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*4*
第一話 商店街の日常
四月。
「よし、これでテントは完成だな。ありがとよ手伝ってくれて」
「いいでやんす! おっちゃんと俺の仲じゃねーでやんすか!」
「ところでそのやんすってなんなんだ? どっかで聞いたことあるような」
「プロ選手の栗松鉄平の口癖でやんす! オイラ大ファンなんでやんすー!」
「ああ、栗松か! そういやあいつプロか……」
テントの前で話すカンタと不動の前を、権田が通りがかった。河川敷の高架下に置かれたテントをみて、権田は目を丸くする。
「サッカー浪人てのは本当だったんだな。家族がよく認めてくれたな」
「そんなのいねーよ。親も兄弟もな」
「す、すまん。そうだったか。でも、なんでここに留まるんだ? きのうは、いろんなプロチームのテスト受けてみるって言ってたが、こんな落ちぶれた草野球チームに来てもしょうがないだろ」
「そうだねえ。久々にサッカーの練習がしたくなった。じゃ、ダメかよ?」
権田はそれを聞いて笑う。
「変なやつだな。とりあえずこれ、ユニフォームだ。この番号着てたやつはいい選手だったんだがな。スーパーのやつらのせいでヨソに引っ越しちまった。『もうここで商売はできねえ』ってさ」
「『イリュージョン』のチームに勝てば、そういう状況も変わるのか?」
「そうはいかねえだろうよ。景気とサッカーの勝敗はまた別だからな。でも、一泡吹かせてやることはできる」
「よーし、おいらも応援するでやんすー!」
カンタたちを遠くから、カンタの母と、若い女性が眺めていた。
「うわさ、本当だったのね」とカンタの母が苛立ちをこめた声で言った。
「奈津姫、いいのこんなところにいて。お店の準備は?」と隣の若い女性が聞いた。
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