完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~

*10*


「……それで、あれは何?」

 早足でマンションに戻る御影を追いかけた故切れた息を整え、脱いだコートを掛ける彼に問う。
 彼は深く考え込んでいるようで、こちらには目も耳もくれない。
 その後、化け猫はしゅるしゅると音を立てながら、霧の中に消えていったのである。霧は街をも呑んだ様子で、部屋の窓からは白い色しか見て取れない。
 私は考えて、黙り込んだ。邪魔をしてはいけないだろう。
 コートを脱ぎ、身長より高い位置に掛けようと四苦八苦しているところ、彼が私のコートを取り、代わり、掛けて言った。

「君にも説明が必要だったね」

 だから一度聞いたじゃない、と私は応える。
 茶色いソファに座り、彼は手を広げた。

「この世界に生きる人を始め動物、虫、植物……これらは全て神様が創っているわけだよ。わかる?」
「あなたは有神論者なのね」
「そういうものさ。机上の論理じゃなくて、そうなんだよ、実際はね。僕は知ってるんだ」
「……そう」
「まあ、それで。一個一個手作りしてりゃあちょっとは失敗があるんだよ」

 私たちの神様は案外大雑把なのかもしれないと思った。
 カミサマ。安っぽい、胡散臭い響きに、御影は酔っ払っているようである。

「……まあ、言いたいことはわかるけど。あの猫はそんな、失敗作ってやつなのね?」
「察しがいいね」

 彼は広げた手を下ろして、膝の上で組んだ。高まった表情がまた、深く沈む。

「しかしそれは簡単なことじゃない。事を穏便に解決しないといけないんだ。世界に悪影響を与えないようにね」
「その、世界に悪影響を与えるってどういうこと?」
「そうだな……」

 しばらく間を置いて、彼は考えているようだ。私は静かに待つ。彼の話はどうにも長い。

「ごく簡単な例だと、今回の猫が人を喰う生物だったら? 困るでしょう。猫ごときが食物連鎖のトップだなんてさ、神様の思惑通りじゃないじゃない」
「そうね」
「まあ、例えあの猫が人を食わなくても、存在そのものが罪になるのだけど」
「抽象的ね。それはどういうこと?」
「見りゃわかるさ」

 彼は今度は、考える素振りもせずに答えた。

「これから君は、僕の仕事を手伝うわけだから」
「…………ええと」

 私は困る。そもそも彼の仕事を私は知らない。それから、手伝うとは。どちらを聞こうか迷う。
 そして諦めた。彼は私の問いに答える気は全くない様子である。

「さあ、策を練ろうか」

9 < 10 > 11