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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*31*

 待ち合わせの店は、随分かび臭い外装をしていた。
 古本屋だろうか。彼に聞いた店の名前とは異なるようだったが、私の小さなポシェットに折りたたんでしまった冊子の地図はどうしてもここを指していた。
 所は中央街の真ん中である。都市ぐるみの再開発の中、頑固に居座った末、街や時に置き去りにされたような、古めかしい。色のあせた看板は横書きであるが、右から左へと読ませている。
 私は店の前でしばらく待ってみたが、夕日の勢力が弱まってきても青年は現れなかった。人を呼び出しておいて、マナーのなっていない奴だと腹を立てつつ、私の興味は古本屋の中に向きつつあった。
 彼が現れるまでだ。そう誤魔化して、私は店の中に入る。

 私は古本や紙の束を眺めていたが、しばらくして気がついた。店主がいない。
 異様である。再開発を頑なに断るような……これは私の勝手な想像だが。そうでなくともこの古い店を長年に渡って守り続けてきたような亭主が、店を放ってどこかに行くだろうか。
 汚れのついた、埃の溜まった床に目を落として、考える。まだ、何か違和感があるのだ。
 しかし、世界は私に思考を続けさせてはくれないようである。
 店の外、薄汚れたガラスの向こう、不健康青年の姿が見えた。昨日と同じような格好をして、私を探している。

「え」

 私が急いで店を出ると、青年は酷く驚いて振り返った。

「……何?」
「いや……何で、そこから……」

 指を指された扉を肩ごしに見て、私も酷く驚いた。

「『閉店』」

 奇妙な出来事。ドアの取っ手にはそう書かれた札が下がっており、押しても引いても扉が開くことは無かった。
 しばらく間があった。お互いの、小さな脳みそで処理できるほどの出来事では無かった。

「ね、ねえ。時間も遅くなっちゃうし、早く行かない?」

 震える声で彼に提案をする。陽はもう沈んでしまっただろうか。瑠璃色の空、西の方には東雲色の雲が薄く伸びている。

「そ、そうだね」

 私達はようやく、歩き出した。

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