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イナズマイレブン5 さすらいのヒーロー
作者: 南師しろお  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: イナズマイレブン 不動明王 パワプロクンポケット イナイレ しろお 
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10~ 20~ 30~ 40~

*41*


 不動が山口からのパスを受けボールを持つ。同時に、ついていた辺見がニヤリと笑う。不動の玄武へのパスを辺見がカットした。不動は玄武のほうではなくディノを見ていたにも関わらず辺見はいとも簡単にボールを奪ってみせた。
 玄武は驚きを隠せない。
(不動さんのミーティングでの話では、この辺見という男は現在プロ、のはず。なぜイリュージョンに肩入れしているのかは謎ですが、やはりあの不動さんですら簡単にはいかないようですね)
 ディノがドリブル突破をしかけ、コアラーズのDF陣は次々と抜かれていく。ディノがフリーになったところでシュートを放ち、それをブロックしようとしたコアラーズDF目金の足にボールが当たった。シュートの軌道が変ったがボールはキーパーとは離れたゴールに向かい、なんとそのままボールはゴールラインを割った。
 先制したのはビクトリーズ。ラッキーな得点だったためか、ビクトリーズの面々は得点したことを念頭におかず、少しディノと玄武がハイタッチしたり、権田が拍手したりするだけで、油断することなく本陣に戻り、プレーの再開を待った。
 ビクトリーズの陣営にいた中谷は、ゴールしたのを見てゆっくりと自陣に歩いて向かった。得点しても敵のDFたちの表情が変らないのをみて、中谷はため息をついた。
(こいつら、前回よりも連携がよくなっていやがる。不動やあのイタリア人だけが問題じゃねえな)
 辺見はチッと舌打ちし、「まあいい」とつぶやいた。
 試合が再開される。辺見が不動をドリブルでかわすも、すぐに不動は並んでタックルをかける。辺見は不動のチャージを受けてもドリブルを乱さず、余裕を残して中谷にパスを出した。
 ドリブルで駆け上がる中谷を山口が足をかけてしまい、フリーキックを与える。蹴るのは元プロの中谷だった。ゴールを直接狙いにいける距離だったが、不動はビクトリーズの壁付近をうろつく辺見にピッタリとマークについた。
 辺見は試合中は静かだった。不動と目を合わせようともしない。不動にはそれが不気味だった。そもそもなぜ辺見がイリュージョンに肩入れするのかもわからない。彼がここにいること自体が奇妙だった。
 中谷のフリーキックは、直接ゴールを狙いに行くものだった。同時にビクトリーズの壁役がジャンプする。が、中谷の蹴った球は浮いたシュートではなくゴロで、ボールは山口と玄武の足の間をすり抜けていった。そこに辺見が走り出しており、不動もすぐに追ったが辺見はダイレクトで素早くシュートを放ち、ジモンですら敵のトリックプレーに反応できずゴールを許した。
 これで1−1の同点となる。完全に出し抜かれ、不動は汗をぬぐった。
「ああ、そういや言ってなかったな」
 辺見はゴールを決めたあと、ビクトリーズのゴール前で頭の上より上の位置で指を立ててみせた。そして不動を振り向いて言う。「中谷と俺はちょっと前までプロの同じチームでやっててな。あいつは一年で解約。俺は監督を殴って一年の選手登録停止処分だ」
「同点になっただけでずいぶんとお喋りになったな、辺見。余裕が無いのがバレバレだぜ」
 不動は鼻で笑って辺見にそう言い、すぐにゴールからボールを拾い出してピッチ中央へ向かった。
 しかし両者同点のまま前半が終わった。後半も、両者共にシュートは何本かあったものの決定的な場面はなく、拮抗した状況が続いた。
 後半40分、コアラーズにとっては嫌な時間に、不動がコアラーズ陣営内でボールを持った。
(ここでこいつかよ!)
 中谷は危険を察知して、前線を放棄してディフィンスに急いで向かった。
 不動がボールを持ったとはいえ、辺見がいる限りキープできる時間はわずかであり、それをわかっている不動自身はすぐに味方にパスを出す。と同時に前線へトップスピードで走り出し、スピードに乗ったままディノからのパスをかろやかにトラップ、右サイド敵陣の置く不覚にドリブルで逃げる。
 辺見と対峙し、不動はボールをとめた。不動は、体を辺見に向けたまま横に少しドリブルしたかと思わせて、足を交差。右足の後ろで、左足でスピンをかけたロングボールを繰り出した。ラボーナというテクニックであり、不動のそれは精度が高く非常にスピーディで辺見がまったく反応できなかった。練習すればできる技だがドリブラーが得意とする技で、敵DFがドリブル突破を警戒して動かないときこそ進化を発揮するパステクニックである。
 不動のロングボールは精度が高く、ピンポイントでディノがヘディング、敵ゴールにシュートを沈めた。
 歓声が沸き起こる。サッカーを知らなくとも不動の華麗なプレーに魅了されたことだろう。
 試合が再開されたが、ディノや玄武まで引いて守り、堅陣を崩せずコアラーズは追加点を奪えなかった。
 そしてそのまま試合が終了。2−1でビクトリーズが勝利した。
 特等席で、山田が呆然となっている。
「おおおおい! あれだけ宣伝しておいてま、負けちまったじゃないか!?」
「逆に商店街の宣伝になっちゃいましたね」
 佐藤の冷静な言葉だったが、山田はきっと佐藤をにらんだ。すぐにその怒りの視線をピッチにたたずむ辺見に向ける。
「クソ、辺見のやつめ。散々でかい口をたたいておいてこのザマか!」
 ピッチでは、汗だくの不動が、同じく汗だらけの辺見に近寄る。
「俺の勝ちだ。約束は果たしてもらうぜ辺見」
「フン。約束どおりコアラーズから手を引いてやるよ。『俺』が『コアラーズ』からはな……」
 負けたというのに不気味な笑みを浮かべて、辺見は去っていった。
 

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