二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】
日時: 2016/11/17 17:25
名前: ナル姫 (ID: bkADf4XB)

 緑雨りょくう
  ——新緑の季節に降る雨。《季 夏》

  引用:デジタル大辞泉


足をお運びいただきありがとうございます。
タイトルを見てお察しいただけましたかと思います通り、当小説は明星陽炎様のFate/stay night二次小説『人間未満の聖杯戦争』の転生物、現代社会人パロディとなります。
ですので、『人間未満の聖杯戦争』主人公である七紙時雨、ディルムッド・オディナが主人公、教会組が主要人物となります。その他、新たにオリキャラとかちょいちょい出てきたりします。
魔術も無ければ魔法もない、そんな普通の世界で恋して喧嘩して泣いて笑って、最後はやっぱり好きだよ——みたいな、
恋 愛 夢 小 説 だ と は 思 わ な い で く だ さ い 。

関係性としては八割九分家族してます。普通の恋愛夢小説を期待していた方々、ごめんなさい。(菩薩顔)



たまーに暴力表現だったりシリアスだったりありますが、だいたい平和してます。
年齢としてはサザエさん方式になっております。深くツッコんではいけない。

  ※尚、この小説は『人間未満の聖杯戦争』の ネ タ バ レ を含みます。
  ※ネタバレ箇所になるページには、目次に*マークをつけます。


さてまともな挨拶もままなりませんが、とりあえず最低限のネチケットとルールを守り読んでくだされば嬉しいです。

それでは彼らの日常喜劇、お楽しみくださいませ。

目次は>>2

Page:1 2 3 4 5 6



Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.11 )
日時: 2016/11/25 12:08
名前: ナル姫 (ID: xJkvVriN)

 夕方の六時半になり、ディアルムドは目覚ましの音で目を覚ました。眠気の中でぎりぎり保たれていた意識で目覚ましをセットしたせいか、何故かスマートフォンから流れてきた心地の良い波の音。これは確実に、所謂リラクゼーション音楽、ヒーリング系と言われるもの。人を安眠に導く、目覚ましには不適切にも程があるものだった。おかしい、記憶の中では少し激しいものを流そうとしていたはず。
 ぐしゃりと、寝癖のついた黒髪を掻いて起き上がる。高校時から使っているヘアバンで前髪を上げ、彼はリビングへ向かった。

「あ、ディアルおはよー」
「あぁ、おはよう」
「眠くない? 大丈夫? 一応起きた直後に寝落ちするように目覚ましを波の音に変更してみたんだけど」
「お前の仕業か……!」

 勝手にスマートフォンやら携帯電話やらを弄られるのには慣れているのだが、まさか目覚ましの音をリラクゼーションに変えるなどというテロが行われる日が来ようとは思ってもみなかった……訂正、少し考えればそのくらいは想定可能だったが、眠すぎてそんなこと考えられなかった。そういえば戦争時にも同じようなことをしていたなぁ、などと思い出す。被害者と加害者は違うが。

「だってディアル死んだように寝てんだもん。髪いじったり耳元で囁いたりしても全然動きがなくて」
「お前は俺の睡眠を邪魔したいのか促進したいのかどっちだ!?」

 ディアルムドのごもっともなツッコミが響いた瞬間、玄関に続く扉が開いた。片手にスーパーの袋を持ったクーが、ぱっと嬉しそうな顔をする。

「おーディアル! 帰ってきてたのか!」
「あ、クーさんおかえりー」
「おうよ。ディアル手伝ってくれるか」
「はい」

 ディアルが台所へ向かい、手を洗う。その内に綺礼も仕事を終え、賑やかな夕飯づくりが始まった。

「ギル、箸と器用意しておいてくれ」
「む、これか?」
「あぁ、それでいい」
「くぉらクソ神父! シグレ! 天ぷらつまみ食うんじゃねぇ!」
「いいじゃん芋天美味しいもん!」
「椎茸もな」
「御子殿ー、ウインナーいくつ揚げます?」
「一袋使っていいぜ」
「畏まりました」
「狗麺つゆがないぞ」
「冷蔵庫になけりゃ野菜室かもしれねぇ」
「兄さんとギル兄とクーさんビール飲む?」
「食事中は麦茶にしておこう」
「我も食後で構わん」
「そうだな、未成年いるしよ」
「はーい」
「ギル、大皿持っていくからテーブルの中心空けておいてくれ」
「うむ」
「ほら熱いの通るぜー、道開けろよ」
「天ぷらに素麺で換気扇だけだと流石に部屋が暑いな」
「クーラーつけるか?」
「それよりも窓を開けて扇風機を付けたほうがいいな。時雨、扇風機を」
「はーい」

 着々と夕飯の支度は進み、八時前には出来上がった。この時間TVはつけない習慣だが、テレビなどなくても会話は山のようにある。

「懺悔室にいた客がまた凄くてな」
「おいクソ神父、懺悔室の話は外に持ってっちゃいけないんじゃねぇのか?」
「この教会にモラルとプライバシーを求めるな、狗」
「『悪魔に憑かれてる! 払ってくれ!』と懺悔室で喚き立てられた」
「何故懺悔室……その人結局どうしたんですか」
「悪魔祓いはプロテスタントだーって言ったら出ていったよ」
「……この教会はカトリックでもプロテスタントでもなく聖堂教会だからな……」
「でもどうすんだよ、もし本当に取り憑かれてたりしてたら」
「だったら懺悔室に入ってこないと思うし、入ってきたとしても出ていかないと思うよ、あと後ろ姿中学生くらいに見えた」
「迷惑なイタズラだな……」

 苦笑しながらディアルムドが言う。小学生の時の彼は敬遠なキリスト教徒だったため激怒していたのだろうが、今は警察として色んな立場の少年を見ることも加わって、こういう悪戯には随分と寛大になった。そんな彼を見た時雨が一言、毒されてんな……と小さく呟き、その呟きにギルガメッシュが吹いた。

「ただまぁ、今後は控えて貰わねばな」
「消すか?」
「よーし現行犯逮捕だ手を出せ」
「冗談だ!! 張り紙でもしておく!!」

 バッとディアルムドに対して掌を見せる。
 笑い声が響く。五人揃うと、いつもここは賑やかだった。

   *

 夕飯の片付けを終えたら、各々が自分のしたいことを始める。ギルガメッシュはパソコンとにらめっこを続け、クーはテレビをつけながら家計簿の確認を、綺礼はこんな時間にも来る信者の相手をしていた。
 下の階のリビングからニュースのアナウンサーの声が聞こえる。ペルセウス座流星群がどうのこうのと言っているようだ。ディアルムドは、自室で資料の確認をしていたが、唐突に部屋の扉がノックされ許可を出す前に開かれる。まぁ当然、時雨だ。

「ぼくをコンビニへ連れてって」
「うっわ、古っ」
「通じてよかった。変な奴だと思われるかと思った」
「何でそんな一か八かの勝負に出たんだ……」

 苦笑しながら資料をファイルにしまい、財布を取り出して中身を確認するあたり、ちゃんと連れて行くつもりなのだろう。時雨も、断られるとは考えていないのか長袖だ。ディアルムドも上から長袖の服を着た。部屋に置いてある翡翠色と萌黄色の2つのヘルメットのうち、萌黄色の方を時雨に投げ渡す。
 裏に停めてあるバイクにエンジンをかけ、二人で跨った。

「しっかり掴まれよ!」
「おう!」

   *

 コンビニで、お互いに適当に購入する。夜十時を過ぎれば、流石に涼しいを少し通り越し、肌寒くもなる。バイクが倒れない程度に寄り掛かり、雲のない夜空を見上げた。

「今日はペルセウス座流星群らしいな」
「何だ、知ってたんだ」
「ニュースの音が聞こえてな」
「ぼくも。リビングにいてテレビで知った」
「だと思った」

 クスクスと微笑み合うその姿は、多分道行く人の目には恋人のように映っているに違いなかった。二人に、全くそんなつもりはないにしても。

「ピュレグミあげる」
「すまんな」
「でもポッキー頂戴」
「ほら」

 そんなやり取りをしている間に、二人の目の端に、空を駆ける一縷の光が入り込んだ。あ、と同時に声を出して慌てて空を見るが、既に光は消えていた。

「あーっ……残念……」
「悔しいなぁ……でも大丈夫、ほら」

 時雨が腕を伸ばして指差したのは、今にも消えそうなほど細い三日月だった。

「月が明るくないから、きっと沢山見れるよ」
「零時前には帰るぞ」
「それまで付き合ってくれるんだろ?」
「当たり前じゃないか」

 そろそろ帰らなきゃ不味いな、という時間ギリギリまで、きっと夜空を見つめることになるのだろうと思った。
 夜はゆっくりと更けていった。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.12 )
日時: 2016/12/02 11:44
名前: ナル姫 (ID: xJkvVriN)

 翌日の朝早く、各々が仕事の支度や身支度をしていた。尚、この大家族は朝の洗面所が戦場と化す。

「狭い」
「貴様が無駄にでかいのだ綺礼ッ! もっと詰めよ!!」
「金ぴかテメェ何分ブラシ使ってんだ!!」
「いったぁ!? 誰だよぼくの髪引っ張ったの!」
「順番に使え!!」

 台所で早くも朝食の支度をしているディアルムドが、聞くに耐えない洗面所争奪戦を聞いて怒声を上げる。互いに譲り合えば解決するものを、なぜこいつらは奪い合うことしかできないのか。
 そんなことを思いながら、フライ返しでフレンチトーストをひっくり返す。その時、唐突に胸ポケットに入れられたスマートフォンが鳴り出した。フライパンを一度コンロに置き、スマートフォンを取り出して相手を確認して通話状態にする。左手に再びフライパンを持ち、左肩と耳の裏でスマートフォンを支える状態になった。

「はい」
『おはようさんディアルムド。今どこだ?』
「おはようございます寺林さん。今は家です。あと十分もすれば出ます」

 パンにいい具合に焼きめがついているのを確認すると火を止め、皿に盛り付ける。フライパンを火の消えたコンロの上に戻すと、ディアルムドは左手にスマートフォンを持ち替えた。

「今すぐ出た方がいいですか?」
『や、そんなことはねぇんだが、お前が早く聞きたいならそうして欲しいと思ってな。実は昨日、湯原宏樹が目を覚ました』
「えっ!?」
『お前が帰った直後にな、医者から連絡が来たんだよ。そしたら意外に元気そうでなぁ、話を聞いてきたのさ。勿論お袋さんには席を外して貰ってな。湯原宏樹がお袋さんに何も話していなければ、お袋さんは昨日お前が教えたことを信じてる。さて、今日は忙しくなるぞ、何せ状況が覆りそうだからな!』

 若干興奮したような寺林の声と、状況が覆るという言葉に、ビンゴ、と思わず口角が上がる。

「わかりました、急ぎます」
『おう、じゃぁ職場でな』

 切れた電話。スマートフォンをスリープに戻しポケットにしまう。作った朝食に軽くラップをかけてエプロンを外すと、ディアルムドは二階へ駆け上がり、スーツのジャケットと鞄、そしてヘルメットを持った。
 一階へ戻り、未だにギャーギャーと騒がしい洗面所に溜息。

「朝ご飯置いておくからちゃんと食べるように!」
「はーい! 行ってらっしゃい!」
「ありがとさん!」
「励んで参れ!」
「行ってらっしゃい」

 喧嘩してても、出るときはちゃんと言葉で見送ってくれる。温かい嬉しさに頬を緩ませながら、彼は家を出た。

   *

 時雨が教会に行くと、そこにはまた湯原の姿があった。旦那は出勤したのだろう、今日も一人だ。

「おはようございます、湯原様」
「あら時雨ちゃん、おはよう」

 彼女の顔はどことなく疲れ切った印象だった。

「……大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが……」
「ごめんなさいね、大丈夫よ。ただ……私息子がいるんだけど、そのことで色々あって、警察にもお世話になっちゃって」

 事情はわかる。湯原が昨日、用事があるといったのは間違いなく警察署だ。そこで、事件の概要は聞かされたはず。ディアルムドの予想が当たったか否かはわからないし、当たったとして湯原がそれ知るかはわからない。だが、警察にお世話になるというだけでもストレスにはなるはずだ。

「神にお祈りをなさいますか?」
「えぇ、そうさせて頂くわ」

 彼女はキリスト像の前に跪いた。
 祈りが終わると、彼女は立ち上がった。そして、ボソッと、そういえば……と口にした。

「……どうかしましたか?」
「あ、いいえ。何でもないの。ただ、立花君はどうしてうちに電話したのかなぁって」
「……立花君?」
「息子の同級生なの。今回のことを知って、驚いていたのよ。でも、私としてはそっちにびっくりしちゃって。あまり仲良くなさそうだったのに電話してくれたから」

 湯原は浅く笑った。
 立花——……。昨日ディアルムドはギルガメッシュに、登場人物を普通に名字で話していたが、記憶の限りでは立花なんて名前はなかった。仲良くなさそうなのに電話をした。ふと、ギルガメッシュの言葉が蘇る。
 ——自分の名を出せば、どうなるか分かっているなと脅した——。
 なるほど、と彼女は見えないように僅かに口角をあげた。

「きっと、クラスで何かがあって少し交流ができたのかもしれません」
「だったら嬉しいわ。引っ込み思案の子だから」
「そうであることを、神に祈ります……アーメン」

 心の中では、そんな簡単なことであって溜まるかと思っていることは言うまでもない。

   *

「で、名前は言ってくれないんですか?」
「おうよ。まぁ多分いじめだしな、名前を言うとする、そしたら当然俺達はそいつに事情聴取をして補導する必要がある。そしたら学校でどうなると思うよ?」

 寺林に言われ、ディアルムドは苦い顔をした。
 ……どうなるか、想像に難くない。

「まぁ、悪質とは言え罪に問えませんからね」
「そこでだ、ディアルムド。若いもん同士、今日はお前が行ってこい」
「は……はぁ!? 待ってくださいよ俺が!?」
「聞いたぞお前、あの坊主の母親ってクリスチャンなんだろ?」
「そ、そうですけど……でも宏樹君のことは俺だって初めて知って……」
「とにかくだ、俺ぁもうあと十年もすりゃぁ定年で若えやつのことわかんねぇんだ。課長に言ったらディアルムドのほうが適任だって言ってたぜ?」
「取り次がないでくださいよ……! もう断れないじゃないですかぁ……」

 がっくりと肩を落とすと、そう言うなと頭をポンポン撫でられた。

「というわけで、お前はこれから病院へゴー だ。頼んだぞ、言峰刑事」

   *

 病院へ行くためバイクに跨がろうとしたとき、スマートフォンがバイブレーションを鳴らした。署では基本的に音は出さない。……何かの間違いで橋金からの電話の着信音が面白半分で設定したポケットモンスターのシオンタウンのテーマだと知られてしまった日には死んでしまう。いろんな意味で。
 液晶を確認すると、時雨と言う文字が早く出ろと言うように踊っていた。

「……なんだ、時雨?」
『先に謝る。昨日ギル兄と話してたこと聞いちゃった』
「……盗み聞きか、悪趣味な……」
『わざとじゃないもん』
「はぁ……まぁ、前置きはいい。で? 電話してきたからにはそれに見合う情報があるんだろうな?」
『当然だろ?』

 時雨は、先程湯原が言っていたことを話した。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.13 )
日時: 2016/11/27 14:41
名前: ナル姫 (ID: vfhHNd5c)

「立花、か……」
『そ、仲がいいわけでもないっていうのが湯原様の証言。でも電話したとなれば、相手は確実に宏樹って子に用があたったとしか思えない』
「なるほど。参考にさせてもらう。もしビンゴだった場合、報告書にはお前の名が出るが」
『オーケー、ぼく湯原さんの言葉を拾っただけだもん』
「ふ、やはりこの教会はこうでないとな」

 にやり、という笑みを浮かべる。時雨もきっと、同じような笑みを浮かべているに違いない。

「では切るぞ、帰りは恐らく遅くなる」
「了解、クーさんに言っとく」

 電話を切り、今度こそバイクに跨る。ディアルムドは病院への道を急いだ。

   *

 寺林に教えてもらった病室に辿り着き、スライドドアを開ける。部屋にはカーテンに区切られた4つのベッドがあるが、湯原宏樹しか患者はいないようだ。気絶していただけだが、頭を打った可能性とかで検査入院中なのだろう。
 彼のいるベッドのカーテンは開いていた。彼はベッドで退屈そうに寝ていたが、ディアルムドを見ると、バッと起き上がった。

「だ……誰ですか」
「え、あぁ……そうか、意識があるときに会うのは初めてだったな。昨日、君と話していた寺林という刑事と同じ課に勤めている、言峰だ。お母さんがよく、うちに来てくれていた」
「……言峰……聖堂教会?」
「あぁ、そこの出身だ。さて、無駄話もそこそこにして本題に入らねばならないな」

 ディアルムドは手帳を開いた。途端に、宏樹の顔が強張る。

「用件はわかっているな? 俺たちは、廃病院に行ったのは君を含め四人だと思っていたし、君の友達三人からもそう話を聞いていたんだが……君が言うには、五人だったそうじゃないか。その人物の名前を、教えてくれると助かるな」

 にこり、と笑いながらも、声は有無を云わせないような気迫がある。しかし、相手は余程五人目が怖いのか口を割りはしない。何でも、彼らは文芸部だと署で聞いた。湯原宏樹のような弱気な人間の集いやすいところだ。

「……」

 沈黙が落ちる。さて、どうするべきかと思ったとき、ディアルムドの目の端にちらりと、過去に見慣れたものが映った。思わず立ち上がり、彼の腕を掴む。

「ちょ、何するんですか!? やめてください!」

 驚いて手を振りほどこうとするが、文化系部活の部員の腕の力など、ディアルムドの敵ではない。ディアルムドはそのまま、掴んだ左腕の手首を見た。

「…………」
「っ……、……」
「……いつからやっている」
「べ、別にどうでもいいじゃないですか」
「……見たところ浅いし新しい。あと少ない。長くても今年度からか」

 ディアルムドが言うと、ぎょっと彼は目を見開いた。

「自傷に走るくらい、相手が怖いということだな」
「…………」
「……わかった、そちらが言わないのならこちらから心当たりを言おう。……立花」

 びくりと、彼は肩を跳ね上がらせて目を泳がせた。見事に大当たり。彼は溜息を吐き出した。

「……なん、で……」
「警察は、警察の外にも独自のネットワークを持っている。言ったろう? 俺の出身は言峰聖堂教会だ」

 ここまで言えば、母が何か言ったのかと察しがついたのだろう。彼は肩を落とした。

「君のクラスメイトの立花か……まぁ担任に聞けばすぐわかることだな」
「やめてくださいっ……あいつ、何するかわからないから……」
「君相手にか?」
「俺だけじゃない、敦とか、光とか、美津とか……」
「……そういうわけにも行かない。君達は立入禁止の場所に入ったんだ、補導が必要になる……だがまぁ」

 ディアルムドは手帳を畳んだ。その意図が解らず、宏樹はディアルムドの顔色を伺うように彼を見た。

「警察はどんな事情があろうとやることを変えるわけにいかない。このあとの君の話次第では学校を問い詰める事にはなるが、取りあえず一個人として君の話を聞いておきたい」
「……なんで、そんなこと……」
「個人として聞いてはいけないか?」
「だってどうせ、後で捜査に使うんじゃないですか」
「だったら手帳を閉じていないさ」
「でも……」

 参った、どうも相手は全くこちらを信用していない。まぁ、多少強引に相手の名前を引き出してしまったのだから仕方もないし、事実後で重要箇所は手帳に書き込むつもりではいるのだけど、個人的に気になるというのも嘘ではなかった。
 仕方がない、最終手段に出るとしよう。要は、何故自分が相手の話を聞きたがっているのか——その理由を、相手に納得させることが必要だ。
 ディアルムドはジャケットを脱ぎ、シャツの袖ボタンを左と右、両方外した。そして、肘まで捲る。何事かと見てくる少年を一瞥し、一呼吸置くと、掌を上にして両腕を彼に見せた。

「……!」

 中学の頃の傷だが、深く沢山切った傷が跡にならない訳はなかった。手首から肘までびっしり刻まれた物は学校ではなく家庭が嫌でつけた傷なのだが、これで相手は親近感を持ってくれたようだ。ディアルムドは袖を戻しボタンを締めた。
 宏樹はぽつぽつと話し始めた。

   *

 立花の本名は、立花孝志(たちばな たかし)という。クラスのリーダーといえば聞こえはいいが、実質は暴力でクラスを支配する人間であり、その標的として宏樹がいるらしい。敦、光、美津とは違うクラスだが、何かと宏樹目当てで文芸部の部室に入り浸る彼は、宏樹と仲良くしているその三人にも目をつけたようだ。立花孝志の凶暴さを知っていた三人は彼を突っぱねる訳にはいかず、裏で宏樹を庇いつつ表面上は立花に従っているらしい。
 クラスの人間は、渋々と言った状況で宏樹を『空気』として扱っていた……つまり、無視していた。殴られたり、蹴られたり、閉じ込められたりと、具体的なことはクラスメイトからはされていないという。誰かにぶつかってしまい謝っても無視、プリントを回しても気づかないふりと、教師の目が行き届かないところで日常的にそうなっていたらしい。立花本人は、暴力もあったがどちらかというと言葉で攻撃してくるタイプのようだ。

「……なるほどな」

 ただ、これでは学校を問いただすのは難しいだろう。立花の補導で終わりそうだ。

「ありがとう、話は終わりだ。早く退院できることを願おう」
「……はい……あの」
「ん?」
「助けてくれたのは……刑事さんだったんですか?」
「俺と寺林さんだ。もう危険なところには行くんじゃないぞ」
「……はい……ありがとうございました」

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.14 )
日時: 2016/11/28 18:10
名前: ナル姫 (ID: PE0DJbev)

 病院から出たディアルムドは、時雨に電話をかけた。しかし流石に今は教会にいるのだろう、電話には出なかった。留守番電話サービスに繋がったところで呼び出しを切り、バイクに跨って署に戻った。

   *

「何だ、もう帰ってきたのかね」
「だ……駄目ですか……? ええと……少年から証言が取れました。名前は『立花孝志』です」
「そうか。今早川が高校へ向かっている。彼女にはこちらから連絡を入れるからお前も向かえ」
「はい」

 返事をし、一旦自席に戻って心の中で宏樹に謝りながら手帳に重要箇所を書きこむ。その時、トントンと後ろから肩を叩かれた。寺林だ。何ですか、と問うと、寺林はにいっと笑った。

「お前坊主に心当たり吹っ掛けたな?」

 ぞわりと全身の毛が立ち、冷や汗が流れた。このベテラン刑事は、出世街道からは遠いもののこういった勘は物凄くいい。ディアルムドが高校生の時分、とある事件で関わったときには、ギルガメッシュから『あの刑事はお前が普通の子供ではないことに勘付いている』と言われた。……もちろん、勘付かれたからと言ってそのことを曝け出してはいないし、勘付かれていることに気が付いていないふりはしているのだが、何にしろ寺林はそういったことをよく見抜く。

「あの電話の相手は嫁さんか? 義兄さんか?」
「……妻です。悪いことはしてませんよ、湯原さんが教会でうっかり言っただけですから」
「それで、名前を割らない坊主に吹っ掛けて吐かせたか。悪人だねぇ。他はどうだ、話は聞けたのか?」
「……」

 ディアルムドは額を寄せて声を潜めた。個人として聞きました、などと橋金に聞こえたら何を言われることやら。

「やり方が若いな。まぁいいさ、その辺は俺等が刑事として聞きに行く」
「助かります」
「引き止めて悪いな、行ってこい」
「はい!」

 元気よく返事をし、駆け足で出ていった後輩の背を見送る。礼の一つを言う暇もないな、と思いながら。

   *

 高校の校門の前に、早川ともう一人、女性がいた。恐らく学年主任か担任だろう。ディアルムドも校門につき、一度バイクから降りてヘルメットを外した。

「遅れて申し訳ございません、冬木署生活安全課、言峰と申します」
「いえ、結構です。バイクは来客用の駐車場があちらにあります」
「すみません、失礼します」

 一礼し、ディアルムドはバイクを駐めに行った。

   *

 早川によると、あの女性は湯原の担任で、もう一人文芸部の顧問と教頭が中にいるらしい。女性の名は名倉。眼鏡の奥の目の尻がきりりと上がった、気の強そうな女性だった。
 応接室につき、中に通されると、四十代後半くらいの頭の少し禿げた痩せた男性と、四十代前半の年に見える小太りの、眼鏡をかけた男性がいた。部屋の中はクーラーがついていたが、眼鏡の男性はハンカチで汗を拭っていた。

「どうも刑事さん。私、教頭の三鷹と申します」

 二人は立ち上がり、まず痩せた男性が名乗る。続いて小太りの男性が、文芸部顧問の田口ですと名乗った。

「冬木署生活安全課の早川と申します」
「同じく生活安全課の言峰です。本日はお忙しい中お時間いただき、誠に感謝いたします」
「いえ、うちの学校の向上にも繋がります。どうぞおかけください」

 二人が腰掛けると、三人も座った。その時事務員らしき若い女性が茶を運んできた。頂きますと頭を下げる。

「では早速本題に移りたいと思います」
「えぇ、詳しく聞いていないのですが……何があったのでしょう」

 早川は細部を省きながら事件の概要を説明した。

「しかし、昨日目が覚めた湯原君によると、廃病院に行ったのは五人だと言うのです」
「その五人目をこちらで探せと?」
「いえ、それはこちらで確認が取れました」

 早川はそう言うと、ディアルムドに目を向けた。

「立花君。湯原君と同じクラスの、立花孝志君です」
「立花君が? どうしてまた文芸部員と?」

 名倉が眉を寄せる。すると田口が、あっと声を上げた。

「もしかしてその立花君って、うちの部室によく出入りしている子かなぁ……ちょくちょく遊びに来るって感じで、生徒の作品の邪魔をしていたわけじゃなかったし、今回問題になった相田君や湯原君たちとも仲が悪いってようにも見えなかったから注意してなくて……」
「駄目じゃないか田口先生、部活中なんでしょ?」

 三鷹に言われ、田口はすみませんと頭を下げる。

「……で、我々は何を協力すれば良いのでしょうか」
「はい、宜しければ立花くんのお家の電話番号と、ご住所をお教えいただければと……」
「では、今確認してきましょう。名倉先生、お願いします」
「はい」

 名倉は応接室から出ていった。ディアルムドは一応一度軽く頭を下げて茶を飲む。ふと、視線を向けられていることに気づき、見れば三鷹がこちらを微笑んで見ていた。

「……何か?」
「あぁごめんね。いやぁ、言峰さんだっけ? 日本人?」
「あぁ……アイルランド人です。幼い頃から日本で過ごしたので、日本語に不自由はないのですが」
「そう。それで名字が言峰ってことは……まだ二十前後に見えるけど、結婚してるの?」
「はい。今十九です。高卒ですぐ警察になったので」
「えっ、若いね! それで刑事かぁ……いやぁ優秀だなぁ。君と同い年の息子がいるんだけど、あれは大学にも行かないでバンドやるんだーとか言ってて困るよ。それを甘やかす妻もねぇ」

 けらけらと教頭が笑う。素敵な夢だと思いますと社交辞令を口にしながら、そんな子供を甘やかす彼の妻に、彼自身に、彼らの子は愛されているのだなと思った。

「しかも結婚してるんでしょ? 早くご両親にお孫さんの顔を見せなきゃねぇ」
「……はい、そうですね」

 笑ってごまかす。作るつもりなどない。それに、母似の自分の子供ができたところで、あの男が喜ぶことはないだろう。
 ——万が一つにもあり得ないが……もし子供ができたとして、そしたら顔を見せるべきなのは寺林さんだよなぁと、薄らぼんやり考える。
 中学の頃の自分だったら、こんなことを言われたら恐らく暴れている。未だに父母に対する不満も問題も尽きないが、今では平常心を保ったまま、羨望をちらつかせるだけで微笑みを浮かべられる。随分と落ち着いたものだと思いながら、ディアルムドは茶を飲んだ。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.15 )
日時: 2016/11/30 14:49
名前: ナル姫 (ID: 8hgpVngW)

 名倉から立花の電話番号と住所を聞いた二人は、立花がどういう子供なのかと言うことを尋ねた。当然、ディアルムドは宏樹から聞いた話を持ち出してはいない。

「……ムードメーカーと言えば聞こえはいいのですが、どちらかというと支配者……そんな感じの子です」
「今まで暴力事件などは?」
「いいえ、起こしていません。問題という物を起こしていないから余計に注意がしづらくて……」

 宏樹の話と大体一致した。

「わかりました、ご協力感謝いたします」
「いえ。あの、事件に進展があれば我々もお教え願えるのでしょうか」
「はい、出来る限りは」
「お願いします」

 二人は学校から出て、駐車場へ向かった。早川が、教えてもらった電話番号にかけアポを取る。話が順調に進んでいるようだった。

「はい……はい、よろしくお願いします」

 早川が電話を切った。

「どうでしたか」
「二時からの約束になったわ。一度署に戻ったほうがいいわね」
「わかりました」

 二時なら、報告書を書く時間も少しはあるなと思いつつ、ディアルムドはバイクのエンジンを入れた。

   *

 署の駐車場にバイクを駐めたタイミングで、時雨から電話がかかってきた。

「もしもし」
『あ、ディアル。電話あったけど何か用?』
「いや、用というほどでもないが、当たりだったから報告しておこうと思ってな」
『よっしゃ、ぼくお手柄じゃん』
「Right。二時から立花家訪問、全く忙しいことだ」
「はは、頑張って。ぼくも今日はクーさん手伝うから」
「あぁ、楽しみにしておこう」

   *

「……で、名前言っちゃったのか?」
「だっ、だって、あの刑事立花の名前言ってたんだぞ!? 平常心保つなんて無理だよ……!」
「どうするの? あの刑事さん、どこに向かったのかな」
「学校でしょ。多分住所を聞きに行ったわ」
「おいおいおいおい勘弁してくれよ……」
「どうするのよ、これ……」
「……刑事さんを止めに行くしかないわ。今ならまだきっと……」

 病室で、焦った様子で話している四人の少年少女は、何とかして刑事の動きを止めようとしていた。四人とも立花を恐れているのだろう。……だが。

「悪巧みはそこまでだぜ、ガキ共!」
「ッ!?」

 突然開かれた扉、そこにいたのは寺林だった。

「よう。さーて、ちょうどよく四人いるんだ、立花がどんな奴なのか教えてもらうぜ」
「で、でも……」
「今更渋ったって遅ぇよ、学校にも行ったし、二時には家訪ねるんだ。お前らももう腹括っとけよ」
「…………」

 もうどうにもならない。四人は諦めて話し始めた。

   *

「うっわ、豪邸じゃないですか」
「本当ねぇ……」

 早川の運転で立花家にきた二人は、近くの有料駐車場に車を駐め、家に向かった。ディアルムドが手帳を見る。

「さっき寺林さんからきた電話ですが、俺が聞いたことと相違ありませんでした。あと、廃病院での話も聞きました」
「まぁいまさら嘘付いたって仕方ないわよねぇ」

 苦笑する早川に、そうですねと返す。何にしろ事件は終盤に向かっている。あとは立花孝志から話しを聞き、署に連れて補導をするだけだ。
 インターフォンを押すと、はい、と女性の声が聞こえた。

「お電話しました、冬木署の早川です」
『あ、はい、今お開けします』

 程なくして鍵が開く音がし、内側からドアが開いた。

「お忙しいところ失礼します。冬木署生活安全課の早川です」
「同じく言峰です。息子さんの孝志君いらっしゃいますか?」
「あぁ、孝志に用があるのですよね、いますよ。そんなことよりどうぞお上がりください」
「ありがとうございます。お邪魔します」

 まさか家に上げるとはと若干面食らったが、二人は家に上がった。中は綺麗に片付いていた。

「今、呼んできますね。孝志ー、お客さんよー」

 椅子に腰掛けるよう勧められたが、逃げられては溜まらない。ここで結構ですと断った。
 母親が二階に声をかける。すると低い声で、客?と復唱する声が聞こえた。トントンと階段を降りてくる音。顔が見えた。最初不思議そうだった顔が、自分たちの顔を捉えたところで強張った。来ていたのはスーツの大人二人、警察だと気がついたのかもしれない。階段を下りきった彼に、ディアルムドは、あえてニッコリと笑った。

「立花孝志君だな。その顔、こういう大人が来ることに何か覚えがあるのか?」

 言いながら警察手帳を見せると、孝志の顔が更に強張った。大したことのない相手だなと思った。中学の頃からもっと暴力的で質の悪い相手とディアルムドは対峙してきたのだから。
 きっと、慢心するタイプなのだ。警察がいずれ来るとわかっていれば何かしら対策を取ったのだろうが、手下——相田敦や湯原宏樹を過剰評価し、自分のところには絶対来ないと思い込んだのだろう。

「……湯原宏樹君が昨日目を覚ましたよ。相田敦君たちの話では、廃病院に行ったのは四人だった。でも本当は五人だった。それが君だな?」

 孝志は、血が出そうなほど拳を握っていた。ぎり、と奥歯を噛んでいる。

「あいつらっ……絶対許さねぇ……!」
「今は質問に答えるのが先じゃないか?」

 ディアルムドが高圧的に尋ねる。いつもは寺林や橋金に翻弄され、ヘタレというイメージを持たれやすいディアルムドだが、こういう場合は本当に頼もしいと、早川は思った。

「っ……クソッ! なんだよ! 廃病院に行くことの何が悪い!」
「高校生は深夜徘徊を禁止されている。あの時間は遅くなかったとか言うつもりだろうが、そもそもあそこにはKEEP OUT、つまり立入禁止のテープが貼ってあったはずだ」
「それなら全員罪は同じだろうが!」
「彼らは認めた、反省した。だが君の罪はもっと重い、わかっているだろう? 君は嫌がる宏樹君を無理強いし、診察室へ入れその背中を押して前に倒した。しかも敦君達が交番への連絡を提案したときに、君はこうして補導されるのが嫌で一人だけ帰った。これでも彼らと同じだと言うか!」

 強い口調でディアルムドが言うと、相手はその場に座り込んだ。

「何でだよ……何でバレてんだ……!」
「先回りしようとして電話した己を恨むんだな。立て、署に来てもらう」
「っ……ふざけんなァッ!」
「!」
「何をするの孝志! やめなさい!」

 孝志は立ち上がり、拳を握ってディアルムドに殴りかかった。ずっとオロオロしていた母親が、ハッとして彼を止めようとする。だが、孝志は止めようとした母親すら殴った。

 ——プツンと、ディアルムドの中で何が切れた。


Page:1 2 3 4 5 6



この掲示板は過去ログ化されています。