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貴女と言う名の花を
作者: 彼方  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ: 恋愛 
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第五章*白いゼラニウム*


私はパラパラッと花言葉の本をめくった。めくって、めくって……、
「見つけた」
ぴったりな花言葉を持つ花が。
その花は、ゼラニウムという花の中でも白い色をしたもの。カップ状の小花がボール状に多数集まって、長い花茎の先端についている。
花言葉は__、
「あなたの愛を疑います」
だって、到底信じられるものじゃない。何で?何で私なの?

でもこれは、期待への裏返しだったりする。期待してる、してるんだけど、もしそれが違った時、すごく悲しくなるから。だから、傷つかないように、傷つかないように、と逃げの一手を打ってしまう。

だって、失敗したくない。多分、初めての恋だから。毎日毎日、名前も姿も声も何もかも知らない「彼」のことが気になって仕方ないのだ。
誰に向けたものでもない、 「寂しい」という思いに対して、「癒してあげます」なんて思いを返してくれて。更に「本当に愛している」なんて思いを伝えてくれて。
この狭い狭い世界で生きている私に、希望を差し出してくれた、そんな「彼」を好きにならないわけがない。

馬鹿だろうか。会ったこともない人を好きになるなんて。そんな人に本当の愛を求めるなんて。おかしいだろうか。世間知らずだろうか。間抜けだろうか。
でも。それでも私は__、
恋をしてしまったのだ。
「彼」はどんな姿をしているんだろうか。どんな声をしているんだろうか。どんな名前で、どんな職に就いていて、どんな家族がいて、どんな……。

ふと、アイビーの笑顔が思い浮かぶ。私はそれを振り払うように強く頭を振った。
違う。アイビーは、ただ職務を果たしているだけだ。アイビーは関係無い。全く関係ないんだ……。
自分にはほとほと呆れる。会ったこともない人に恋をして、自分の執事にすら淡い期待を抱いてしまう。

あれ。アイビーに出会ったのはいつだっけ。
確か、五、六年前の爽やかに晴れた冬の日だったと思う__。

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