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作者/ 友桃 ◆NsLg9LxcnY

第1話『謎の闇組織E・C』(7)
――――亜弓にさえ、言えない――……
風を切る音がビュンビュンと耳元で響いている。周りの景色は、正確に把握するのが難しいほどに目まぐるしく変わり、自らの体は反動をつけるために爪先を地につける以外、大半は宙に浮いている。
仮に自分の下に見える住宅街を誰かが歩いていたとしても、常人には早すぎて気付かれることはないはずだ。
屋根の上を滑空する少女――荒木恵玲は、何度目かの反動をつけながら、唇を固く結んだ。
――――大親友の亜弓でさえ、絶対に言えない
あたしが今、どこに向かっているのか
そこが、どんな所なのか
そしてあたしが、どんな能力を持っているのか――……
恵玲は、ある一軒家にたどりついたところで、ようやく足をとめた。茶色い屋根に、クリーム色の壁、門のところには綺麗な花々の咲いた花壇がある、上品な2階建ての建物だった。
ためらいなくインターホンを押し、返事を待たずに玄関のドアを開ける恵玲。どうやら来訪を告げるためだけに押したようだ。
中に入ると、恵玲は精一杯に可愛い声で正面奥のリビングに向かって叫んだ。
「ウィルくぅ~ん!!」
すぐに、リビングのドアを開け、1人の少年が姿を見せた。
これがまたなんとも目を引く人物なのである。透き通るような銀髪に、アジアでは見られない独特の白い肌。そして女の子のように大きな瞳は、綺麗な蒼色をしていた。黒が基調の服を着ているため、肩下まで伸びた銀髪がよく映える。
外見からわかる通り、彼は純粋な日本人ではない。イギリス人と日本人のクォーター。初めて会ったとき、彼は自分のことをそう言っていた。つまり、4分の1だけ日本人の血が流れているということだ。
“ウィル”と呼ばれた彼は、にこりと可愛らしく微笑むと、彼に見とれてしまっている恵玲の元へと歩いて行った。
「おかえり。学校忙しいのにごめんね、呼び出して」
「ううんっ、全然大丈夫! ウィルくんに会えるもんっ」
恵玲の直球なセリフにも、ウィルはちょっと困ったような照れたような笑みを返すのみである。その彼は、男性にしては背が低く、身長が低い部類に入る恵玲ともそれほど差がないくらいだった。
ウィルはそこでさりげなく恵玲の荷物を代わりに持っている。
「あ、ありがとう」
「リビングに運んでおくね。あと、ぼくの部屋で“みぃちゃん”が待ってるから、行ってきたら?」
「本当!? みぃちゃんもぅ来てるんだ。行ってくる!」
ウィルの誘いに従って上の階に昇ろうとした恵玲は、階段に一歩足を踏みかけたところで、再びウィルを振り返った。ウィルが「何?」と目で問いかけてくる。
「今日は何か話があるの? 新しい任務?」
彼女の問いにウィルは首を横に振る。嬉しそうな、華やかな笑顔を浮かべて、
「“影晴様”から入学のお祝いの言葉をいただいたから、伝えようと思ったんだ。それと、お祝いパーティー」
恵玲の頬が一気に紅潮する。黒目をキラキラと光らせて、興奮した口調で言った。
「影晴様が!? あたしに!?」
「うん、あとみぃちゃんの中学入学に対してもね」
と、そこで恵玲はまたも何かを思い出したように、表情を変えた。
「白波くんは!? もしかして今日来る? あたし、この前の任務からずぅ~っと会ってないんだけど……」
それに対しては、ウィルが苦笑いをもって答える。
「白波は神出鬼没なとこがあるからねー。集会にもほとんど来ないしさ。今日もどうかな~」
「えぇ~! せっかく会えるかもって思ったのにぃ」
あっという間にしゅんとして落ち込んでしまう恵玲である。そんな彼女を見たウィルは困ったように笑って、階段の方を目で示した。
「それより今は、みぃちゃん、待たせてるよ」
恵玲がハッとして顔をあげた。そしてすぐにむっとしたように、大きな瞳でウィルを睨む。
「もぅウィルくんてば、みぃちゃんみぃちゃんって……!!このロリコ~ン!!」
「えっ、そんなんじゃ――」
叫びついでにパタパタと階段を駆け上がる恵玲。最初は困ったような表情を浮かべていたウィルも、いつの間にか優しい笑みを浮かべていた。
――――ここのことは、誰も知らない
あたしたちだけ……
人外の能力を持ったあたしたちだけの場所なの
「――闇組織E・C」
「――? どうしたの? 恵玲姉ちゃん」
心配そうに、セーラー服を着た女の子――みぃちゃんが声をかけてくる。
「ううん、ごめん。何でもないよ」
つい声に出して言ってしまった。
――――あたしたちの組織の通称
――――“闇組織”
――――知られてはいけない
あたしが組織の一員だってこと
赤の他人にも、学校の友達にも、そして……
友賀亜弓にも――――

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