二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【完結】スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜
日時: 2016/12/31 23:26
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

さぁさぁ懲りないひのりんは今日もプリキュアのスレ建てちゃったよ!
はじめましてか何度目まして!
ホントに……何度目だ?w
プリキュアの二次創作上げるの何度目だよw
今回はスマイルプリキュアですね。フレッシュも完結してないのにね!
まぁ完結せずに放置した作品は数多くありますけどwww
これはそうならないと良いなぁ……(遠い目)
まぁ、楽しんで読んでもらえるように頑張ります。
それではよろしくお願いします。

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Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.9 )
日時: 2016/12/19 22:47
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

 修斗に、好きな人がいる……。
 その事実に、あたしは自分でも驚くほどに気分が落ち込み、一人でトボトボと帰路についていた。

「おっ!なお〜!」

 その時、背後から名前を呼ばれた。
 振り返ると、修斗がブンブンと手を振っていた。

「修斗!」
「よう。今日も公園行くだろ?そうだ、二年ぶりに対決でも……」
「いや、良いよ……やめておく……」

 修斗とのサッカー対決というのも、中々魅力的な誘いだ。
 しかし、それを受ける気にはどうにもなれず、私は断った。
 あたしの返答を聞いた修斗は、なぜか、かなり落ち込んだ表情をした。

「えっ……なんでだよ。もしかして、何か用事でも……」
「別に、用事とか無いけど……」
「だったら!」
「あーもう!ほっといて!」

 こんな言い方したいんじゃない。
 しかし、好きな子がいるということを知って、自分が修斗を好きだという事実に気付いた今、彼といつも通り一緒に遊べるとは思えなかった。
 だから……拒絶した。

「な、なんだよ……筋が通ってねぇぞ!もっと直球勝負しろよ!」

 しかし、彼はあたしにちゃんと言えと言う。
 理由を言えって……それ、ほとんど告白しろって言ってるようなものじゃん……。
 断られるのが分かっているのに告白なんて……無理。

「そんなの言えるかぁ〜!」

 あたしはそんな風に叫びながら、逃げるように走った。
 目を瞑って、ひたすら真っ直ぐ走る。
 修斗風に言うなら、直球勝負、ってやつかな?

「なおッ!危ない!」

 後ろから聴こえた声にあたしは目を開いて、目の前にあった赤信号に立ち止まる。
 しかし、そこはすでに路上で、すぐ目の前まで、軽自動車が迫って来ていた。

「危ない!」

 ……。
 そんな声と共に。
 気付けばあたしは、突き飛ばされていた。
 見ると、それは、修斗だった。

「修斗……?」

 直後、彼の体は轢かれる。
 軽自動車とはいえ、車は車。
 まだ未成熟な彼の体は吹き飛ばされ、地面をバウンドした。

「……修斗!」

 あたしは、咄嗟にそこに駆けつけ、彼の体を抱き起した。
 頭から血を流していて、顔が真っ白。
 足から着地したようで、足が、ありえない方向に曲がっていた。

「修斗!……修斗!」

 あたしが呼びかけても、彼は返事をしない。
 ただ、微かに呼吸をしていることから、生きていることは分かっている。
 でも、頭でも打って意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした目でどこか虚空を見つめていた。

 それから、誰かが呼んだ救急車に運ばれ、緊急手術などを施され、なんとか一命は取り留めた。
 しかし、下半身不随という、足が全く動かない障害を負うことになり、彼は病院などの関係で、病院でリハビリに専念するために、学校に来なくなった。

 あたしのせいで、彼は歩けなくなってしまった。
 だったら、あたしが彼の分まで走り、彼の代わりになろう。
 そう思ったあたしは、とにかく修斗のようになろうと、修斗がよく口うるさく言っていた、「筋が通っていない」、「直球勝負」を座右の銘として、それらを突き通すために動いていた。
 「女番長」。あかね曰く、そんなあだ名も陰では付けられていたらしい。
 でも、関係ない。
 とにかく、修斗の真似事でも良い。彼の分まで走って、そして……彼に、許してもらうんだ。

Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.10 )
日時: 2016/12/20 22:23
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

−−−現在

「そういや、さ……」

 昔を思い出したあたしは、息を吐くように、声を出した。
 それに、修斗は、「うん?」と、返事をした。
 あたしは続ける。

「修斗ってさ、好きな人……いる、んだよね……?」
「な、なんだよ……急に……」

 戸惑った様子の修斗。
 あたしは、それに「あの時……」と続けた。

「修斗が告白されてるの、本当は全部聞いてたの。好きな人がいるから、彼女の代わりには誰もいないから。そう言って……誤魔化してた」
「それは……てか、全部聞いてたってことはお前っ……」

 そこまで言うと、彼は顔を真っ赤にした。
 ……?確かに、途中で逃げ出したから、全部ではないけれど。
 でも、ほとんど全部じゃないかな?
 修斗に好きな人がいて、その人のために、告白を断った。
 ……それが全てでしょう?

「お前、全部って嘘だろ……」

 その時、修斗は呆れた様子でそう言った。
 それに、嘘が下手なあたしは、「な、なんでそれを!」と、明らかにバレバレなことを言って、慌てて口を手で塞ぐ。
 それを見て、修斗は「ハァー」わざとらしくため息をついた。

「お前なぁ……だって、俺の好きな人は……」
「なお」

 修斗の言葉を遮るような声が、頭上から降ってきた。
 その声の主を見て、あたしは息を呑んだ。

「れいか……」
「どうしたの?あかねさんのお見舞いが終わったので、帰りましょう?」

 れいかの言葉に、あたしは、修斗に目を向けた。
 彼は「ん〜……」としばらく困った様子で頬を掻くと、少し複雑そうな笑みを浮かべた。

「えっと、修斗……」
「……帰れば?俺が止める理由なんて、ねぇし」

 修斗の言葉に、あたしはかなり戸惑った。
 しかし、これ以上いる理由もないし、れいか達を待たせるわけにはいかない。
 しばらく迷った後で、「明日、また来るからね」と言って、れいかの後を追って、皆と合流した。

「ねぇねぇ!彼とどんな話をしたの!?」

 エレベーターに乗ると、みゆきちゃんとやよいちゃんが、興味津々な様子で聞いてきた。
 あたしはそれに後ずさりしつつも、「別に大したことじゃないよ」と答える。

「昔の知り合い。れいかと違って、幼馴染……ではないかな?友達っていうか、ライバルっていうか……そんなのだもん」
「あらあら。昔は、全校集会とかで彼を見つけては、名前を呼んで満面の笑みで手を振ったりしてたのに」

 れいかのいらないあたしの豆知識で、みゆきちゃんが「おぉ〜」っと歓声をあげた。
 修斗のことは覚えてなかったのに……ッ!と思ったが、よく考えたら、れいかはあたしと彼が引き分けたことは話していなかったんだ。
 それに、あたしと違って、れいかと修斗には特に接点も無かったし。

「じゃあじゃあ、やっぱりなおちゃんは、彼のことが……ッ!」
「……好きだった」

 正直に白状すると、相変わらずの二人は「キャー!」と歓声を上げた。
 狭いエレベーターの中では、その声が反響して、かなり耳にキンキンくる。
 にしても……なんで、今嘘ついたんだろう。
 好きだった、なんて。本当は、今でも大好きなのに……なんてね。

「にしても、なおにも初恋なんて女の子らしい部分あったんやなぁ」
「あかねにだけは言われたくないね!」

 あたしが強がると、あかねは「なんやて!?」と少し怒った様子で返事をする。
 しかし、声は怒っている風だったが、顔には笑顔が浮かんでいた。
 いつもの意地っ張りか……受けて立とう。

「あかねの初恋なんて、つい最近じゃん。あたしは小学生の頃なのにさ」
「はぁぁ!?時期より質やろ!」
「質ぅ!?あたしの初恋、少なくとも二年間は一緒にいましたけどぉ?」
「ぐぬぬぬ……」
「はいはい。喧嘩しないの」

 睨み合うあたしたちを、みゆきちゃんが制した。
 それに、れいかも「なおもだけど、あかねさんも負けず嫌いね。相変わらず」と言い、クスクスと笑った。
 やよいちゃんは、なぜか「なおちゃん。その話、もっと詳しく」と目をキラキラさせながら聞いてくる。
 あたしはそれに苦笑しつつ、エレベーターの扉が開いたのを見て、すぐに駆け出るように出た。

「じゃあ、あたしを捕まえられたら教えてあげる〜」
「えぇ!無理だよぉ……」
「よっしゃ!ウチが捕まえたるで〜!」

 そう言って腕まくりをするあかねに笑いつつ、あたしは走った。
 夕陽が、あたしたちを照らしていた。

Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.11 )
日時: 2016/12/21 22:35
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

<修斗視点>

 たまたま、リハビリルームの窓から、帰っていくなお達の姿が見えた。
 楽しそうに笑い、走るなおの姿に……俺は、拳を握り締めた。

「後悔なんて……してないハズなのに、な……」

 俺はそう呟きながら、微かに口から息を吐くように笑った。
 だって、俺は昔から……なおが好きだから。
 初対面の時は男だと思った。それくらい、運動が出来たから。
 実際、俺と渡り合うくらいサッカーは上手かったし、中身は女らしくない部分があるので、軽口も叩ける仲だった。

 でも、彼女はやはり女だった。
 笑うと可愛いし、たまに体が触れ合うと緊張するし、料理は上手いし。
 でも、俺となおはライバルだから。こういう、恋愛関係とかには、なるべきではないと思った。
 なおと仲良くなってから一年くらいすると、他の女から告白、とやらをされるようになった。
 放課後、休み時間。人目につかない所に連れて行かれ、好きだと言われた。
 でも、俺は断った。なおが好きだったから。
 この病院でも、入院している患者の中の、同年代の女子とかには、たまに告白されるけど、それも断っている。
 そういえば……いつだったか。こんな会話をしたことがある。

−−−

「じゃあ、私が代わりになるよ!その子の代わりに……」

 俺に告白してきた子は、そう言って身を乗り出してくる。
 それを、俺はやんわりと拒否しつつ、「悪いけど……」と言う。

「彼女の代わりなんて、他の子じゃ埋められないよ。……ごめん」

 俺の言葉を受けた少女は、明らかに悲しそうな表情をした。
 眉をハの字にして、口はへの字だ。
 しかし、すぐにキッと俺の顔を見ると、「そんなに……」と口を開いた。

「そんなに……なおちゃんのことが好きなの?」
「……あぁ。そうだけど」

 なんで知っているのかと不思議に思った。しかし、それを問いただすより先に、俺は肯定していた。
 その言葉が、自分でも驚くほど早かったためか、彼女はさらに目を潤ませた。
 でも、俺はさらに続けた。

「なおは……ライバルで、友達で……すごく、大事な存在なんだ。男友達とも違う。女だけど、俺と馬が合って。一緒にいていて、一番楽しいんだ。お前じゃ……なおの代わりはできない」

 俺が言うと、彼女は頬に涙を伝わせ、踵を返し去って行く。
 その後ろ姿を眺めてから、俺は静かに、その場を離れた。

−−−

 なおは、他の女とは違った。
 女なのに運動はすげぇできるし、リーダーシップだってあるし、やんちゃだし。
 俺は、そんななおに出会ってから、他の人にも優しくしようって思えたんだ。
 なおだったら、たとえ、この命を犠牲にしても。たとえ、二度と走れなくても、彼女だけは救いたいって思えたんだ。
 ……でも……。

「……走りてぇよ……」

 俯いて、前髪をくしゃりと握り締めた。
 その時、肩に手を置かれる感触があった。

「……じゃあ、私が好きなだけ、走らせてあげましょう」

 耳元で囁かれ、俺は肩をビクッ!と震わせた。
 咄嗟に肩に置かれた手を除けて振り返ると、そこには、変な仮面の男が立っていた。

「へ……変質者ぁッ!」

 俺は咄嗟に叫び、辺りを見渡した。
 しかし、見ると周りの人間達からは暗い靄のようなものが出てきて、なぜか落ち込んでいた。

「な、なんだこれ……この、黒いのは……」
「いやいやぁ、貴方からも出ているではないですかぁ」

 仮面の男の言葉に、俺は自分の手を見た。
 すると、指先から……いや、体全体から、黒い靄が出ている。

「うわぁ!?」
「あっはははは!最高ですねその顔!さぁ!もっと恐れ、慄き、バッドエナジーを出してください!ピエーロ様を復活させるために!」

 仮面の男は、甲高い声でそう言うと、高笑いをした。
 黒い靄のことは置いといて、この男……大人か?それにしてはやけに声が高いように感じるが。
 ていうか、変な頭。ピエロとか、道化師みたいな感じの見た目してる。
 やっぱりコイツ変質者だろ。

 状況が変わりすぎて、混乱とか、恐怖とかが一周して平常にでもなったのか、割と冷静な頭でそう考えた。
 とりあえず武器を用意しないと……。
 そう思ってしばらく何か探すと、足元に松葉杖が落ちているのが分かった。
 視線を上げると、そこでは、その場に倒れ込むような体勢で蹲り、黒い靄を発している青年の姿があった。
 とりあえず松葉杖をお借りしますね〜。

「ん?貴方一体何を……」
「どりゃぁ!」

 車椅子に座ったままなので、足を踏ん張ったりはできないが、松葉杖を多少振り回すくらいはできる。
 地面につける細い方をしっかりと持って、思い切り振って目の前の変質者の頭をぶん殴る。
 しかし、松葉杖を掴まれ、すぐに奪われてしまった。

「クッ……まさか、バッドエンド空間でも動ける人間が、プリキュア以外にいるとは……」
「あ?ぷりきゅあ……って何だ?大体、いつもと全然何も変わんねぇけど」

 こんな黒い靄は出たことないけど、感覚はいつもと変わらない。
 それを見た変質者は、俺を見てニヤリと笑った。まぁ、さっきからずっとヘラヘラした感じだったけど。

「そうですか……貴方はもしや……なるほど」

 一人で何やら呟いて、満足気に頷くと、懐から黒い球を取り出した。
 ん?と思っていた直後、体が吸い込まれる感触があった。
 暗闇に放り出されるような感覚がして、俺は、そのまま意識を失った。

Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.12 )
日時: 2016/12/22 17:39
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

 目を開けると、そこには河川敷が広がっていた。
 病院に入院するようになってから、一度も来なかった場所……。
 だって、ここには、なおと一緒に走った思い出が詰まっているから。
 そう思って俯いた時、俺は目を見開いた。

 ……なんで、俺は自分の足で立っている?

 俺の足は、外国で手術でも受けない限り治らないと言われた。
 そして、俺の家にはそんな金はない。だから、リハビリにより奇跡が起こることだけを夢見て頑張って来ていたようなものなのに……。

「修斗〜!」

 その時、俺を呼ぶ声がした。
 見ると、私服姿のなおがこちらに向かってブンブンと手を振っていた。

「なおっ……」
「修斗。何やってんのさ。さっさとサッカーしようよ!」

 そう言うと、なおはその場でリフティングを始めた。
 足を器用に使って、ポンポンと軽やかにリフティングをして見せる。
 その様子を、俺は呆然と見つめていた。
 すると、彼女はボールを蹴り上げて両手でキャッチすると、こちらを見て首を傾げた。

「どうしたの?」
「いや、俺……ついさっきまで、全然立つこともできなかっただろ!?なのに……」
「えぇ〜?じゃあ修斗は、また歩けないようになりたいの?」

 気怠そうに言うなおに、俺は「えっ?」と聴き返した。
 なおは、それを見てクスッと笑うと、俺の方にボールを蹴ってきた。
 俺は咄嗟にそれを足で受け止め、軽くリフティングをする。
 体は鈍っているかと思ったが、意外と体はよく動き、延々とそれは続けられた。

「ね?楽しいでしょう?」

 顔を上げると、なおがニコニコと笑っていた。
 俺はその顔を見つめながら、ポーン、ポーン、とリフティングを続ける。

「楽しい……けど、違う。俺は……」
「楽しいならそれで良いじゃない。それとも、ずっとあのままが良いの……?」

 なおの言葉に、俺は、事故にあってからの出来事を思い出していた。
 いつも、病院内で勉強かリハビリをする日々。
 窓の外を見ると、自分の足で歩き回れる、人、人、人。
 人という字は、自分の足で立つ姿を人にしている。つまり、自分の足で立てなくなった俺は、もはや人間じゃないんだって、思いつめるようになった。病室の窓のカーテンを閉めるようになった。
 それでも、病院内には自分で歩ける人間ばかり。俺にできないことができる人ばかり。
 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……嫌だ!
 その時、なおが俺の顔を覗き込んでいた。

「だったらさ……そんな小難しいことを考えるのはやめて、しばらくここで楽しんでいこうよ。あたし、修斗と一緒にサッカーしたいなぁ……」

 なおの言葉を聞いた瞬間、俺の思考の中で、何かが止まったような感覚がした。
 あぁ……そうだよなぁ……ここで、なおと一緒に……ずっと走っていよう。

「俺も……なおと一緒に……」
「フフッ。それじゃあ、行くよ!」

 そう言って俺からボールを奪うなお。

「ちょ!それはずるいだろ!待てよ!」

 俺はすぐに、なおを追いかけて走った。

Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.13 )
日時: 2016/12/22 22:53
名前: ひのり (ID: uLF5snsy)

<変質者(笑)視線>

「フフッ……楽しんでおられますねぇ」

 私……ジョーカーは、一人ほくそ笑みながら、手に持った黒い玉を覗き込む。
 そこでは、光の無い目をした少年が、笑いながらプリキュアの一人である少女と何やら球蹴り遊びをしていた。
 何が楽しいのかは分からないが、今は彼を楽しませることが最優先なので問題はない。

 彼はどうやら、通常時から垂れ流すほどに大量のバッドエナジーを体内に持っているらしい。
 そのおかげで、バッドエンド空間でも普段通りに動くことができた。
 恐らく、普段から何か悲しいことや、辛いことがあるため、その感情がバッドエナジーとなっているのだろう。

 そこから考えた私の作戦はこうだ。
 まず、彼の悲しみを一度取り除き、幸せや喜びを楽しませる。
 しばらくそれをさせれば、彼の心は、今の状況に満足し、もうこちら側のことすら忘れせた後で……潰す。
 そうすれば、彼の中で溜めこまれた大量のバッドエナジーが一気に放出され、ピエーロ様の復活に一気に近づくハズ。
 あとは、彼は適当にその辺で処分しておけば、問題なし。我ながら、完璧な作戦だ。
 ……そこまで考えていた時、とあることに気付いた。

 彼は……プリキュアの関係者、だったよな……?

「良いことを思いついたぁ……」

 私はニヤリと笑い、黒い玉を見つめた。

−−−

<修斗視点>

「ハァ……ハァ……ハハッ。結構疲れたな」

 汗だくになりながら、俺は言った。
 それを聞いたなおが、「そうだねっ!」と賛同する。
 その時、彼女の口元に、微かに冷たい笑みが浮かぶのが見えた。

「……なお?」

 不思議に思った瞬間、突如、腰から下の感覚が消えた。
 俺は前のめりに倒れ、地面に体を打ち付ける。
 気付けば、地面は土ではなく、真っ黒な、無機質な物質になっていた。

「これは……」
「どうでしたか?楽しい夢が見れたでしょう?」

 頭上から降ってきた声に、俺は顔を上げた。
 見ると、それは、俺がこの世界に来る前に会った変質者だった。

「あ、あの変質者!」
「変質者、ではありません。ジョーカーと、呼んで下さい」

 じょ、じょーかー?うーん……恐らく偽名だろうな。
 そこで、さっきまで一緒にサッカーをしていたなおが消えたことに気付いた。

「なおは……なおはどこにやった!?」
「ッ……ちょっと。そんなに食い気味に聞かないでくださいよ」

 冷たくそう言うと、彼(彼女?)は、指を鳴らした。
 すると、それは、病院の屋上だった。
 コンクリート造りの床に、鉄のフェンス。そこから、車椅子に座って、外を見下ろす一人の男の子がいた。
 それは……ここの入院したばかりの、俺だった。

「これは……ッ!」

『いいなぁ……みんな。走れて……俺も、走りたい……』

 昔の俺は、そう言うと目から涙をポロポロと零した。
 それを見て、俺はしばらく固まった。

「この気持ち。ずっと抱いていましたよねぇ?君はもう走れない……」

 そこまで言うと、俺の頭を掴み、顔を近づけて来る。

「残念でしたねぇ〜?」

 馬鹿にするような笑み。

 ……そうだ。俺は、何夢を見ていたんだろう。
 走れるわけないじゃんか。俺は、もう、走れないのだから。
 なんで……?ずっと分かっていたことなのに……涙が止まらない。
 体からは、先ほどジョーカーが来たときなんかとは比べ物にならないくらいの量の黒い靄が出てきて、それを止めることはできない。

「嫌だ……ッ!もっと、もっと走りたいよ!自分の足で立ちたいよ!なんで走れねぇんだよ!」

 まるで、自分の心の中に蔓延する、嫌な何かを発散するように、俺は喚き散らした。
 その時、目の前にいるジョーカーが、突然俺の頭を撫でた。
 顔を上げると、彼は優しい笑みを浮かべた。

「君は……一人で頑張ってきましたねぇ。もう、大丈夫ですよ〜?」

 先ほどまでの恐怖が嘘のように、彼は優しくなった。
 しかし、信用はできない。だから、彼の手を振りほどこうとした。
 だが、その時、彼の仮面の奥の目が、俺を見据えていることに気付いた。
 仮面の奥は、まるで空洞のように真っ黒で、何も見えない。でも、確かにこちらを見ている!

「ぁぁ……」

 それを見た瞬間、何も考えられなくなった。
 思考がぼんやりして、物事を深く考えられなくなっていく。

「君は……走りたいんですよねぇ?」

 その言葉に、俺は小さく頷いた。
 すると、彼は満足そうに頷き、どこからかピンク、赤、黄、緑、青の、五枚のカードを取り出す。
 ……?

「私は、君の足を治す力を持っています。今すぐにでも、君を、自分で立てるようにできますよ。ただ……それには条件があります」

 ジョーカーの言葉に、俺は、続きを待つ。
 その様子を見て、彼は口元を歪め、五枚のカードを全て燃やし尽くした。

「プリキュアを倒すのです……」

 ぷりきゅあを……たおす……。
 そうすれば、俺は、また、サッカーができるようになる……?

「えぇ。しかも、プリキュアを倒す力、作戦、場所作りは私が全て任されます。貴方はただ、戦えば良い。ね?簡単でしょう?」

 悪くない条件かもしれない。それだけで、また歩けるようになるのなら。

「でも、プリキュアには、君のお友達の緑川なおもいるけれど……」

 その言葉に、一瞬、俺は戸惑った。
 しかし、すぐに思考が切り替わる。
 ……ん?緑川なおって……誰だ?

「ククッ……やってくれますよねぇ?」

 ジョーカーの言葉に、俺はすぐに頷いた。


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