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*13*
第零章*アネモネ-1*
僕は空っぽだった。
僕の最初の記憶は、ある女性の狂気を孕んだ笑顔。
そして、病的な「愛の言葉」。
そして、植え付けられていった偽りの記憶。
その時の僕は、ただ彼女に従っていた。
彼女以外の世界を知らなかったからだ。
彼女が、どんな恐ろしいことをしでかしたのか、
「僕」が、どんなものの上に成り立っているのか。
__全て、何もかも知らずに。
彼女の「最後」のことは、よく覚えている。
忘れたい。
どんなに忘れたくても決して風化しない、呪わしい記憶。
彼女が最後に発した言葉も覚えている。
それは呪詛のように響いて、耳にべたべたとまとわりついて離れない。
そして、今でも僕を縛り付けている。
ああ恐ろしい。
呪わしい。
吐き気がする。
そして国の道具になってから、初めて己の出自を知った。
僕が、生まれながらに罪の十字架を背負っているのを知った。
どれほど死にたいと願ったか。
どれほど死ねればと嘆いたか。
どれほど死ねないと思い知らされたか。
このままじゃダメだ。いつだったか、そう感じた。
このままじゃ、いつか人間としての感情すらなくしてしまう。
このままじゃ、いつか狂って壊れてしまう。
気付けば、僕は逃げ出していた。
どこにも逃げ場なんてないのに。
僕がまともに生きられる訳ないのに。
ああ、空っぽだった。あの時の僕は
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