― Key ― 宝への道標 作者/梟 ◆y/0mih5ccU

第1章【3】



友里はまず、学校中を走り回った。女子トイレ、保健室、音楽室、屋上――。だが、どこにも亜矢はいなかった。
「どこに……?」

 友里は、はっとした。もしかしたら例の証拠を見つけるために、あの空地に向かったのかも。
 まず、下駄箱に向かった。【藤谷亜矢】の名前がある下駄箱には、上履きがある。ならば……空地に向かおう。そこまでする事に、友里はすこし抵抗したが、ついでに証拠も確かめるんだ、と自分に言い訳をした。
「君、何をしている?」
 靴に履き替えて、学校を出ようとしている友里に、冷たい声がした。
 学校でも変わっている、物理学の先生である。
「もうすぐH.Rの時間ですよ」
「え、っと……少し、用事があって」
 友里は、無理やり笑顔を取り繕った。先生は、相変わらず無表情をしている。表情からは何も読み取れなかった。
「用事……」
 先生が、呟くように、繰り返した。
「はい、じゃああの……急いでいるのでっ」
 友里は逃げるように校舎から出た。
 ふいに、近くで何かのブザーが鳴っているのに気付いた。
 手首にある腕時計だ。八時二〇分。
 この時間にアラームを設定しているのには、ちゃんと訳があった。友里は海斗と先生に内緒で例の宝探し“ゲーム”をたのしんでいる。先生は生徒がこれをしていると、決まって反対したのだ。まえにあった事故を考えれば当然だったが、友里たちは気にせず、ホームルーム十分前であるこの時間にアラームを設定し、市内の全体地図などをのこりの十分間で片付ける、という寸法である。
 何故か、今が午前だとは信じられなかった。もう昼の四時にも感じてしまう。友里はそんなことは関係ない、と頭のなかを春香のことだけにした。
 学校の門をでると、途中、遅刻した生徒とすれちがった。生徒は不審な目で友里をみたが、友里は目を合わせないようにして、そそくさ学校からはなれた。
 まだ五月なのに、真夏のような暑さが友里を疲れさせた。だが、友里は教室でみたあの市内地図の記憶をたよりに、とにかく走り続けた。


 友里が懸命に走っている時、別の場所で、別の女子生徒が息を切らして走っていた。足はもうフラフラになっていて、細い足を、長い靴下が足首までずれ落ちていることにさえ、気付いていない。
 その女子生徒は、記憶をたよりに、目的のものがあった場所を探した。記憶にあったその場所に足を運ぶと、そのものは、以前みたときと同じ場所に、同じ状態のままそこにあった。
「あっ、た」
 女子生徒はそういって、手にべったりとついた汗を、近くの蛇口をひねって洗った。そして、しっかり目当てのものを握ると、思いっきり引っ張った。
 案の定、ぴくりともしない。
 女子生徒がそれに一生懸命になっているとき、彼女の背後で棍棒が振り下ろされていることに、彼女はまったく気付かなかった。