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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*11*


「いくら常識はずれの大きさになったって猫は猫だ」

 御影はまた、コートを羽織った。私の上着をこちらへ放り、さらに続ける。

「君にだって慈悲の心くらいはあるだろう? 僕だって同じさ。猫を傷つけるなんて、心が痛むねぇ」
「…………」

 これほど心を込めずに物を言える者は、御影以外にはいないだろう。
 飛んできた上着を受け取り、私も羽織る。そのまま玄関へ向かうのかと思ったが、意に反して彼は、一つ隣の部屋に入った。
 薄暗い部屋だ。本と箱、書類、写真。奥までは見えず、入口のそばに転がっている物しか確認ができない。物が多く、暗い上に足元が悪いように見えたが、彼は躓かずにすいすいと部屋の奥へ消えていった。
 私も彼の後を追おうとしたが、部屋に一歩入ろうとしたとき、彼の声が飛んできた。

「待て!」

 私は出しかけた足を引っ込めた。彼の声は恐ろしく鋭かった。

「部屋に入っちゃだめだからね」

 何か深い訳があるのだろうか。様々な憶測が脳裏を駆けたが、私はおとなしく、何も言わず、ここで待っていることにした。余計な詮索はするものではないだろう。御影は見た目にそぐわず、恐ろしい男であるのだ。私は特に根拠もなく、そう感じた。
 しばらく待つと、御影は何か、物を持って再び戻ってきた。

「……傘?」

 明るい廊下に出た彼が持っていたのは、黒い傘だった。
 彼は傘をこちらへ渡した。フリルのついた小さな傘。大きな、白いリボンで束ねてある。

「君の武器だよ」

 私はリボンを解き、傘を開いてくるくると回し、観察した。廊下で開けるほどの小さな傘。なんの変哲もない。打撃を与えるにも、先で突くにも、この貧弱な骨では十分とは思えなかった。

「なんて心もとない……」
「心もとない? まさか!」

 彼は手を打って笑った。私は少し、怒りを表情に零してしまった。

「それは君がピンチのとき、大いに役立つ物だ」

 ニヤニヤと鬱陶しい。人を信用させない話し方である。
 私は傘を閉じて、リボンを綺麗に結び直した。

「それに、日傘と雨傘兼用だよ。持っておいて損はないだろう」
「…………まあ、そうね」

 私たちは玄関を出た。

「策を練ると、さっき言ってたけど」

 御影の行き先は決まっているようだった。迷いのない足取りで、道を進んでいく。

「まずは情報集めからだよ。僕にはちゃんと、あてがある」
「そう」

 私は荷物にならない軽い持ちやすい良い傘に機嫌を良くして、足取り軽く歩いた。

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