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*4*
ライデンside
「なんだよ、ルナティックソルジャーの待機場所にいるんじゃなかったのか……」
リーナと別れたあと、俺は城中を探し回ってここに辿り着いた。
場所くらい教えてもらいたかったな。
「ごきげんよう、悪いことしたねライデン。」
そう言ってこちらを向いたのは、赤黒い髪と真っ赤なつり目をしたイタルータという青年だ。
イタルータは事務、戦闘、治療、何をやらせてもトップクラスと、かなりのエリートである。
ルナティックソルジャーに所属していても、各国司令部にも顔を出しているという。
……ただ、俺は世渡り上手なタイプのイタルータとはあまり合わないと感じている。
勿論実力の差を感じさせるから会いたくないこともあるんだろうが。
余談だが、イタルータは若干女顔である。
特に目が。
「ライデンさんこんにちは!」
そしてこっちの黒髪ロングの女性はツバキという。
イタルータとは幼馴染みで、常に一緒に行動している。
彼と同じ紅い目で、着物や髪型から和の雰囲気がある。
気さくで受容的な性格なので、結構周りからの好感は高いらしい。
「さてと。ライデン、分かったことなんだけどさ」
イタルータは手元のモニターを動かして、器用に1ページを取り出した。
「世界樹周辺の暴走したルーン、どうやらあれは、組織によって守られてる可能性が高いんだ。」
「へぇ……それは?」
「表向きはただの株式会社。その裏が、ルーンを、しかも暴走したルーンを操っている俺達の敵ってわけだ」
モニターをスクロールさせながらニヤリと笑うイタルータは正直不気味だ。
「じゃ、そこを潰せばいいわけだな?」
「イエス。とはいえ、ちゃんと作戦も練らないといけないけどね。」
その瞬間、王宮がぐらりと揺れた。
「わっ、地震ですか!?」
「あーあ。どうやらまずい見たいだね」
「イタルータ呑気だな。」
窓から外を見ると、大量の食人植物が城中を取り囲んでいた。
「まずいことになったなぁ。ツバキはここでコンピュータ守っててね」
「わかりました!」
「ライデン、出れるよね?」
「当たり前だろっ。」
俺とイタルータは外へ飛び出した。
▼
「うわ。怖いというより若干気持ち悪い」
「お?奇遇だねー。俺も同じこと考えてたよ」
目の前は城を取り囲む食人植物達の姿で埋め尽くされ、遠くに見えるはずの民家も全く見えない。
……これは正直、だるい。
「ライデン、俺はここでサポートしてるから頑張って」
「は!?」
……俺はイタルータが戦っているところを見たことがないのだ。
魔武器の形状も戦法も、なんの魔術を扱うのかもわからない。
「……しかたねーな。後でりんごな」
「報酬がりんご……可愛いなーライデン」
若干の苛つきを振り切って、敵の群れに飛びかかった。
下級の食人植物は魔武器の力を解放してしまえば、すぐに倒せるレベルだ。
「サーベル・ライトニング!」
俺の操れるルーンは雷。
魔武器のサーベルも雷のルーンを宿しているため、この武器は使いやすい。
雷鳴の力を解放したサーベルは敵をなぎ倒していく。
数分もすれば視界が開けてくる。
「ライデーン!そっちは任せたよー!」
遠くで声が聞こえ、俺は慌ててそちらを向く。
見ると炎に包まれるクレイモアを振り回すネオンがこちらに手を振っていた。
どうやら彼女も異変に気付いてやって来たようだ。よくそんな余裕があるもんだ。
そこへ食人植物は襲いかかってくる。再びサーベルを構え直し、敵の殲滅を急いだ。
▼
「これでラストだよー!」
ネオンの声を背中に受けて、最後の一体の身体を真っ二つに切り裂いた。
「やったねライデン!」
「……ふぅ。ネオンがいなかったらもう少しキツかったな。」
ネオンは息を切らしていた。それもそうだ、大量の食人植物を二人で片付けたのだから。
実際俺もかなり疲れていた。今日の戦闘はもうキツいだろう。
黒ずんだ食人植物だったものは自然と蒸発していっている。
身体の処理が楽なのがせめてもの救いだ。
「あのさ、喜んでるとこ悪いけど危ないよ?」
後ろで見ているイタルータの声が聞こえた。
「……ライデン危ない!」
「うわっと!!」
咄嗟に身体を前方に倒して何かを避ける。
「な、何だ!?」
「あーっ、あれだ!」
ネオンが指をさす方向には……さっき倒した食人植物の巨大なものだった。
小さいものの10倍ほどの大きさのそれは、とても残り少ない体力で戦える相手ではない。
ましてや、俺とネオンでは。
「……もうまともに体力も残ってないのに」
ネオンは呟きながらも、クレイモアに手をかける。
俺もため息を吐きながらサーベルを抜こうと立ち上がる。
「……はぁ。じゃあここは俺が一肌脱ごっかな。」
イタルータだ。
「君らもう無理でしょ?だったら俺が行くしかないよね」
「お前やっぱり戦えたのかよ」
「この俺を誰だと思ってるんだよ。超絶エリートのイタルータ様だよ」
イタルータはやたら多くの物がぶら下がっている腰に手を伸ばす。
「……俺一人で充分だ」
器用に腰から対になる2丁の拳銃を取り出し、敵に向かって構える。
「……光線銃2-F、閃光・烈火弾!」
2丁の拳銃からは、光輝く銃弾が尾を引きながら放たれた。
それは敵の腕を確実にとらえ、撃ち落とした。
その後もイタルータの猛攻は続く。
脚、頭部、急所を守る部位を次々と撃ち落とし、最後に急所となる目玉のその中心を見事に撃ち抜いた。
巨大な食人植物は、イタルータの技術を前に手も足も出せずに崩れていった。
「……いっちょあがり。」
2丁拳銃をしまったイタルータはこちらに踵を返す。
まるで「見たか?」と言わんばかりに。
「……お前あんな強いのになんで今まで俺にばっかり戦わせてたんだよ!」
「え、だってめんどくさいじゃん」
「全然疲れてねーだろお前!」
イタルータの戦闘能力を目の当たりにした俺とネオンは動揺の気持ちを隠せずにいたが、それと同時に、自分の弱さを痛感した。
「じゃ、本部に戻るよー。作戦の続きを話そう」
「私はまた部屋に戻るね。バイバイ、ライデン!」
ネオンと別れ、俺はイタルータに連れられて元の場所へと向かった。