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【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】
日時: 2016/11/17 17:25
名前: ナル姫 (ID: bkADf4XB)

 緑雨りょくう
  ——新緑の季節に降る雨。《季 夏》

  引用:デジタル大辞泉


足をお運びいただきありがとうございます。
タイトルを見てお察しいただけましたかと思います通り、当小説は明星陽炎様のFate/stay night二次小説『人間未満の聖杯戦争』の転生物、現代社会人パロディとなります。
ですので、『人間未満の聖杯戦争』主人公である七紙時雨、ディルムッド・オディナが主人公、教会組が主要人物となります。その他、新たにオリキャラとかちょいちょい出てきたりします。
魔術も無ければ魔法もない、そんな普通の世界で恋して喧嘩して泣いて笑って、最後はやっぱり好きだよ——みたいな、
恋 愛 夢 小 説 だ と は 思 わ な い で く だ さ い 。

関係性としては八割九分家族してます。普通の恋愛夢小説を期待していた方々、ごめんなさい。(菩薩顔)



たまーに暴力表現だったりシリアスだったりありますが、だいたい平和してます。
年齢としてはサザエさん方式になっております。深くツッコんではいけない。

  ※尚、この小説は『人間未満の聖杯戦争』の ネ タ バ レ を含みます。
  ※ネタバレ箇所になるページには、目次に*マークをつけます。


さてまともな挨拶もままなりませんが、とりあえず最低限のネチケットとルールを守り読んでくだされば嬉しいです。

それでは彼らの日常喜劇、お楽しみくださいませ。

目次は>>2

Page:1 2 3 4 5 6



Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.16 )
日時: 2016/12/02 11:28
名前: ナル姫 (ID: xJkvVriN)

 パンッと鋭い音が響いた。ディアルムドが、孝志を思いっきり平手打ちしていた。少し唖然とした孝志だったが、すぐ彼に反撃しようと殴りかかる。しかしその腕をディアルムドは止め、彼の胸倉を掴むとそのまま背負投げをした。

「何しやがる!」
「……まれ」
「あぁ!?」
「母親に謝れ!」

 彼を床に押さえつけたままディアルムドが怒鳴る。しんと空気が静まり返った。ディアルムドはかなり殺気立っていた。怒りに燃えるような瞳を見て孝志は固まっており、怯えた表情をしていた。そこでようやく、ディアルムドは我に返り孝志を押さえつけていた手を離した。

「あ……す、すまない……」

 早川と母親が、ほっと胸を撫で下ろした。そして母親が彼女の息子を見る。

「……孝志、どういうことなの? お母さんに話して? そして、警察に行って、やったことを認めて?」
「……わかったよ、行けばいいんだろ……」

 渋々と彼は立ち上がった。早川が母親に同行を願うと、彼女は力強く頷いた。

   *

 署に着き、二人は別々の取調室へ通された。母親の麻子あさこには女性同士早川が、孝志にはディアルムドと寺林が付く。
 ディアルムドは拗ねた子供のような態度で、足と腕を組んで若干そっぽを向いていた。寺林が、苦笑いでディアルムドを見てから孝志に向き合う。

「わりぃな坊主、痛かったろ?」
「別に……つかなんだよ、母親殴ったくらいで」
「くらいだと? 良くもそんな口を……」
「あーあー、落ち着けディアルムド。ごめんな坊主、こいつ母親いないもんでよ」
「寺林さん」
「おっと、すまんすまん」

 口が滑ったと、寺林は片手を上げて謝る。ディアルムドは少し彼を睨みつけたが、すぐ目を伏せて溜息をついた。相手の警戒を解くための戦術だとはわかっている。事実、それを聞いた孝志は、え、と少し目を丸くしてディアルムドを見ていた。

「さて、本題に入るかねぇ。まずよ、お前がやったことに間違いはねぇな? 廃病院に言って、湯原宏樹を中に押し込み、霊が出てきた時点で逃げた。で、交番には行かず、三人を脅して帰った」
「……あぁ」
「学校での様子も聞いたぜ。ただ、これじゃぁ罪には問えそうになくてなぁ。今回のことを学校に報告して、補導だな。お前ら五人全員。で、だ。お前さんも見たのか? お化け」
「……見たよ。顔が潰れた大学生くらいのやつ……噂通りだった」
「ふーん……」

 特に重要箇所はない。寺林は自分の手帳を閉じた。

「学校に連絡が行くからよ、そしたらお前に学校から連絡が来るんだわ。来たら素直に学校いけよ。それから、あいつらに会ったらちゃんと謝れ。あとお袋さんにもな」
「……わかったよ」
「よし、良いやつだ。おら、ディアルムド。お前も言うことあんだろ?」
「…………すまなかった」

 渋々ながら、というふうにディアルムドは言った。大人でありながら熱くなった自分が悪いのはわかっている。だからこそ、素直に頭を下げられない自分が嫌だった。

「……別に」
「……お母さん」

 素直になれない代わりにと言ってはなんだが、ディアルムドは口を開いた。

「……大切にしろよ」

   *

「お前が熱くなるなんて珍しいねぇ」
「……母親がいい人だったので」
「ほう? 詳しく聞こうじゃねぇの」
「……訪ねたとき、相手は警察なのに明るく出迎えてくれて。息子さんいますかって言ったときにも、いるって答えたあとで家に上げたんですよ。中々無いですよね、息子がこれから言及されるっていうのに、家に上げるお母さん。息子が、何かしたってことは気づいていたと思います。でも、あえて息子のために家に上げたんでしょうね。そうじゃなきゃ上げません。……とても、子供想いな人でした」

 なるほどねぇと苦笑いをして、寺林は言う。実際、なるほど、だった。それはディアルムドの精神に深く突き刺さっても仕方ない。
 ディアルムドとしては、高校の教頭の前では落ち着いていられたのになぁと、溜息を吐き出す他なかった。帰ったらギルか御子殿に、愚痴の一つでも聞いてもらおうか。

「ディアルムド」
「はい?」
「仕事終わったらなんか食いに行くか」
「夕飯ですか」
「他に何がある」
「あー……」

 たまには行こうかと思ったが、そういえば今日は時雨がクーを手伝うと言っていたことを思い出す。

「……いえ、普通に帰ります」
「何かあんのか?」
「嫁が珍しく料理を手伝うらしいので」
「ちっ、先輩より嫁か。いいこったぜ全く」
「すみません、明日よろしくお願いします」
「はいよ」

   *

 資料整理や報告書、更にディアルムドは橋金に少年を叩いた件で叱られたこともあり、帰りは九時過ぎだった。

「……で、お前は何を手伝ったんだ?」

 夕飯のオムライスを飲み込み、ディアルは目の前の時雨に尋ねる。

「ブロッコリー茹でた」
「……」

 それは料理にふく……まれるのだろうが、小学生かと心の中でツッコミを入れつつ、皿の端っこにコロンと二つほど乗せられているブロッコリーを一つ箸でつまみ、口へ運んだ。

「どう?」
「塩辛い。あと硬い」
「うわ、皆と同じこと言ってる」

 だろうなと笑うと、相手も苦笑を漏らした。

「エミヤさんに料理でも習ったらどうなんだ?」
「えー、あの人絶対スパルタじゃん」
「まぁな、だが腕は確かだ」

 言いながら二つ目のブロッコリーを口へ運び咀嚼していると、そういえばと時雨が声を出した。

「廃病院なんてどこにあったの?」
「……」
「行きたいなんて言わないからさ」

 じとっと睨むように見られ、ひらひらと手を振る。ディアルはブロッコリーを飲み込むと、仕方無しに教えた。

「郊外だ。東の方」
「……じゃぁそんなに遠くないってことか」
「まぁな。頑張れば歩いて行ける。アルファーって古いコンビニあるだろう、あそこの先だ」
「うわ、夜とか真っ暗じゃんあの辺」
「行きたくなるんだろうな。……そういえば、寺林さんがあの辺……病院内に詳しかったな」
「病院内?」
「あぁ、中をスタスタ進むものでな。三十年前の大学生の事件の担当だったのかとか思った。忙しくて聞けていないが……あ、そうだ時雨。寺林さんに夕飯に誘われたから明日は飯は作らなくていい」
「ん、了解」

 三十年前のことについては明日にでも聞けばいい。そんなことを思っていると時雨が突然立ち上がり、台所から笊を持ってきた。中には大量のブロッコリーである。

「……つまりこういうことなんだけど、食べる?」
「……有り難くいただこう」

 苦笑すると、彼女は彼の皿にブロッコリーを投下した。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.17 )
日時: 2016/12/03 14:21
名前: ナル姫 (ID: fCO9WxRD)

 仕事帰り、ディアルムドと寺林は小さなラーメン屋に来ていた。70近い老年の店主とその妻で営業するこの店は、カウンター席が多くを占め、テーブル席はほとんどない。味噌ラーメンが自慢の小さな名店であるが、家族連れが入りづらいせいかいつも人が少なく、今日も、二人が入るのと同時に二人客が出ていき、結局店内は寺林とディアルムドだけになった。
 この店は、ディアルムドが中学生の時、寺林がまともに食事を摂れていなかったディアルムドを連れてきたことが何度かあった。そのため、当時はディアルムドも店主に頭を下げるくらいはしていたが、素行の悪さが直ってからは来ることもなくなっていたため、来るのは五年ぶりほどになる。

「おう親父、邪魔するぜ」
「おっ、晋太郎か。久々じゃねぇか。後ろのは後輩か?」
「ディアルムドだ、ほら、五年前とかよく来てただろ」
「あ……?」

 店主が丸眼鏡の奥の目を細めてディアルムドを凝視する。そして、見えてきたのか今度は目を見開いた。

「あん時の中坊かお前!? はー、でかくなったなぁまた男前で……」
「お久しぶりです」

 苦笑を浮かべて寺林の隣に座る。味噌ラーメン2つと、餃子を一皿注文した。店主の妻が、久々の記念と言って春巻きを一皿サービスしてくれると言い、春巻きを作り始める。
 待っている間、寺林はディアルムドに言い損ねていたことを口にした。

「……ディアルムド、あの時はありがとうな。助かったぜ」
「……あぁ、廃病院の? いえ別に、礼を言われるほどのことでは……というか寺林さん、三十年前の事故、担当だったんですか? 病院の中に詳しいみたいでしたけど」
「当事者だったんだよ」
「……へ? 事故の担当、と言う意味……ですよね?」
「いや、違う。通報した大学生……それが、俺と同級生だったのさ」

 ディアルムドの蜜色の瞳が、僅かに見開かれた。
 何と言えば良いのかわからず、ディアルムドは目を泳がせた。寺林が苦笑をこぼす。そして話し始めた。

「当時、俺達三人は大学三年生で、やっとこさレポートだ何だが終わった時期だった。それで調子こいて、何も出ねぇ肝試しにあの廃病院に行った。どこもかしこもボロボロだった。お前も見たと思うが、耳鼻科診察室の上なんかやばかったろ? 天井がなくて、上まで吹き抜けてたのは昔からだ。それで、上の方から鉄塊が落ちてきた。本当は誰にも当たらない感じだったんだが、死んだアイツと俺はふざけあっていて、俺があいつを押しちまってな……」
「……じゃぁ、その時霊じゃないって言ったのは……」
「一緒に行った同級生のもう一人だ。何の気配もないって病院に入る前から言ってた。でもあの事件以来、あいつはあの中に入りたがらねぇ。お前、少し霊感あんだろ? お前が地下に入る前に顔が少し青ざめたの見て、あぁ、アイツいるんだなって確信したよ。だから、お前があの時打ちのめした鉄材は、きっと偶然じゃなかったと思うぜ。きっと、あいつが俺を呼んでたんだろうなぁ……本当は、何かが外れたような音には気づいてたんだが、何故か体が動かなかった。それで、死ぬんだろうなぁって思ったら、痛みを感じる前にすげぇ音がして、体がやっと動いたんだ。最初は、お前が俺を庇ったのかって思っちまったよ」
「……」

 ディアルムドと店主とその妻は、ただ無言で彼の話を聞いていた。

「……申し訳ねぇことしたよ、あいつには。いくら巫山戯ていただけだっつっても、結果的には殺しちまったんだからな。勿論そいつの両親には怖えくらいに恨まれたし、周りの大人にも散々叱られた。俺だって悲しかったし、何でこんなことになったんだって、後悔が絶えなかった。行かなきゃよかった、ふざけなきゃ良かったってな。でも、どんだけ悔やんでも過去は変えられねぇ。だからせめてもの償いとして警察になったが、またあの廃病院にからむたぁね」
「…………」

 何を言えばいいのだか、全く検討がつかなかった。あの時聞いた、『俺はいいんだよ』という言葉……あれは、あの場で死んだって文句は言えないと……そういうことだったのかと、ようやく理解が出来た。

「あのな、晋太郎」

 話を聞いていたラーメン屋の店主が口を挟む。

「大抵の夢は叶わねぇ。誰もがみんな、今やってる仕事をやりたくて始めた訳じゃねぇ。別にどうでも良かったけど、そん中で嬉しいこととか悲しいこととか見つけて、この仕事で良かったとか、やっぱこの仕事は向かんとか、決めてくもんだろ? 俺だって若え時は親父からこんなチンケなラーメン屋継ぎたくなかった。でもな、客が笑顔で帰ってくの見るとやってて良かったと思うぜ」
「…………」
「お前が警察を始めたのが負い目なのは疑わねぇ。だが今は違うんだろ? 今は、その中坊育てんので一杯だろうが、どうせ。だったら今はそれに集中しろよ、後輩の前で不安な顔見せんじゃねぇ。それと、腹減らしたまま戦うんじゃねぇぞ、まずは腹ごしらえだ。ほれ、味噌ラーメン二丁お待ち!」

 ドンッと二人の前に大きな器が置かれた。美味しそうな匂いが二人の鼻を擽る。

「……おう、いただくぜ親父!」
「いただきます!」

 店主とその妻は、微笑ましそうに二人を見つめていた。

   *

 俺の奢りだと言われたディアルムドは無理矢理金を出すこともできず、彼に頭を下げてバイクで帰った。寺林は歩いて家へと帰っていく。

「……」

『俺の反応が遅れてたら寺林さんが死んでたじゃないですか』

『っ、らぁっ!!』

 ——ディアルムドは、何なんだろうな?
 普通の子供ではない。それはもうわかってる。中学時代には、数人なら高校生相手にも立ち回れた技量を見せられた。流石に、大学生相手には叶わなかったようだが、それでも既に強かった。高校時代には、長めのナイフを持った男の大人を、モップを槍のように使って殺しかけるほどの技術を持っていた。そして今、落ちてきた重い鉄材を、反射的に鉄パイプで正確な方向に打ち返すということをやってのけた。
 普通じゃない。そう思う一方で、ディアルムドを見るたび、ただの子供だと思う自分もいる。

 ——ま、どうでもいいか。
 正体が何であろうと、警察としてはまだひよっこであることに変わりはない。ラーメン屋の親父の言うとおり、今はあいつを育てることに集中しようと、寺林は一人微笑んだ。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.18 )
日時: 2016/12/05 17:42
名前: ナル姫 (ID: /7b9bPFg)

 翌日の朝、教会に見慣れない顔があった。いつもの湯原と、それに連れられて来たと思われる四人の少年少女だ。湯原に似た顔の少年は、恐らく息子——即ち湯原宏樹だろうと時雨は予測した。

「あの……」
「おはようございます湯原様。お子様達もご一緒ですか」

 時雨が口を出そうとすると、後ろから来た兄が五人に声をかけた。

「おはようございます。この子は私の息子の宏樹です。この子達は宏樹の友達で……」
「相田です」
「里崎」
「みっちゃん駄目だよ、そんな態度じゃ。私、代々木です」
「この子達はどのようなご用件で?」
「今回の一件で、ディアルムド君に大変お世話になったものですから、お礼が言いたいそうです。でも警察署に行ってもご迷惑な気がして、言伝を頼めないかと……」
「なるほど、承りました。時雨、伝えておいてあげなさい」
「はい」

 時雨はお淑やかな笑顔を浮かべて浅く頷いた。

「事は片付いたのですか」
「はい。でも学校から呼び出されて、午後に行かなくてはならないんですって」
「そ、そういうこと言わないでよ母さん……」
「ふふ、ごめんね」

 ……もう一人。
 立花という子は来なかったのだろうか……時雨はそんなことを考えつつ、仲の良さそうな四人の高校生たちの様子を見ていた。

   *

 宏樹たちが学校へ向かっていると、途中で孝志に遭遇した……否、校門前で彼が、四人を待っていたのだろうと思われた。さっと、敦が三人を庇うように前に出た。もうお前には従わない——そんな意志があるように見えた。ギロリと孝志が敦を睨みつけたが、すぐに視線は外された。

「……何か言ってこないんだな」
「言うことなんかねぇよ」
「あっそ」

 五人は、孝志だけ離れて無言で生徒指導室へ向かった。それぞれが教師から叱られる。

「さて、立花孝志君は、もう文芸部室には立ち入らないこと。そして態度を改めること。いいですね」

 名倉が眼鏡の奥から吊り上がった目で話す。孝志は彼女とは目を合わせず、チッと舌打ちを一つした。 
 こいつは何を言われたって変わらないか……生徒と教師の思いが一致した。それならば何を言ったところで仕方ない。こちらも仕事があるし、家に返すしかないだろうと思った、その時だった。

「……悪かったな」

 それだけ言うと、彼は部屋から出ていった。孝志以外の四人が、ポカンとしてそれを見送る。だが数秒後、彼らは顔を合わせて笑い始めた。

「何だあいつ」
「あの寺林って刑事に謝れって言われたのかもねぇ」
「そうだね」
「……立花君って、何気に文章上手なんだよね」

 ぼそっと、突然宏樹が口にした。意図がわからず聞き返すと、彼は言う。

「前、僕が教室で部誌用の原稿書いてたら彼が来て、この表現のほうが面白いんじゃないかって突然言い出してさ。たしかに、凄く面白くなったことがあった。……まぁ、それがきっかけで絡まれたんだけど」
「…………」
「……立花君、帰宅部だよね?」
「文芸部は部誌を出すのも精一杯なくらい人員不足なんだけど」

 光が宏樹の意思を汲み取り、口を出す。それに続いて美津が、含み笑いをして言った。名倉達の止める間もない、四人は頷くと、鞄を持って彼の後を追った。

   *

 警察署では、とある資料が署員に配られていた。内容は、一週間後に迫る夏祭りについてだ。この夏祭りは三日間行われる規模の大きな夏祭りで、当然立入禁止区域なども多い。基本的には巡査に見回りをさせるが、いざというときは出動してもらうとのことだった。

「これ、去年なんかは何人くらい補導されたんですか」
「あー……そんなに多くねぇぞ、規模の割に。3日で……四十人ってとこか」
「やはり中学生が中心なんでしょうね」
「そりゃそうさ。……だがま、お前としては出動なんざ真平ごめんってとこだろ?」
「……な、何でですか」
「そりゃぁ、嫁さんと浴衣デートとかしたいんじゃねぇの?」
「デートってほどのものでもないですけど」

 したくないといえば嘘になる。毎年、一日だけだが二人で出かけた夏祭りだ。それが仕事で潰れるのは確かに惜しいことではある。
 しかしそうは言っても仕事は仕事だ、いざ呼ばれたのなら出勤が道理、断ることはできない。

「……まぁ仕事はしっかりやらせていただきます」
「若いねぇ。いいこった。そういや、あの餓鬼らどうなったんだろうな?」
「どうなった、とは?」
「や、何。あの……立花って餓鬼だったか? あいつよ、母親には基本逆らえなさそうだろ。母親は息子の学校での態度を知らなかったって話だ。でも今回の件で露見して、多分あの母親はガツンと叱ったぜ。そしたら、どうなると思う?」
「……今までの素行を、謝る?」
「そう。文芸部の奴らはどうもお人好しに見えたし、万が一には友達になってるかもな」
「微量なパーセンテージですね」

 たしかに、それは少々不安だが素敵な未来ではある。とは言えそうなる可能性は限りなく低いだろう。
 その時、一本の電話が鳴った。橋金が取り、何か一言二言話す。

「はい、わかりました向かいましょう。……少年係出動! 冬木大橋にて交通事故、交通安全科と向かうように!」
「はい!」

   *

「……」

 今日は署に泊まる、という連絡が来たのは風呂上がりだった。基本的には帰ってきてくれるがこういうことも珍しくはない。了解との返事をし、LINEのページをスマートフォン画面に開いたまま、夕方にまた来たあの高校生たちから聞いた話をしようかどうか迷った。そしてその末に、たたたと画面に文字を入力していく。

『そういえばお知らせ』
『今日の夕方、あの高校生たちが来たよ』
『しかも五人だったよ(笑)』

 既読はすぐについたが、返信は来ない。忙しくて画面を確認しただけで返事をする時間はないのか——いや、きっと今頃、画面を見て橙色の目を見開いていることだろう。その様子を想像すれば面白く、時雨は喉の奥でくつくつと笑いをこらえていた。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.19 )
日時: 2016/12/06 12:41
名前: ナル姫 (ID: xJkvVriN)

「私の名は言峰綺礼……聖堂教会の神父にして、一家の長兄だ」
「おい本当にこいつ神父なのか金ピカ」
「職業はな」
「何か言ったか?」

言峰綺礼 kirei Kotomine
 三十四歳。言峰聖堂教会の神父であり、時雨とギルガメッシュの戸籍上の兄、ディアルムドからは義兄に当たる。
 相変わらずの人格破綻者ではあるが、どういうことなのか若干母性(?)が強くなっており、時雨を引き取って間もなく父が高齢で逝去し幼い時雨の面倒を見てきたためか、時雨に対してシスコンを患っている。
 衛宮切嗣とは喧嘩するほど仲が良いの関係なのか、切嗣が妻や息子や娘を自慢するのに対し、こちらは妹や義弟を自慢する傾向にある。寝顔の写真をよく撮っているが、ディアルムドが警察になったため最近は少し自粛している。
 戦争の記憶は、時雨を引き取った際に思い出している。


「我が名は言峰ギルガメッシュ! 言峰家次男にして唯一無二の英雄王!!」
「過去形だろうがニートめ」
「(笑)」
「働いておるわ!!」

言峰ギルガメッシュ Gilgames Kotomine
 二十二歳。戸籍上は綺礼の弟、時雨の兄。ディアルムドからは綺礼と同じく義兄に当たる。
 性格は相変わらず天上天下唯我独尊の我様。大学生の頃から綺礼の名義を使い在宅ワークで株式の運用などをしており、現時点では綺礼と同じくらいに稼いでいる。
 何かにつけて時雨や綺礼にちょっかいを出したがるが、時雨が男子と歩いているだけで魂の抜ける綺礼と違い何かとしっかり者であり、時折英雄王を思わせるカリスマぶりを発揮する。
 シスコンでもブラコンでもないが、面白い玩具をそう簡単に手放すつもりはない模様。
 ディアルムド同様、幼いときから記憶はある。


「俺ァクー・フーリン。中学んときから日本にいる。今はフリーターだ」
「定職に就け狗」
「家賃を寄越せ」
「うるせぇ!!」

クー・フーリン Cu Chulainn
 二十二歳。言峰家に居候しているフリーター。
 相変わらずの兄貴肌で、ディアルムドが警察になってからは家事を任されている。ナンパ癖は抜けておらず、ちょくちょく女性に声をかけるが、うまく行かないのが世の常。
 エミヤやギルガメッシュとは相も変わらず犬猿の仲だが、喧嘩する程なんとやらとも言う。
 時雨とディアルを妹分弟分として可愛がっている。
 中学に上がる際日本に来ており、記憶はその時取り戻している。


「俺の名前は寺林晋太郎。ただのしがない老年刑事だ」
「俺の先輩刑事、とてもお世話になった人だ」
「はは、世辞はいらねぇよ」

寺林晋太郎 Shintro Terabayashi
 五十一歳。ディアルと同じ係に配属されているベテラン刑事で、ディアルが中学生のときからよく見知っている。荒れていた当時のディアルが、教会の人以外唯一心を開いていた刑事さん。
 出世街道からは程遠い人生だが、それを気にしたことはない様子。誰に対してでもおおらかで心が広く、後輩刑事たちには慕われている。
 刑事課、生活安全課、交通安全課など色々なところを回ったが、結局生活安全課に落ち着いている。


「……私まで挨拶せねばならんのかね」
「一つお願いします、ケイネス殿」
「ったく……橋金圭佑。冬木署の生活安全課課長だ」

橋金圭佑 kesuke Hashigane
 四十二歳。ディアルムドや寺林の上司の生活安全課課長でエリート刑事。
 前世、第四次聖杯戦争においてディアルムドをランサーとして呼び出し、使役したケイネス・エルメロイ・アーチボルトの生まれ変わりだが、本人に記憶はない。また、態度も少し柔らかくなっていく模様。とはいえ、やはりディアルムドは彼を苦手対象としている。
 ソラウとは前世同様片思いの状況である。

Re: 【転生】緑雨の空に、花束を【人間未満の聖杯戦争】 ( No.20 )
日時: 2016/12/06 20:26
名前: ナル姫 (ID: RARTxK9z)

「と、言うわけでだ時雨。今年は三日目になるが構わんな?」
「オッケー。最終日楽しめるといいな」

 冬木は毎年この時期に、未遠川で花火大会を行う。三日間、所狭しと様々な屋台が並べられ、多くの人で賑わう祭りだ。
 この花火大会に、二人は小学生のときから一緒に行っていた。だが、三日間も遊べるだけの金は当然持っておらず、一日だけ行くというのが暗黙のルールにいつの間にかなっており、それは今でも続いている。去年は、ディアルムドが警察学校にいたため、時雨も行かなかったらしい。互いに二年ぶりの花火大会となる。

「にしても巡査は大変であるな。恋人がいようと何であろうと、基本的に三日間監視とは」
「改めて巡査でなくてよかったと思うさ」

 苦笑しながら立ち上がり、茶碗を片付ける。時雨も立ち上がった。

「三日目ってことは明々後日だな。よし、ディアル行くぞ!」
「あーはいはい」

 どこに行くのかは、聞く必要もない。

   *

 二人が向かったのは、古いタンスのある部屋だ。滅多に着ない服はここに仕舞われている。ここから服を引っ張り出すのは二年ぶりだ。
 タンスはぎしぎしと軋むが、壊れそうな気配は特にない。

「お、あったあった」
「破れたりはしていないよな?」
「平気。ていうかここにしまってたら破れようないだろ?」
「それもそうだな」

 取り出したものを二階へ持っていき、ディアルムドの部屋へ入る。

「上からでいいな?」
「おけ」
「了解した。痛かったり苦しかったりしたら言えよ」
「……待ってディアル、ゆっくりだぞ、ゆっくぎゃァァァ!? 痛いし苦しいしちょっ、まっ、ふざけんなてめっ!! いきなり締めんなって!!」
「あっはははは! すまんすまん緩める。ただやるなやるなはやれの合図と言ってな?」
「フリじゃないからこの馬鹿! 次やったら男性機能を停止させてやるからな!」
「それは勘弁っと。……んー、もう少し締めるぞ、帯紐」
「はいよ」
「……ええと、ここを、こうか……よし、出来た」

 ぽん、と帯の後ろを叩く。部屋にある姿鏡には浴衣姿の時雨が写っていた。
 ディアルムドも自分の分の着付けが終わり、二人は姿鏡の前に並ぶ。二人とも綺麗に着付けられていたが、苦しくはない。高校一年生まではクーの友人にやってもらっていたが、その人からディアルが教わり、今では自分でできるようになっていた。

「にしてもお前、もう少し華のあるものを買えばいいのに」
「えー……そんなの、ぼくらしくないだろ?」
「それもそうだがな」

 言いながらディアルムドはベッドに座り、改めて彼女の浴衣を眺める。萌黄色の、ほぼ無地といえるような浴衣だ。よく見れば、ところどころキラキラ光っており、それが花の形を模しているとはわかるのだが、最近の、グラデーションだったりいろんな模様があちらこちらに入っているきらびやかなものと比べればかなり地味といえる。濃い緑色の帯にも、よく見かける金魚のようなひらひらしたものなど付いていない。

「ディアルだって地味もいいとこじゃん」
「俺の華やかな浴衣とか見たいのかお前は」
「ないわー……」
「だろ……」

 ディアルの浴衣は細かいタイル模様で、上の方は深緑一色に見えるが、足の方へ行くに連れて深緑と薄い緑の二色になる。帯は時雨と同じ色だ。

「サイズは問題ないな」
「伸びてないしな」
「確か、巾着はお前が持ってたし下駄も靴箱にあった筈だ」
「そうそう。当日が楽しみだな!」

   *

 翌日の夕方、沢山の屋台が並んでいた。フリフリとした浴衣を着る少女たちがクレープに並んでいたり、大学生に見える男性グループがたこ焼きに並んでいたりする中で一人、Tシャツに短パンでスマートフォンを耳に当ててる人物がいる。

「え? 前の彼氏っていつの彼氏? 同じ学科の奴ならフッたけど? ……ちょっと何よその言い方! だから言ってるでしょ、私の本命は……そうそうわかってるならいいのよ。てゆうかちょっと待って、ここ煩いからちょっと移動するわ。……あーはいはいわかってるわよ。じゃぁまた後でね」

 大学生くらいの彼女は通話を切り、静かな場所へ移動した。川の方へ移動し、この辺なら静かだろうと腰を下ろそうとした瞬間、腕を掴まれる。

「ぎゃぁ!? な、何!? 誰!?」
「落ち着け嬢ちゃん、大学生?」
「だったら何よ! ナンパ!?」
「ちげぇ。わりぃな、ここ立入禁止区域なんだよ」
「はぁ!? 看板立ってなかったじゃない!」
「看板ならほれ、あそこ」

 声からして結構老年の刑事か、顔はよく見えないが若くないだろう。

「わかったわよ移動すればいいんでしょ!」
「おう。頼むぜ。でもちょいと質問だ、まず名前は?」
「何それなんで名前聞くのよ!」
「悪いな、小さいことでも補導対象になっちまうんだ」
「はぁぁぁ!?」

 甲高い声を聞きつけ、もう一人の刑事がやってきた。若い声をしている。

「あれ、寺林さん? 署にいたんじゃ……どうかしたんですか?」
「おっ、ちょうどいい。若い女の子にはイケメンが対応するのが一番だろ、この嬢ちゃんの聞き込み頼むわ」
「イケメンて……いいですけど、明るいところ移動しましょうよ。ここじゃろくに手元も見えないじゃないですか」
「そうか」

 若い警察の提案で、三人は明るいところへ移動した。明るいところへ姿がよく見えるようになると、女子大生が目を見開く。

「でぃ、ディアルくん!?」
「おう、藍那。久しぶり」
「何だお前ら、知り合いか?」
「高校の時の級友です」
「てゆうか待って、待ってディアル! アンタもしかして気付いてた!?」
「声から何となくだが予想できてた」

 ケラケラ笑いながら、用箋挟に挟まれた書類に何かを書き込んでいる。おそらくは彼女の名前と大学名だろう。

「ええっと……私立光洋女子大学だったか? 藍那、今お前ちゃんと二年生か? 留年退学停学してないか?」
「アンタ本当失礼ね!! ちゃんと二年生よ!」

 彼女の名は蔵元藍那。アイナと書くが、読みはアイカだ。強気そうな見た目に合う強気な性格、そしてまた生粋の面食いであり、顔面偏差値高いディアルムドに一時期は片思いしていた。だが、彼の所謂ヘタレ属性、『残念なイケメン』なところが駄目らしく、現在は恋愛感情はない。今では時雨とも気のおけない友人である。


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