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貴女と言う名の花を
作者: 彼方  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ: 恋愛 
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10~ 20~ 30~

*23*

そこからは、何も言葉を交わさないが、不思議と心地よい時間が過ぎた。
私は、スープを口に運んでは手を止め、運んでは手を止めを繰り返しながら少しずつ咀嚼した。アイビーは、別にしなくてもいいのに、本棚やその周りを掃除し出した。

「……ねえ?」
食べ終わってから私はアイビーに声をかけた。
「はい」
アイビーが手を止めてこちらを見る。
「何で掃除してるの?しなくていいわよ?」
そう言うと、アイビーは少しはにかんで答えた。
「掃除していると、落ち着くのです」
「……何よそれ」
私は思わず吹き出した。私の笑い声が部屋に反響した。
「こっちに来なさいよ、ほら」
ぱんぱん、とベッドの毛布を叩くと、アイビーは躊躇うような様子を見せた。
「いいわよ別に」
と思わず笑うと、一度頭を下げてアイビーがベッドの上に腰掛けた。
そして、意味もなく二人で笑みを交わした。

____幸せって、こういうことなんだろうか。空っぽだったどこかが、温かいもので満たされる感じ。
未来に希望がないどころか、私はもうすぐ死ぬというのに。良いことなんて、何一つとしてないのに。アイビーがいてくれれば、もうそれで全て構わないような、そんな気さえした。
____そうだ。私の人生は二回大きく変わった。一回目は、アイビーが来てから。二回目は、エキナセアの花が置かれてから。
花を置いたのが、アイビーだったら。ふと、前にも考えた、そんな考えがよぎった。もしそうだったら、アイビーが私の人生を二度も大きく変えたことになる。人生、なんて仰々しいほどに変化のない日々だけれど。

ふと、ふわあ、と大きな欠伸が口から出た。食べたらすぐ眠くなるなんて、私は赤子のようだ。
「アイビー。次起きたら、私の病気のこと、教えて、くれ、な……い?……」
駄目だ。眠くて敵わない。すうっと眠りに引き込まれていく。

「……承知いたしました」
哀しげなアイビーの声が聞こえた、ような気がした。

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