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Ghost-Soldier【完結】
作者: レンクル01  (総ページ数: 58ページ)
関連タグ: ファンタジー シリアス 血描写 
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*54*

  イタルータside


体を抑え込まれるような感覚が無くなり、体が軽くてしかたがない。

あの二人はなんだったのか、ライデンは結局何者なのか。全ては事が終わってから知らされた。
ライデンへの復讐心は……ヒートから解放された今、なんだかどうでもよくなってしまった。
もしかすると、俺の復讐心と共に育ったヒートが、そうすることを義務付けていたかのような変わりようだと思う。

今は、セイシュンと病院の廊下を歩いている。
ツバキ・アヤカシが目覚めたと聞いて駆け付けたかったらしい。

…………しかし……


病室の前まで来たとき、俺はセイシュンに尋ねた。

「覚悟はできているか?」

セイシュンは少し動揺したような顔をしたが、即座に頷いた。



病室の横開きの扉を開けると、そこには上半身だけを起こしたツバキの姿があった。

「ツバキ!」

セイシュンは即座に駆け寄ったが、ツバキはこちらをゆっくりと振り返ると、能天気な声でこんなことを言った。


「誰?イタルータのお友達?」


ツバキの目に光は宿っていない。

アヤを封印したとき、彼女には重度の意識障害が出てしまった。
それが、記憶喪失。
ただのショックではなく、記憶そのものが壊れてしまっているため、もう記憶を取り戻すことはないだろうという診断だった。


セイシュンは何も言わない。
今まで彼女のためだけを思って動いてきた彼にとって、この言葉はあまりにも重すぎた。

セイシュンはゆっくりとツバキに近付く。それをツバキは焦点が合わない目でただ見ている。


「僕は……セイシュン・グリオニオ。」

彼は静かに、自分の名前を告げた。




「初めまして」




その言葉が彼にとってどれほど辛く重いものだったか、俺にはわからない。
だけど口調と感情の入り方、肩が震えていることなどから見ると、恐らく彼は泣いているのだろう。

きっと彼は、笑っているつもりなのだろう。


「なんで泣いているの?」

目を見開くツバキに、セイシュンはハッと体を起こす。

「もしかして……私のせい?」

ツバキは白い手をセイシュンの目元まで持っていった。



「……泣かないで?」



ツバキは、前と何も変わらない笑みを浮かべてそう言った。

セイシュンはしばらく彼女を見つめた後、急に頭を垂れた。

「……なんだよ……人の気も知らないでさぁ…………」

そう呟いて、彼は肩を震わせながら泣いた。
必死に声を押し殺して、手で口元を抑えながら泣いていた。


ツバキが握手を求めるかのように差し出した手を、セイシュンは俯いたまま固く握り返した。



記憶が無くなったからって、今までの全てが消えるわけじゃない
きっとツバキも、言い難い安心感を彼に感じているはずだ。
医師や看護師に見せなかった笑みを、彼の前だけで自然としていたから。

いつか、3人で笑い合える日が訪れることを願うよ

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