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貴女と言う名の花を
作者: 彼方  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ: 恋愛 
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10~ 20~ 30~

*15*

……また、だ。また、執事が一人辞めた。
ふぅー、と長く息を吐く。これで何度目だろうか。いつもいつも、三ヶ月ももたないで皆辞めていっていく。
少し前に辞めた執事は、辞める一週間前から酷く体調が悪そうだったので、少し来なくても「あぁ、体調崩して休んでるのかな」としか思わなかった。まさか、辞めたとは。そこまで、私の世話をするのは嫌な事なのだろうか。それとも、私は一生このままで、孤独なままなのだろうか。

……しかし、遅い。いつもなら、二日も空けないで他の人が雇われてくるのに、もう一週間も待たされている。ああ、遂に仕えたい人がいなくなったのだろうか。このまま私は一人で死んでいくのかな……?
空は、そんな私の心情なんて知りもしないで、馬鹿みたいに澄み切っている。ああ、本当に馬鹿みたいだ。何で生きてるんだろう。

ふと。
コンコン、とノックの音が響いた。
「失礼します」
そう、声が聞こえた。若い男の人の声だ。落ち着いた、優しい声だった。新しい執事が来たのだろう。まあでも、どうせすぐ辞めていくのだから、どうでもいい。
ドアが静かに開く。ぎいいい、と重苦しい音を立てた。その扉の向こうにいたのは、中性的でやけに美麗な容貌をした、男の人だった。
彼は、十七、十八歳くらいの年齢だろうか。淡い若葉のような色をした髪をしていた。そして、同じ色の優しげな、でも何処か寂しげな瞳でこちらを見つめていた。

「……あなた、誰?」
私はそう声を発した。
彼は跪き、言葉を紡いだ。
「僕は本日より貴女様にお仕えすることになった者です、エリカお嬢様」
私は、興味が無いということがありありと分かるであろう声色で「ふうん」と呟いた。
そんな言葉はもう何度も聞いた。そして、皆例外なく辞めていった。だから、もう関心を持たないことにした。すぐ辞める人をいちいち気にしてどうするんだ。

「まぁ、どうせ他の者共のようにすぐ辞めるんでしょう。……名前は何?」
次の瞬間、彼は顔を歪めた。まるで何か、苦いものでも丸呑みさせられたような、苦悶に満ちた表情だった。そんなに自分の名前が嫌いなのだろうか。
しかし、彼は正直に告げた。
「アイビーです」
私はまた、「ふうん」と呟いた。しかし、さっきのとは意味合いが違う。
アイビーって、確か、緑色の可愛い形をしたツタだったはず。色々なところに巻きつく、緑と白い斑のコントラストがきれいな可愛い植物の。私はあれが嫌いじゃない。というか、結構好きだ。
「……いい名前ね」
そう言うと、私はほんの少し笑んでみせた。

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