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神様とジオラマ
作者: あまだれ ◆7iyjK8Ih4Y  (総ページ数: 65ページ)
関連タグ: ファンタジー 能力もの 
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*30*

 私は半分寝ながら、御影にひっぱられてやっとのことでベッドにありつき、すぐに眠った。
 随分遠いように感じたが、治安の関係で遠回りをしただけだと言う。貧民街の入り組んだ路地を正しく進めば、道のりは三十分とかからない、らしい。初めからそちらを通ればよかったのに、と御影に言うと、君が足でまといなんだと一蹴された。彼は今機嫌が優れないらしい。

*

 喫茶店の青年に指定されたのは次の月曜日、夜。三日ほど猶予があった。

「一度入り込むけど、それは下見だ。よく観察して、見たものをそのまま僕に伝えてほしい」

 僕の目は脱着可能じゃないからね、御影は眼球を摩って言った。

「くれぐれも、行動を起こさないように」
「分かってる」

 まあ、特にする準備も無く。
 傘についた汚れを取り、傘をまとめたリボンを解いて綺麗にまとめなおすくらいはしておいたが、十分とは思えなかった。

*

 夢を見た。月曜日の朝だった。思えば、覚醒を迎えてから初めて夢を見たような気がする。
 恍惚としながら、暖かい場所に飲まれていく感覚。柔らかくて、甘くて、哀愁を含んだ声。心地が良かった。
 ヒトが生まれる前、まだ母親の胎内に影も形もないときの魂の居場所が、こんな場所であったら良いと、そう思った。

*

「傘は持った?」

 御影が言った。窓から指す斜陽が最も強い時間。
 指定された場所は、聞いたことのない店の前だった。ここからそう遠くはない。

「持った」
「宜しい。それはお守りにもなるからね」
「都合いいのね」

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