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第二章 *エキナセア*
目が覚めた。
まず最初に目に入るのは、薄桃色をしている天蓋ベッドの天蓋。起きてまず、備え付けの洗面台まで歩き、顔を洗う。次にネグリジェを脱ぎ、部屋着に着替える。そして、ベッド脇に置いてある呼び鈴を鳴らしてアイビーを呼び付ける。
いつも通りの日常。ただ一つ違うのは、南の大きな窓の側に置いてあるシラーの花……あれ?
私の目には見えるはずのない物が見えた。
……シラーの花の近く、正確には近くだけど窓の外に、一つの花が置いてあった。花の中心が丸く大きく盛り上がっていて、その周りに細長い花びらが、放射状に広がった花だった。
目をこすってもう一度見てみても、やっぱりその花はそこにある。
……誰かがたまたま置いて行ったのだろうか。
私の家にある庭は、綺麗な花がたくさん咲き誇っている花園で、人をあまり立ち入らせないという私の家でも、ここだけは出入りが出来るようになっている。
私の部屋の窓は、その庭からほど近いので、立ち入ろうと思えば立ち入れる。
だから、誰かがたまたま置いていった可能性もなくはな__、いやそんなわけないか。第一、立ち入れてもほぼここには誰もこない。それに、わざわざ花を置いていくような酔狂な人がいる訳がない。
なら、これは一体、何の意図で置かれているのだろうか____。
「お目覚めですか。お嬢様」
考え事をしていて、気付かないうちにアイビーが来ていた。
「え、ええ。……ところでアイビー、ここに花を置いた人、知ってる?」
窓の外を指差しながら私は問いかけた。アイビーは怪訝な顔をして窓に歩み寄り、驚いたような声色でいった。
「……これは……、エキナセアの花ですね。一体誰が……。申し訳ございません。僕も存じません」
「そう……。ありがとう」
執事であるアイビーが知らないということは、やっぱり誰かがこっそり置いていったのだろうか。何のために?全く分からない。
「お嬢様。朝食にいたしますか?」
「そうね。……アイビー、さっきこの花のことエキ……何とかって言っていたでしょう?何と言っていたの?」
アイビーはすらすらと答える。
「エキナセアでございます」
「エキナセア……。そう、分かったわ。じゃあ、朝食を持って来て頂戴」
「かしこまりました」
そう言ってアイビーは去って行った。
朝食が終わったら、「エキナセア」の花言葉を調べてみよう。それで何か分かるかもしれない。