完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*12*
「お嬢様。朝食をお持ちしました」
アイビーが朝食を乗せたお盆と共に部屋に入ってきた。
「……あ。ありがとう。……あれ?今日の食事、少し貧相じゃない?」
朝食は、いつもより品数も少なければ、手の凝りようも違った。
するとアイビーは慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません!」
「別に、文句を言ってる訳じゃないからいいわよ。ただ、理由を聞かせてくれる?」
苦笑しながら私が言うと、アイビーは弱り切った表情をした。しかし、言葉を探すようにして絞り出した。
「実はその……、半分ほどの料理人達が……、ええと、辞めて、しまいまして」
「半分の料理人が辞めたの!それは食事も貧相になるわね。ストライキでも起こしたのかしら?」
「恐らく。困ったものでございますね」
私が愉快そうに言うと、アイビーは安堵の色を見せ、すぐに微笑んで言った。
アイビーは私が怒るとでも思ったのだろうか。私はそんなに心が狭いとでも思われてるのだろうか。
少し、淋しく思った。
「アイビー、私がそんなことで怒るとでも思ったの?」
訊くと、すぐにアイビーはかぶりを振った。
「とんでもございません。お嬢様は、そのような心の狭い方では無いと存じておりますので」
では何故、あんなに困ったような表情をしていたのだろうか。何か、他に言いたくないことでもあるのだろうか。
__まあ、いいか。気にしても仕方ない。誰にでも、隠し事の一つや二つあるだろう。でも、何故か淋しい。
そうだ、一つ、アイビーに訊いてみよう。一目惚れ、なんて本当にあるものなのか。
「ねえアイビー。一目惚れって本当にあるものなの?物語の中だけじゃなく」
アイビーは少し考え込み、言った。
「あくまで僕の個人的な意見ですが、あるのではないでしょうか。世の中、その方の外見のみを愛している、という方もいらっしゃるので。僕はそのような方の神経が到底理解できませんが」
珍しくアイビーが毒を吐く。余程そういう人が嫌いなんだろう。
外見のみを愛している。何て身も蓋もない言い方だろう。じゃあ、私が一目惚れに抱いていた、運命的なものは幻想なんだろうか。
「しかし、『外見のみ』ではなく、初対面である方に運命のようなものを感じる、といったこともあると僕は思います」
柔らかな笑みとともにアイビーが言う。__まるで心を見透かされたようだ。
ねえアイビー。貴方はそんな人に出会ったことがあるの__、そんな問いは、躊躇ってしまって口に出せなかった。
そんなことを訊いて、私はどうしたいんだろう。どんな答えを望んでいるんだろう。運命的な出会いが、例えばどんなものなのか知りたいんだろうか。アイビーの恋愛話でも聞きたいんだろうか。
それとも____、
「僕が運命を感じた方は貴女でございます」
とでも言って欲しいのだろうか。