完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

イナズマイレブン5 さすらいのヒーロー
作者: 南師しろお  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: イナズマイレブン 不動明王 パワプロクンポケット イナイレ しろお 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~

*42*



 集会所で、ビクトリーズの中の商店街の人間だけで会議が行われていた。とうぜんそこに不動やディノ、ジモンの姿はない。
「イリュージョンに連勝したのに、みんなどうしたんだ?」
 警官の服装のままで店にきている丸井が聞いた。
「たしかに勝てたことは嬉しいですよ、しかしですね……もはや商店街のチームとは言えないでしょう。監督も、キャプテンも、ビクトリーズの主戦力も、みんな助っ人じゃないですか」
 玄武の意見に、権田やここに居合わせた商店街の人間ほとんどが同意した。野口と亮平だけが沈黙を守っていた。
「野口さん」
 不安そうな声で、亮平が野口に小さい声をかけた。
「今は黙っていよう。今はな」
 野口の意見に、亮平はこくこくとうなずいた。
 ドン、と玄武が机を拳でたたいた。
「今のチームの現状はおかしいですよ! もうほとんど、商店街のチームじゃない、彼ら余所者のチームじゃないですか!」
 そうだそうだ、と場は盛り上がる。
「方法はありますよ。我々が彼らの力無しでやっていけるようになれば、彼らは必要ないんです。彼らに内緒で我々だけで自主練習しましょう」
 と権田が力説したが、丸井は、
「いや、でもこれ以上練習する時間が無いひとだっているだろう」と言う。
「僕は権田さんに賛成です。僕はやりますよ」
 玄武はいつになく真剣だった。この事態にどうすべきか迷い、亮平と野口だけが会議の熱に取り残されていた。





 不動が山口商店の仕事を終えると、貴子からメールがあった。『今日も公園で待ち合わせね』とあった。
 不動が公園へ向かうと、遅れて貴子が制服でやってきた。どうやらだいたい配達の仕事が終わる時間と、貴子の帰宅時間は一緒であるらしかった。
「不動さん、家に帰ったらアイス食べよう! 今日はこんなに買ってきちゃった」
 貴子の手には袋いっぱいの、様々な種類のお菓子のアイスだった。「こんなにどうするんだ?」と不動は疑問に思いきいてみると、貴子は笑顔で答えた。
「もちろん、みんなで食べるんだよ。ほとんどは私が食べるけどね! 私アイスクリーム大好きなんだ」
「おいおい、あんまり冷たいものばかり食べたらお腹壊すぞ」
「そのくらいわかってるよ!」
 突然声を荒げた貴子に、不動は驚いて思わず貴子の顔を見つめた。彼女は不満げに視線を落として、
「もう、子供扱いしないでよ……」
 とつぶやいた。不動は視線をはずして頬をポリポリと指でかき、何も言わなかった。奇妙な雰囲気のまま2人は歩いて家に向かった。
 途中で、貴子がなにか思い出して、スクールバッグからスケッチブックを取り出した。
「みてみて明王さん! 絵をかいてみたんだ。大切なものを描くって、美術の宿題だったんだけど」
 貴子が開いて見せた絵には、人が四人、食卓を囲んで笑いあって座っていた。
「これは……俺と、亮平と、オヤジか……? さいきん晩飯の時間に何かしてると思ったら、遠くから絵を描いてたんだな」
「そうそう。この絵、不動さんにあげる。へたくそでごめんね」
「俺に? 宿題はいいのか」
「うん。宿題は別に描いたやつを出すことにしたよ。むかし、お母さんと一緒に撮った写真を、スケッチしたんだ。その亮平とかお父さんが描いてある絵は、私でも学校の先生でもない、明王さんに持っていて欲しくて」
「そうか。へったくそな絵だな」
「や、やっぱりそうだよね。いらないよね、そんなの」
「ま、受け取っておいてやるよ」
 不動は口ではそう言っていたが、内心では嬉しかった。不動の口元が少し緩んだのをみて、貴子は「よかった」と安堵の声を出した。
「明王さん。わたしなんだか体調が悪いみたい。歩くのもつらくて」
 貴子はおでこを抑えて、うなだれてみせる。
「はあ? さっきまで元気だったじゃねえか。ったく弱ったな」
 不動は頭をかいて、アイスの袋を持ったまま貴子に背を向けてしゃがんだ。
「やった!」と貴子はうれしそうな声を出して不動の背におぶられる。不動はため息をついてから立ち上がった。商店街に来る前までの不動ならば貴子を背負ったらすぐに疲れてしまったろうが、米の配達で不動の体は重さに強くなっていた。
「明王さんすごい、力持ちだね。わたし重いでしょ」
「米のほうが重い。っていうかしゃべる元気があるなら降ろすぞ」
「明王さんの背中、あったかいな。むかしお父さんにこういう風にしてもらったっけ……」
「おい、勘違いすんなよ貴子。別にお前のことはどうでもいいが、晩飯が食えなくなるから運ぶんだからな」
「それでも嬉しいよ」
 2人の様子を、遠くの後方から京香が双眼鏡で監視していた。さらに自作の盗聴器からは、2人の会話が聞こえてくる。
(明王のやつ……! 私だってまだ手をつないだこともないのに……!)


君の手で切り裂いて 遠い日の記憶を
悲しみの息の根を止めてくれよ
さあ 愛に焦がれた胸を貫け

 

41 < 42 > 43