二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【完結】スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜
- 日時: 2016/12/31 23:26
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
さぁさぁ懲りないひのりんは今日もプリキュアのスレ建てちゃったよ!
はじめましてか何度目まして!
ホントに……何度目だ?w
プリキュアの二次創作上げるの何度目だよw
今回はスマイルプリキュアですね。フレッシュも完結してないのにね!
まぁ完結せずに放置した作品は数多くありますけどwww
これはそうならないと良いなぁ……(遠い目)
まぁ、楽しんで読んでもらえるように頑張ります。
それではよろしくお願いします。
- Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.4 )
- 日時: 2016/12/13 21:25
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
「……修斗?」
肩に掛けていた学生鞄が、床に落下した。
まるで、世界が凍ったように……時が止まったように、あたしたちは見つめ合った。
「うわッ!」
しばらくして、バランスでも崩したのか、彼がその場に倒れ込んだところで、やっと世界は動き出す。
「なお〜。何やっとるん?」
あかねの言葉に、あたしは、我に返った。
鞄を背負い直し、すぐに彼女たちを追いかけようとするが、その足は固まる。
視線をずらすと、修斗が立ち上がろうとしている姿が見えた。
「なお?どうしたの?」
その時、れいかがあたしの隣まで来て、修斗の方に視線を向けた。
彼女は、修斗のことを覚えていないのか、「知り合い?」と聞いてくる。
あたしは、それに頷いた。
「うん……昨日、話したよね?引き分けになった奴がいるって」
「え?えぇ……」
「アイツが、そうなんだ……」
「まぁ!」
れいかは、大層驚いた様子で、口に手を当てた。
その時、後ろから声がした。
「じゃあなおちゃんは話してきなよ。あかねちゃんパパのお見舞いには、私たちだけで行くからさ」
「え!?」
「後で迎えに来るからねぇ」
みゆきちゃんとやよいちゃんは、勝手にそう決めると、あかねとれいかを連れて去って行く。
あたしは、それを呆然と眺めていた。
「……えっと、なお、か?」
その時、背後から声がした。振り返ると、医者のおじさんに肩を貸してもらいながら立ち上がる修斗の姿があった。
こうなったら……直球勝負だ。
あたしは深呼吸をすると、彼の元に歩み寄る。
「うん……そうだよ。修斗……だよね?」
「あ、あぁ……」
そう返事した時、車椅子に座らされた。
彼は、しばらくあたしを見上げた後で、遠くにあるベンチを指さした。
「立ち話もあれだし、あそこに座って話そうぜ?」
「そ、そうだね……」
あたしはぎこちなく返しながら、修斗の車椅子を押そうとした。
しかし、それより先に彼が自分で漕ぎだしてしまったので、それを追いかける形でベンチに行き、座った。
彼は、その横に車椅子を停めた。
「良かったの?あそこを離れて」
「あぁ。ちょうど今日のリハビリはほとんど終わっていたからな」
「そっか……」
会話が続かず、あたしは俯いた。
だって……彼をこうしてしまったのは、あたしだから。
「……お前、サッカーってまだやってんの?」
その時、修斗がそう聞いてきた。
「えっ?うん。やってるよ」
「そうか」
「……修斗があの時、あたしを庇ってくれたから、今も元気に走ることができるんだよ?だったら、修斗ができない分、あたしが頑張るべきかなって」
胸の辺りが苦しくなってくる。小さい頃の、あの記憶が蘇る。
それと同時に、喉が熱く、痛くなって、視界が霞む。
「ごめんね……修斗……」
「は……?急にどうしたんだよ、お前……」
「ごめんッ……ごめんなざい……」
「……なんで泣いてんだよ……」
呆れた声と共に、車椅子のタイヤが僅かに進む音がした。
それと同時に、頭を撫でられる感触がした。
「俺はお前を助けたかったから、やったんだよ。今更謝んな」
「だってぇ……ヒグッ……」
「……普通泣くのは俺の方じゃねぇのかよ」
そんな呆れた声に、あたしは、確かに自分が泣くのはおかしいと思って、涙を拭った。
「ごめん……」
「あーいいよいいよ。お前、昔から泣き虫だからな」
「うるさいなぁ……」
「ははっ!」
あたしの言葉に、彼は快活に笑った。
その笑顔に、あたしはつい唇を尖らせた。それを見て、彼はさらに笑う。
それに釣られて、あたしも一緒に笑った。
笑いながら……昔のことを少し、思い出していた。
まだ、彼の足が無事だった、あの頃を。
- Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.5 )
- 日時: 2016/12/13 22:06
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
−−−5年前
「ハイ。ご飯ですよぉ」
ニコニコと笑顔で、れいかが泥だんごを渡してくる。
父親役のあたしは、それを受け取って食べるフリをした。
「モグモグ。うん、美味しい!」
「それは良かったわ」
そう言って、お淑やかに微笑むれいか。
むぅ……同じ小学三年生とは思えない……。
まぁ、れいかは昔から良い所のお嬢様だからなぁ。
そんなことを考えていた時、突然、ままごとをしていたところに水色のボールが落下してくる。
「キャッ!」
跳ねた土が、れいかの綺麗なスカートを汚す。
それを見た瞬間、あたしの頭に、血が上る感覚がした。
「コラァッッッッ!!!」
自分でも驚くほどの怒声。
それを聞いて、ボールを取りに来た奴や、一緒に遊んでいたであろう数名の男子が、ビクッと肩を震わせた。
あたしはボールを片手で掴んで、その男子の元に向かった。
そして、一度ボールを地面に置いて足で押さえ、腕を組んだ。
「な、なんだよお前……」
「今すぐ、れいかに謝って」
「はぁ?」
あたしの言葉に、男子は呆ける。
だから、あたしはれいかの方を指さして、続ける。
「あの子に謝ってってこと。スカートに土跳んで、汚れたんだからね」
「ちょっとなお……それくらい気にしなくても良いのに」
あたしを咎めるれいかを、あたしは制した。
こういうのは、きちんと謝らせないといけない。弟や妹ができてから、学んだことだ。
「……ハッ。大体、こんなところでわざわざままごとなんてやってるお前が悪いんだろ」
その時、一番体格のでかい男子が、そう言って息をフンッと吐いた。
その言葉に、あたしはカチンときた。
「別にどこで遊ぼうと関係ないでしょ?」
「土が付くのが嫌なら家で遊べってことだよ。服が汚れるのが嫌なら、な!」
そう言うと、彼はあたしの足元のボールに、足を伸ばした。
だから、咄嗟にあたしはそれをかわし、軽くリフティングをして見せた。
「だったらさ、勝負しようよ。サッカーで」
「あ?」
「あたしからボールを奪えたら、アンタの勝ちで良いよ。そうしたら、あたしたちは家に帰る。その代わり、あたしが勝ったら……そうだなぁ。ジュースでも買ってきてもらおうか」
「なお!」
声を上げるれいかに、あたしは「任せてよ」とウインクをする。
その様子を見た男子は、ハッと鼻で笑った。
「お前女子だろ?女子からボールを奪うくらいかんた……」
そう言いながら伸ばしてきた足をあたしはかわし、ドリブルをした。
「ホラホラ!鬼さん、ここまでおいで!」
「なッ!早ッ!」
そう言って、慌てて追いかけて来る男子。
昔から、足だけは自信があった。
体育とか運動会では男子を追い越して一位だったし、ドリブルとかよく分からないけど、ボールを蹴りすぎないように適当に蹴っておけば、なんとかなる!
「ハァ……ハァ……もう無理!」
男子は、そう言うとその場にへたり込む。
それを見てあたしは足を止め、振り返る。
「情けないなぁ。それじゃあ、約束通り、ジュース買って来てよね!ホラ、ダッシュダッシュ!」
あたしが急かすと、彼は渋々立ち上がり、ノロノロとした走りで公園を出て行った。
すると、怒った様子のれいかが、あたしに近づいてきた。
「もう、なお!ひやひやしたじゃない。まさかあんな力づくでやるなんて」
「いやぁごめんごめん。でも、勝ったから良いじゃん?」
あたしが言うと、れいかは呆れた様子でため息をついた。
- Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.6 )
- 日時: 2016/12/15 12:40
- 名前: ひのり (ID: IxtPF2j4)
それからと言うもの、あたしの所には、ほぼ毎日男子が来るようになった。
理由は、主にサッカー対決。
どうやらあたしが前に戦った相手は、校内でもトップレベルの運動神経を持っていたらしく、あたしに負けたという噂があっという間に流れ、気付いたら今の状況になっていた。
そして、現在あたしは一学年上の先輩相手に、戦っていた。
まぁ、あたしが勝ってるんだけど。
ちなみに、れいかは今日は弓道の習い事があるらしいので来ていない。
「くっそぉ、なんて足の速さだ!」
あたしの横になんとか追いついて走る男は、そう言うと悔しそうに歯ぎしりをした。
それに笑いつつ、あたしはさらにスピードを上げようとした。
そのとき、突然、目の前に虫のような生物が現れた。
「ギャアアアアアアアッ!」
女子らしくない悲鳴を上げ、あたしはその場に尻餅をついた。
目の前の地面には、ムカデやバッタ。カマキリなどが落ちていて、こちらを見上げていた。
あたしはまた悲鳴を上げながら後ずさる。
10メートルくらい離れたところで、やっと安息を手に入れる。
そこで、ボールが取られたことに気付いた。
「な……ッ!ちょっと!」
「はっははは!虫が嫌いだとは聞いていたけど、本当だったとはなぁ」
そう言って笑う彼に、あたしは、目の前に現れた虫を彼が投げたのだということに気付いた。
「ちょっと!反則でしょ!?」
「反則ぅ?お前が言ったルールでは、ボールを奪えばそれで良いんだろ?虫を投げたらダメとか、言われてねぇよ」
その言葉に、あたしは言葉を詰まらせる。
彼が言ったことに反論する術を、あたしは持っていなかった。
しかも、彼は学校内でも立場がかなり高いらしいので、周りで見ている数名の生徒も、言い返すことができずにいた。
それに、いよいよあたしは、自分が敗北したということを痛感し始めたときだった。
「それは、筋が通ってないと思います」
凛とした声が、空気を切る。
目を向けると、そこには、あたしと同い年くらいの男の子が、立っていた。
「あ?誰だお前」
「先輩。その言い分は、間違っていると思います」
淡々とした言い方に、まっすぐ見つめる瞳。
その態度に、あたしと戦っていた男子は、顔をしかめるのが分かった。
「ちょ、ちょっと……」
「お前……誰だよ?」
「すいません先輩!」
喧嘩腰で詰め寄る先輩に、別の男子が慌てて間に入り、ペコペコと謝るのが分かった。
「コイツ、最近転校してきたばかりで、まだ先輩が誰なのかとか分かってないんすよ。だから、俺が後でちゃんと言っておい……」
「3年2組の、一之瀬修斗です。先輩のやり方は、サッカーを愛する人や、スポーツを愛する人の気持ちを、踏みにじる行為だと思います。正々堂々と、彼と直球勝負をするべきではないでしょうか」
彼、という言葉に、あたしはピクッと眉を潜めた。
もしかして、あの修斗とか言うやつ……あたしを男呼ばわりした?
「……ッ!うるせ……」
「ちょっとアンタ!」
気付けばあたしは立ち上がり、修斗の方に詰め寄った。
彼は、驚いた様子であたしを見る。
「えっと……?」
「彼、ですって!?あたしは女よ!髪だって長いし、どこからどう見ても女でしょ!」
「女があんなに速くドリブルできるわけないし、ちょっと女っぽい男かなって思う方が妥当だろ!大体、女ならもっと胸だってあるはずだし!」
い、言わせておけば……ッ!
そりゃ周りの女の子の中には、少し胸が大きくなってきた子だっているし、胸に何か……ぶらじゃぁ?とか言うものをつけ始めた子だっている!
だからって、人が気にしていることをよくも……ッ!
「大体、アンタは何なのよ!あたしのサッカーに興味でもあったわけ!?」
「……あぁ。すごくサッカーが強い奴がいるっていうから、楽しみにして来てみれば、まさかの女だよ。ガッカリだ」
そういって、明らかに残念そうな表情をした修斗に、あたしはいよいよ我慢の限界がきた。
あたしは、すぐに先輩からボールを奪って、彼に突き出した。
「そう言うことは勝負してから決めなさいよ!サッカーに、性別は関係ないでしょ?」
「……分かったよ」
そんなことがあり、あたしたちは勝負をすることになった。
- Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.7 )
- 日時: 2016/12/15 22:47
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
修斗とのサッカー対決は、あたし自身が想像していたよりもずっと、長く続いた。
いつしか見ていた子供もいなくなり、あたしと修斗だけになる。
それでもあたしがかわし、修斗が奪いに来る。この攻防は長く続いた。
「そろそろ、諦めたらどう!?」
「フンッ……まだまだぁ!」
修斗はそう言い、あたしのボールに足を伸ばした。
その時、どこからか、夕焼け小焼けの音楽が流れて来る。
あたしたちは同時に足を止めた。
「ハァ……ハァ……もう五時……」
「ゲホッ……あぁ、そうみたいだな」
五時になったら、帰る。それは、あたしたちにとって、守らなければならない鉄則のような存在だった。
修斗は顔についた土埃を袖で拭いながら、軽く舌打ちをした。
「チッ……じゃあ、とりあえず、今回の戦いは引き分けにしておくか?」
その言葉に、あたしは頷いた。
それを見て彼はニカッと笑い、続けた。
「お前、女なのにすげーな。俺、同い年の連中にはずっと圧勝してたってのによ」
「あたしだって、今まで他の男子には皆勝ってたもん。引き分けなんて初めて」
そんな会話をして、しばらく顔を見合わせた後で、彼は歯を見せて笑った。
それを見て、あたしも笑う。
しかし、笑い合っている時間はない。早く帰らないと、母ちゃんに怒られる。
修斗もそれに気づいた様子で、途中まで一緒に帰ることにした。
「そーいや、聴いてなかったけど、お前、名前は?」
しばらく歩いたところで、彼は唐突に聞いてきた。
「なお。緑川なお!」
「へぇ。なおか。俺は……って、さっき言ったっけ」
そう言って修斗は笑いつつ、拳を突き出してきた。
だから、パーを出すと、「ちげーよ」と困ったように笑う。
「俺、お前の実力認めたんだ。だから、今日から俺たちは、友達であり、ライバルだ」
ライバル。その響きに、自分でもよく分からない高揚感が、胸の奥から湧き上がってくる。
「うん!今日からあたしたちは、ライバル!」
あたしは頷き、ハイタッチのように手を出した。
すると、修斗はしばらく自分の拳と見比べた後で、呆れたようにため息をつき、その手を開くと、あたしの手を思い切り叩いた。
すると、ジ〜ンとした痛みが走り、掌がビリビリと痺れた。
「いっっったぁぁぁああああい!」
「はぁ!?これくらい普通だろ!女ってひ弱だなぁ」
「うるっっっさい!もっと手加減しなさいよね!」
そんな言い争いをしながら、あたしたちは家に帰った。
それからというもの、あたしは、初めてのライバルという存在に、毎日ウキウキして学校に行っていた。
クラスが違うので、中々話したりすることはできなかったが、それでも体育の時間や休憩時間。学年集会や、全校集会などでは、毎日修斗のことを探して、目で追っていた。
「修斗!」
あたしが名前を呼ぶと、彼もあたしの方を見て、ニッと笑ってくれた。
そんな毎日を過ごしている間に、学校では、あたしと修斗が付き合っているという噂が流れ始めていた。
そのことに気付いたのは、休憩時間に、何人かの女子と話していた時だった。
「ねぇねぇ、なおちゃん。一之瀬君と付き合っているって、本当?」
窓際で話していた時に、なんとなく外で遊んでいる修斗に目を向けていた時、唐突にそう聞かれた。
あたしは、一瞬、一之瀬って誰?ってなって、修斗の苗字が一之瀬だったことを思い出す。
「もしかして、修斗のこと?なんであたしがあいつと付き合わないといけないわけ!?」
「だって、いつも一之瀬君のこと見てるし、全校集会の時に名前呼んだり……付き合ってないなら、一之瀬君のこと好きなの?」
好き、という言葉に、あたしは一瞬固まって、すぐに首を横に振った。
「ないない!アイツのこと好きとか!」
そう言った時、胸がズキッと痛んだ。
なんで?だって、あたしと修斗は、ライバルだよ?
一緒に戦って、強くなっていく。仲間であり、ライバルだ。
それなのに、恋愛なんて……。
でも、じゃあ、この感情は……。
「そっかぁ。良かったぁ、一之瀬君カッコいいから、結構狙ってたんだよね!」
その時、安心した様子で、目の前にいる少女は語った。
その言葉に、あたしは固まる。
「え〜!私もなんだけど!」
「一之瀬君、スポーツ万能だし、勉強もできるし、カッコイイもんね!」
「ねぇ〜!」
その言葉に、あたしの胸はどんどん痛くなる。
なんでだろう?なんでこんなに、苦しいんだろう?
……よく分からないことは、別にいいや。
あたしは、胸の痛みを忘れるようにして、また会話に混ざった。
- Re: スマイルプリキュア〜この足で、未来まで〜 ( No.8 )
- 日時: 2016/12/17 22:28
- 名前: ひのり (ID: uLF5snsy)
修斗への気持ちが分からないまま、二年が経った。
五年生になっても、相変わらずあたしは男子とサッカーをしたりしていた。
流石にサッカー勝負的なものはしなくなったが。
そんなある日、あたしは、クラス花壇に水をやるために、大きなジョウロを持って外の水道に歩いて行くところだった。
クラス花壇。それは、文字通りクラスごとに花壇が与えられ、そこで花を育てる。
一日ごとに当番が決められ、その人が水をやるのが約束だ。
花壇自体は児童玄関のすぐ近くにあるが、ジョウロは少し離れた、校舎裏にあるのだ。
面倒だが、決められたことはしっかり果たす。
そうしないと、修斗から「筋が通ってない」と怒られるから。
「大体、真面目すぎるんだよ……直球勝負とか、筋がどうとか……」
一人文句のように呟きながら、あたしは水道までの道を曲がろうとした。
その時、水道の近くにいる二人の人影を見て、慌てて校舎の影に隠れる。
そこにいたのは、修斗と、隣のクラスの女子だった。
「この状況って……まさか……」
心臓がバクンバクンと音を立て、ジョウロを握り締める手が強くなる。
あたしは校舎の陰から少しだけ顔を出し、様子を伺う。
修斗は、こちらに背を向けているので、どんな表情をしているかとか分からない。
対して、相手の女子は、顔を真っ赤にしてモジモジして俯いている。
これはまさか……こ、告白!?
「えっと……なに?」
恐らく、呼ばれた用事は聞かされていないのだろう。
あたしは、校舎に背中をつけ、目を瞑り、耳を澄ます。
「ご、ごめんね!急に、こんなところに呼んじゃって……」
緊張した声。語尾の辺りが震え、自信がなさそうだ。
告白を立ち聞きするなんて、本当はやってはいけないことなんだろうけど、足が動かない。
あたしは、ジョウロを握る手を強くしながら、続きを聞く。
「別に良いけど……どしたの?」
「えっとね……私、一之瀬君のことが好きなの!」
その言葉に、一瞬、視界が揺らぐのが分かった。
胸がズキズキと痛くなり、あたしはその場に立ち尽くした。
「あー……ごめん。俺、好きな人いるんだ」
しかし、修斗の言葉に、あたしの頭の中は真っ白になった。
「じゃあ、私が代わりになるよ!その子の代わりに……」
「悪いけど……彼女の代わりなんて、他の子じゃ埋められないよ。……ごめん」
その言葉に、あたしはゆっくりとその場を離れた。
「そんなに……———」
それから何かを話している声がした気がしたが、それを気にせず、あたしはジョウロを持って校舎内に入った。
少し遠回りになるけど、一階にある一年生教室の前にある水道で水を入れて、それを持ってクラス花壇に行って水をやる。
ジョウロからでた水が、太陽の光を反射してキラキラ輝く。
「ん?なお、まだ水やりしてんのか?」
その時、背後から声がした。振り返ると、それは修斗だった。
「あっ、修斗……うん。今日、あたしの当番の日だしね」
「そうか……。でも、あそこの水道に来なかったよな?」
「あー……修斗が誰かと話してるみたいだったし、邪魔したくなかったから、校舎の中の水道を使ったの」
「なんだそんなことか。気にしなくていいよ。大した用事じゃなかったし」
告白を大したことじゃなかったって……。
あたしはさらにジョウロを握る力を強くした。
「……誰かと一緒だったよね。もしかして、告白、とか?」
「あー。まぁ、そんなところ」
そう言うと、彼は目を逸らした。
なんで、隠すんだろう。別に良いじゃん。告白されるくらい。
そう思いながらも、声には出さない。あたしは、黙って水をやり続ける。
しかし、黙ってやるつもりだったのに、口は勝手に動いた。
「……修斗はさ、好きな人とか……いる?」
あたしの問いに、彼は、しばらく黙った後で、「……いる」と言った。
「……そっか」
「……なおは?」
「んー。あたしは、恋愛とか、よく分からないかな」
そんなの嘘だ。修斗が告白されるのを見て、好きな人がいることを知って。分かったハズ。
あたしは、修斗が好き。
「まぁ、お前女って感じしないもんな。男より、女にモテるんじゃねぇの?」
「はぁ?そんなわけないじゃん。どっちにもモテないよ。修斗こそ、告白なんてされちゃって、女の子にモテモテなんじゃないの?」
「今回だけだって。お前だって、告白されたことの一回や二回……あっ」
「あっじゃない!」
あたしが声を荒げると、修斗は声を上げて笑った。
だから、あたしも、それに笑う。
この距離感を、壊したくないから。
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