ようやくクレープを購入し、二人はなんとなくという風に道を行く。

「しかしこの量……人に酔いそうだな」
「一旦離れる? てゆうかぼくが離れたい」
「む……あ、じゃぁそうだ」

 ディアルムドが少し笑って時雨を見た。

「立入禁止区域ではない穴場があるのだが、来るつもりは?」
「行くに決まってるじゃん」
「決定だな」

   *

 途中の屋台で線香花火を二本とライターを購入し、二人は少し歩いた。

「ちょ、ちょっと大丈夫なのかディアル……? どんどん森の中に迷い込んでるんだけど……」
「平気だ」

 本当かなぁと薄暗さに戸惑いながらついていくと、急に目の前が開けた。急に広場が現れたようだった。どうやら、遊具の撤去された公園の跡地のようで、ベンチや砂場だけ残っていた。

「こんな場所あったんだ」
「ここの公園はあまり人が来なくてな何しろこんな森の中なのだし」

 ディアルムドは少し広場に足を踏み出して続ける。

「去年の秋から撤去が開始され、今年の来週までには完全に撤去完了となり、売り地になる。ベンチなどがあって、憩いの場という雰囲気があるのは今だけだ」

 くるりと右足を軸に彼女の方に振り返った。
 暗い森に映えて輝く星空の下、彼は彼女に優しく微笑む。

「ようこそ、閉園前の星空公園へ」
「……くくっ、ばーか」

 笑って彼女も一歩踏み出して上を見れば、見渡す限りの満天の星。
 遠くから、花火の上がる音が聞こえた。

「……花火が見える位置だと、音があとから聞こえて変な感じだったり、花火の音が大きすぎるって思ったりもするけどさ。音だけ遠くから、静かな場所で聞くのもいいもんだね、案外」
「……あぁ、お前なら気にいると思った」

 時雨なら気に入る。確信があった。

 フィオナに入ったばかりの頃、先輩騎士の結婚祝いの宴があった。どんちゃん騒ぎで、楽しかったが、バーシュタハは早々にその場から去って外に出た。煩い場所は得意ではなかった。草の上に腰掛ける。

「シュティ」

 不意に後ろから聞こえた自分を呼ぶ声。呼び方からして、ディルムッドだとわかった。

「立場確率のため、渾名は控えるって言ったじゃん」
「二人しかいないのだし良いだろう?」

 クツクツと笑いながら、彼は隣に腰掛けて、何を聞くというわけでもなく空を見上げた。
 何も話さず、二人で空を見ていた。

 ——シュティは覚えていないけど。

「線香花火、火つけるか」
「おーけー」

 ライターに火をつけ、線香花火を灯した。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.25 )
日時: 2017/01/07 12:44
名前: ナル姫 (ID: cahx6aOE)

 ディアルムドと時雨が公園で線香花火に火を着けていた頃。

「なーんか、ウルト◯マンの仮面つけたリンゴ飴屋がいると思ったらよぉ」

 クーはにやにやと笑いながら財布から千円札を取り出し、相手に差し出す。相手は色黒な手で受け取り、透明な箱に入れると、お釣りの七百円を相手に出した。溜息とともに差し出されたお釣りに苦笑いをこぼし、おい、と声をかける。銀色のウル◯ラマンのお面の下から、低い声が聞こえた。

「何だね、クー。客が並んでいるから早く一本取りたまえ」
「おっとわりぃ。ま、今はいいや。相談があんだけどよ、あとで連絡する」
「そうか」

 そんな会話を交わして、一本リンゴ飴を取って列から外れる。今日、彼のカフェは休みなのだろう。
 エミヤ——士郎と同名の親戚であり、クーの旧友である。……第五次聖杯戦争にて、遠坂凛のサーヴァント、アーチャーとして戦っていた。相変わらず士郎のことは嫌っているようだ。

 クーが祭りに来たことに、特に何か意味があるわけではない。何となく。その一言に尽きる。時雨とディアルムドも来ているはずだが姿は見えない。暇だからなんとなく来たが、知り合いがいるのなら姿を見たいのが本心だ。しかしこの人の量では、知り合いを探すにも一苦労である。もっとも、今ディアルムドと時雨は祭りの会場にいないのだが、クーがそれを知る由もない。
 ただ屋台の横に立って、道行く人をぼーっと眺めながらリンゴ飴を口にする。少しすると、並んでいた客を捌き終わったらしいエミヤが声をかけてきた。

「それで、君は何をしに来たんだ?」
「何をしに来たわけでもねぇよ、暇だっただけだ、シグレとディアルはいねぇし、金ピカはパソコンとにらめっこ。クソ神父は暇そうだったが、だからって話しかければろくなことはねぇしな。で、昨日シグレから、お前んとこの坊主が屋台の手伝いしてたって情報を得たから冷やかしついでに来たってわけだ。まぁお前がいるとは思わなかったけどな」
「全く……冷やかすだけなら帰ってもらうぞ」
「そう言いなさんなって。つーかいいのかよ、屋台なんかやってて。彼女はどうした」
「彼女?」

 怪訝そうな目を向けると、またまた、とクーはニヤニヤ笑いながら手を振る。

「遠坂の小娘だよ。他に誰がいるんだ」
「なっ!? 私と凛は恋人ではない!」
「いいんだよわかってんだからそんなこと言わんでも」
「何かわかっているだね、全く君は……! はぁ……それを言うのなら君こそ一人でいいのかね、蔵元嬢はどうした」
「はぁ!? なんで俺がアイカと!?」
「何がなんでだ。猛烈アタックは誰の目から見ても一目瞭然だろう」
「それだけだっつの、付き合うつもりは今のところねぇ」
「ほう、つまりは今後は相手次第ということから」
「てめっ……」

 揚げ足を取りやがって、とは思うが、反論を返すことはできない。つまりはそういうことなのだ。

「君もいい加減素直になったらどうなんだ? 相談というのも凡そ、この話なのだろう?」
「素直にって言われてもなぁ……」
「ナンパ癖で恋多そうな君が、現代においてここまで苦労するとはね」
「ケルトの恋と現代日本の恋は違うだろ。強けりゃ好き勝手できる時代じゃねぇんだ。惚れたから、勝ちたいからヤろうぜなんて出来ねぇんだよ」
「なるほど……たしかにそれはただのセフレ、もしくは浮気だ」
「その点、ディアルムドは生きやすいだろうなぁ……何しろあいつは、定住して家庭を持った。まっ、駆け落ちなんて早々どの時代でも出来ねぇがな!」
「……口が裂けても本人の前で言うなよ」

 ケラケラと笑うクーにエミヤが引きつった笑顔を浮かべる。もっとも仮面のため見えてはいないが。

「君も彼の一途さを見習えば良いものを。都合婚とはいえ、ディアルムドは確実に不倫などせんぞ」
「いやーまぁわかるんだがなぁ……確かにあいつはそういうことしねぇけどよ……」

 そこまで言って、いや、と考える。……確かにディアルムドは時雨に対して一途だが、それは恋愛云々の話ではない。一度、二度と親友と離れ離れになった虚しさからくる依存であり、執着だ。一途であるというよりは、時雨から離れることができないのだ。ケルトで、永遠の友人を得た。そして、ほぼ同時期に死んだ。戦争で、記憶のない友人と再会した。そして現代でまた出逢った。だが……。

 ——いずれまた死ぬときが来る。
 ——では、次は?

 次の生で、必ず二人が会える保証はない。

 ——そもそも、ディアルムドは異端な存在だ。勿論、前世や英霊の記憶を所持している点では、自分たちは皆異端だと理解しているが、エミヤ、クー、ギルガメッシュ達は全員、英霊の座にいる魂のまま、この場所にいる。魔術も何もない世界だから起こり得た現象だろう。……だがディアルムドは違う。彼はただの欠片。だから身長も体重も違えば、体質も違う。同じことといえば、時雨……彼の親友に対する想いだけだ。英霊のディルムッド・オディナからディアルムドという欠片が欠落した人物は、ディアルムドとは別にどこかに存在しているのだろう。…………自分の記憶と親友への想いを、ディアルムドに託したまま。

「で、話が逸れたな。君は私に答えを求めた……等とは言わんな?」
「求めちゃ悪いのか」
「人の色恋沙汰に口を出すほど野暮ではないのでね」
「答えとは言わねぇ、参考になる言葉の一つでも聞けりゃいいと思ったんだよ」
「収穫は?」
「ゼロだ」
「それは残念だが、つまりそういうことだ。私にアドバイスなど求めないことだな」

 普段の自分ならば相談などしなかったろう。しかし血迷ったとも言うべきなのだろうか。それ程までに自分は藍那に対して中途半端な気持ちを抱いている。

「まぁなんだ、ディアルにでも聞いてみるよ」
「同窓生だからといってディアルに聞いてどうするのだね?」
「いや、だってよ、シグレが猫かぶんねぇで仲良くしてる相手だぜ?」

 クーはニヤリと口角を上げた。

「全く無関係だとは思わないね、俺は」
「……くれぐれも、ディアルの逆鱗には触れぬようにな」

 ディアルは、エミヤが知りうる限りでは怒らせれば最も怖い人物だ。滅多に怒らないために油断しやすいが、あるときにふと地雷を踏み抜くととんでもないことになる。

「わかってるっての。じゃぁな、屋台頑張れよ」
「あぁ」

 片手を軽く上げて、クーは人混みの中に紛れていった。


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