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Ghost-Soldier【完結】
作者: レンクル01  (総ページ数: 58ページ)
関連タグ: ファンタジー シリアス 血描写 
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*16*

  セイシュンside

「随分耐えたじゃないか」
「……くっ……」

腕の鎌で貫かれた右足はもうしばらく使い物にならない。
全身凶器というにふさわしい姿の食人植物。

体はほとんど言うことを聞かず、血が足りないために目眩も酷い。
僕は戦闘開始直後から、バラバラに切り刻む勢いで矛を使った。しかしそれは食人植物には通じなかった。いや、通じてはいたが、すぐに再生した。僕の攻撃を受ければ受けるほど進化していくようにすら見えた。

「さぁ、そろそろとどめだ。食人植物の生け贄となれ!」

食人植物が鎌を振り上げる。

「(……ここまでか。)」

脚から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

「(約束、果たせなかった……ごめんね、ツバキ……)」










  ライデンside

「やっと見つけた。お前を探してたんだよ」
「……え?」

血まみれになっていた青年は、驚いた顔で俺を見た。
紫の食人植物の鎌をサーベルで受け止める。力は相当強かったが、ヤジータの手伝いもあってなんとか弾くことができた。

「セイシュンッッ!!」

セイシュンの元へツバキが駆け寄る。

「セイシュン、大丈夫?しっかりして!」
「……触るなッッ!」
「……!」

ツバキの手を振り払って、セイシュンは震える腕で矛を握り直す。

「なんで……なんで来たんだよ……」
「……セ、セイシュン?」
「……僕が……何のために、今までやってきたと……思って……」

そこまで途切れ途切れに声を発し、前方に倒れこんだセイシュンをツバキとアイリが支える。

「ツバキ、こっち。ここなら治療できるぞ」
「は、はいっ!」

フィギールの誘導に従って、セイシュンを運ぶ。

「ツバキ、ミクロ、アイリ、フィギール!君達は安全なところに避難して、そいつの治療に専念してくれ!」

イタルータの指示がとび、四人は静かに頷き、下の階へ降りた。

「さて……それでは。」
「ヒャハハハハハハ!ようやく存分暴れられるぜ!」
「私はサポートでいきますからね」
「よっしゃー!頑張るぞー!」
「……ふーん。」

残りの6人で食人植物を取り囲む。

「こいつを潰すぞ」
『了解!』

それぞれ武器を取り出す。

「我々の計画、邪魔されてたまるか!」

男はモニターを開く。
が。

「な……何故だ!」

モニターには、赤く『Error』の文字が浮かぶだけだった。

「あー。さっきの間にハッキングしておいたぞー。」

遠くでミクロがのんびりと解説する。

「お、お前!今すぐ直せ!」
「はっ、はい!」

部下らしき男が動こうとするが。

「か、幹部!」
「……何っ!?」

男達の脚にはいつの間にかロープが巻き付いていた。

「あ、それは私ですねー。しばらくは切れませんよ」

ミカンが男を哀れな目で見つめる。


俺達はコントロールの効かなくなった紫の食人植物へと走った。










片付くのに、そうそう時間はかからなかった。

「く……くそっ!」

幹部と呼ばれた男は声をあげる。

「さーどうする?どのみちあんたらに勝ち目はないけど、俺達に降伏するか、ボロ雑巾にされてから連行されるか、どっちがいい?」

イタルータの声がとぶ。


「ふっ……ハハハハハハハハハハハハハハハ!」

急に男は狂ったように笑い出した。

「……何がおかしい!」
「何がって?こういうことだよ!!」





ガタンと音がして、俺達は一斉に身構えた。
しかし、何かが起こった気配はない。


「……!」
「ヤジータ!」

俺達5人とヤジータの間に、強化ガラスのようなものが張られていた。
俺達とヤジータは完全に分離されてしまった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!さぁどうする?今から赤毛のいるエリアに大量の食人植物を流し込む。そうすれば赤毛は確実に死ぬ。俺達はいずれ暴走する紫の食人植物によって殺されるだろう。しかし……」

男は俺達を眺める。

「この施設を爆破するスイッチが、お前らのエリアにある。それを押せば俺や他の研究員は死に、ガラスに阻まれた赤毛は助かる。しかしそれなら、お前らやさっき降りたお前らの仲間もみんな死ぬ!」

俺達の顔は一気に険しくなった。

「さぁ……どうする?どうする?」

男は挑発的な顔で俺達全員の顔を伺う。



「(どうする……俺達が死ぬか、ヤジータが死ぬか……ヤジータを一人見殺しになんてできない、だけど……)」

せめてこいつらだけでも助けないと……と、俺は後ろの仲間を見る。
全員がそれぞれの葛藤と戦っているようだった。




そのとき。
突如、俺達を阻んでいたガラスが消え去った。

「……!?」

俺や他のメンバーも目を見開く。そして、

「……な、なんだ!?体が消えて……」

研究員達が一斉に消えていった。



「……な、何が起こったんだ?」

イタルータは呟く。

「……ねぇ、何か聞こえてきませんか?」

ミカンは周囲の音に耳をすませていた。

「……ホントだ。」
「……この声って……」

そう、聞こえてきた音……声は


先程俺達と別れたばかりの
アイリ・レーシーの歌声だった。





「……そっか。これは『退魔の呪歌』。あの子、音の魔術師なんてヘボいもんじゃない……800万人に一人の、『退魔の魔術師』か……」

ネオンの呟き声は、そのとき聞こえていなかった。

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