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*44*
ライデンside
その後俺は歩ける程度には傷が回復し、セルフィンザ兵であるシンとジン、まだ目を覚まさないイタルータを残して、ジルマーズへと帰還した。
道中、行きのような活気はなかった。
「おかえりなさい」
ムンナはいつものように俺達を迎えてくれたが、俺達の落胆は隠せなかった。
ツバキとレイドがいないことと、そのツバキの体を乗っ取った化け物と戦わなければいけないことが、精神的に大きなダメージとなっていた。
「ユーティアから話は聞いているわ……とりあえずみんな今日は休んで、これからのことについては明日、改めて話しましょう。」
そんな空気を読んだのか、ムンナは俺達を兵舎へと案内した。
みんなは疲れていたのか早く寝付いたが、俺は今日はあまり眠れなかった。
「……身体が重い」
傷のせいだと思っていたが、二日ぶりに目が覚めたときからずっと感じていた違和感は傷とは全く関係なかったようだ。
身体がずっしりと重く、なにかに引きずりこまれていくような感覚。
「……ただの違和感であってくれればいいのに」
そう思って目を閉じる。
現れた少女のまわりには、青い光が浮かんで消えた。
今日の夢は、それしか覚えていない。
翌日になって、俺達は玉座の間へと集められた。
「アヤのことだよね?」
ネオンは小声で話しかけてくる。俺は無言で頷いた。
「さてと……集められた理由はわかっているわね?」
全員が頷くまでもなく、一段上にいるムンナを見上げる。
「ツバキとレイドのこと、とても残念に思うわ。……でも、立ち止まってはいられないでしょ?ツバキの中に眠っていた化け物……食人植物を産み出す元凶であるそれを、なんとしてでも倒さなければいけないでしょ?」
ムンナはモニターをスクロールさせた。
そこには巨大な森のような場所が映る。
「リーナが望遠鏡で覗いていたらしいんだけど、最後の施設が倒れたと聞いた直後に、この森が変形を始めたのよ。隆起や断層が一気に起こって……その結果がこれ。」
ムンナがもう一枚の写真を出す。
そこには、地下にできた自然の洞窟のようなものの入り口が映された。
「この先に、その化け物がいると断定していいはず。異常な地下の周波数を確認したわ」
そこまで話が進んでいるなら早い。
「ならその入り口から、全員で中へ入って化け物を袋叩きにしてしまえば……」
「残念ながらそうはいかないわ」
ムンナは首を横に振った。
「入り口の門も道も、とても細く複雑な構造になっているの。切り開くのにも時間がかかりすぎるし、その間に化け物が別の手を打ってくればフリーズよ。それにこの道、制限時間内に中に入らなければ生き埋めになる構造みたい。恐らくこんなところを通れる安全な人数は……多く見積もって3人。」
「3人!?」
全員驚愕に目を見開いた。
「そんな……普通の巨大なものでさえ、5人くらいで叩いてたのに」
ヤジータが呟く。
その通りだ。今までの戦いからして、あの化け物と3人で戦うのは……
「その3人って、立候補制?」
「方法は問わないけど、実力者じゃないと無理だと思うわ。かといって、普通のソルジャーだと魔武器が使えないし……」
「なら、そのうちの一人は僕が行く」
真っ直ぐな目でムンナの目を見ているセイシュンは真っ先に名乗り出た。
「本来なら僕なんかじゃなくて、イタルータが行くべきだった。でも今彼は動けず……それに、ツバキの仇は自分で討ちたい」
淡々と語る彼に迷いはないようだ。
「学院代表はヤジータじゃないかな?」
ミカンが呟いた。
「……うん、それがいい」
「そうだね。僕らのリーダーに行ってもらおうよ。ヤジータ、それでいい?」
ヤジータはしばらく目を閉じ、そのまま頷いた。覚悟はできたようだ。
「後ひとり……」
「ライデン行きなよ!」
「はぁ!?」
突然投げ掛けられた言葉は、ネオンからのものだった。
「な、何で俺!?俺なんかより強いやつなんて山ほどいるだろ!?お前とかが行けばいいじゃないか!」
「でもさー、すごかったよね?イタルータと戦ってたとき。」
全員はっとした顔をしているが、俺には実際どうしてあんなことが起こったのかも理解していない。
そうこう考えてるうちに、
「……その3人は、後で私達と来て。入り口と入り方を教えるわ。決行は……明日でいい?」
「はい」
「問題ありません。」
「……えっ?」
断れない雰囲気になっていた。