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*46*
ライデンside
「……は?」
「なんで、え?ライデンの本名って……」
セイシュンとヤジータが驚愕の目を向ける。
「ふふっ、驚いているわね。無理もないわ、それにライデン君は自分から故意に世界樹を変えたわけじゃないのよ。」
わかってる。俺に変えさせた人物もわかってる。
さっきわかったんだ。
「研究者だったライデン君のお父さんね。人体実験を繰り返してきたマッドサイエンティストだったらしいわ。その人がライデン君の身体に少しずつ、ヒートを目覚めさせるための細工をしていった。ライデン君も、ここまで言えば心当たりがあるんじゃないかしら?」
あった、自分を使っての実験だと思っていたあの薬。
風邪を引いたと言ったときから何年も飲まされ続けた薬。
きっとあれだ。
「そしてお父さんが死んだ後、ライデン君のヒートはライデン君の意思とは外れて独自に動き出し、世界樹を変えてしまったのよ。」
俺が、元凶……
「う……嘘だろ、ライデン……」
「私を殺しても世界樹は元には戻らないかもしれないわね?だって彼の中のヒートがあるかぎり、永久に世界樹は変貌を続けるんだもんね。」
俺が、みんなを危険な目に遭わせてきた元凶……
「ライデンを、殺せってことかよ……できるわけないだろ……!?」
「もしくは彼の中のヒートだけを引っ張り出せれば話は別よねぇ。ああライデン君、今日はちょっと気を付けた方が良いわよ」
俺が、イタルータを狂わせて、レイドを殺した元凶……
「気を付ける……?」
「いつもはあることをしていたせいで彼の中のヒートは表に出ることができなかった。それが彼が心壊しなかった理由なの。でも今日は、それができない状態にある……つまり、わかるわね?ほらもう危なくなってきてる」
俺が、俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が……
「……ッ!!ライデン!正気を保て!」
「しっかりしろよ、ライデン!こいつを倒すんだろうがッ!!」
「虚しいわね、貴方達が必死に叫んでも、彼にはもう届かない……」
「ライデン……!!」
俺はあのとき、イタルータに殺されるべきだったのかもしれない。
そうされていれば、きっと世界樹のヒートを変える者はいなくなっていて、ネオンか誰かが俺の代わりにアヤを倒してくれた筈なんだ。
俺なんて、いなければ……
このまま消えてしまえば……
目の前がどんどん暗くなって、目に映るのは真っ赤な天井とアヤ、そしてセイシュンとヤジータだった。
ごめん……お前らが辛い思いをするはめになったのは、俺のせいなんだ……
俺が、この世に産まれたからなんだ……
何かに引き摺りこまれていく感覚が強くなる。
きっとこれはヒートなんだな、と無意識に思った。
そのまま視界はブラックアウトした。
▼
目の前は真っ暗な空間だった。
何も見えず、聞こえず、その場に倒れている感覚もない。ゆっくりと上半身を起こし、座るような体勢になる。
やがて、見えると言うよりは頭に浮かんでくる映像があった。
泣き叫ぶ子供と、嬉しそうに、楽しそうに笑う大人。
父親がその元凶だった。
幼い頃から、俺もこの大人の中に加わることが多かった。
慣れさせるためだったんだろう。
そして俺も、あの薬によって実験されていた。
とにかく散々だったそこからどうしても逃げたくて、夜に警報を振り払って研究施設から出た。
だけど世間知らずな俺が生活なんてできるわけがなくて、少しだけ持ってきたお金も使い果たして、途方にくれていたとき。
雨に濡れた道路に座っていたとき、一人の少女が俺に手を差し伸べた。
傘も持っていなくて、ずぶ濡れなのにニッコリと笑っていて、『笑ってみたら?』と声をかけてきた。
『笑えるわけないだろ』と反論すると、彼女は俺の手をひいて、ジルマーズ王国の城に連れていった。
どうやら少女はそこの少女兵士だったらしい。サーベルを渡され、それが扱えるか聞かれた。
サーベルを試しに振ってみると、そこには確かに雷が宿っていた。
その後身体に電流が走り、もっと軽くサーベルが使えるようになった。
それが兵士になるための条件だったららしく、俺は何故か兵士になることになった。
少女は、『ご飯も住むところも確保してもらえるし、お金だってもらえるし、これからはいっぱい笑えるよ!』と笑った。
兵士なんて楽なもんじゃなかったけど、そいつのお陰でたくさん笑えて、たくさん仲間もできた。
だけど、そんな俺のせいで、俺の仲間が苦しんでいた。俺がいなければみんな幸せだった筈なんだ。
俺は……どうして生きているんだろう
なんのために生きているんだろう
俺が生きたところでみんなが悲しみ、俺が死ねばみんなは助かる。
もういっそ、誰か俺を殺してくれ…………
俺は、生きる価値のない人間なんだ…………
『そんな人いないよっ!』
響き渡った甲高い声。
ここは俺の精神世界の筈だ。俺以外に人なんているわけがないのに、そいつはそこに立っていた。
青い目のはずなのに、何故か色が変わっている。
「ネオン……」
ニッコリ笑ったその目は、真っ白に輝いていた。