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貴女と言う名の花を
作者: 彼方  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ: 恋愛 
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10~ 20~ 30~

*13*


第零章*アネモネ-1*

僕は空っぽだった。


僕の最初の記憶は、ある女性の狂気を孕んだ笑顔。
そして、病的な「愛の言葉」。
そして、植え付けられていった偽りの記憶。

その時の僕は、ただ彼女に従っていた。
彼女以外の世界を知らなかったからだ。

彼女が、どんな恐ろしいことをしでかしたのか、
「僕」が、どんなものの上に成り立っているのか。


__全て、何もかも知らずに。


彼女の「最後」のことは、よく覚えている。
忘れたい。
どんなに忘れたくても決して風化しない、呪わしい記憶。

彼女が最後に発した言葉も覚えている。
それは呪詛のように響いて、耳にべたべたとまとわりついて離れない。
そして、今でも僕を縛り付けている。

ああ恐ろしい。
呪わしい。
吐き気がする。


そして国の道具になってから、初めて己の出自を知った。
僕が、生まれながらに罪の十字架を背負っているのを知った。

どれほど死にたいと願ったか。
どれほど死ねればと嘆いたか。
どれほど死ねないと思い知らされたか。


このままじゃダメだ。いつだったか、そう感じた。
このままじゃ、いつか人間としての感情すらなくしてしまう。
このままじゃ、いつか狂って壊れてしまう。

気付けば、僕は逃げ出していた。
どこにも逃げ場なんてないのに。
僕がまともに生きられる訳ないのに。


ああ、空っぽだった。あの時の僕は

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