― Key ― 宝への道標 作者/梟 ◆y/0mih5ccU

第1章【1】
噂や伝説なんで、所詮作り話にすぎないのだ。誰が言い始めたのかも分からないし、ましてや証拠など何所にもないのだから。
噂なんていうのは、いつだってそういうものだ。
「じゃ、次ここな」
小椋市の唯一の高校『小椋高校』。その古い校舎の一年三組。一番後ろの、一番窓側の席に、2人の男女が座っていた。この机は男子の方のもので、女子が向かい合うように、自分の椅子を持ってきて坐っていた。
そして、机全体を占領するように広げられた市内地図。その三分の一は幾つもの赤い×印で埋まっている。
「一か月で三分の一って……結構早いね」
そう言ったのは『上咲友里』。身長一五三センチの割には子供のような顔立ちで、ぱっちりとした、純粋なものしか写し出さない目が印象的だ。
「結局なにも見つからないまま終わられても、困るんだけどよ」
そう言ってため息を漏らしたのは『佐藤海斗』。友里の幼馴染でもある彼は、友里の身長より十センチはあり、時々一緒にいると、兄妹だと間違われるほどだった。彼もまた、身長のわりには少年のような顔をしていて、時々獣を思わせるくらいだ。
すると、教室中に響くような声がした。
「おはよーっ!」
「あ、麻衣子だ」
教室の扉を勢いよく開けたのは、友里の親友である『澤麻依子』。運動神経抜群の彼女は、クラスの皆からも慕われている。彼女が挨拶をすると、クラスの男女が「おはよう」とか「よォ」などと挨拶を返した。
そんな風に、クラスのほぼ全員と挨拶を交わした麻衣子は、友里と海斗の席に直行する。
「うわっ、もうこんなに探したの?」
「意外と早いよね」
脅愕する麻衣子を見て、友里が微笑んだ。
この学校の七不思議である。
今から二千年以上前――イエス・キリストが生まれる以前の話だ。
今の技術を遥かに超える、今の技術では到底出来ないようなことが出来たという、大変栄えた文明があった。そして、その国で最も尊敬され慕われた五人の賢者がある時、『避けられないこの国の滅亡』を予言。それを恐れた五人は、国の財産や財宝を全て、ある場所に封印したのだという。それが、この小椋市にあるという七不思議だった。
しかし、その伝説には『落とし穴』が存在する。
それは『その財宝を探そうとする者は、伝説の五人が地獄に送る』というものだった。
現に、これまでに二人が犠牲になっていた。一人は足を失い、一人は交通事故で記憶喪失になった。この事実を知らない者は、学校中のどこにもいまい。今では、ただ一人としてこの伝説を追う者はいなくなっていた。
友里と海斗は例外とするのだが。
「ヤバイって。これ以上探さない方がいいよ」
麻衣子が真剣な、心配そうな顔つきで友里に言う。
「いいの。所詮は作り話なんだから。実際二人がそういう目に遭ってるっていうけど、あれは偶然に決まってるよ」
「そうだよ、あんたはガセネタに踊らされてる」
友里が言うと、海斗も言った。
そんな二人を見て、麻衣子がバックを床に下ろした。
「あーっそ。じゃあ、次は参加しよっかな」
「ほんとに?」
友里が嬉しそうな顔をすると、麻衣子は「友里に何かあったら大変だしね」と言いながら「海斗は頼りにならなそーだし」と言う。
「てめ……」
海斗が反論しかけたその時、麻衣子が扉を開けた時よりももっと大きな、教室の扉を開ける音がした。
「た、大変よ!」
その音を出したのは、友里のクラスメイト『藤谷亜矢』だ。アイドルのような可愛い顔が、男子に人気の子である。
「どうしたの?」
目は充血し、足は震えている。そんな状態の彼女に、亜矢の友達が声をかけた。
「私、見つけちゃったの! あの宝の在処を!」
亜矢のセリフを聞いた生徒が、「えぇっ」と驚き、彼女の周りに集まり始めた。
「マジかよ、嘘に決まってる」
「でも……ほんとうかも」
海斗と友里がそわそわしていると、麻衣子は海斗に同意した。
「注目されたいだけよ、友里、信じなくていいの」
一方で、亜矢はそれについてを震える声で話し始めていた。
「あの『小椋公共広場』の前に空地があるでしょ? あそこの前、アタシ通学路なんだけど、今日何か光ってるのが見えたの」
それを聞いた生徒たちが、それぞれ反応した。息を飲む子もいれば、生唾を音をたてて飲み込む子もいるし、希望に目を輝かせる子もいた。
「それ、金属だった」
「金属?」
亜矢は、どう説明すればいいのか迷った。迷ったあげく――
「それ、形でいうと、あの金印みたいだった」

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