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*43*
ライデンside
俺はとある研究施設にいた。
一人の男の隣で、ガラス越しに見える泣き叫ぶ子供を、ただ眺めていた……
「……?」
目を開けると、四角だらけの天井が映った。
身体を起こそうとするが、あちこち痛んで起き上がれない。
「あ、気がつきましたか。」
隣から声が聞こえる。首だけを動かして声の元を見ると、前髪が片目を隠している緑色の髪をした少年が座っていた。
……服からして、高貴な人に見える。
「誰……?」
「ああ、貴方はあのとき休んだのですよね。初めまして、ユーティアです」
「ユーティア!?」
大声を出してしまったために傷がひどく痛んだ。
だがユーティアって確かセルフィンザの王子……
「大丈夫ですか?……傷がとても深くて今はまだ動けないと思いますが……」
「う、動け……ません……」
俺の前にいる王子は、とても王子とは見えないような……
失礼だが、素朴な雰囲気を持っていた。
「丸二日寝たままでしたよ。具合はどうですか?」
「……二日?そんなに……?」
そんなに長い夢を見ていた感覚はなかった。
「……おっと、そうですよね。具合なんていいはずありませんよね……あの後ヤジータ様たちが運んでくれていなければ、命はかなり危なかったですね……」
元々生死をさ迷うような傷だったのですが、と付け足した。
「あ、あの……イタルータは……」
「イタルータ……あ、黒いコートの方ですね。彼はまだ目を覚ましていませんが、無事ですよ。もっともシンは極刑を望んでいましたがね……」
イタルータに見せられた映像……あれから、ずっとあのことが頭にこびりついて離れない。
「……どうかされましたか?」
「あっ、いえっ、なんでも……」
とりあえず、貴方が目を覚ましたこと、皆さんに知らせてきますね、とユーティアは部屋を出ていった。
「……俺は……」
「ライデン!来たよっ!」
部屋に駆け込んできたのはネオンだった。
「…ネオン。」
「大丈夫?」
俺を気遣うような目をするネオン。
「とりあえずな。……なぁ、ネオン」
「え?」
「お前、あのサーベルになんで炎が宿ったのかわかるか?」
「ああ、ライデンのサーベルね?なんでだろーね」
「炎ってお前の属性だろ……?」
わかるのなんてお前しかいない、と言う前に、
「私もあんなの見たことなくて……でもライデン凄かったよ!かっこよかった!」
「それはどうでもいい」
……なんだか話が脱線していた。
「んーと、元からライデンには炎の力もあって、それが目覚めたとか?」
「そんなことあり得るのか……?」
わかんない、とポカンとした顔で言われた。
「結局わからずじまいか……あれは何だったんだろ……」
「あ、リンゴ剥いてきたの!食べる?」
「食べる」
その後は、ネオンに俺が倒れてからのことについて話を聞いた。
イタルータの光線銃がいきなり壊れてヒートが消えていたこと、みんなで俺とイタルータを運んでくれたこと、シンがイタルータを殺そうと刀を抜いたところをジンとヤジータで阻止したこと、俺達の看護にはアイリとユーティアがついてくれたこと。
「いろいろあったんだな……」
「当然だよ!あ、ライデンが寝てた二日間の間に、私は梅干しが食べられるようになったんだよ」
「それはどうでもいい」
ネオンが帰ってからも、セイシュンやヤジータ、アイリ達にシンとジン、いろんな人が来てくれた。
イタルータはまだ目覚めないようだったが、じき目を覚ますだろうとのこと。
だが、今回の任務で、二人の仲間が欠けた。
建物で俺達を助けて犠牲になったレイド、俺の不手際で化け物に身体を乗っ取られて姿を消してしまったツバキ。
やはりみんな虚無感を感じていた。中でもセイシュンやミカン、ミクロは、彼女たちと関わりも深かっただけに尚更……
「……なんか、長い一日だったな……」
眠りすぎていた筈なのに、その日はやたらと早く寝付いた。
泣き叫ぶ子供を見て笑顔でメモをとる男。
そんなやつを見ているのに嫌気がさした。
あるとき世間知らずなのを省みず研究施設を抜け出して
見事に天涯孤独の身になった。
少しだけ持ち出して、少しずつ使っていた金もなくなって
雨に濡れていたときだった。
『笑ってみたら?』
そう言って俺に手をさしのべた、一人の少女。
傘も持ってなかったのに、ニッコリと笑っていた。