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*31*
その日は太陽が昇る前から目が覚めてしまっていた。早朝から不動はトレーニングに励む。
そこに、京香がパジャマ姿で、寝ぼけ眼をこすりながらやってきた。「おはよう」と彼女が言うと、不動は腕立て伏せをしながら「おう」とだけ言った。
「あら。朝から腕立て伏せ? 精が出るわね」
不動は無視してトレーニングを続ける。そのうち、靴を履いて外に出ていった。
しばらくして戻ってくるころには、すでにサラリーマンや学生が商店街を通って駅へ向かっていた。
「おかえりなさい」
「ああ」
不動はシャワーを浴び終え、牛乳を飲み終えバナナをニ三本食べ終えると、ダイニングでテレビを見ていた京香に「なあ」と話しかけた。
「暇ならどこか行くか?」
「え。それってもしかしてもデートのお誘い?」
「俺もトレーニングが終わって暇だから、言ってみただけだ。別に嫌ならいいぜ」
「ちょうど散歩でもしたかったのよね。まえあなたが住んでた河原にでも行きましょうか」
その日は快晴だった。朝だからか全てが輝いて見えた。川や空、芝生、全てである。
テントがあった高架下には今はもう何もなかった。
「綺麗ね」
「そうだな」
「ねえ、明王。あなたってなんていうか、私と同じ匂いがすると思うの」
「匂い? カブトムシのことか?」
「そうじゃなくて、たとえばリンゴの山の中に、バナナとか、メロンが入ってるそんな感じかな」
「なんだそりゃ。確かに俺はガキのころから浮いてたが、おめーは回りとうまくやってるじゃねえか」
「明王にはそう感じるんだ。少しがっかりだな」
「疎外感は誰でも感じるものだろ。でもお前は風来坊じゃない、この町の人間じゃん」
「そうだったらいいんだけどね。それに、もっと本質的な話だよ。さ、そろそろ戻ろっか。お腹減ってきちゃった」
京香は微笑んでいたが、不動にはそれが嘘くさく感じていた。どことなく寂しそうにも見えた。
生き物を捕まえようとして鉄の棒を掴んだような感触としての不気味が不動の心の中には残った。