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*16*
セイシュンside
「随分耐えたじゃないか」
「……くっ……」
腕の鎌で貫かれた右足はもうしばらく使い物にならない。
全身凶器というにふさわしい姿の食人植物。
体はほとんど言うことを聞かず、血が足りないために目眩も酷い。
僕は戦闘開始直後から、バラバラに切り刻む勢いで矛を使った。しかしそれは食人植物には通じなかった。いや、通じてはいたが、すぐに再生した。僕の攻撃を受ければ受けるほど進化していくようにすら見えた。
「さぁ、そろそろとどめだ。食人植物の生け贄となれ!」
食人植物が鎌を振り上げる。
「(……ここまでか。)」
脚から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「(約束、果たせなかった……ごめんね、ツバキ……)」
ライデンside
「やっと見つけた。お前を探してたんだよ」
「……え?」
血まみれになっていた青年は、驚いた顔で俺を見た。
紫の食人植物の鎌をサーベルで受け止める。力は相当強かったが、ヤジータの手伝いもあってなんとか弾くことができた。
「セイシュンッッ!!」
セイシュンの元へツバキが駆け寄る。
「セイシュン、大丈夫?しっかりして!」
「……触るなッッ!」
「……!」
ツバキの手を振り払って、セイシュンは震える腕で矛を握り直す。
「なんで……なんで来たんだよ……」
「……セ、セイシュン?」
「……僕が……何のために、今までやってきたと……思って……」
そこまで途切れ途切れに声を発し、前方に倒れこんだセイシュンをツバキとアイリが支える。
「ツバキ、こっち。ここなら治療できるぞ」
「は、はいっ!」
フィギールの誘導に従って、セイシュンを運ぶ。
「ツバキ、ミクロ、アイリ、フィギール!君達は安全なところに避難して、そいつの治療に専念してくれ!」
イタルータの指示がとび、四人は静かに頷き、下の階へ降りた。
「さて……それでは。」
「ヒャハハハハハハ!ようやく存分暴れられるぜ!」
「私はサポートでいきますからね」
「よっしゃー!頑張るぞー!」
「……ふーん。」
残りの6人で食人植物を取り囲む。
「こいつを潰すぞ」
『了解!』
それぞれ武器を取り出す。
「我々の計画、邪魔されてたまるか!」
男はモニターを開く。
が。
「な……何故だ!」
モニターには、赤く『Error』の文字が浮かぶだけだった。
「あー。さっきの間にハッキングしておいたぞー。」
遠くでミクロがのんびりと解説する。
「お、お前!今すぐ直せ!」
「はっ、はい!」
部下らしき男が動こうとするが。
「か、幹部!」
「……何っ!?」
男達の脚にはいつの間にかロープが巻き付いていた。
「あ、それは私ですねー。しばらくは切れませんよ」
ミカンが男を哀れな目で見つめる。
俺達はコントロールの効かなくなった紫の食人植物へと走った。
▼
片付くのに、そうそう時間はかからなかった。
「く……くそっ!」
幹部と呼ばれた男は声をあげる。
「さーどうする?どのみちあんたらに勝ち目はないけど、俺達に降伏するか、ボロ雑巾にされてから連行されるか、どっちがいい?」
イタルータの声がとぶ。
「ふっ……ハハハハハハハハハハハハハハハ!」
急に男は狂ったように笑い出した。
「……何がおかしい!」
「何がって?こういうことだよ!!」
ガタンと音がして、俺達は一斉に身構えた。
しかし、何かが起こった気配はない。
「……!」
「ヤジータ!」
俺達5人とヤジータの間に、強化ガラスのようなものが張られていた。
俺達とヤジータは完全に分離されてしまった。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!さぁどうする?今から赤毛のいるエリアに大量の食人植物を流し込む。そうすれば赤毛は確実に死ぬ。俺達はいずれ暴走する紫の食人植物によって殺されるだろう。しかし……」
男は俺達を眺める。
「この施設を爆破するスイッチが、お前らのエリアにある。それを押せば俺や他の研究員は死に、ガラスに阻まれた赤毛は助かる。しかしそれなら、お前らやさっき降りたお前らの仲間もみんな死ぬ!」
俺達の顔は一気に険しくなった。
「さぁ……どうする?どうする?」
男は挑発的な顔で俺達全員の顔を伺う。
「(どうする……俺達が死ぬか、ヤジータが死ぬか……ヤジータを一人見殺しになんてできない、だけど……)」
せめてこいつらだけでも助けないと……と、俺は後ろの仲間を見る。
全員がそれぞれの葛藤と戦っているようだった。
そのとき。
突如、俺達を阻んでいたガラスが消え去った。
「……!?」
俺や他のメンバーも目を見開く。そして、
「……な、なんだ!?体が消えて……」
研究員達が一斉に消えていった。
「……な、何が起こったんだ?」
イタルータは呟く。
「……ねぇ、何か聞こえてきませんか?」
ミカンは周囲の音に耳をすませていた。
「……ホントだ。」
「……この声って……」
そう、聞こえてきた音……声は
先程俺達と別れたばかりの
アイリ・レーシーの歌声だった。
「……そっか。これは『退魔の呪歌』。あの子、音の魔術師なんてヘボいもんじゃない……800万人に一人の、『退魔の魔術師』か……」
ネオンの呟き声は、そのとき聞こえていなかった。