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*32*
膨れ上がる妖力が辺りを包む。
空気が刺すように痛い、そういうレベルのプレッシャーだ。
暁「俺を斬ると言ったんだ、それなりに覚悟はしろ」
――人符「現世斬」
妖夢は強さを感じ、言葉を聞かず、攻撃を仕掛けた。
高速移動から仕掛ける胴への一撃。
だが、
暁 「初手で胴を選択したことはいいだろう。だが、その程度では足りん」
鐔に刃先を差し込み、楼観剣を止める。
思い切り振られた右足が左肩を捕え、勢いのベクトルを曲げられた妖夢は制御を失い、自ら飛んでいった。
妖夢 「くっ!」
途中、漸く制御を取り戻した妖夢は体を捻り、木に着地する。
暁 「期待外れだな」
その言葉を振り払うように、続けてスペルカードを使う。
――桜花剣「閃々散華」
短い距離を連続で高速移動することによって姿を消し、数ある急所を狙っていく。
暁 「速さは中々だ。だが、」
軽く差し出すように刀を出す暁。
妖夢は危うくそれに突っ込みそうになり、ギリギリでなんとか体を止めた。
暁 「機動力がまだまだだ。先読みできれば、然したる問題はない」
しかし、それは今一度だけの回避。
次には繋がらない。
「喪符『鬼神哀愁歌』」
黒い大玉が妖夢に向かう。
既に、回避手段を失った妖夢は被弾する以外に無かった。
(強い!)
見えないはずの高速剣もなぜか見切られてしまう。
だけど、
(負けられない!)
咲夜の刀を取り戻す。
そのために戦意を取り戻し、足掻きとして暁に向け半霊を飛ばした。
「ッ!!」
それにお互いが驚いた。
暁は予想だにしていなかった攻撃を受けたことに、妖夢は苦し紛れの攻撃に暁が驚愕を示したことに、だ。
軽く暁が飛び、宙返りをするような形で着地した。
暁 「今のは面白い!ただの剣士では無いということか!」
至極楽しそうに笑う。
縮地法により、五歩の間合いを一瞬で無くす。
妖夢の高速移動の起点を潰し、加速する時間を与えない。
だが、それ以上に起点が多く拮抗する。
それを嫌がるように、互いに一歩ずつ間合いを広げ、スペルカードが発動したのは、ほぼ同時。
「人鬼『未来永劫斬』」
「奥義『鬼皮削』」
鍔迫り合いになり、両方が弾かれて終わる。
しかし、先に体勢を立て直したのは妖夢。
その隙に、トドメとなるスペルカードが発動した。
――「待宵反射衛星斬」
だんだんと時が遅れ、妖夢だけは高速で動く。
逃げる範囲を限定するように、振るった太刀筋が現れ、夕霧を追い込む。
暁はキレていた。
自分は刀であるという自負がある。
自らは切り裂くものであると。
ありとあらゆる侮蔑の言葉は、夕霧を揺さ振らない。
だが、妖夢が言った『斬る』。
もはやそれは存在に関わることである。
だから、妖夢のことは全力で潰す。
暁を弾が擦っていく。
擦って、擦って、ただそれだけだ。
グレイズするだけで、一向に当たる様子はない。
このスペルを使ったのが、霊夢であったら決まっていただろう。
あるいは、魔理沙でも、咲夜でも。
妖夢でなかったならば、被弾していたはずだ。
わかるのだ。
五百年以上剣士を見てきた存在として。
純粋な剣士であればあるほどに、暁はわかってしまう。
こう避ければこうくる、こう隙を見せれば突いてくる。
剣士の思考が見えるのだ。
そうして、スペルを攻略した暁のトドメの一撃。
――憑符「鬼神千手観音」
「は?」
思わず間抜けた声を出してしまう妖夢。
今までは剣士同士の戦いだったはずだ。
半霊は使えど概ねそうだった。
それがどうだ、突然太陽が遮られるほどの影ができている。
完全に思考が止まってしまった妖夢は抵抗できず、
「みょん!」
背中に無数の鋼の手が生え、手には武器が握られており禍々しい妖力がにじみ出ている。