ひぐらしのなく頃に 作者/志乃 ◆PhgS5i6Xbk

― 第1話 ― 『夢境』



貴方の罪を隠せない。
       それが禁じられているから。

      貴方の罪を消せない。
       それが禁じられているから。

      貴方の罪を無くせない。
       それそのものが罪だから。

                    Frederica Bernkastel

* * *

 その日、私は夢を見た。
 夢なのか現実なのか、はっきり言って微妙なところだが。

 どんな夢なのかと問われても、それを言って良いのか分からない。
 ―――人が死.ぬ夢。
 正しく言えば、私が殺.す夢だ。

「……気持ち悪」

 この夢を見るのは初めてじゃないような気がする。
 どこか別の世界で、コレが起こってしまったような、
 そんな気がする。
 ……ありえるわけ無いのにね。

「おはよう、紗那」
「……おはよ」
「早くアサメシ食べろよ? 遅刻すっから」
「………ん」

 あぁ、もう朝から最悪だ。
 ブルーな気持ち、ってヤツ?
 朝は弱いからいつでも最悪だけど、こんなのは初めてだ。

 顔を洗って、着替えて、ぼそぼそと朝ご飯を食べる。
 ……相変わらず刹那のご飯は美味しい。

「いけるか?」
「……多分」
「んじゃ、行くか」
「うん」


 私達の家は、梨花や沙都子が住んでいる家より粗末だ。
 どこかのアパートみたいな感じ。

 洗面台と、その隣に小さなお風呂。そして小さい台所。
 天井にギリギリ届くか届かないかというぐらいの、二段ベッド。
 そしてその隣に、2人が囲めるちゃぶ台。

 ……と、いう、沙都子と梨花ならまだしも、
 十何年も生きている
 私たちにとってはちょっとキツい部屋。
 だけど不満じゃない。それどころか、満足している。

 ココに住むことになったのは刹那がお父様のお叱りを受けて、
 家を追い出されてからだ。
 私は行っても行かなくてもどっちでもよかったのだが、
 刹那と離れることだけは嫌だった。
 だから、かれこれ2ヶ月ちょっと、ココに住んでいる。

「紗那ちゃーんっ、刹那くーんっ、おっはよー!」

 しばらく行くと、レナが手を振って待っていた。
 元気な声の主は竜宮 レナ。
 本名は竜宮 礼奈というそうだが、
 本人は「レナ」と呼ばれてほしいらしい。

 レナは可愛いものに目がなく、可愛いものをみつけると
「かぁいいモード」になって、
「お持ち帰り」してしまう。
 主な被害者は沙都子と梨花とか。罰ゲームで
 凄い格好させられると、すぐに「お持ち帰り」をされそうになる。

 ……ある意味怖い人だ。

「おっす、レナ。あれ、圭一、珍しいな。お前が早いなんて」
「おはよ。ホント。圭一がレナと同じ時間帯に居るなんて」
「なんだよ、俺がココにいちゃいけねぇのかよ」

 レナの隣にいたのは、前原 圭一。
 ついこの間、ここ雛見沢に引っ越してきた少年だ。
 都会から引っ越してきたらしく、
 最初はこの村に戸惑っていたそうだが、
 今ではもう慣れたのか、普通にしている。

 頭が良いらしく、都会では「口先の魔術師」と言われていたらしい。
 もっとも、圭一はあまり都会での事を話さないので、
 どうなのか分からないんだけど。

「っていうか、俺はいつもの時間に出てきたんだけど」
「気のせい気のせい」
「いや、明らかにお前らが出てくるの遅かったんだろ!?」

 刹那と圭一は仲がいい。圭一が転校してきたとき、
 真っ先に話し掛けたのは刹那だ。
 やっぱり、周りが女の子ばかりだったから、
 男の子が来たことが嬉しかったんだろう。
 そのせいか、意気投合し、一緒に登校するようになった。

「ったく、刹那と紗那ってホントに双子なのか? 全然違うんだけど」
「そりゃそうだろ。俺ら二卵性双生児だし」
「にらんせーそーせーじ? ソーセージがどーかしたのかよ?」
「……お前さ、ありえないぐらい馬.鹿だろ」
「んなっ!? 少なくとも刹那よりは頭いいかんな!」

 刹那と圭一の楽しい会話を聞きながら、
 私はレナとおしゃべりをする。
 同年代の女の子のレナとは話が合う。
 ……相変わらず「かぁいい」ことには良く分からないけど。

「おっ、きたきた。遅いよー、4人とも!」

 水車が見えてくるところに来ると、
 手を軽く振りながら魅音が笑っていた。
 少し背が高い、けど、お姉さんらしくない
 雰囲気を放つのは、園崎 魅音。
 魅音は御三家である園崎家の次期当主だ。
 結構な権力を持っていたり、
 本当は敬われるべき存在なのだけれど、
 どっちかって言うと全然そんなの感じない。
 というより、本人はそんなの関係なくして接してもらいたいらしい。

「魅ぃちゃん、おはよう」
「おっはよ、レナ」

 そしてこのままおしゃべりして、皆と一緒に学校に行く……のだが。
 今は少し状況が違う。

「早く行かないと! 遅刻しちゃうよ!」
「やっべ、早く行こうぜ!」

 そういって、学校まで全速力で走る。

「ほら、紗那! 急ぐぞ!」
「え、あ……うんっ」

 圭一に手を差し伸べられて、その手を取る。
 握られた手は、とても暖かかった。