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*19*
「おっちゃん行くでやんすよーえいっ」
カンタの蹴ったボールは不動がいるところとはまったく違うほうに飛んだ。そこには人が立っており、しかも後ろを向いていた。ボールはその男の後頭部めがけて飛んでいく。
不動が「あぶねえ!」と叫んだが、衝突せずにその男はボールを手で止めていた。
「ん? サッカーボールか。懐かしいな。おい、気をつけろよあんたら」
「な、何者でやんすかあの人!? 後ろを向きながら止めたでやんす!」
カンタの言うとおり不動も驚いていた。
「そういや、ビクトリーズは人手不足だって権田が言ってたな。よし、ちょっとお前、いま暇か?」
「俺か? まあ暇だが」
「よし、ちょっとついてこい」
不動は男をグラウンドまで連れていった。ちょうど、何人かビクトリーズの面々が練習していた。
不動が権田に声をかけると、権田がチームに呼びかけた。
「みんな悪いな。ちょっと練習を止めてこっちに来てくれないか。じゃあまず、名前を頼む」
「あれ、また助っ人ですか。まあしょうがありませんね、人手不足ですし」
玄武がなにげなくつぶやいた一言に権田と不動は反応したが、特に言葉には出さずに、さきほどの男のほうに目を向けた。
「俺はジモン・ベーカーだ。というか、無理やりここに連れてこられたんだがなんなんだ?」
「俺たちはビクトリーズっていうサッカーチームなんでやんうs。ジモンさんサッカーの経験はあるでやんす?」
「サッカーの経験? あるぜ。と言っても、習ってたわけじゃなく独自流だがな」
「ちょっとお前、このグローブつけてゴールの前に立ってくれねえか。それでシュートを蹴るから、適当に止めてくれ」
「ああ、別にいいぜ」
ジモンがゴールの前に立った途端に不動は近くにあったボールをゴールめがけて蹴った。ボールは右上隅に飛ぶ。が、ジモンは「よっと」と軽い声を発してジャンプし、難なくキャッチしてみせた。
ビクトリーズの面々は唖然となり、全員開いた口がふさがらない状態だった。不動はその反応を見てニヤリと笑い、
「次に、何してもいいから俺からボールを奪ってみな」と言った。
「何してもいいんだな?」
ジモンは不動に滲みより、徐々に間合いを詰めた。そして、不動の足元のボールに足を伸ばしたかと思いきや、不動の顔面に掌打を繰り出していた。
しかし、次の瞬間にはジモンの顔にサッカーボールがめりこんでいた。
その後もジモンは言われた通りあらゆる手段を用いてボールを奪おうとしたが、すべて失敗に終わった。
「うおおおお!!! 『サッカー』がこんなにも難しい流派だったなんて……! 正直俺はサッカーは遊びの類だと思っていたがれっきとした拳法だったんだな!? ぜひ俺にサッカーを教えてくれ!」
「お、おいおい落ち着けよ。ところでジモン君はどこに住んでいるんだ? この町の人じゃないだろう」
「俺か? 超林寺から降りて以来、旅から旅への旅ガラス。家も身よりもない風来坊さ。ま、こんなやつ俺のほかにはいないだろうな」
「目の前に一人いるけどな」
と、野口が笑いながら言う。「お前さんの動き、中国の拳法だろう。見たことがある」
「ほう、知っているのか。そのとおり、俺は超林流を免許皆伝した男だ」
「どうだろう。みんなもジモンの才能はわかったはずだ。チームに入れてみないか」
「ま、俺が連れてきたんだが、俺は賛成だぜ。こいつのゴールキーパーとしての反応速度は人間技じゃねえ」
不動が言うまでも無く、ビクトリーズは全員一致でジモンを加入させることに決まった。