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第十章-自らが望む結果を得るために争うものなり-
暁は紅魔館の前の森に薬草を積みに来ていた。
ここだけに生えるものがあると、パチュリーにお使いを頼まれたのだ。
摘み終わり、一緒に来ていた妖精メイドに薬草をパチュリーのところまで持っていくように頼んだ後、紅魔館に帰る。
と、いうわけで館の門の前まで来たのだが、
暁「なんだあれは」
珍獣を発見してしまった。
珍獣と言っても、別に獣やつちのこがいたわけではなく、立ったまま寝ているのだ。
鼻には鼻提灯を装備。
今どき鼻提灯など漫画の世界の空想だと思っていた。
一応門の前で立っているので、門番なのだろうか。
もしや、ある一定の距離に入ると目を覚まして襲い掛かってくるのか!? とゆっくり用心しながら距離を縮めてみるが、目の前に立っても起きる気配は全く無い。
なんとなく面白くなってきた暁はこれをしばらく観察してみることにした。
少年?観察中……
一時間が経過した。
肉体構造などの観察は隅から隅まで終わってしまい、手持ちぶさただ。
そんなときふと思った。
あの鼻提灯割ったらどうなるのだろう? と。
再び用心しながら目の前まで行き、そーっと鼻提灯を割った。
美鈴「ふわぁ!!」
暁 「うお!」
縮地を用いて全力で離脱した暁。
あまりに周りが静かだったために、突然の耳元での大声にはさすがにビビッたのだ。
美鈴 「何者です!侵入者ですか!」
と本来の仕事を思い出した門番。
暁「いや、涎垂れてんぞ。美鈴」
との指摘にはっと気付いたように、袖で頬を拭った。
暁 「侵入してないし、する気もない。帰って来ただけだしな。うむ、時間が余っているから話相手にでもなってくれないか?」
寝ているぐらいだから暇なのだろう?という問いは言葉にはしない。
美鈴 「はぁ、まぁいいですけど」
暁「ところで美鈴、お前は様々なあだ名で呼ばれているらしいな」
美鈴「はい。でも、みんな名前で呼んでくれないんです」
落ち込んだ表情で話す美鈴。
中国、みすず、本みりん……と暗い表情でボソボソと繰り返す美鈴。
暁「愛称で呼ばれるのは信頼の証だろうに。」
美鈴「本当ですか!」
暁 「あっ…ああ……」
ものすごい勢いで暁の手を握ってくる美鈴に、若干ひき気味の暁だった。
暁「「吸血鬼、同類にして天敵か」
美鈴「? なんでですか?」
暁「「通常なら問題ないが、霊力の半分が今まで啜った血を変換したものだからな。血を吸われるとその上乗せ分が一時的にだが、無くなる」
まぁ敵対する気もないから問題ないがな、と暁「は言う。
美鈴「それでですね、咲夜さんがお昼ご飯抜きだとか言うんですよ!」
暁「 「そりゃ働かざる者食うべからず、ってやつだろう」
美鈴「うっ、そっ…そうですけど……。でも、八時間勤務で週五日なんですよ!」
暁 「ごく普通のサラリーマンじゃねぇかよ」
思わずツッコミ。
むしろ残業が無い分いい待遇かもしれない。
暁「 「どうやったら、立ったまま寝れるんだ」
美鈴 「ぽかぽか暖かいじゃないですか。そうするとふわぁ〜っと」
一般的にその程度では無理だろう。
暁 「そんなに仕事無いのか?」
美鈴 「そうでもないですよ?腕試しにくる方もいらっしゃるので」
暁「「追い返すのか」
美鈴「お嬢様達に会わせるわけにもいかないですしね」
暁「 「ほぅ。門番の仕事ちゃんとやるときもあるのだな」
美鈴 「む、聞き捨てなりませんね。いつもちゃんとやってないみたいじゃないですか」
暁「 「俺が起こすまで鼻提灯膨らましてたのは誰だ」
美鈴 「うっ」
暁「 「俺が門の手前まで行ってもまだ寝てたぞ」
美鈴 「うぅっ」
だいぶ涙目になってしまった。
さすがに少しいじめすぎたかもしれない。
暁「 「すまない。つい反応が面白くて言いすぎてしまった。詫びと言ってはなんだが、これを」
と言って、懐から短い刀を取り出す。
美鈴 「それは?」
暁「約束の印だ。必要な時に必要なことをこれに願うと良い。それだけで俺は美鈴を一時的に主と認め、一度だけその願いを叶えよう」
美鈴 「いいんですか?」
暁「 「ああ、先の詫びと今日付き合ってくれた礼だ」
それに、
暁「 「美鈴は綺麗だからな。今まで見たことないくらいに」
美鈴 「ふぇ?」
暁「 「すっと伸びた足、引き締まった腕、構造的に最高の人体だ」
美鈴 「ふぇ……」
暁 「ただ一つ……そこの脂肪だけが……勿体ない……」
ガーン!と殴られたような衝撃を受ける美鈴。
暁 「まぁだが、気に入ったからな。いつでも呼ぶが良い」
時間を確認するように太陽を見ると、
暁 「では、そろそろ失礼しよう」
と、未だ衝撃を受ける美鈴を置いて去っていった。